Superstar


 答えなんか決まってるけど・・・。

 アンジェリークは、ゆっくりと歩きながら、アリオスの自宅に向かっていた。
 かつて通いなれた道。
 レッスン中も彼女が稼いでいるアルバイト代を保証してくれるのも魅力であるのも確か。
 だが、それよりも大きなものは、アリオスが奏でる音で歌が歌えることだった。

 あの音だから、私は歌が歌えるのかもしれない・・・。

 決意を秘めて、アンジェリークはインターフォンを押した。
「はい?」
「アンジェリーク・コレットです」
「入ってくれ」
 アリオスの声と同時に門が開き、アンジェリークは恐縮しながら中に入る。
 やはり外から見たのとは違い、優雅で美しい庭のあるとても雰囲気のよい場所だった。

 やっぱり凄いお屋敷なんだ・・・。

 アンジェリークは、きょろきょろと周りを見回しながら、玄関先へと歩いていくと、既にアリオスが待っていてくれた。
「待ってたぜ」
 黒いTシャツにジーンズのスタイルに、アンジェリークは淡いときめきを覚える。
「よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げると、アリオスが僅かに微笑んでくれているのが判った。
 レッスン室に通され、その広さにアンジェリークは目を丸くする。
「防音スタジオだが、窓を開ければもちろん外に音は漏れる。外の風のイメージでピアノを弾いていた時に、おまえの声を偶然にも聴いた」
 アリオスはピアノの前に座ると、あの時に奏でたメロディーを弾き始めた。
 アンジェリークは無意識にそのピアノの音色に合わせ、歌を歌い始める。

 アリオスさんのピアノは何て歌いやすいの・・・。

 声が自由に響くような気がする。
 アンジェリークは、本当に空を飛んでいるかのように歌を歌った。
「オッケ。返事は?」
 音が止んだ瞬間、アリオスは感情なく言う。
「よろしくお願いします」
 素直にアンジェリークは頭を下げ、アリオスもシンプルに返事をするだけ。
「ああ」
 ふたりは見つめ合うと、お互いの手を握り合う。
 ふたつの想いが今重なった瞬間だった-------

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 レッスンの日々は厳しい。
 だが充実はしている。
 ピアノの前のアリオスはとても厳しいが、それ以外はとても楽しく接してくれた。
「今日はここまでだな?」
「有り難うございました」
 アンジェリークはほっとしたように溜め息を吐く。
「アンジェリーク、デビュー曲が出来たぜ」
 突然差し出された楽譜に、アンジェリークは大きな瞳をさらに丸くする。
 とても現実だとは思えない。
 喜びに身体が震えてしまい、彼女は涙で濡れた眼差しをアリオスに向けた。
「私・・・、まだまだなのに・・・」
「おまえならやれる」
 翡翠と黄金の異色の眼差しが真摯にアンジェリークを捉える。
 アリオスの眼差しはとても不思議で、力不足なのにもかかわらずそう思わせてくれるのが不思議だ。
「…頑張ります!!!」
 強く、決意を秘めてアンジェリークは誓いの言葉を言うと、アリオスを情熱的な瞳で捉える。
「それでこそおまえだぜ?」
 アリオスは笑うと、再びピアノの前に腰を下ろした。
「ちょっと弾いてみるから、イメージを掴んでくれ」
「はい」
 アンジェリークは一回深い呼吸をする。
 そうすれば綺麗な透明な心で彼のピアノを聞けると思ったから。
 アリオスはそんなアンジェリークの純粋な心が嬉しくて優しく微笑むと、柔らかに鍵盤に指を滑らせた。
「あ…」
 音色の繊細さに、アンジェリークは思わず声を上げる。
 今まで聴いたことのないような美しくて繊細なメロディ。
 優しい響きは、明らかに愛が感じられる。

 何て綺麗な音なんだろう…。
 心を貫くような…

 アンジェリークのイマジネーションは、美しい森の風景を心に映し出していた。
 純粋。
 そんな言葉が似つかわしいメロディに、アンジェリークはいつのまにか涙を流して聴いていた------
 流れるように繊細で温かな音が部屋を包み込む。
 最後のいちフレーズをアリオスが引き終えたとき、アンジェリークはもうどうしようもないほどに、アリオスに溺れている自分を感じた。
 彼が好きで堪らない。
 自分の切ない思いが、涙となって零れ落ちた。

 どうしようもなく、アリオスさんが好き…。
 止められないもの、もう…。

「アンジェリーク」
 アリオスはピアノから立ち上がると、アンジェリークの柔らかな頬に触れる。
 温かく、少し涙に濡れている頬。
「アリオスさん…。
 こんな素敵な曲。私なんかでいいの?」
 感極まった声で囁かれれば、 アリオスは柔らかな微笑を浮かべる。
 彼女は知らないだろう。
 アリオスを笑顔でいさせることが出来るのは、彼女だけだと言うことを------
「この曲は映画の挿入歌で使われる。
 主人公が過去を思い出すときに…」
 いきなり映画だと聞いて、アンジェリークはさらに驚きを隠し切れず、身体を僅かに震わせる。
「いきなりそんな大役…」
「感受性の豊かなおまえなら大丈夫だ。
 映画のハイライトシーンだが、おまえになら出来る…」
「アリオスさん・・・」
 嬉しかった。
 アンジェリークは頬を繊細な指先で撫でられた瞬間、アンジェリークは、胸の奥底が甘く熱くなるのを感じる。
 切なくて、どこか甘い。
「-------これは映画の挿入かとして依頼された仕事だが…、俺はおまえのために書いた…」
 アリオスは、アンジェリークの顎を持ち上げる。
 そのまま唇を重ね、甘い感動を分かち合った。
コメント

昨日TVでTHE CARPENTERS
がやってて思わず書いちまった・・・。
後二回書いていい?

マエ モドル ツギ