「ねぇ、シチリア島に行ってみたいんだけど」
「危ないからダメ」
「フェリシアーノとロヴィーノの二人が居ても?」
「って言うか、樋乃ちゃんが一人でうろうろするから危なすぎてダメ」
だから、どういう意味よ。
一人でふらふらしてないわよ。
それ以上に、二人が居るから平気じゃないの?
と思うんだけど………。
よく、無防備だとか目が離せない(好き勝手行動する)とか言われる。
ナンパされたことないよって言ったら言ったら
「一人の時は目的持って行動してるし、無防備じゃないから」
と返答された。
正直、未だに友人の言葉の真意がわからない………。
ナポリから船で1時間と15分。
30km沖合にある小さな島、カプリ島。
世界的にも有名な青の洞窟(Grotta Azzurra)はカプリの北西に側にある。
マリーナ・グランデの港から船に乗ってか陸路でアナカプリからバスで向かうと言う二つ方法がある。
今回あたし達が取ったのは陸路で向かうこと。
理由?
「ヴェ~、樋乃ちゃん~大丈夫?」
「な、なんとか……」
「船酔いするなら言えよ」
だ、だって大丈夫だと思ったんだもん。
「船酔いに大丈夫ってなんだよ」
えぇ、船酔いしました。
高速艇はものすごかった。
ほんの小さな波でもバウンドしたわけです。
原因はその前にもある。
ローマからナポリまでフェリシアーノのハイスピード運転(フェラーリ様は恐ろしかったっ)で2時間弱で移動。
Autostrada(アウトストラーダ)という有料(無料のsuparstradaというのもある)の高速道路で恐怖を覚えましたっっ。
50kmオーバーって!!!(Autostrada制限速度130km)
普通だって、大体100kmでプラス10kmオーバーぐらいだよ~~(日本の高速道制限速度は100kmです)。
「100kmなんて遅いよ。これでものんびりだと思うよ。もうちょっと風を感じられる方が俺は好きだなあ」
ギャー、スピード狂がここにいるよ~~!!
あたしはまだこのとき知らなかった。
再びスピード狂の恐怖にさらされることを……。
「ろ、ロヴィーノとフェリシアーノってどっちがスピード狂なの?」
素朴な疑問を二人にぶつけてみる。
「んなの、フェリに決まってんじゃん。速えー車ばっか作りやがってよ。安心しろよ、樋乃。俺は160ぐらいだから」
………いや、それでも早いからっっ、30kmオーバーだから!!!
絶対死ぬー!!
って言う状況のなか恐怖が先行してて車酔いになる暇がありませんでした。
で、船酔いしたと……言うわけです。
青の洞窟を見るには朝が良いというわけで、今日は見に行かないでカプリ島にお泊まりな訳なんですけどね。
「樋乃ちゃん、大丈夫?少し休む?」
………そうしたいです。
「顔色悪いし……ここからアナカプリまではちょっと今の樋乃にはつらいかもしれないな……」
アナカプリまでの道ってどんなんなんですか!!
ふに~~。
「樋乃、水買ってきたよ~。飲めそう」
「ん……大丈夫かも?」
フェリシアーノが買ってきた水(ガスなしだったよ。しかも軟水)を飲む。
冷たくておいしくって……ちょっと安心した。
「ゴメンね、二人とも」
「気にしないで。樋乃が船酔いするなんて事考えてなかったし」
「帰りはナポリ行きじゃなくってソレント行きの方が良いかもな。ソレントだったら30分かかんねぇし」
うー、ホントゴメン。
「だから気にすんなって。考えてなかったオレ達に原因あるんだし。もうちょっと休んだらアナカプリに行こう。夕方のあそこは綺麗なんだ」
笑顔で嬉しそうに言うロヴィーノとニコニコ笑ってるフェリシアーノの二人にあたしはなんだか見ほれてしまった。
多分、これは予感、この二人には弱いって言う。
早朝、ロヴィーノに起こされる。
「起きろよ、樋乃」
って言うか!!!何で部屋にいるのさ!!
