OPERA NIGHT〜極彩色の世界〜

 自覚している事を無視し続けるのはやっぱり無理がある。
 でも、認めたくないって思ってしまう事も事実で。
 素直に、さっさと行くのはちょっとなぁと何処かひねくれてしまいました。

皇帝達への感情 2 

、スイーツ三昧ですよ。フランシスさんおすすめの美味しいマカロンを買ってきました。ショコラティエおすすめのチョコも一緒です。ついでに、フランシスさんも一緒ですが」
「菊ちゃんついでってひどい!!せっかくお兄さん、ちゃんのために選んだのに」
「あー、ありがとうございます」
 イギリスのアーサーさんのお宅の玄関先でここに来るまでに感じた不安を払拭するために、私はことさら明るく振る舞う。
 到着した家は晴天にもかかわらず何故か陰気を纏っている。
 賑やかなの明るい声が聞こえてきそうなのにそれがない。
 それが余計に不安をあおる。
 私はフランシスさんと顔を見合わせ勝手に入ってみる事にした。
 そして、呆然と座っている彼を見てフランシスさんは一言
「振られちゃったねぇ」
 と空笑いを浮かべながら言った。

******

 セント・パンクロス駅だ。
 アーサーと待ち合わせして菊ちゃんと別れた場所で一人でいる。
 正直不安だ。
 英語が苦手なあたしが外国に本当に一人でいる。
 菊ちゃんもアーサーもいない。
 通訳してくれる人なんて誰もいない。
 ここまではバスに乗ってやってきた。
 アーサーの家の近所からバスが出てて、そこの近くまで泣きはらした顔でやってきたあたしに、そこにいたおばあさんがちょうどやってきた日本人の留学生の女の子と引き合わせてくれた。
 その女の子とおばあさんのおかげであたしはバスに無事に乗れた。
 すぐにおばあさんは降りてしまったけど、女の子は駅で降りるというので一緒におりた。
 ついでに駅での切符の買い方も聞く。
 時間まで多少あったので他愛もない話をしていた。
 その子の出身が愛媛とかそんな話。
 そうこうしている間に電車が来たので乗り込む。

 乗ったのは。

「おそらくユーロスターでしょう」
「飛行機じゃねえのか?」
「簡単に足が付く飛行機より電車の方が足が付かないと思いますが?」
「直にドイツに行ったんじゃねーのかよ…………」
 の行き先について会議中だ。
 あの娘がここを飛び出して、ロンドン、イギリス国内にいるとは思えなかった。
 とすれば国外に出るだろう。
 ドイツに行く事はおそらくないだろう。
 多分。
「なんだぁ、ちゃん、パリに来るんだったらお兄さんお迎えすれば良かったー」
「フランシスさん、あの娘はパリに行くわけではありませんよ」
「ですよねぇー。で、ちゃんはどこに行くと?」
「だからドイツだろう?」
 アーサーさんは行って欲しくないくせにドイツだと言う。
 だから、それはあり得ません。
「だろうね。お兄さんもその意見に賛成。ちゃんってここまで自覚してなかったのに素直にはいそうですかって言っていくような娘じゃないと思うしね」
 フランシスさん見事その通りですよ。
 何処かに逃げ込むはずです。
「じゃあ、ドコだよ」
「それは…そこまでは俺にも…」
「ふぅ、フランスからは各地に向かえますからね。スマートフォンも持っている事です。移動だけならば特に問題はないでしょう。ただ…今の時間ですからね」
 今は夕方という時間帯。
 が飛び出た時間から考えると、パリに着く頃には暗くなっているだろう。
「向かえるのは…1本か……2本ぐらいかな?」
「ドコだよそれはー」
「振られたのに、心配?」
「別に振られたからってすぐに嫌いになったり何かしねーよ。それに、別に嫌いだなんて言われた訳じゃねぇ」
「はいはい」

