今まで気づかないふりしてた。
皆、気づいてた。
当の相手でさえも。
でも、あたしは気づかなかった。
そこを見ようともしなかった。
それを気にしたくなかったから。
新緑の5月。
日本では初夏、夏が立つわけだけれども、ヨーロッパでは本格的な春を迎える。
「では、私はフランシスさんの所へ行ってきます。またこちらに戻ってくるので、アーサーさんそれまでをよろしくお願いいたします」
「あぁ。分かった
菊ちゃんとロンドン中心部にあるセント・パンクロス駅で分かれる。
菊ちゃんはセント・パンクロス駅からフランスパリ行きのユーロスターにのって。
あたしはアーサーが運転するジャガーに乗って。
ちなみに、セント・パンクロス駅、どこかで見た事ある外観だなぁと思ったら某有名魔法少年の映画の駅の外観で使われてるんだって。
隣がその舞台となる場所の重要駅のキング・クロス駅。
そう、ここはロンドン。
念願のロンドンのアーサーのおうちにイングリッシュガーデンを見に来たのだ。後観光。
大英博物館とか見たい!!
で、ロンドンの高級住宅街にアーサーのおうちはあって、そこには結構広い庭と
「かわいいー」
そう叫び出したくなるぐらいの可愛いアンティークのおうちがあった。
「そ、そうか?、19世紀頃に作ったんだ。結構気にってるんだぜ?」
へぇ、19世紀……今が21世紀だから100年以上も昔って事か。
やっぱり石造りだと残せるんだなぁ。
そんな事より、アーサーのおうち。
門から家までは小径になっていてきれいに背丈の小さな木々が植わっている。
暖かい日差しとロンドンにしては珍しいらしい軽やかな春の風に乗ってバラの香りがする。
庭と小径の間にある垣根から庭を覗いてみればバラがスゴい!!
「アーサー!!バラすごい!!」
「落ち着け、後でじっくり見せてやるから先に中に入るぞ」
アーサーに背中を押されて家の中に入る。
グリーンの柱と淡いクリーム色の壁紙はスゴく落ち着いた雰囲気を見せる。
飾ってある陶器類はどれも可愛い。
生けられている花も、装飾のタイルにかかれている花も壁紙に描かれている花も全部バラ。
いやもうしつこいって言うくらいにバラ。
「アーサーってバラが好きなんだね」
「我が国の国花だからな。も日本の国花である桜スキだろう?」
「まぁ、そうだけど」
国花っていうだけじゃなくスキだけどね。
家の中に入りアーサーに案内されている間も家の内装の可愛さに辺りをきょろきょろ。
バラッてるけど壁紙可愛いよ。
しかし普段目にしてるのが日本建築の木の柱と漆喰(もどき)なのですごく新鮮。
洋風のあたしの部屋の壁紙だって無地だから、もーこういう壁紙にあこがれる。
ルートさんの所はさすが質実剛健なだけあってここまで目立つ(うっすら模様)ではなかったからあんまり気にしなかったけどね。
*****
「ようこそ、、ここに座ってくれ」
庭が一望出来るテラスにテーブルセットがあって、そこにアーサーは案内してくれた。
椅子を引いてくれる様はさすが英国紳士と行ったところか。
「こういうところだけ見てるとアーサーは紳士に見えるから、怖いよね」
そう言ったのはアルだったか、フランシスさんだったか。
ともかくその二人のどっちかだろうな。
「とっておきのお菓子を用意したんだ、紅茶と一緒に持ってくるから楽しみにしてろよ」
と、とっておきのお菓子?
ま、まさかアーサーの手作り?
でも焼いた薫り的な物はしないし。
不安なのでおそる聞いてみる。
「ひ、まで……。今日のお菓子は有名店のアフタヌーンティーを取り寄せたんだ。紅茶は俺のブレンドだ!!」
そ、そっか。
紅茶のブレンドは心配しなくっても大丈夫って菊ちゃんも言ってるから安心だね。
「今用意するから、もう少し待っててくれ」
「うん、了解」
色とりどりのバラが咲いている庭を眺める。
「お、おい!余計な事」
「あぁ、それでいい」
突然始まったアーサーの独り言。
何事かと思い思わずアーサーのいるはずの所を見てしまう。
独り言って言うか……。
「まぁ、そうなんだけどよぉ」
「お、それだ!!さすがだな、ユニコーン」
ゆ、ユニコーン??
