Superstar


 アンジェリークはエリーズに謝ったが、彼女は軽く流してくれた。
「気にしなくていいのよ?」
 その余裕ありげな笑顔は、大人の女性としての大きさを見て取ることが出来る。

 私なんかまだまだ子供だな・・・。

 アンジェリークはしみじみと思い、自分のあまりに子供なところを呪った。
「じゃあ仮歌を録るからな」
 まずはルイーズから。
 先程よりも更に美しい声で、彼女は歌を歌う。
 高く響く声は、誰もを優しく包み込む。
 美しく柔らかな声に、アンジェリークは鳥肌の立つ思いだった。

 やっぱり凄いな、エリーズさん・・・。
 私とは桁違いだわ・・・。

 もちろん仮歌ということもあるので、駄目出しもなく一回で録り終わったが、そのままCDにしてもいいぐらいの素晴らしさだった。
「サンキュ、エリーズ。本番は二週間後だ」
「ええ。それまでに調子を整えておくわ」
 妖艶な微笑みをアリオスに浮かべた後、エリーズはアンジェリークの横に立つ。
「しっかりね? アリオスをがっちり掴むのよ?」
 エリーズの大人の優しさに、アンジェリークは真っ赤になって素直に反応する。
 その姿を微笑ましく見つめると、エリーズは「次の仕事があるから」とスタジオを出ていった。
「次は、おまえだぜ? アンジェ」
「はい」
 ほんの少し緊張しながら、ピアノのそばに立つ。
「おまじないはいるか?」
 ピアノから顔を出したアリオスが艶やかに見つめて来る。
「あ、あの・・・」
 恥ずかしそうにする彼女が、彼にとっては可愛くてしょうがなくて、喉を鳴らして笑う。
「来いよ。俺にもしてくれ”おまじない”」
「先生は・・・、そんなことしなくても・・・」
 はにかんだようにアンジェリークは甘く囁き、もじもじとしてしまった。
「俺ももっと上手く弾けるような気がするぜ?」
 魅力的に微笑まれると、アンジェリークはひとたまりもない。
 彼女はかすめるようなキスをアリオスにした後、俯いてしまった。
「じゃあ俺もな?」
 今度は更に深い口付けを彼女に送る。
「んっ・・・」
 深く唇を吸われ、舌先で唇を優しく舐め上げられ、頭のなかがぼんやりとしていくのを感じずにはいられない。
「あっ・・・」
 唇を離された時には、甘い吐息がひとつ零れた。
「いろっぽいぜ? これで頑張れるぜ。俺もおまえも・・・」
 その通りだと思ったので、恥ずかしそうにアンジェリークも頷いた。
「今から仮歌録るぞ」
「はい」
 彼らは背筋を延ばし、それぞれの音を奏ではじめる。
 アリオスのピアノが滑るような音が響き渡り、その上にアンジェリークの澄んだ声が重なり合って荘厳なハーモニーが形成される。
それは圧巻だった。
 アリオスのピアノにはアンジェリークの声が、アンジェリークの声にはアリオスのピアノしか考えられない。
 そのような離れがたい雰囲気がふたりのなかを漂っている。
 アンジェリークの歌もアリオスのピアノも、先程よりも数倍素晴らしかった。
 本番さながらの実力を出し切っている。

 おまじないしてもらったから
 先生のピアノだから…。
 素直に歌を歌うことが出来る…

 アリオスは直感する。

 この曲は俺にとって一番の曲になるだろう・・・。
 これもアンジェがいたからだ・・・。
 あいつのフォノジェニックな声があったからだ…。
 あいつの天使のような笑顔やあいつ自身が俺にこの曲を書かせてくれた…

 曲を奏で終わると、アリオスは録音装置を止め、ピアノから立ち上がるともう一度アンジェリークを抱きしめた。
「先生…」
「先生なんて呼ぶな・・・。アリオスと呼んでくれ…」
「アリオス…」
 再び唇が重ねられる。
 そのキスは今までの中で最も心に深く落ちる珠玉のキスだった--------