******

 ユーロスターの中で教えて貰ったナンバーに電話をする。
 了解を貰った後、メールを送ってくれると言ってた。
 そのメールを駅員さんに見せろと言う事で、パリに着く。
 パリの駅で送られてきたメールを駅員さんに見せ、何処かへ連れて行かれる。
「この場所に案内してください」
 と、いう文面になってるらしい。
 案内してくれた駅員さんと極々簡単な英語(あたし)とカタコトのニホン語(駅員さん)で会話。
 少し、知ってるらしい。
 まぁ、挨拶程度と人が行き来する駅という特性上だと思う。
 その場について向かえに来てくれるのかと思いきや、いたのは。
「何しとぉね」
「……ギャ!!」
 声をあげてしまった。
 厳つい金髪の怖い人。
 と言うイメージの大きい、オランダさんことエルンストさんだった。
「あ、あの」
「行くぞ」
「行く?」
「ベルに頼まれて向かえに来なったんだ」
 ま、マジですかー。
「のんびりしてたら、乗り遅れるげ。早くしねま」
「は、はい」
 エルンストさんにせかされてあたしは、パリ・ブリュッセル間を走るタリスという新幹線に乗る。
 ちなみに最終だ。
 ロンドンを出たのが夕方5時。今、7時過ぎにパリについて、8時の最終。
 ホント、ミラクル過ぎる。
 タイミング良くて良かった。
 ちなみに完全予約制。
 乗れたのはエルンストさんとヘルプを頼んだベルのおかげ。
「ありがとうございます」
「礼なんかいらんね。俺はベルに頼まれただけや」
 そう言って、エルンストさんはさっさと席に座り眠ってしまった。
 ここから2時間、どーもたせようかなんて悩んだけど、あっさり解決してホッとした。

