アリオスは事件を追いつつ、アンジェリークの警護をしていた。 彼女の警護は交代でだが、なるべく自分でしたかった。 あの純粋な瞳に惹かれたのである。 姉のディアが仕事に行っている間は、アンジェリークがてきぱきと家の仕事をこなす。 その仕事ぶりは、目が見えないとはとても信じられないものだった。 近くのマーケットで買い物をしに行くときは特に重点的警備を強化する。 「車で送る」 「いいえ、近いですから」 白杖を上手く使い、背筋を延ばして上手く歩く姿が凛々しい。 「あっ」 横を自転車が通過し、アンジェリークは軽くよろめいた。 「大丈夫か?」 「はい・・・」 アリオスが支えてくれる手が余りにも力強くて、彼女は胸をどきりとさせる。 「有り難うございます」 「いつもこんななのか?」 「たまに」 ニコリと笑った後、アンジェリークはアリオスから離れ、再び歩き出す。 どきっとした・・・。アリオスさんの熱さが切ない・・・。 彼女は心の奥に芽生えそうな恋心を、必死になってかき消そうとした。 私はこんなんだもの…。 アリオスさんに恋してもらえるなんてありえないもの・・・。 目が見えない彼女はスーパーを利用せず、個人商店を利用する。 そこだと何があるか言ってくれるからだ。 アリオスはアンジェリークのナビ役をする間もなく、彼女がてきぱきと買い物をするものだから驚く。 店の位置を把握している彼女に心から関心せずにはいられなかった。 突然、アリオスのポケットに入っている携帯が鳴り響いた。 「待ってくれ」 出ると、それは上司のシュルツだ。 「様子はどうだ?」 「何もねえ」 アリオスは少しだけ苛立たしげに応える。 この上司を彼は余り好きではなかった。 電話の間、アンジェリークは聞いてはいけないと思い、少し離れることにした。 少し遠くに離れた瞬間------ 「・・・っ!!!」 急に手を掴まれたかと思うと、そのまま引きずられそうになった。 アンジェリークはその醸し出される雰囲気に嫌悪感を感じ、心の中で激しくアリオスを呼ぶ。 たすけて・・・! アリオス!! 「電話、切るぜ」 アリオスは、上司だろうが何だろうが関係ないとばかりに携帯を切り、すぐにアンジェリークのそばに向かう。 「何してやがる・・・、汚い手をどけやがれ・・・」 低く冷徹な声で呟くと、男の手をとり、捩った。 「何しやがる・・・」 「詳しいことは署で聞かせてもらうからな」 アリオスは低い声で言うと、男の腕にさらに力を込めた。 「いてて」 「ランディ」 「はっ、はいっ!」 影から若い刑事が出てきて、慌てて駆け寄ってくる。 「こいつを署に連れていけ。取り調べはオスカーに任せろ」 「はっ、はいっ!」 新米刑事は緊張をしているのか、直立不動でアリオスに敬礼し、震える手で男に手錠を掛ける。 「連行しろ」 「はいっ」 男が連行されるのを見届けながら、アリオスはアンジェリークの華奢な肩を抱いていた。 「大丈夫か?」 「はい、アリオスさんがいて下さったから平気です・・・」 「家に帰ったら少し落ち着くといい・・・」 コクリと頷くと、アンジェリークは素直に彼に躰を預けた。 家に戻るとダイニングの椅子に腰掛け、一息つく。 「何か淹れるぜ?」 「有り難うございます。私も手伝いますから・・・」 冷蔵庫からアイスコーヒーとアイスハーブティーを間違わずに取り出し、テーブルの上に置く。 「大したもんだな? ちゃんと正確に出してる」 「点字です」 ニコリと笑い、アンジェリークはアリオスにグラスを二つ出した。 「淹れて下さいますか? 私はタッパーに入ってるハーブティを」 「ああ」 彼はグラスの中に注いでやり、彼女に差し出した。 「有り難うございます」 アリオスも彼女の真向かいに座り、アイスコーヒーに口づける。 アンジェリークも嬉しそうにハーブティーを飲んだ。 「いつものより美味しく感じます」 「俺もな」 スーパーに売っているアイスコーヒーだが、ことさら美味しく感じてしまう。 それはアンジェリークも同じことだった。 「気分はどうだ?」 「かなり落ち着きました…」 アリオスさんがいれば落ち着くもの・・・。 「アリオスさん、私、アリオスさんに言わなければならないことがあります」 改まる彼女に、アリオスはほんの少し眉を上げた。 「何だ?」 「------実は…、十日後に目の手術をすることになっていて、一週間後には入院することになっているんです」 アリオスは真摯な光を帯びた深い眼差しをアンジェリークに見せる。 「目の手術って、見えるようになるかもしれないのか?」 アンジェリークは深く頷き、どこか陰りのある表情をした。 「何か気になることでもあるのか?」 少し瞼を伏せた後、彼女は見えるはずのないアリオスを、澄んだ眼差しで射抜く。 「難しい手術らしいんです・・・。だけど成功すれば確実に見えるようになると・・・。だからこれに賭けてみようと」 声はとてもしっかりとしていたが、その響きはどこか憂いがある。 誰かに邪魔されるのではないか。 成功しないのではないか。 ありとあらゆる不安がアンジェリークの心の中に渦巻いていることを、アリオスは敏感に察知した。 「大丈夫だ。 きっと見えるようになる…」 「アリオスさん…」 力強いアリオスの言葉は、アンジェリークの曇りがちな心に真っ直ぐと入ってきた。 彼はしっかりとアンジェリークの手を握り締め、心の奥底からそう思っていることを、彼女に伝える。 「アリオスさん…」 2人は見つめあう。 アンジェリークにはアリオスが見えないが、彼がどれほど思ってくれているかが伝わってきた。 「おまじないしてやる・・・。 おまえが落ち着けるように…」 力強い腕に引き寄せられ、優しく唇が重ねられる。 「ずっと一緒だ…。ずっと…」 掠れたアリオスの囁き声にアンジェリークは頷くのだった-------- 〜TO BE CONTINUED…〜 |
コメント 105000番のキリ番を踏まれた桔梗さまのリクエストで 「切ないハードボイルド/アリアン」です。 次回こそ事件について核心に触れられると思います。 切ないシーンももっと書いていきますです。 書いてて凄く楽しい創作です。 |