別々の部屋のはずだっ。
「気にするなって、青の洞窟行くんだろ?早く行った方が絶対いいんだから」
時計を見れば6時!!!
今までで一番早いよ!!
窓の外を見ればもう日は出ていた。
ちょっと地中海から上る日の出って言うのを見てみたいと今思ってしまった(方角違いの場所にいるから無理だけど)
「早く着替えてこいよ」
そう言いながら、ほっぺにキスする。
「ろ、ロヴィーノ」
「朝の挨拶だよ」
そう言ってロヴィーノは笑いながら部屋を出て行った。
だからって~あたし日本人、そんなのしない~~からねっ。
はぁ。
着替えて二人が待つ所まで行ったらフェリシアーノにハグされてキスされたのはお約束だ。
アナカプリのヴィットリア広場の近くにあるバス停からバスに乗って『GROTTA AZZURA』へ。
朝早いせいか誰も乗っていないバス(ちなみに始発だ!!)に揺られる。
20分も経たないうちに、到着。
そこから歩いて下に降りていく。
朝日が目にまぶしいぜ……。
「この下が青の洞窟だ」
「昨日は海が荒れてたらしいよ。だから余計に高速艇も揺れたのかもね」
確かに、ひどかった。
波も、揺れも。
でも海の様子は穏やかで静かにないでいる。
『イタリア』がいるからかな?
なんてね。
「体低くして」
カプリ島の断崖絶壁に惚けていたあたしにロヴィーノが言う。
見ればすぐ目の前には洞窟の入り口。1mもない。
慌てて下げて、ロヴィーノの声で顔を上げれば広い空間は濃い青に染まっている。
「樋乃ちゃん、下見てごらん」
海を指さすフェリシアーノの言葉に海を見れば……そこにはターコイズブルーが広がっていた。
なんと言っていいんだろう。
この青は。
ターコイズブルーって思ったけど、それだけじゃない。
太陽の光が海底を照らし、海水を青く輝かせている。
綺麗って…簡単に一言で収めたくなかった。
それ以上の言葉を知らない自分がちょっとだけ悲しくなった。
でも
「綺麗だね……」
って言ったけど。
マリーナグランデからソレントに向かいそこからポンペイまでは車で1時間。
今回は安心(それでも安心じゃないよ~~)なロヴィーノの運転。
イタリアで来たかった所その3(その2は青の洞窟)のポンペイにやってきたぞ~~~。
さっさと中に入っていろんな所を見回る。
ポンペイの町の中心フォーロ(Foro)。
アポロ神殿やゼウスの神殿がある。
浴場とか、劇場とか地下回廊の家とか三角広場とか地図片手に歩いてみる。
入り口でもらった地図は日本語案内用で。
そう言えば、犬のレリーフがあった所ってどこだっけ(悲劇詩人の家の入り口)
「樋乃っっ。おまっ勝手に行くなよ」
「そうだよ、樋乃ちゃん危ないよ~」
突然ロヴィーノとフェリシアーノに捕まられる。
「危ない?だって大丈夫だよ。二人が居るんだから何も起きないでしょ?」
「って……あのなぁ」
「樋乃ちゃんってさぁ……」
さて、次はどこにいくよ!!
