Superstar


 もらった楽譜をしっかりと抱き締め、アンジェリークは家路に急ぐ。
 楽譜は彼女にとっては大切な宝物だった。
 家に帰ってもその興奮は治まらず、何度も見ては自分のものだと確認する。

 頑張れる・・・。先生に”おまじない”してもらったから・・・。

 唇に触れてみる。
 その感触にアンジェリーク耳まで真っ赤にさせ、部屋の中で手足をばたばたとさせて暴れてしまうのだった。

 お風呂屋さんに行っても、その帰りも、アンジェリークは口ずさまずにはいられなかった。
 家に帰って来ると、丁度電話が鳴っていて、彼女は慌ててとる。
「はい、コレットです」
「アンジェ、アリオスだ」
「先生!!」
 思いがけない相手からの電話に、アンジェリークは嬉しくて思わず大きな声を上げた。
「明日はエンジェル坂のスタジオに来てくれねえか? 仮歌を録りたいから」
 その言葉にアンジェリークは驚いてしまう。
「え!? もう録るんですか?」
「仮歌だけだ。心配すんな。楽器弾く連中に聴かせるだけだ。曲のイメージのためにな」
「よかった・・・」
 少しほっとしてアンジェリークは胸をなで下ろした。
「うちでも音入れが出来るが、明日は、主題歌を歌う歌手の都合でスタジオ録りになった。。すまねえがよろしく頼む」
「はいっ!」
 しっかりと頷き、アンジェリークは力強く返事をする。
「あまりはりきって練習とかするなよ? 今夜はぐっすりと寝て、喉を休ませろ」
「はい・・・」

 見抜かれてるな。

 彼女は思わず苦笑いをしてしまった。
「じゃあな、しっかりと眠れ?おまえならできるからな。 おやすみ」
「おやすみなさい・・・」
 電話が切れてからも、アンジェリークはしばらくの間は受話器をずっと耳に当てていた。

 先生、明日は精一杯頑張りますね?

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 翌日、アンジェリークはアリオスに言われた通りに、エンジェル坂のスタジオに制服を着たまま来ていた。
 入り口で名前を言い、生徒手帳を見せると、すんなり中に入れて貰えた。
 アリオスが押さえているスタジオはHだと教えてもらい、そこに向かう。

 何か緊張しちゃうな・・・。
 プロの方々に聴いて貰うなんて・・・。

 スタジオの前に来ると、一応儀礼上ノックをする。
「失礼します」
「ああ、入れ」
 胸が少し早まるのを感じながら、スタジオのドアを開けた。
「あら?」
 そこにはブルネットのとても美しい女性が微笑みながら椅子に座っていた。
 その横にはアリオスがいて、とても堂々としている。
 その女性はアンジェリークも見たことがある人気歌手、エリーズ・ジョルダーノだった。
「エリーズ、今回、挿入歌を歌ってもうことになった、アンジェリーク・コレットだ」
「こんにちはアンジェリーク、エリーズです。今回は、アリオスの曲で”競演”させて頂くことになるわね? どうぞ宜しくね?」
 余裕のある笑みを浮かべられ、アンジェリークはほんの少し切なくなる。
 確かにエリーズと逢うことは嬉しい。
 だが、彼女の微笑みは、どこか自分を子供と思っているようで、アンジェリークは嫌だった。
「軽く喉を温めるために、エリーズとアンジェ、順番に今日音を録る曲を歌え。伴奏は俺がする」
 アリオスは立ち上がるとピアノに移動して準備をする。
「エリーズから」
「ええ」
 一瞬、アンジェリークを挑むように見つめた後、マイクの前に立った。
 ”女神の歌声と称されるエリーズの歌声は、クラシックの基礎があるせいか、軽く歌っているにも関わらず、伸びと声量が桁違いにある。
 その美しさにアンジェリークは素直に感動した。
「流石だな」
 アリオスは当たり前のような軽い口調でさらりと褒める。
「次、アンジェ。歌いたいように歌え」
 あのような凄い歌声を聴いた後にアンジェリークが畏縮しないようにと、アリオスはさりげない一言を付け加えた。
「------はい」
 アリオスを見ると、僅かに笑ってくれているような気がする。
 その眼差しを見れば、アンジェリークは頑張れるような気がした。
「行きます」
 息を大きく吸い込む。
 アンジェリークはアリオスを信じ、その純白の白い羽根を広げて、ゆったりと歌を歌い始めた。

 いいぞ…。
 アンジェ…!!


 この子は…!!!!

 アンジェリークの声を聴き、エリーズは鳥肌が立つ想いがする。

 天才かもし知れないわ…

 アリオスの作った曲をアンジェリークは完璧に歌いこなした。
 最後のフレーズを詠い終わった瞬間、エリーズから拍手が湧き上がった。
「最高ね、この歌に合っているわ…。
 だけど-------」
 そこで言葉を止めると、彼女はアリオスを見つめた。
「この曲、私にいただけないかしら?」

 え--------

 アンジェリークの身体に衝撃が走る。
 彼女は咄嗟に大樹にしていた楽譜を自分の胸で抱きしめると、何度も泣きそうな顔で首を横に振った。
「これは先生が私のために作ったものだから…」
 声が震える。
 次の瞬間、アンジェリークはスタジオを飛び出してしまった。
「アンジェ!!」
 慌てて追いかけようとしたアリオスを、エリーズは止める。
「アリオス…。
 あの子に言って頂戴。あのここそ、”主題歌”を歌うべき歌い手だってね?」
 エリーズの微笑みに、アリオスもフッと微笑む。
「ああ。あいつの勘違いを拭ってくる」
 彼は頷いた後、アンジェリークを追いかけていった。

 新しいスターの誕生ね?


「アンジェ!!」
 アリオスはスタジオの入り口直前で泣きじゃくるアンジェリークをつかまえることが出来た。
「-------アリオス先生」
「あの歌はおまえのものだ」
 誰が見ているのかも判らないのにも関わらず、アリオスはアンジェリークをしっかりと抱きしめる。
「はい…」
「それにエリーズは、こういって意味で言ったんだぞ”おまえこそ主題歌を歌うべき歌手”だとな?」
「エリーズさんが…?」
 アンジェリークは涙で濡れた大きい瞳をアリオスに向ける。
 エリーズは確かにしっかりと心を籠った拍手をしてくれた。
 それを信じられない自分が、アンジェリークに花避けなくて堪らなかった。
「謝ります、エリーズさんに…。
 私何て自分勝手だったんだろう…」
「アンジェ・・・」
 素直に自分の非を認める、素直な彼女が愛しい。
 アリオスは、そっと、二度目のキスをアンジェリークに与えた-------
 
コメント

昨日TVでTHE CARPENTERS
がやってて思わず書いちまった・・・。
後一回で終わります。
連載ものを溜めてますが、ばしばしと終わらせていきますです、はい。

マエ モドル ツギ