The Witness


 署に戻った後、アリオスは取り調べ室に入った。
「頼んだぜ?」
「ああ」
 後ろにオスカーは寄り、アリオスは尋問を開始した。
「被害者の体内から出てきた弾丸で、銃がわれたが、その銃からあんたの指紋が検出かれた」
 身構えていたシュルツの表情から血の気が引いていく。
「指紋と同じようなものが銃にもあるってことを知っているだろ? 迂闊だったな」
 まっすぐと目を見ようとしないシュルツに、アリオスは皮肉げに眉を上げる。
「これだけでもあんたの罪の実証は可能だから、何も言わなくてもかまわねえがな・・・」
 アリオスは先程発見された裏口座のデータと、麻薬組織検挙データを並べた。
「これを見れば一目両全だな。麻薬課が検挙した一週間後に、全て振り込まれている。偶然とは言わせねえ! 麻薬課にも裏を取ったが、いつもおまえが陣頭指揮に立ち、やっていたことは明白だ。
 おまえが異動の後、大きな組織を解体をしなければならないという下で、”ラ・ガ”の侵入調査が行われ、おまえと”ラ・ガ”が癒着が捜査員ヘンリー・サマーズにバレたのが事件の発端だな?」
 シュルツは大きな溜め息を吐きながら、もうこれだけの証拠を突き付けられてはと、半ば諦めの表情を浮かべていた。
「あいつがサマーズが悪い・・・。
 俺のやってきた今までの行為に気付き、あいつは脅してきやがった・・・。金を100万ドル渡さなければ、このことを公表すると言われて・・・、私は公表されては甘い汁を吸い上げられない危惧を感じ、トイレに呼び出し、殺した。
 それを聞いていたのが、アンジェリーク・コレットだ。
 最初は目が見えると思い殺害を”ラ・ガ”と協力して行おうとしたが、盲目と判ってからも、”声”を正確に聞き取る能力に恐れをなして狙った・・・。自分に少しでも疑いの目をかけられたくなかった・・・」
 証拠が揃い抵抗が出来なくなったのか、シュルツは力なく素直に話した。
「私利私欲に走ったわけではない。娘の留学費用が必要だった・・・」
 かつての迫力はなく、アリオスは厳しく見つめる。
「それが私利私欲って言うんだ。現にあんたのように私利私欲をため込むことをせず、一生懸命生きている人間がこの世には沢山いる・・・!」
 アリオスの脳裏にはアンジェリークが過ぎる。
「とにかく、あんたは自分のしたことを考えるんだ」
 アリオスは溜め息を吐くと、一端、取り調べ室から出た。
 煙草を口に銜え、ふかしながら外を見る。

 アンジェ、おちついているか?

 彼女の家あたりの明かりを、彼じっと見つめていた--------


 翌日、アンジェリークは入院し、アリオスは彼女を見舞った。
「もうすぐだな?」
「ええ」
 花束を渡した後、ベッドで腰掛ける彼女と向かい合った。
「明日はなるべく顔をだす」
「うん、有り難う」
 アリオスはぎゅっと手を握り締めて、アンジェリークを見つめる。
「アリオスさんを見るのが楽しみです」
「ヘンな顔かもしれねえじゃねえか?」
 アンジェリークはくすくす笑いながら頭を振った。
「私はあなたの心が好きだもの。関係ないわ、そんなこと」
「ハナモゲラ人みたいな顔してたらどうするんだよ?」
 それにも彼女は笑って答える。
「それでもよ。どんなあなたでも好きよ・・・アリオス・・・」
 耳まで真っ赤にして愛の告白をしてくる彼女に、アリオスは優しく笑ってくれた。
「俺もおまえを愛してるぜ。どんなんでもな?」
「目がこのまま見えなくたって?」
 嬉しくて少し涙ぐみながら、アンジェリークは言う。
 言葉の響きはどこか切ない。
「ああ。どんなおまえでもな?」
「うん・・・」
 アリオスはベッドの横に座ると、アンジェリークをしっかりと抱き締める。
「明日はきっと上手くいくからな?」
「うん・・・」
「これは、手術がうまくいくようにおまもりだ・・・」
 アリオスの唇が重なる。
 二人は唇を重ね合うと、お互いの思いを伝え合った。



