翌日から、アンジェリークは編み物に没頭をし始めた。 編み目を飛ばさないように、きちんと編んでいくのはかなり至難の業だが、彼女は一生懸命編んでいく。 レイチェルや母親といった『先生』がいたので、初めてでも何とかこなせそうだった。 「レイチェル、これどうやって編むの?」 「これはこうやってするのよ〜。でもさあ、紫のラメラメの毛糸で、しかも腹巻だなんて、アナタ…」 『趣味が悪い』という言葉を何とか飲み込もうとするレイチェルである。 「…だって、これが一番似合うもん・・」 反論するように、彼女は言うが、どこかその声は拗ねている。 「-----でもさ、とうとうアンジェにも好きな男性が出来たんだもんねぇ。これは頑張らなくっちゃね」 栗色の髪をくしゃりと撫でられて、アンジェリークは頬を赤らめる。 こういった純粋なところが、レイチェルは本当に大好きだった。 「アナタはアナタのままでいれば、きっとうまくいくよ? ヘンな小細工なんかせずにさ? それが持ち味なんだもん」 「ありがと、レイチェル」 親友に励まされると元気が出てくる。 一生懸命、アンジェリークは日々腹巻製作に精を出していた。 少しずつ腹巻きの形が見えてくるのが、凄く嬉しかった。 「もうすぐウ゛ァレンタインだから、急ピッチで進めないとね!」 アンジェリークは、ひとめ編むごとにアリオスへの思いを深めながら、編み進めていった。 もちろんその間にも、お弁当を作ることは怠らない。 重労働の彼の為に、スタミナのつくバランスの取れた弁当を作る。 メニューを考えるのも、いつも非常に楽しかった。 今日もいつものようにアリオスのところに向う。 彼の姿をみるだけでもとても楽しい。 「いつも、サンキュ。明日、病院の後、時間があるか? 時間があったら弁当のお礼に夕飯でも奢るぜ?」 アルミのお弁当箱を手渡された時に、アリオスからは飛び上がるほど嬉しい提案がされた。 「ホントにいいんですか!!」 「ああ。いつものお礼だぜ?」 アリオスがしっかりと目の前で頷いてくれたからこそ、アンジェリークはリアルな出来ごととして受け入れられる。 そうじゃなければ夢だと思っていただろう。 「凄く嬉しいです、本当に!」 「明日は一端着替えてから来いよ。ラフなスタイルでな」 「はいっ!!」 嬉しすぎて、家に帰るのにもスキップが出てしまった。 それもとても軽快なやつである。 足を怪我をしているのにも関わらず、軽快にステップを踏むアンジェリークが、アリオスには可愛くてしょうがない。 その上、考えているのが非常に判りやすいのも好ましかった。 明日、楽しみにしてるぜ? 彼は、この、”すっとこどっこい”という表現がぴったりのアンジェリークが、もはや可愛くて仕方なくなっていた。 翌日、本当にこれほど学校の授業がもどかしいと思ったことはない。 拷問のように長い。授業が終わった後、急いでアンジェリークは家に戻り、着替えた。 お店か・・・。 アリオスさんだったら、やっぱり居酒屋か立ち飲み屋さんかなあ。 アリオスさんはコップ酒にあてをつまんで、私は、お水にあてを食べるの・・・。 ふたりで同じお皿をつつき合うの。 お皿の中はおふくろの味。 飲み屋の後は、やっぱり屋台のラーメンで、アリオスさんとふたりでくっついて食べるの! アンジェリークは、ふつうだと誰もが嫌がるコースを、これが最高とばかりにうっとりと夢見ていた。 「さてと、行かなくっちゃ!」 鼻歌混じりに歩きながら、工事現場に向かう。 アリオスは事務所で待っていてくれた。 その姿がまた、胸を焦がすほど素敵でしょうがない。 ウ゛ィンテージジーンズで出来た、ライダースジャケットとパンツ。 アンジェリークは真っ赤になってそれを見つめずにはいられなかった。 「先に病院に行くぜ」 「あ、はい・・・」 彼女はあまりに顔が熱くなるので、俯くことしか出来ない。 それがまた純粋で可愛い。 「ほら、車に乗るぜ」 車に乗せられてからも、アンジェリークは真っ赤になったままだった。 妙にアリオスを意識してしまっている。 私服の彼は悶絶かっこいいと言ってもいい。 ちらちらと何度も彼を見てしまっていた。 視線がかち合う度に、含み笑いをするアリオスに、アンジェリークは更に俯いてしまう。 