ココ全部見回るには半日かかるらしいんだよね。
青の洞窟が午前中で、昨日カプリ島観光したから今日一日ポンペイの中見れるんだもんね。
「ったくドコに行きたいんだよ」
「ちょっと待って……」
顔を上げたらちょうど見えた。
「ロヴィーノ、あれがヴェスビオ火山?」
「あぁ」
不気味に見える山。
このポンペイを飲み込んだ火山。
今は活動を休止しているらしい。
「よし、次の所へ、レッツゴー!!」
「切り替えはやッ」
ロヴィーノとフェリシアーノにツッコミを入れられながらあたしはポンペイを堪能しまくったわけです。
さすがに疲れたけどね。
夜は、ナポリのロヴィーノの家にお泊まりです。
ホント楽しかった。
今日でイタリア旅行ももう終わりなんて思えないぐらい。
明日は、ローマに向かってそこから菊ちゃんと待ち合わせのウィーンに。
お土産ももちろん買ったし……。
ちょっと寂しいかな、フェリシアーノとロヴィーノと一緒にいられなくなるの。
一週間ずっと一緒だったんだもんね。
もう逢えないって言う訳じゃないんだけどさ。
夕飯?フェリシアーノの料理でした。
おいしかったよっ。
*****
身動きがとれないわけですよ……。
まぶたの裏は朝日が差し込んでて明るいんですね。
朝だって言うのは分かってるんです。
もうちょっと寝てたいから、朝日を避けようと寝返りをうとうと思ったわけですよ。
動けないんだよね……。
両側に感じる寝息に気にしたくないんだけど、どうしたらいいんだろう。
「樋乃ちゃんかわいい」
って言うか起きてるしっっ。
「いっつも見に来ると寝てるよな」
「思うんだけどさぁすっごい無防備だよねぇ」
「って起きてね?」
「キスして良いかな?」
「何ふざけたこと言ってんだよ。俺が先に決まってるんだろ」
な、何言ってんのよ!!
危険だ!!!
「起きてるわよ~~~」
目を開けました!!
って言うか余計にピンチな事に気がつきました。
片ひじついて寝転がってる二人に囲まれてるわけですよ。
恥ずかしすぎるよっっ。
この状況。
しかも、この人達、なんで裸なんだ~~~!
恥ずかしすぎて布団を顔の方まで上げましたよ。
「っていうか、なんでココにいるの?」
「鍵、あいてたよ」
はぁ?鍵?…………?
「部屋の鍵なんてアルの?」
「普通あるよ?」
「お前ってさぁ、変に無防備だよな」
いや、いや、意味わからないから!!!
って言うか、起きるんだから!!
菊ちゃんがウィーンで待ってるんだから!!
「まだ寝てようよ」
起き上がったあたしにフェリシアーノが背後から言う。
「だから~~」
「俺ね、樋乃ちゃんの事好きだよ」
起き上がってフェリシアーノはあたしの手を取る。
「す、好きってっっ」
友達って言う意味だよね?
「ホントにそう思う」
あたしの右手を取ってるフェリシアーノはあたしの指を触ってる。
「オレ達…一目惚れしたんだよな……」
ロヴィーノはあたしの髪を触ってる……。
な、なんだろうこの状況……。
「誰に?」
両側から聞こえる某なみかわボイスに頭がくらくらしそうになる。
「樋乃、お前、本気で言ってる?」
「え?えへへへ……え?」
ロヴィーノの声がワントーン低くなった気がする……よ?
「樋乃ちゃんの事好きになったんだよ。だから……」
「攫って良いよな」
いや、まてまてまて、なんで、なんでそうなるの?
「樋乃ちゃんってすっごい可愛いよね」
どこからどうなってるの?
「兄ちゃんも言ったけど、オレ達樋乃ちゃんに一目惚れしたんだよ」
「あ、あたし一目惚れされるほど可愛くないよ」
「可愛いよ、ご飯嬉しそうに食べてるところとか、綺麗なもの見て感動してるところとか、スゴい笑顔で喜んでるところとか、可愛いよ。サラサラなシルクみたいな黒い髪だって、黒曜石みたいな瞳も全部可愛いよ。ホントだよ」
フェリシアーノもロヴィーノもスゴい笑顔で…笑顔なんだけど…。
あたしは、ホントどうして良いか分からない。
「無防備なんだよ、樋乃は。だからオレ達みたいなのに、つけいられる」
「オレ達みたいなのって……そんな二人はそう言う質が悪い人みたいなんじゃないでしょう?」
あたしがそう言うとロヴィーノは苦笑いを浮かべる。
「だから、樋乃は無防備だって言ってるんだよ。危ないって言ってるのに一人で先に行く。オレ達が言ってるのは一人じゃ危ないって事。樋乃は…この国が、日本みたいに安全じゃないこと全然分かってない」
ロヴィーノはあたしに見せつけるようにあたしの髪の毛を一房つかんでその髪に口付ける。
ちょ、ちょっと、ロヴィーノ!!