******

「で、何があったん?」
 ブリュッセルに到着し、夜も遅いからとそのままベルが用意してくれた部屋で寝て、朝…じゃなく今はお昼。
 エルンストさんは朝にオランダに戻ったらしい。
 じゃなくて、お昼、ベルに詰問されている。
「うん……何となく」
「何となくやないやろ?アルトに何されたん?」
 それなら言える。
「告られた」
「……アホやなぁ」
 あたしはアホじゃないよ。
ちゃんの事やない、アルトの事やて。気づいてない言うより…気づきたくないんやんなぁ」
「……………」
 そう……なの?…か。
 ……そう…だよね……。
 なんか、あたしも……。
「で、自覚したん?」
「自覚っていうか………」
 いや、ほら。
 自覚はしたけど……けど……なんか。
「うちなぁ、もー初めからやって思うとったけど?」
 初めから??
 えー、それはーないよぉ。
「あるって」
 その時、家のチャイムが鳴る。
 き、菊ちゃんが来ちゃった????
「誰、??」
 でも、ベルギーに来てるって知らないよね?
「一人、呼んどるんよ」
 え?まさか、ご本人様?
「それはないわぁ。ほんま安心しとき」
 そう言ってベルは玄関に向かい、客人を迎える。
 そこに来たのはエリザベータだった。
「エリザ……どうしたの?」
 意外や意外すぎてビックリだ!
………」
 何か、泣きそうよ?
「エリザ、何かあったの?」
「っ!!心配したのよ!!!」
 へ?
「菊さんから連絡あったとき、本当にビックリしたのよ!!!」
 パリでの会議にはエリザも来ていて(エルンストさんも来ていた。から向かえにこれた。一体どういうメンツで会議をしていたのやら)、あたしがいなくなったと、菊ちゃんから連絡あったのはちょうど、あたしがパリ駅でエルンストさんと合流していた頃で。
 次の日にベルと用事があったエリザはベルの所に連絡してあたしがベルギーに向かっている事を知ったのだそうだ。
 まだ、菊ちゃんには連絡していないらしい。
 アーサーの所から飛び出したと言う事がベルの口から伝わったんだろう。
 で、エリザは予定通りベルギーまでやってきたのだという。
「菊さんも心配してるわ。連絡してあげて」
「う………ん」
 したいのは山々だけど、心の整理が付いてない。
 菊ちゃんは多分、まだアーサーの所にいるわけで、菊ちゃんに連絡したら、アーサーにも繋がる。
 あんな風に飛び出した手前、アーサーには会いづらい。
 それに多分、菊ちゃんの事だ。
 あたしがベルギーにいる事、とうにお見通しだろう。
 消去法で考えれば多分、ここ以外にない。
 あたしの性格は完璧に把握されてるし。
 アーサーにははぐらかしてるだろうけど。
「で、どうして飛び出したの?」
 また……説明。
 は、ベルがしてくれた。
「ヒーちゃんが好きなんやてー」
 余計な一言を添えて。
 うぎゃー、自覚しても認めたくないんだよぉ!!
 なんか、えー、でも、えーが延々と続くんだよぉ!!
!!あの男だけは止めなさい!!私のローデリヒさんを傷物にしたのよあのヤローは!!」
 エリザ、口が悪くなってる。
「ほんま、エリザはヒーちゃんと仲悪いなぁ」
「別に仲が悪いという訳じゃないわよ?ただ仲良くしようとはおもわないだけ。悪い奴とは思わないけど、そりゃ昔は喧嘩ばっかりしてたけど、今はそんな気もないわ」
「にしては、ローデリヒさんに手を出されるとめっちゃおこってるやん」
「それとコレとは別問題!!ローデリヒさんを傷つける物は何人たりとも許さないわ。傷ついてはぁはぁしてるローデリヒさんも素敵だけどハァハァ」
 え、エリザー!!帰ってきてー!!!
「真面目な話、悪い奴ではないわ。とりわけ良い奴でもないけど。だからといって勧める事もしないわ。止める事はするけれど」
「それ、結局、反対しとるやん。……ってそんな事話したい訳やなくて、ちゃんは好きやって事」
「……気にしてるのは何となく付いてたわ。でも、それって小鳥のインプリンティングに似たようなものじゃない?」
 エリザはどうしても否定したいのかそう言ってくる。
 あたしもそうしたいのも山々ですが……インプリンティングですかー。
「せやけど、誰かを好きになるのと似てへん?エリザかてそうやったんと違う?」
「ちがっ!!!」
「せやって。最初は気の食わんお坊ちゃんやったんやろ?ローデリヒさんの事」
「私、ローデリヒさんの事そんな風に思った事ない!!。良く突っかかって来る弱い奴がいるなぁってとかぐらいしか思ってない」
 うわぁ、意外な事実!!!
「せやから、人を好きになるんは、ほんの些細なきっかけなんやて」
「そ、それは否定しない……けど…。それとこれとは」
「一緒やて、そら最初見たって言うか、良くしてくれた人やったかもしれん。それはきっかけやて」
 うん、きっかけなのかなぁ?
 ベルとエリザの会話を聞きながら整理してみる。
 最初にこの世界に来てみた顔は菊ちゃんで、次が奴だった。
 誰だか分かったときはこれが噂のーとかしか思ってなかったけど。
 ウィーン観光してたときはちょっと頼りないなんて思っても見たけど(あんまり詳しくないという意味で)。
 それなりに一所懸命案内はしてくれてたんだよね。
 行きたい所、全部行けた訳じゃないけれど、それでも、知ってるところ案内してくれた。
 急な願いを言ったにもかかわらずだ。
 ワルツを覚えるために、ベルリンに行ったときも。
 最初こそ上手く行かなかったけど、そんなわだかまりとか不安とか爆発したのに、ちゃんと受け止めてくれた。
 聞いてくれたって言うか……素直に話す事が出来たんだよね。