じょ、冗談でしょう?
まさか妖精さん?!
そう言えば、アルが言ってた。
「アーサーが突然叫びだしても気にしない方が良いんだぞ!あれは病気とは名状してはいけないものなんだ!アーサーは「妖精さんがいるんだ!!」って言い張るから」
って。
妖精さんか……。
パブってる訳じゃないし……
「アハッアハハハハハ−」
って笑い出さないだけましか。
見てみたいけど、多分見ちゃいけないよ。
触れてしまってはいけないんだ。多分。
よし、庭を見続けよう。
「待たせたな」
キッチンワゴンに乗せられたティースタンドの上のお菓子は可愛い。
「アーサー、食べるのが何か勿体ないね」
美味しそうなスイーツにきれいに焼けてるスコーン。
あぁ、コレが本物のスコーン。
アーサーが焼いたもの(見た!!)は炭だった。
とサンドイッチ?
サンドイッチも食べるの?
「アフタヌーンティーっていうのは誤解してるかもしれないが日本でいう3時のおやつと違うからな。食事を兼ねた社交なんだよ」
マジでか。だからサンドイッチも一緒なのね。
「あとは、コンサートや演劇を見に行く前の軽食だと考えればわかりやすい」
そうなのか。
だから菊ちゃんと分かれた後、ちょうどお昼だったからお昼にしない?って聞いたのにダメって行ったのはそう言う事なのね?
3時のおやつがもの凄くお昼ですよ。
あぁ、このプチケーキ可愛い。
「この後はどうするんだ?」
この後?食べた後?
トラファルガー広場とか見ちゃったし、大英博物館行くには遅いしねぇ。
菊ちゃんは夜遅く帰ってくるんでしょう?
うーん。
「違う、日程と言う意味だ」
あぁ。
「菊ちゃんが戻ってきたらドイツに向かうよ。博物館行く時間とってくれるかなぁ?」
元々はドイツに行く予定だったんだよね。
「先に私だけドイツに行っちゃっても良かったんだけど、ほらアーサーが今は良い季節だからって言ったじゃない?イングリッシュガーデン見たかったし、どうせドイツには行くんだし遅いか早いかの違いだもんね」
ギルに予定変更するって伝えたときは残念がってたけど、ギルもルートさんもあたしがイギリスに行きたがってたのは知ってたからね。
「そ、そーか」
さんざん止められたんだけどねぇ。
ヘタレ兄弟と菊ちゃんも一緒になって。
アーサーの手作りスコーンの恐怖は皆のトラウマレベルみたいだよ?
「そ、そーか」
あ、しまった。
アーサー、落ち込んじゃった。
落ち込ませるつもりゼロだったんだけどなぁ。
「あ、この紅茶アーサーがわざわざブレンドしてくれたんでしょう?ありがとう」
なんかいろんな香りが混ざってるんだよね。
変に混ざってるんじゃなくて香水みたいな感じ?
カップに近づいたとき、紅茶を口に含んだ時、飲んだとき、順々に香りが変化してる。
「アーサーが入れてくれた紅茶はやっぱり美味しいね」
「あ、べ、べ、別にそれは当たり前だ!!が来るからって前からブレンド試してた訳じゃないぞ、ただ俺がどのブレンドがいいかと試してただけなんだからな」
前からってどのくらいなんだろう。
「いつから試してたの?」
「いつからって……別に……がイングリッシュガーデン見たい言ってたのを聞いてからじゃないからな」
……それ言ったのっていつだっけ?
かなり前な気がする!!
「だから、のためにじゃなくって。季節によって茶葉の香りや種類、産地が変わるからその頃から試さないと一番いいブレンドが見つからないから、別にあわせたとかそう言う訳じゃなくてだなぁ」
そっか……、ツンデレ眉毛語を訳すとあたしの為って事でいいのかなぁ。
「あたしの為?」
「あ、そう言う訳じゃなくてだなぁ」
わぁ、顔真っ赤だー。
スゴいアーサーの顔真っ赤だぁ!!!
