The Witness


 アリオスは手を思い切り延ばし、華奢なアンジェリークの躰をしっかりと抱き留める。
「アンジェ!!」
 抜群の反射神経を使い、彼はうまく廊下に転がり、自分が下になることで、アンジェリークの躰を守った。
 体勢を上手く戻した後、アリオスはシュルツをキツく一瞥する。
「私、私じゃない・・・」
 その眼光の鋭さに、シュルツは声を震わせて言い訳をする。
 しかしそれが後ろめたさを助長しているのは間違いなかった。
「本当に私じゃないんだ・・・!」
 そこには”殺人課課長”の威厳すらなかった。
「アンジェが目が見えないことをいいことに、おまえはよくそんな嘘を吐けたもんだな・・・。この俺が、
”嘘”だということを一番良く知ってるぜ? おっさん。この目で見てたんだからな?」
 キツくアリオスはシュルツを見据えた。
 捜査官としての誇り、そして愛するアンジェリークを守る騎士としての情熱が、彼に凄みを与えている
「くそう・・・」
 シュルツは焦りをみせ唸ると、銃を抜く。

 あっちだ・・・!

 アリオスはわざと銃を抜かせると、アンジェリークを抱えたまま、素早く移動する。
 シュルツの放つ弾丸を巧みに避け、彼は自分からは決して発砲しなかった。
「アリオス!」
 発砲音を聞き付け、オスカーは走ってくる。
 多くの捜査官が駆け付け、シュルツは囲まれた。
「アリオス!」
 シュルツを取り押さえたところで、オスカーはアリオスを呼ぶ。
 アリオスはアンジェリークを立たせ、しっかりと支えながら、シュルツに近付いた-------
「殺人未遂の現行犯で逮捕する」
 アリオスが手錠をシュルツにはめると、オスカーは時計で時間を確認する。
「行くぜ? あんたの犯罪は立証してやる」
 アリオスはシュルツを取り調べ室に連行し、アンジェリークにはオスカーが付き添った。

 取り調べ室にシュルツが入った後、まずはオスカーが尋問することになる。
 アリオスはアンジェリークを送り届けるのが先決だからだ。
 アリオスが取り調べ室を出ると、黄金の髪をした刑事局長が待っていた。
「ご苦労だった。シュルツの口座はこちらで押さえた。資金の流れはここにある」
 スマートに書類を渡すと、ジュリアスは不敵な笑みを浮かべる。
「シュルツの懲戒免職の手続きはすでに行っている。根回しは私が行うから心配するな」
「有り難うございます」
「手術が終わって退院するまで、警備を続行するように手配をしたから」
「有り難うございました」
 アリオスは軽く頭を下げた後、アンジェリークの元に急ぐ。
 少しでも落ち着かせてやりたかった。

「アンジェ」
「アリオス・・・」
 まだ躰を震わせている彼女を、アリオスは優しく包みこんでやる。
「家まで送っていく・・・」
「はい」
 立ち上がると、アンジェリークは躰を震わせて、アリオスにそっと寄り添う。
「行こうか」
「はい」
 アリオスはアンジェリークを連れて、彼女の自宅に車で向かう。
「アンジェ、もう全て終わったんだ・・・。安心していい」
「うん・・・」
 運転しているアリオスの腕をぎゅっと握り締めて、アンジェリークは心を落ち着かせようとしていた。

 自宅に彼女を送ると、ディアが待っていてくれた。
「アンジェ、良かったわね」
「お姉ちゃん・・・」
 無事にディアの声を聞けて、アンジェリークはほっとしたように溜め息を吐く。
「アンジェリークを頼みます」
「いやっ!」
 急に彼女はその身を固くすると、アリオスから離れようとはしなかった。
「アンジェリーク、これからアリオスさんはお仕事があるのよ?」
「だって・・・」
 今にも泣きそうな表情をするアンジェリークに、アリオスは少し困ったような微笑みを浮かべた。
「アンジェ・・・」
 無理もないとアリオスは思う。
 つい先程、命を狙われたのだから。
「少しだけだぜ」
「うん・・・」
 コクリと彼女が頷くと、アリオスはフッと微笑む。
「すみません」
 ディアは本当に済まなさそうに言うと、頭を下げて謝った。

 アンジェリークは自分の部屋に入るなり、アリオスにしっかりと抱き付く。
「アリオス・・・」
 心は彼だけのもの。
 アンジェリークは切なく重い心をアリオスだけにぶつけると、しっかりと彼にすがりついた。
「・・・これからも、ずっと側にいて欲しいの・・・」
「ああ、これからもな?」
 彼女は満面の笑顔を向け、さらに強くアリオスに抱き付く。
 そのまま彼女が落ち着くまで、彼は優しく側にいてやった。
「手術の日、俺も着いていて構わねえか?」
「うん、お願い・・・。あなたが着いていてくれたら、頑張れるから」
 二人は見つめ合い甘いキスを交わす。
 お互いの愛を確かめ合うように、しっかりと深く。
 唇が離れた後、アンジェリークは潤んだ瞳でアリオスを見た。
「有り難う、もう大丈夫だから・・・、お仕事に戻って?」
「サンキュ」
 彼は微笑むと、彼女の頬を優しく包み込む。
 その温かさはとても心地よくて、アンジェリークはそっと目を閉じた。
 不意にアリオスの携帯が鳴り響いた。
「あ、俺だ」
「エルンストです。例の弾丸が発射された銃が見つかりまして、そこからシュルツの指紋が検出されたんです!」
「-------そうか…! サンキュ。直ぐに戻る」
「はいお待ちしています」
 興奮気味のエルンストの電話を切ると、アリオスはアンジェリークの手を握り締める。
「物証が出たから、今からもどる」
「うん、がんばってね?」
 先ほどよりも、アンジェリークは穏やかな気分でいられた。
 彼女は優しく微笑むと、アリオスにしっかりと頷く。
「いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
 彼も笑顔で答え、アンジェリークの唇に優しくキスをする。

 シュルツ…。
 おまえを絶対ゆるさねえから…!!

 アリオスは強く誓うと、再び”戦場”に趣いた-------

〜TO BE CONTINUED〜

コメント

105000番のキリ番を踏まれた桔梗さまのリクエストで
「切ないハードボイルド/アリアン」です。

ごめんなさい・・・。
後一回!!
次回大団円!!!
予定です(笑)

マエ モドル ツギ