ちゃん、落ち着いたようやね」
 二人があたしを心配そうに見ている。
 二人にも迷惑かけちゃったな。
「ごめんね、ベル、エリザ。二人とも心配かけて」
「えぇよ、うちは。そんなん気にせんと」
、私の方こそごめんなさいだわ。ちゃんとあなたが思っている事に目をつぶって反対して」
 まぁ、エリザが反対するだろうなぁって言うのは分かってたからさ。
 それは大丈夫。
「でも、諸手を挙げて賛成とは言えないのは分かって?あいつは不憫な奴だから、が不幸な目に合うのを私は見たくないのよ?」
「それは言えとる。せやけど、付き合ういうたらどーするの?」
「付き合う……」
 考えても見なかった。
 だって、あたしの事好きって分からないもん。
「そんなん、大丈夫に決まってるやん!」
「だってー…………。だって……」
 思わず、エリザを見てしまう。
 自覚はした。
 納得も出来た。
 最後の問題はそこだ!!!!
 あたしは好きでも、向こうは違うかもしれない。
「え?なんであたしの事?見るの!!!」
「…だって……エリザの事好きなんじゃないの?」
、勘違いしてるわよ!!!」
「せや」
 勘違いって……仲良いよ?
「そんな仲が良いなんて事あるわけないじゃない」
「うん、エリザ的にはないって分かった。エリザがローデリヒさんのこと大好きだって言うのはよーく分かった」
「あら、ありがとう。でも一個訂正させて。大好きじゃなくて愛してるの。きゃー」
「もう、二度目はあかん」
「き、厳しいわね」
 なんかお笑いテイストが混ざってきた。
 じゃなくてさー。
 あたしは好きだけど、向こうはどうか分からないって事。
「せやから、知らん人はそう思うかもしれんけど、付き合い長いうちらからすればそれはないって思うで?あいつの事見とったらよう分かると思うけど、構うんは自分が気に入ってるもんだけなんよ。ルー君やフェリちゃん。そーやろ?」
 な、なるほど。
 その論理で行くと、ギルはローデリヒさんの事も気に入ってるって事に……。
「だから、嫌いなのよ!!!傷物にしたくせに、今更何よ!!!」
 ハハハハハハハハハ、そんな事実が!!!
 でも、それとこれとは、やっぱり違う気が。
「ふぅ。バカみたいにへらへらして機嫌良くって」
「月一ペースで日本に行ってホットケーキをちゃんの為に作っとるって聞いたときはめっちゃびびったわ」
 え、えへ?
「うそ、何それ聞いてない!!今それ初めて聞いた!!」
「この前、フランシスのせいで行かれへんようになった時はめっちゃヘコんでたっていうで?」
「ルート君!!!その情報くれなきゃ!!!」
 ちょ、ちょっと待ってー!!
 何を言ってるのか分からなくなってパニックになったときだ。
 ベルの電話が鳴ったのは。
「何?せっかくもりあがっとるのにー」
 そう言いながらベルは電話に出る。
「あー、どーもー」
 口調から、相手が誰か分かるかと思ったけど。
「うん、さすがやわ〜。その通りやで!!」
 さっぱり分からない。
「せやけど、えーのん?まぁ、そういうんやったら、ええんやけど。ほんならそっちに行かせますわ」
 敬語?
 ベルの電話の相手は…………菊ちゃんな気がする。
 そっちに行かせるってどういう事だろう。
 このままドイツに行けって言う事かなぁ?
 うーん、やっぱりそれもなー。
「何?まだ渋ってるの?」
「そう言う訳じゃないんだけど……」
「大丈夫よ。保証、のためにするわ。あなたが悲しむ顔は見たくないもの」
「エリザ……ありがとう、ちょっと元気になった」
 うん、とはいえ、どうしようかなぁ。
「って、告白でしょ?」
 え?あ……う……ん?
「あら、しないの?。もう保証するんって言ってるんだからしなさい」
「いや、ほら」
「また、消極的になって、もっと積極的にならないとだめよ」
 うぇ〜ん、そんな勇気まだおきませ〜ん。
「あとは明日やね」
 電話が終わったらしいベルが戻ってくる。
「明日?」
「そうや。明日までちゃんと考えとき!。明日になったらうちとお出かけしような」
「う。うん」
 電話の内容は結局あたしに関係なかったのかな?
 だったら良いんだけど。
 菊ちゃん、目星付けてると思ったんだけどな。
「結局、電話は誰だったの?」
「秘密や」
 何かやっぱりベルの電話の相手は菊ちゃんで、内容はあたしの事な気がする。
「ぜーんぶ、明日や。今夜はうちら3人で好きな人の話いっぱいしような」
 へ?
 いいよ、そんなこと。
「いいわね。それ」
 そうだよね、エリザは乗るよね。
 まぁ、いっか多分、いろんなエピソードあるだろうし、あたしは聞き専に回ろう。
 うん。

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あとがき

まさかのオランダさん。
方言キャラはあまり出したくないのにストーリー上出さざるを得ないっていうね。
あと、キャラを出したいって言う思いね。
うーホント大変。