The Witness
5


「間違いないんだな?」
 アリオスの声は落ち着いていたものの、思った通りの反応に、彼の心は僅かに興奮していた。
 アンジェリークは深く頷き、その澄んだ眼差しを彼に向ける。
 アリオスは考え込みながら、アンジェリークを見る。
「サンキュ、おまえの証言を活かせるように頑張るからな」
 髪を撫でられ、アンジェリークは少しだけ頬を染めた。
「アリオスさん、鑑識のエルンストさんが至急来てくださいと」
 刑事の一人が呼びに来てくれ、アリオスはぴんと来て立ち上がる。
「オスカー、少し鑑識に行ってくる。アンジェリークを頼んだ」
「ああ」
 彼は素早く鑑識に向かい、鑑識官のエルンストを尋ねた。
「エルンスト」
「お待ちしていました」
「銀行口座のことが判ったのか?」
「隠し講座を特定するのに手間取っています。
 ひとつ新たな事実が判ったのでお呼びしました」
 エルンスト主任がわざわざ言ってくるのは珍しい。
 アリオスは眉根を潜めながら、彼を見た。
「被害者の体内の中から僅かですが、弾丸の破片らしきものが出てきました。余りに小さくて手間取りましたが、出たんですよ、弾丸の種類が」
 淡々にいつものように語るエルンストの瞳の光は少し厳しく光っている。
「警察が主に使用している銃ワルサーPPK/Sから発射されたものです。
 あなたから銀行口座の事を調べろと聞いて、うちの署の兵器庫にあった銃を調べたところ、あったんです。一致する銃が…」
 溜め息を吐くと、エルンストは頭を抱えた。
「------何だって!?」
 アリオスは益々確信を深め、その表情を厳しくさせる。
「指紋は拭き取られていましたが、その銃を抑えておきました」
「サンキュ」
「引き続き、口座は解析を続けますから」
「頼んだ」
 アリオスは深く頷くと、アリオスは一端鑑識から出て、アンジェリークのところに足早に戻った。

 シュルツがその銃を使ったという、確証がいる…

 部屋に戻ると、アンジェリークたちは応接セットに移動していた。
「済まなかったな」
 オスカーに言ってから、アリオスは堂々とアンジェリークの隣に座る。
 丁度タイミングよく取り調べが済んだのか、ご満悦でシュルツが取調室から出てきた。
 その瞬間、アンジェリークは身を堅くした。
「どうした?」
「あの時と同じ感覚がする・・・」
 わざとらしく様子を見に来たのか、シュルツが応接ブースに顔を出した。
「何だ。お嬢さんはどうしてここに? もう事件は解決したんだよ?」
 不自然な声でシュルツは言う。
「-----今までの、お礼を言いに来ました・・・」
 声を僅かに震わせながらも、アンジェリークはしっかりと言った。
「そうか。ゆっくりしていってくれ」
 シュルツは少し間を開けた後、自分の席に戻っていった。
「良く言った」
「はい・・・」
 アリオスに肩を抱かれて、アンジェリークは少しほっとしたようにアリオスを見つめる。
「ずっと震えていたみてえだが、怖いことでもあったか?」
「あの人の雰囲気がちょっと嫌だっただけ・・・。
 あの時と同じ雰囲気だったから…」
 人が見ているにも関わらず、アリオスはアンジェリークの手を握って落ち着かせてやった。
「すまねえな、嫌なことさせちまって」
「大丈夫ですから」
 笑ってアンジェリークは言うと、立ち上がった。
「どこに行く?」
「化粧室に」
「だったら・・・、おいセリーヌ」
 アリオスに呼ばれて、まだ若い女性がやってきた。
 目の不自由なアンジェリークには女の様子が判らない。
「彼女を化粧室に案内してやってくれ」
「はい」
「宜しくお願いします」
 アンジェリークはしっかり深々と頭を下げるが、セリーヌはどこか無礼なところがあった。
「行きましょうか、コレットさん」
「宜しくお願いします」
 アンジェリークが女の肩に触れた瞬間、嫌そうに肩を少し強張らせた。
「ごめんなさい」
 そのまま廊下に進み出て、セリーヌはすたすたと歩いていく。
 アンジェリークはよたよたとそれに着いていくのがやっとだった。
「アンジェリークさん、アリオスと仲が良さそうね」
「私が目が見えないので、気にかけて下さっているようです」
 嫉妬心からくる悪意を感じながら、優しくも小さな声で戸惑いつつもアンジェリークは答えた。
「アリオスが”同情”から優しいってことを忘れないようにね。
 不幸の押し売りなんかして、気持ち悪いのよ・・・!」
 胸の中心を深く抉られるような痛みをアンジェリークは感じた。
 泣きたくても泣けない。
 彼女は必死になって堪えた。
「着いたわよ」
 険悪な声にアンジェリークは慌てて肩から手を放した。
「トイレひとつ自分で行けないなんて、どれほど人に迷惑を掛けてるんだか」
 きついことを言われても、アンジェリークは泣かなかった。
 一生懸命耐える。
「ここでいいです」
 震えた声で言うと、彼女は化粧室に駆け込み泣いた。声を立てず人知れず押し殺して。

 少しだけすっきりしたあと、誰にも言わず自力で家に帰ろうとした。
 一生懸命、手探りでお手洗いを出て、階段を捜していく。
「-----何を捜しているんだね?」
 その声にアンジェリークは身体を硬くした-------

 アリオスは苛立たしい気持ちでアンジェリークを待っていた。
 20分立ったにも拘らず、彼女はトイレから帰ってこない。
「見てくる…」
 アリオスはとうとう立ち上がり、化粧室までアンジェリークを捜しに行った------

「私に少しでも疑いの目が来ることは困るんだよ? お嬢さん」
「何をするんですか?」
 アンジェリークはじりじりと階段に追い詰められていることを、本能で感じ取る。
「ここから落ちても、あんたは目が見えない。
 ”事故”として処理されるだろうさ」
「そんな
-------やっぱり私の耳は間違っていなかったのね」
 不穏な空気を感じながら、アンジェリークは堪らなくなってまた一歩足を後退させる-------
「・・・・!!!」
 その瞬間、体が宙に浮いた。
 そのタイミングだった。
 アリオスはアンジェリークを見つけるなり、すぐさま駆けつける。

 アンジェ!!!!

「アンジェ!!!!!!!」
 アリオスの絶叫が階段室にこだましていた--------

 〜TO BE CONTINUED…〜

 

コメント

105000番のキリ番を踏まれた桔梗さまのリクエストで
「切ないハードボイルド/アリアン」です。

ははははは。
へぼすぎです。
反省文書きますです・・・。
ごめんなさい。

マエ モドル ツギ