How To Steal A Million

Steal3

 あの唇の感触が忘れられない・・・。
 あの華奢でラインがしっかりとした身体も・・・・。

 あの事件があってからというもの、敵であるはずの”天使の涙”のことが忘れられなくなってしまった。

 アンジェリークと同じぐらい気になるなんて、どうかしている・・・。

「どうしました? アリオス警視」
 余りにも悩ましげなアリオスに、エルンストはいつものように感情なく訊く。
「なんでもねえよ。”えんじぇる・はうす”に行ってくるぜ。あ、その手配書整理しといてくれ」
 ぐちゃぐちゃになった手配書をエルンストに押しつけると、アリオスさひらひらと手を振りながら、オフィスを出ていった。
 目の前にあるアリオスがぐちゃぐちゃにしてしまった書類の山に、エルンストは溜め息を吐く
「まったく・・・」
 彼はがくりとうなだれ、書類の整理を始めた。


 あの笑顔に逢えれば、このもやもやとした思いは振り切れる。
 アリオスはそう考えて、”えんじぇる・はうす”に向かった。
「いらっしゃいませ」
 そう言うなり、アンジェリークは、いきなりアリオスに強く手を握られた。
「デートしようぜ?」
「あっ!」
 アリオスの真摯さと強引さの入り交じったまなざしにアンジェリークは気持ちを流されてしまう。
「レイチェル?」
 お伺いを立てるかのように上目遣いで見つめてくるアンジェリークに、レイチェルは仕方がないとばかりに溜め息を吐いた。
「いいわよ、ここはワタシに任せて?」
 途端に天使に笑みが広がる。
「有り難う、レイチェル」
「サンキュ」
 思いが切羽詰まった二人は、手を握りあって外へと出た。

 まあ、アンジェもあの夜からおかしかったもんね〜。
 お互いに癒しで丁度いいかも。

 アリオスはもう離さないとばかりの勢いで、アンジェリークの手を握り締めている。
「おまえといると落ち着くし、楽しい」
「私もだわ」
 お互いに仕事をそっちのけで、甘い午後を楽しんだ。
 彼女の柔らかな手を握り締める度に、愛しさとあの夜の出来事がせめぎあいになってしまう
 ついつい見てしまうのは、アンジェリークの薔薇色の唇。
 ぽってりと可愛らしく、アリオスを誘っている。

 アンジェにキスをすれば、あの忌ま忌ましい思いはどこかに消えてなくなるはずだ・・・。

「アンジェ、行くぜ」
「うん」
 木陰に良い感じのベンチがあり、そこに連れていかれる。
 死角になっているので、誰の気兼ねを受けるはずもない。
「アンジェ」
 ベンチに腰をかけるなり、柔らかな頬を撫でられた。
 その指先は魔法。
 アンジェリークは駄目だと理性では判っているものの、彼に身体を委ねてしまう。
 もうアリオスの唇がしっとりとしているのは判っている。
 彼女は誘惑に勝てなくて、そのまま瞳をゆっくりと閉じた。
 二人の唇が甘く重なる。
 次の瞬間には、めくるめく甘い時間が待っていた。
 しっとりとシルクのようなアンジェリークの唇に、アリオスは夢中になる。
 舌を絡ませ、唇を吸い合い愛を語り合う。

 この唇の感触は”天使の涙”と同じだ・・・!
 アリオスはアンジェリークの唇を離しながら、呆然とする。

 まさか・・・。いや、そんなはずはねえ・・・!

 アリオスは自分の思いを必死になって打ち消すと、アンジェリークの華奢な身体を抱きすくめた。
「あっ・・・」
「アンジェ・・・」
 彼は彼女を抱きすくめることによって、平穏を得ようとしていた。
 だが。その完璧にアリオスの好みの終結であるアンジェリークの甘やかな肢体に、更に疑念を膨らませる。
 完璧であるがゆえに、滅多といないせいか、アリオスはそう考えずにはいられなかった。

 抱いてその服の下を見れば、更に判るのか・・・?

「アンジェ・・・」
 切なげな声と瞳でアリオスに捕らえられ、彼女は潤んだ瞳を彼に向けた。
「アリオス」
 二人は再び唇を重ね、抱き合う。
 爽やかな風が、優しく包んでくれる。

 ひょってしてアリオス、気がついている・・・?

 あの夜と同じ彼の腕の強さが、今度はアンジェリークに疑念を抱かせ始めた。
 胸が切なくなり、彼女は泣きたくなる。


 あの時ああするしかなかった・・・。
 あなたがあんなに近くにいたから・・・、私はうろたえてしまった・・・

 昼下がりの風が甘く吹いていた-------



「次のターゲットは、エレミア美術館の”天使のまどろみ”よ」
「うん・・・」
 いつもよりも元気なく答えるアンジェリークにレイチェルは眉根を寄せる。
「どうしたの、元気なくて?」
「うん・・・、アリオスが気付いているかも・・・」
「えっ・・・!?」
 人一倍勘に鋭いアンジェリークがぽつりと言い、レイチェルが息を呑んだ。
 レイチェルの表情は厳しいもの隣、アンジェリークを見据える。
「アナタが止めたいなら、止めていいんだよ?」
 厳しい表情をしているが、親友はいつもアンジェリークのことを一番に考えてくれている。
 その気持ちが彼女には嬉しかった。
 アンジェリークは一瞬瞳を閉じ、苦渋に満ちた表情をするが、直ぐに瞳を開けた。
「------やるわ!」
 たった一言、アンジェリークは力強く言う。
 それにはレイチェルは何も言わなかった。
 ただ、
「判ったわ…」
 それだけを呟くと、アンジェリークに手を差し出す。
「頑張ろうね!」
「うん!!」
 2人はしっかりと握手しあい、信頼の笑みを浮かべあった。



 ばたばたと足跡が響き、ICPOのドアを窃盗課の刑事が駆け上がってくる。
 課kれらICPOの協力が喉から出るほど欲しいために、いち早く、知らせにやってきた。
「アリオス警視、今度がエレミア美術館に予告が入りました!
 ”天使のまどろみ”だそうです!」
 連絡を受け、アリオスの表情が硬くなる。

 次のときに俺は絶対に確かめる…!!

 アリオスは強く誓う。
、だが、アンジェリークが”天使の涙”と同一人物であることを祈っているのか、そうでないことを祈っているのか、内心どちらなのか判らないでいた。

コメント

100001番のキリ番を踏まれたDAI様のリクエストです。
アリオスはICPOの刑事。
今回は繋ぎの章。
次でラスト!!!

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