 アンジェリークの手術の日がやってきた。
 この日アリオスは仕事の為手術の最初には立ち会えなかったが、始まってすぐに駆け付けてくれた。
「アリオスさん、あの子喜びます!」
「遅くなりました」
 彼は付き添っているディアの隣に腰掛けると、じっと点灯しているサインを見つめる。
「もうすぐ終わるはずです」
 手術中のサインが消え、アリオスは思わず立ち上がった。
 しばらくして担当医がやってくる。
「手術は上手く行きました。後は一週間後に包帯をとる時に、見えるかどうかの問題だけです」
「有り難うごさいました!」
 アリオスとディアは担当医に頭を下げ、アンジェリークが病室に向かうのに着いていく。

 アンジェ、よく頑張ったな・・・。

 アリオスはアンジェリークを見つめながら、祈るような気分になる。

 目が見えるようになって、その瞳で早く俺を見つめてくれ・・・。

 それがたったひとつの願いだった。


 包帯を取る日、アンジェリークはアリオスに付き添われて、ほの暗い眼科診察室に来ていた。
 いよいよちゃんと見えるかどうかテストするのだ。
「ねえ、ずっと着いていてね、アリオス、お姉ちゃん」
「ああ側にいてやる」
 ディアが当てられるほど、二人はくっついて離れない。
「さて、コレットさん。今から包帯を外しますが、私が開けろというまで目はあけないで下さい」
「はい…」
「では、外していきます」
 主治医はゆっくりと優しくアンジェリークの包帯を外してゆく。
 完全に外し終わった後、主治医は少し頷いた後アンジェリークを見た。
「ではゆっくりと目を開けてください」
 深く頷いた後、アンジェリークはゆっくりと目をあける。
「一番見たい人をみてください」
 それは左横にいるアリオス。
 彼女はぼんやりとする視界に慣らせるようにしながら、彼女は目を凝らしてアリオスを見つめる。
 ぼんやりと銀の髪が見え、その後輪郭がはっきりしてきた。

 …!!!!

 目に映ったアリオスは、とても素敵で、整った理想的な顔をしている。
「ハナボゲラ人なんてうそつき…!! 凄く素敵じゃない・・・!!!」
 半分なきながらアンジェリークはアリオスに抱きつく。
「おまえが気にいってくれてよかったぜ?
 アンジェ・・・、よかったな!」
 二人はしっかりと抱き合い、目が見えるようになったことの喜びを分かち合っている。
 医師は嬉しそうに頷くと、良かったとばかりにディアを見た。
「これで、手術は完全に成功しました…」
「有難うございます」
 ディアがしっかりと礼を言った後、アリオスとアンジェリークも揃って深々と礼をする。
「本当にありがとうございました!!」
 医師は笑うと、二人を祝福する。
「良かったですね。これから、お二人がお幸せになる番ですな」
 そういわれて妙に二人とも照れくさかった-------



 かくて、医師が言ったとおりに、退院後直ぐ、アリオスがアンジェリークにプロポーズをして、二人は婚約した。
 アンジェリークの目はすっかり良くなり、今まで出来なかった映画鑑賞などを積極的に楽しんでいる。

 事件は怖かった…。
 だけどあの事件があったからこそ、今の私がいる・・・。
 彼に出会えたことを、感謝しないとね?

 今日も二人は手を繋いで、穏やかな光の中を散歩する。
 目が見えるようになり、光を得たと共に、アンジェリークは”人生の光”も手に入れた。
 これから”光”があることに感謝して、一歩ずつ自分たちの季節を歩いていく。
 手を繋いでしっかりと--------

コメント

105000番のキリ番を踏まれた桔梗さまのリクエストで
「切ないハードボイルド/アリアン」です。

大団円です!!
な富岳かかってしまいましたが、書くのが凄く楽しい作ほんでした。
リクエストしてくださった桔梗様。
有難うございました

マエ モドル