Superstar


 誰もがアンジェリークの声を聞かされては、もう歌えなかった。
 低く語りかけるような優しく心に残る声は、誰もの心を深く揺さぶる。
 アリオスのピアノも、アンジェリークの声を包み込むかのように弾かれ、正にこのピアノのためにある声であり、声のためにあるピアノだった。
 これ以上ないというばかりに、ふたりの奏でる音は完全に合わさっていた。
 アリオスはかつてこんなに穏やかで優しい気持ちになりながらピアノを弾いたことはなかった。
 アンジェリークもアリオスがアレンジをしながらピアノを弾いているにも関わらず、それに上手く自分の声を逢わせていた。
 音が止んだ。
 次の瞬間には、どの心もふたりのコンビネーションの素晴らしさに、驚いていた。

 見つけた、俺だけの声だ・・・。

 うねりを上げる拍手が、ホールの中に大きく響き渡り始める。
 アリオスは突然ピアノから立ち上がると、ステージから飛び下りる。
 誰もが拍手をしながら、彼の行動に釘付けになってしまっていた。
 ピアノを弾いている間、誰が歌っているか彼はちゃんと知っていたのだ。
 一直線にアンジェリークに向かって歩き、彼は彼女の前に来て立ち止まった。
 迫力があると思った。
 銀の髪と整った横顔・・・。
 そして何よりも黄金と翡翠が対なす瞳が印象的だ。
「さっき歌ったのはあんただな?」
 声までも、アリオスは完璧な甘い声で、アンジェリークを魅了して止まない。
「はい・・・」
 震える声で返事をする彼女からは、先程の完璧な歌唱は想像出来なかった。
「来い」
 簡潔に彼は告げると、アンジェリークの手を強引にとり、ステージへと引っ張っていってしまった。
 誰もが見守ることしか出来ないまま、アリオスはアンジェリークをピアノの横に立たせ、自分もピアノの前に座る。
「歌え」
 シンプルに言うと、アリオスはしっかりとピアノを弾き始めた。
 再び先程の曲。
 THE END OF THE WORLD

 これなら歌えるだろうということである。
 立っているだけでも、足を震わせていた彼女が、ピアノが響いた瞬間、落ち着いていた。

 何でだろう、みんなの前で歌うのは凄く恥ずかしいのに、このピアノだと凄く伸び伸びと歌える・・・。

 

Why dose the sun go on shining ?

Why dose the sea rush to shore ?

Don't they know it's the end of the world

Cause you don't love me anymore ?

Why do the birds go on singing ?

Why do the stars glow above ?

Don't they know it's the end of the world

It ended when I lost your love

I wake up in the morning and I wonder

Why everything the same as it was

I can't understand, no I can't understand

How life goes on the way it does!

Why does my heart go on beating?

Why do these go of mine cry?

Don't they know it's the end of the world

It ended when you said good-bye


 完璧に音を取る歌声に、アリオスは満足げに笑う。

 最高の声とはこのことだな?

  再び歌い終えると、会場から拍手の嵐が巻き起こった。
 飛び入りで歌ったにも関わらず、この完璧なコンビネーションに、誰もが感心せずにはいられない。

 私ったら調子に乗って歌っちゃって・・・。

 現実に直面し、アンジェリークは真っ赤になって身体を小さくさせる。
 余韻に少し頭がぼんやりとしてしまう。
 アリオスが礼をすると代表の生徒が花束を渡した。
 再び礼をした後、拍手の中幕が降りていく。
 はっと現実に気がついて、アンジェリークはあたりをを見渡した。
「降りなきゃ!!」
 慌ててステージから降りようとしたアンジェリークを、アリオスは咄嗟に腰を抱いて制する。
「あっ」
 その力強さに、アンジェリークは頭がくらくらしてしまう。
「危ねえからじっとしてろ」
「はい・・・」
 大人しく身体を震わせながら、彼女は彼の腕の中でじっとした。
 ようやく幕が降り、アリオスはアンジェリークから腰を放したが、その代わりに彼女の手を取る。
「あんたに話がある。楽屋に来てくれ」
 有無言わせない瞳の光に、アンジェリークは頷くことしか出来ない。

 彼に連れられ、楽屋に入った。
「エルンスト、オレンジジュースでも淹れてやってくれ」
「判りました」
「あんたはそのソファにでも座っておいてくれ」
 促されるまま頷いて、アンジェリークは座ったものの、何だか落ち着かない。
「クラスメイトと先生に話さなくちゃ」
「俺が言っておいてやる」
「はい…」
 こんなにきっぱり言われて、ここから逃げることはしない。
「最高の声をしているな?」
 満足げにアリオスは口角を上げると、アンジェリークを優しく捉えた。
「あっ、有り難うございます」
 なんだか恥かしくて、アンジェリークはくすぐったくて俯いてしまう。
「俺はアリオスだ。一応音楽家のようなもんをやってる。
あんた名まえは?」
「アンジェリーク」
 その名前を聞くなり、アリオスは感慨深げに口角を上げた。
「声にぴったりの名まえだな…」
 ポツリと彼が呟くのを、アンジェリークには聴くことが出来ない。

 なんて言ったの?

「おまえの声を探してた」
「私の声を?」
 アンジェリークははっとしてアリオスをじっと見上げた。
「あなたひょっとして、エンジェルストリートにある大きなお屋敷のスタンウェイの…」
 アリオスはただ微笑むと、アンジェリークにそっと頷く。
「あれは3年ぐらい前だったよな? 
 あの時から完璧な声だと思ってた。
 今回も、あんたの特徴だけでどこに通っているかを調べさせて、この会に、一か八かで出演した」
「えっ!?」
 彼がずっと探してくれていたとは。
 それを知るだけで、アンジェリークの想いは熱く甘いものになる。
「-------私も、ずっとあなたの音を聞きたいと思ってた」
 震える声で言うと、アリオスの異色の眼差しはさらに優しい色になり、彼女を魅了してやまない。
「サンキュ。
 だったら俺の言いたいことはわかるな?」
「え?」
 アリオスはアンジェリークの喉を指差すと、魅惑的な声で呟いた。
「------おまえの声を俺に預けてくれねえか?」

 私の声を!!!

 全身に震えを感じてしまう。
 嵐のような感情がアンジェリークの体中を駆け巡った。
 嬉しさと不安。
 それらの感情が渦を巻いて襲い掛かってきた。
 アンジェリークは大きな瞳をただ丸くして、アリオスを見ているが、その眼差しは潤んでいて美しい。
「俺が作った曲を歌ってくれねえか?」
「アリオスさんの曲を…」

「返事は今すぐじゃなくてかまわねえが、どうだ? 二日待ってやるよ」
 思ってもいない嬉しい言葉。
 だがアンジェリークは同時に不安に陥ってしまう。

 私が、アリオスさんの曲をうたうの…?
 出来るのかしら、そんなこと…

 お互いの人生を変える、衝撃の出会い。
 二人はただ真摯に見詰め合っていた------  
     
コメント

昨日TVでTHE CARPENTERS
がやってて思わず書いちまった・・・。
絶対直ぐに終わらせます!
うん!!!

マエ モドル ツギ