アリオス先生って、やっぱりどこかで見たことあるのよね・・・
遠い昔だった様な気がするけれど・・・
どこかであった気がする・・・。
それが判れば、、今回の彼がアンジェを拒絶する鍵ななるような気がして・・・
少しやつれ気味のアンジェリークを送りながら、レイチェルは思いつめた顔をしていた。
「レイチェル?」
余り体調のよくないアンジェリークに逆に声を掛けられて、レイチェルははっとした。
「あ、アンジェ? 何?」
「なんだか、考え込んでいて、何か・・・あったの?」
逆に心配されて、レイチェルは戸惑う。
「い、いや、なんでもないよ!」
「ホント?」
「うん、うん」
レイチェルは、考え込んでいた自分に、臍をかむ。
ヤバイ・・・。
考えてたの、アリオス先生のことだったから。
何処かであったことがあるんだけれど、思い出せなくて・・・
「ねえ、レイチェル・・・」
「エ、あ、何、アンジェリーク」
潤んだ瞳で見つめられて、レイチェルは益々あせる。
「・・・・」
そんなレイチェルを見ていると、アンジェリークは益々何も言えなくなってしまった。
「どうしたの?」
「何でもない・・・」
言いかけても、結局アンジェリークは何も言わなかった。
内にすべてを秘めてしまうのは、彼女のいいところでも有り、悪いところでもあると、彼女は思う。
「何か言いたいことがあるんなら・・・」
「うん、大丈夫だから、ね? レイチェル」
結局レイチェルは、アンジェリークの優しく消え入るような笑顔に誤魔化されてしまう。
「アンジェ・・・」
この子の笑顔を見たとき、小さい頃大好きだったテニス選手にそっくりだって、思ってたのよね・・・
名前は、確か・・・、エリス・・・
その名前を思い出した瞬間、レイチェルは一枚の写真を思い出した。煙っていた記憶が一気に晴れ渡る気がする。
まさか・・・。
いえ、まさかよね・・・。
エリス選手といえば、あの選手の恋人・・・。
もしそうだとしたら・・・!!
真っ青になって考え込むレイチェルに、アンジェリークは心配そうに眉根を寄せる。
「レイチェル! あなたこそ大丈夫なの?」
「ああ、うん、大丈夫! それより、早く帰ろ? ね?」
「うん」
せかされてアンジェリークは面を暗いながら返事をした。
今日のレイチェル・・・、なんだかおかしい・・・。
折角、クラブのこと相談したかったんだけどな・・・。
明日でも、いいかな・・・
家に帰って調べないと・・・、帰りに銀のマジック買ってこなくちゃ・・・
二人は言いたいことをお互いに言えぬまま、最寄駅で別れた。
レイチェルはその足ですぐに画材屋へと行き、そのまま急いで家に帰った。
心臓が音を立てて高鳴る。
「ただいま!」
「お帰り・・・、レイチェル!?」
家に帰るなり、彼女は息をつく。
心臓がまるで飛び出してしまうかと思うほど、鼓動が早くなっている。
ワタシの思っていることが正しければ・・・
彼女は脳裏に浮かんだことを実行に移すべく、古いアルバムを取り出し、めくり始めた。
ワタシが小学生の頃逢った、エリス選手との写真・・・。
そう、あそこには、確か、有名なテニスプレーヤーが写ってた。
その選手とエリス選手は少しの間婚約をしていた。
五年前に引退して、姿を消した、伝説の選手・・・
「あっ!!」
その写真を見つけるなり、今度は心臓が止まるかと思うほどの衝撃を感じた。
そこにはアンジェリークに瓜二つの栗色の髪の女性、小学生のレイチェルが写っている。
「----ホントによく似てるよ、アンジェと・・・」
言って、彼女は横にいる黒髪の青年を震える指でなぞった。
「・・・レヴィアス・ラグナ・アルヴィース選手・・・」
よく見ると、彼は金と翡翠の瞳をしている。
「なんて似てるの・・・アリオス先生に・・・。
まるでアンジェとアリオス先生が一緒に写ってるみたい・・・」
そう言って、レイチェルは意を決したように銀のマジックを取り出し、黒髪の青年の髪を塗り始めた。
私の考えが正しければ、アリオス先生はレヴィアス選手だ・・・。
----そして、彼がアンジェを拒絶する理由は、恐らく、彼女がエリス選手に似ているからだ・・・。
飛行機事故でなくなったエリス選手に・・・
震える手で、青年の漆黒の黒髪を、レイチェルは銀のペンで塗り始めた。
「やっぱり・・・」
塗り終わったとき、彼女は思わずそうこぼした。
そして、アンジェリークのことを思うと、切なくて唇ゐ噛み締めてしまう。
過去の恋人を思い出して辛いのか・・・
だけど、過去は過去。
今は今だわ。
先生にはそこのところをわからさなければならない。
アンジェリークのためにも!
レイチェルは親友のために一肌脱ぐ決意をする。
アリオスの過去の写真をかばん異体字にしまいこみ、来る明日へと備えていた。
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レヴィアス・ラグナ・アルヴィースと聞いて、知らないテニスファンはいないほどだ。
かつての世界チャンピオンであり、グランドスラムを達成した名選手なのだから。
エリス選手と婚約し、その後は解消した、直後の彼女の死。
それが引き金なのか、突然、五年前に、僅か23歳で引退をしてしまった。
それ以来姿をあらわさず、謎に包まれている。
誰もがこの程度の知識なら持っている。
勿論レイチェルもである。
レイチェルは、昨夜の写真を胸に、アリオスのいる”テニス部コーチ室”に向かっていた。
アンジェのためにも、本音を聞きたい・・・
ドアの前に来て深呼吸をすると、彼女は思い切りノックをする。
「先生、レイチェル・ハートです」
「入れ」
「失礼します」
厳しい表情で、レイチェルはアリオスの机へとつかつかと歩いてゆく。
「何だ、用件って」
「これを見てください」
「・・・・!!!」
レイチェルが机の上に写真を置くなり、アリオスは青ざめた表情になった。
黄金と翡翠の眼差しが冷たく光り、レイチェルを捕らえる。
その冷たさに、彼女は、一瞬言葉を失ったが、そのまま気を取り直して、姿勢を正す。
本当はその眼差しが痛かったが、親友にために、彼女は精一杯我慢をする。
「----先生、アンジェリークを拒絶する理由は、これでしょう? 彼女が先生の昔の恋人に似ているから」
彼の表情は益々険しく凍りつく。
ハート、どうしてそれを!!
その時だった。
がたりと物音がして、二人は思わず振り返った。
そこには、練習メニューを握り締めた、アンジェリークが全身を震わせて立っている。
「アンジェ!!」
彼女はそのまま踵を返し、泣きながら走ってゆく。
「コレット!!」
レイチェルが追いかけようとするよりも早く、アリオスが彼女を追いかける。
彼女は、二人の後姿しか見つめることしか出来なかった。
アンジェリークは走る。
胸が痛くて、じっとしていられない。
私・・・、いい気になっていたかもしれない・・・。
先生に目をかけてもらってたから、あんなこと言って。
ホントは私の存在が、アリオス先生を傷つけていたのに・・・
TO BE CONTINUED