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 その日は、いつものようにアンジェリークはアリオスの家に向かった。
「こんにちは!」
「待ってたぜ?」
 アリオスはアンジェリークを出迎えるなり手を繋いで練習室に連れて行く。
 今の2人は普通の師弟以上の関係になっていた。
「アンジェ、実はな…」
 彼が彼女を見るなりなんともいえない表情をしたので、アンジェリークは一瞬どきりとする。
「あの曲なんだが…、ミュージシャンに聴かせたんだが・・・」
「もしかして、私が下手だから変えろと?」
 少し不安げに見つめる彼女を、アリオスは笑って見つめる。
「あの仮歌が余りにも素晴らしかったから、俺のピアノ演奏だけでそのまま映画に流れることになった」
「------ホントに!!!」
 本当に驚くべきことだった。
 まさかあの仮歌だと思っていたのが、本番で使用されようとは。
「-------これから忙しくなる。デビューが決まったんだからな?
 おまえは俺の手を離れて、これから歌手”アンジェリーク・コレット”ととして活動することになる」
「私…」
 本当は嬉しいのに違いないのに、アンジェリークの表情はやけに暗い。
「嬉しくねえのか?」
 アリオスはその表情を覗き込むようにして、不思議そうに眉根を寄せる。
「-------私、このまま、アリオスの専属歌手でいたい…。
 アリオスと離れるのは嫌なの・・・」
 泣きそうな表情でアンジェリークは訴えてくる。
 アリオスにとっては何よりも嬉しい告白だが、これから歌手としての彼女を考えると、少し躊躇うところもある。
「-------アンジェ、おまえはそれでいいのかよ?」
 アンジェリークはしっかりと頷き、涙で潤んだ大きな瞳でアリオスを見つめた。
「後悔するわけないわ。私はそれでぜんぜん構わないの…。
 むしろそうしたい…」
「スーパースターになれるかもしれねえんだぞ?」
「そんなことはどうでもいいの。
 なれなくても構わない…!!!
 あなたのそばにさえいれれば、それで満足なの!!!」
「アンジェ…」
「ダメよね・・・、やっぱり・・・」
 アンジェリークの声が震え、堪える涙をごまかそうと俯く。 
「あっ…!」
 答えのように、アリオスはぎゅっとアンジェリークを抱きしめていた。
「おまえを俺の専属にする。
 これからはずっと一緒だ…。
 おまえは俺の歌しか歌わせねえし、私生活でもこれからはずっと・・・」
「アリオス…っ!!!!」
 彼はそのままアンジェリークを抱き上げ、自分の寝室へと連れて行く。
「絶対に離さない…」
「離れないわ、私も・・・」
 二人は寝室で甘やかな2人だけの誓いを立てるのだった-----------

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 アンジェリークのデビュー曲はたちまちチャートを駆け上がり、この年最大の大ヒットとなり、数々の記録を塗り替えていった
 その後もアリオスとのコラボレーションで数々のヒット曲を作り続けている。
 文字通りの”SUPERSTAR”になったアンジェリークである。
 そして--------

 今日もライブは盛況に終わった。
 作曲家アリオスと歌手アンジェリークのコラボレーション。
 ライブも年に5回しか行わないためプラチナチケットである。
 アンジェリークがアリオスとこっそり結婚し、家庭を優先しているためにライブは極端に少ないのだ。
 アンジェリークとアリオスはアンコールを終え、ゆっくりと楽屋で休憩をしていた。
 アンジェリークは楽しそうにアリオスの膝の上に乗っている。
「ここが一番私が安心する場所かしら?」
「だろ?」
 2人は抱き合って甘いキスを交し合う。
「あのSUPERSTARがこんなことしてるって知ったらヤローは俺を殴りたくなるだろうな?」
「いいの!
 私はあなたが全て。あなたが私の”SUPERSTAR”だもの…」
 アリオスは優しく、包み込むような微笑を浮かべると、飛び切り極上のキスを彼女に与える--------

 昔、おまえの声を聴いたときから、俺のSUPERSTARはおまえだけなんだぜ?
 アンジェリーク--------- 

 THE END

コメント

ようやく完結することが出来ました。
お膝。
 猫もアンジェもその場所は好きらしい(笑)

マエ モドル