「うんうん、樋乃ちゃんは無防備だよね」
そう言ってフェリシアーノはフェリシアーノであたしの掌にキスをする。
「樋乃ちゃん、知ってる?掌のキスは懇願のキス」
だめだ…あたしの頭の中はもうパニックだ。
どうしたらいいのか、分からない。
二人の人間(って言っていいかもう)から告白されたこともないし、まさかこんな告白の仕方もされたことない。
一般的な日本人なわけだよ、あたしは!!
「オレ達に攫われて?」
オリーブグリーンとオリーブイエローの瞳に見つめられてあたしはどうして良いか分からない。
「他の奴らに連れてかれちゃう前に」
未だ自由にならない右手は放っておいて。
左肩にかかる軽い重みも放っておいて。
「じょ、冗談よね?」
なんて軽く言えればいいのに、なんだかそれも出来なくて。
だから、なんかもう全部苦しいって思ったら、涙が出てきたことに気がついたのはあたしじゃなくって当の二人だった。
「ヴェ、ヴェー、…っ、樋乃ちゃん!」
「な、なんで泣いてるんだよ!」
あぁもうあんた達のせいに決まってるじゃないか!!
ようやく自由になった右手も使って目をこする。
「あ、ダメだよ、目をこすっちゃ~」
「な、泣くなよ~~!!」
混乱が極まって思わず泣いてしまったあたし以上に、慌ててるロヴィーノとフェリシアーノになんだかおかしくなってしまった。
「ヴェ~、なんで笑うの?」
「何だよ、せっかく心配したのに」
「一応、原因が二人だって分かってくれるかな?」
って言えば
「え?」
「そうなのかよ」
って言うか、マジで分かってなかったのか~~、この二人は!!
「はぁ」
思わず、ため息ついてしまった。
「樋乃ちゃん、大丈夫?」
「何、ため息ついてるんだよ」
もういい、空気を読んでじゃなくって、空気読まずに、発言を慎んでやる!!!
「って言うか、菊ちゃんとの待ち合わせって何時だっけ?」
「ヴェー、忘れてたよ~~~」
「お前のせいだぞ、バカフェリ」
「なんでだよ~~」
あたしの言葉に二人はベッドを飛び出す。
一瞬どきっとしたけど、ちゃんと下は履いてたようで。
「じゃあ、樋乃ちゃん、オレ達リビングで待ってるね」
って言って二人して部屋を出る。
「はぁ」
やっと静かになった部屋で大きく息を吐く。
何だったんだろう。
い、いきなりのモテ期ってヤツですか?
いやいや、そんなバカな話があるわけないじゃない。
と、とりあえず、菊ちゃんとのおおよその待ち合わせ(今からローマに戻ってローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ空港からウィーンまで飛ばなきゃならないのだ!!!)時間に間に合わせるために急いで着替えないと!!!
ともかく、この問題は一旦、完!ということで!!!
イタリア編 完!!!
「いや、まだ完!じゃないから」
ウィーン、音楽の都。
そして社交界、舞踏会の都。
レオナルド・ダ・ヴィンチ空港からオーストリア航空で一路ウィーンに。
もちろん、ヴァルガス兄弟も一緒。
それで思い出した!!
「くるん、引っ張ってない!!!」
「はぁ?」
「い、いきなり。樋乃ちゃん大胆だね」
引っ張りたいけどどうしよう!!
「よし、ウィーンで!!!」
「えぇ??」
うむ、とりあえず、一瞬の身の危険を無視してウィーンに向かう飛行機になんとか乗り込んだわけでした。
今度こそ、本当に完!!