「おまえさんの作った弁当、かなり美味いぜ? いつもサンキュな」 「はい・・・」 話すだけでこんなに苦しいのはなぜだろう。 アンジェリークは胸の痛みの訳が判らず、大きく深呼吸をした。 病院にいって待合室にいる間、アリオスに多くの視線が集まるのを感じる。 それは女性ばかりで、彼女はやきもきとした。 診察室にも、アリオスは着いてきてくれる。 アンジェリークはそれも凄く嬉しかった。 診察が終われば、いよいよ夕食場所に向かう。 「どこに行くんですか?」 「美味い串カツ屋に連れていってやるよ」 「ホント!」 アンジェリークの声は、とても明るいものとなった。 串カツか〜! そんなステキなところに連れていってくれるんだ〜!!! ちゃんと色々と教えてくれるんだろうな〜!! ソース二度付け禁止とかね〜!! きゃべつは食べ放題とか! またまたティピカルなイメージを持つアンジェリークである。 「着いたぜ?」 「え?」 連れてきてもらった店は、とても趣のある品のある店だった。 店のなかに入り、その想像が音を立てて崩れ落ちるのが判る。 雰囲気的に粋な和風のイメージで彩られていた。 「ここのおまかせコースは最高に美味いぜ?おまえさんもそれでかまわねえか?」 「有り難うございます!」 串カツにはソースだと決め付けていたアンジェリークには、目の前にソースの他に塩やしょうゆ、マヨネーズは驚きだった。 飲み物を頼んだ後、早速揚げたての串カツが出てくる。 「これは子持ち昆布ですげ〜美味いんだぜ?」 「はい、いっただきます〜」 アリオスにいわれたとおり、口の中に串カツを入れる。 「あつっ!!」 「揚げたてだからな、ゆっくりと食え?」 「あい、はふはふ!! おいし〜!!!」 「ったく、忙しいやつだ」 アリオスはリラックスした微笑を浮かべながら、アンジェリークが食べる様子を見つめる。 それだけでも幸せに思えるのは、やはりこの少女が”天使”だからなのではないかと、思わずにはいられなかった。 次々に運ばれてくる串カツは揚げたてで、本当に美味しくて堪らない。 どんどん食が進んでしまう。 野菜やかにの爪の串カツが、アンジェリークには特にお気に入りだった。 カツが終わったあとは、さっぱりとしたジャコ飯と吸い物、締めはゆずのシャーベットだ。 「凄く美味しかった〜」 「そいつはよかった」 お腹をパンパンにしながら、店から出るときにはアンジェリークは本当に満足顔だった。 「また連れてきてやるからな」 「はいっ!!」 また連れてきてもらえたら・・・。 これ以上に嬉しいことはないわ…。 それが本当になればと、アンジェリークは望まずにいられなかった。 その日のお弁当は、この間連れて行ってもらった串カツ屋の串カツを少しアレンジしたものを入れた。 われながらよく出来ていると、アンジェリークはしこたま上機嫌だ。 「アリオスさん、今日も喜んでくれるかな・・・」 いつもより少し早くついたせいか、彼女はそっと事務所のあるプレハヴに向った。 「おはよう…」 少しドアを開けたところではっとする。 アリオス…さん・・・!!!!! ドアの向おう似は、泣いている女性を支えているアリオスの姿がある。 まさか・・・ 頭の中が白くなり、彼女はもはや何も考えられなくなっている。 手に持っていた弁当の包みを無意識に落とすと、足が痛いのにも拘らず、そのまま走り出した。 大きな瞳にはたくさんの涙をためて------ TO BE CONTINUDE… |
コメント そのタイトルどおり、ヴァレンタイン創作をお届けします。 またまたぼけボケアンジェと、頭の切れる男アリオスのお話です。 ヴァレンタインまで、ゆっくりと完結させたいと思っていますので宜しくお願いします。 アンジェ試練編です。 もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。 串カツ-----それじゃあ新●界のジャンジャン街の串カツ屋。 幼馴染のご両親が店やっていました。 食べに行ったこともあります。 もちろんソース二度付け禁止、 四角く切って四角いアルミ箱に入っているキャベツ食べ放題です(笑) |