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オマエヲ救ウ為ダケニ俺ハココニイル。
オマエヲ救イタイ!
ダカラ、助カッテクレ!
モウ一度アノ笑顔ヲ見セテクレ…!
俺ダケの天使-----------
亜梨子は、救急車で“港坂大学医学部付属病院”へと運ばれ、今、まさに集中治療室で治療を受けていた。
麻衣、美紀、零史も一緒の救急車に乗り込み、病院に付き添った。
麻衣と零史は、ロビーのソファに腰掛け、治療の経過の報告を今や遅しと待ちつづけている。
ロビーは薄暗く、仄かに常夜灯が点るだけ。柱時計の秒針の音が、心を重苦しくさせた。誰もがその雰囲気に押しつぶされそうになる。
“死”という名の恐怖が、三人の心を覆い尽くす。
だが誰も口にはしていなかった。
口にすれば現実になるような気がして、怖かったのだ。
亜梨子の下宿する叔母の家に電話を入れていた美紀が、やりきれない表情を浮かべて、公衆電話から戻ってきた。彼女は今にも泣きそうな雰囲気だ。
「…二人とも、亜梨子は?」
「いや…、まだ連絡はねえよ」
いつもの少しふざけたところは影を潜め、零史は俯きながら呟く。彼の指は無意識に絡められて、まるで祈っているように見えた。
「ご両親は…」
囁く麻衣の声もいつもの元気はない。
「…うん…。とにかく、叔母さんのご家族がすぐにここに来るって。ご両親は、大阪にいるから、明日の朝一番の新幹線でこちらに向かうそうよ…」
固く冷たいソファに腰掛けるなり、美紀は顔を両手で覆った。肩が小刻みに震える。
「どうして!! どうして亜梨子がこんな目に逢わなきゃなんないのよっ!!!」
魂の底からの声だった。いつもは大人しい美紀が感情を爆発させる。
それを見て、麻衣は姿勢を正す。自分がここはしっかりせねばならないと。彼女は泣きたいのをぐっとこらえて、美紀の肩を優しく抱いた。
「こら、亜梨子は大丈夫だよ!! けろっとして、あの大阪弁で“何あったん”って、きょとんとして訊いて来るよ。で、あの盆と正月が一緒に来たみたいな笑顔を浮かべるのよ!!」
麻衣は、勤めていつもの調子でと、明るく話す。だが、その明るさは、作り物特有の乾いたものだった。
「ほら、坂梨も言ってるだろ? 倉橋はそういう奴だからな? きっと“レポート見せてよ”なんて、甘えてくるから。あいつは、殺しても死ぬようなタマじゃねーし」
零史と麻衣の、少し乱暴でぶっきらぼうだが優しい励ましに、美紀は鼻をすすりながら笑う。
「有難う…。そうよね! 亜梨子が死ぬわけないもんね! 元気になるもんね」
美紀の泣き笑いの言葉に、二人も頷いて見せた。
不意に遠くから足跡が聞こえてきて、こちらへと向かっているのが判る。
三人は否が応でも身体を固くし、緊張する。
仄かな常夜灯がその人物を照らした時、美紀も麻衣も息を飲んだ。
まだ若い。
整った顔立ちで、長い前髪が印象的な、眼鏡を掛けた長身の青年だった。
「お待たせしました。脳外科の赤坂です。今回、倉橋亜梨子さんの主治医をさせて頂きます」
仄かな明かりが青年医師の横顔を照らし、彼の容姿が冷たいほど整っていることを知らしめる。
「あの…、亜梨子は、亜梨子はどうなったんですか!?」
最初は感情を押さえていたものの、徐々に押さえきれなくなり、美紀は赤坂に駆け寄った。
一瞬、赤坂は苦しげに瞳を閉じると、迷いを振り切るように開ける。
「倉橋さんは、まだ眼を覚ましません…」
「いつ!? いつ眼を覚ますんですか!! 先生!!」
麻衣もとうとうこらえきれなくて、赤坂に詰め寄った。
「MRIの検査でも、身体的原因は一切見当たらず、いたって健康です。------------ただ、目覚めないだけなのです。われわれの今の力では原因は特定できません」
赤坂の苦しげな様子からも、亜梨子の様子が余り芳しくないことを、三人は悟る。
「だからいつ眼を覚ますかって、訊いてるんです!!」
麻衣の叫びは涙交じりで、必死だった。
「----------明日かもしれないし…、ずっとこのままかもしれません…」
感情は余り感じられない言葉に、麻衣と美紀は互いに抱き合って泣き崩れる。
「亜梨子…!!!!」
二人の苦しげな様子に、零史の怒りにも火をつける。
「おい、あんた!!」
飛び掛るなり、零史は赤坂の白衣の襟を掴んだ。
「あんた医者だろう!! 倉橋を何とか出来ねえのかよ!! え!?」
いつもは感情的になどならない零史が、今、亜梨子のために医者に食って掛かっている。
理不尽な訴えだということは判っている。だがそうせずにいられなかった。
「すまん…、零史…」
赤坂から呟かれた苦しげな言葉に、零史は襟から手を外す。
「くそっ!!」
零史は行き場のない感情を、そばにあった灰皿を蹴飛ばすことで、何とか押さえた。
「ちくしょ!!」
三人の様子を見、赤坂はし夫切なげに目を閉じる。
(医者とは因果な商売だな…)
それぞれの想いをよそに、夜は深くなる。
誰もが祈るような気持ちで、亜梨子を見守ることしか、最早残されていないような気がしていた-----------
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コメント
「時空の翼」やっとこさ七回目です。
待っていた方(いるのか)おまたせしました(笑)
今回は現代編ですが、次回は又「イシュタリア」に戻ります。
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