何だか、スゴい申し訳ない気持ちになってきた。
し、それにまぁ単純に嬉しい。
「ありがとうアーサー」
「だからっ」
「じゃあ、あたしが来るからじゃないんだぁ」
「違う」
「うん、分かってる。だからありがとう」
「くそっ、の前だと調子が出ねぇ」
調子ってなんの調子だ。
いつもとあまり変わりないと思うけどなぁ。
他愛もない会話をしつつアフタヌーンティー終了。
うわぁーお腹いっぱーい!!
少し動きたいなぁ。
コレ、庭見て歩き回るのに良い感じじゃない?
ドイツの家みたいに広大な庭じゃないけど、少し腹ごなし的には良いかも!!
「アーサー。庭に降りたい」
「あぁ、約束だったしな、行くか」
うん。
庭に降りるとバラの香りが漂ってくる。
色とりどりの花々とたくさんのバラが植わっている。
バラは品種改良しやすい花なのは有名だけど、アーサーの庭にはアーサーが作った品種も多数あるらしいのだ!!
スゴい!!
「バラを育ててる者としては自分だけの品種というのはあこがれだからな。あぁ、あー、の名前のバラ、作ってやろうか?」
え?
いや、それは嬉しいけど、んー遠慮しようかな?
「嫌なのか?」
「嫌って言うか、さぁほら、品種改良って大変でしょう?10年以上かかる場合もあるって聞いた事あるし、それに申し訳ないし」
「そんな事あるはずないだろう」
「いや、いや、うん、大丈夫」
「何がだ」
「いや、うん、別にいい」
詰め寄ってきそうなアーサーを躱し、庭を歩く。
あぁ、うん、なんか今スゴくなんかうん。
あれな感じを覚えた。
なんだろうアーサーと会話してる最中なのにな。
だからか、アーサーの視線が背中にいたい。
何か言いたそうなアーサーの事は気にしないでおこう、多分。
その方がいいんだ。
ふと、何かに引っかけたようなきがして、あれって思う間に転びそうになる。
「チッ、っ」
アーサーの声が聞こえて、後ろから抱きとめられた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ、ちょっとびっくりした」
足元見ても何もなくて、なんかなんだろう?
足首に引っかかった感じ?
「妖精さんだ。妖精さんはいたずら好きが多いのが相場だからな」
そっか、妖精さんか。
えっと、気にしないでおこうかな。
アーサーが、背後からあたしを抱き留めたアーサーが未だに離してくれない。
「アーサー、あの離して欲しいんだけど」
「……分かってる」
そう言いながら離してくれない。
分かってないよ?
「アーサー、あの、離して」
「断る」
え?
断るって、それ、スゴい困る!!
「何でだ、誰か好きな奴でも出来たのか?」
どうして突然そうなる。
いや、出来たけど。
「離してアーサー」
アーサーの言葉に答えずに言う。
言わなくてもたとえ言ったとしてもアーサーは離してくれないだろう。
自分が望む答えじゃない限り。
あたしにはアーサーが望む答えは出せないんだ。
「、スキだ」
「アーサー、離して」
「」
「アーサー、離して……」
泣きそうだった。
アーサーの事は嫌いじゃない。
でも自覚したあたしには今、アーサーの側にいるのがつらい。
だって、あたしさっき思ったんだもん。
すごく、逢いに行きたいって。
「冗談じゃねぇ」
押し殺した声。
強まる腕。
「アーサー!!!!」
半分、叫んだと思う。
「っっ!!」
叫んだ事でひるんだのか腕がゆるむ。
その隙にあたしはふりほどいて、アーサーに文句言おうと思った。
それで収拾が付くと思った。
でも、無理だ。
ここで、元に戻そうなんて思っちゃダメなんだ。
「ごめん……アーサー………。ゴメンっ」
あたしは部屋に入りバッグをつかんで外へと飛び出した。
それに気づいたアーサーが呼んだ事にも気づかずに。
*****
結局の所限界だったのだ。
無視し続けるのが。