Sweet Valentine


 アンジェリークは、早速、お弁当箱を買いに、近くのスーパーに勇んで向かう。

 やっぱり、アルミの大きなお弁当がポイント高いわよね〜。
 アリオスさんにいっぱいいっぱい食べてもらいたいものね〜。

 またまたティピカルな土方のイメージをアリオスに向けるアンジェリークであるが、彼女にとっては、それをひっくるめてもアリオスのことが大好きだった。
 理想的な大きさのアルミのお弁当箱が見つかったので、男性らしいお弁当包みも2つ買い揃える。
「お箸はやっぱり黒塗りの渋いのよね〜」
 これもまた、オヤジ仕様の黒塗りの箸と箸箱を買い求めて、彼女はすっかり満足した。
 器が決まれば、今度は、中身である。
「出し巻きは外せないのよね」
 これはアンジェリークも大好物なので、自分も食べるために、好きなおかずはやはり外せないのだ。
「・・・だけど、やっぱり、栄養のバランスのある、しかもスタミナのつくお弁当じゃないとね〜。だって、アリオスさんはひとりの躰じゃないんだし…」
 何だか自分にだけ納得するようにアンジェリークはブツブツと言いながら、スーぱの食材を吟味した。
 結局。
 おかずは、出し巻き卵、鶏の生姜醤油焼き、中華味野菜炒め、リンゴ、つけもの、に決まり、アンジェリークは満足だ。
「明日は早く起きて、アリオスさんのために一生懸命頑張ってお料理しなくっちゃね〜」
 彼女は、今から彼の”美味しい顔”を思い浮かべては、にんまりとするのだった。

 夕食のあとは、明日は手早く料理を作るために、下ごしらえだ。
 母親に肝心なところは確認をしながら、アンジェリークは下ごしらえをするが、もちろん、力がはいるのも当然だ。

 あの仕出しのお弁当よりも、もっと、もっと、私のお弁当が美味しいってことを、教えてあげなくっちゃ!!
 もちろん舌でね?

 アリオスの役に少しでも立ちたい------
 恋する女の子は、いつも一生懸命。
 アンジェリークは、アリオスの美味しい顔を創造しながら、下ごしらえを終えた。

 やはり楽しい事がある日は、早く起きられるもので、いつもより一時間も早く目覚ましをかけていたのにも拘らず、アンジェリークはその10分前にはすっきりと目が覚めていた。
「さてと、頑張らなくっちゃ!!」
 寒くていつも億劫で堪らない身支度も素早く済ませることが出来る。
 手早く済ませてエプロンをすると、いつもよりもパリッとした気分になった。
 朝食準備に忙しい母親に少し場所を提供してもらい、彼女はお弁当つくりに勤しむ。
 判らなければ、大先輩の母親がいるから安心だ。
「お母さん、出し巻きってだし汁これぐらいでよかった?」
「そうね、それぐらいで大丈夫よ」
「ありがと」
 大好きな男性のために、一生懸命料理をする娘が凄くまぶしく感じる。
 彼女の母は、アリオスなら安心だとそんなことを妙に思っていた。
 お弁当は中々の出来だった。
 見た目も綺麗につめることが出来、さらには味も味見を死したところではマズマズだ。
 アリオスのお弁当箱にご飯をたっぷり入れた後、中央に梅干を定番に入れながらも、アンジェリークは物足りなく感じる。
 近くには惣菜のよしの堂のさくらでんぷが置いてあったので、思わずそれを手に取りそうになった。

 ハート…。定番よね〜!!!
 したいけど、アリオスさんどう思うかなあ・・・。
 きゃ〜恥ずかしい!!

「あ〜、アンジェ恥ずかしい!!!」
 さくらでんぷの前でくねくねと身悶えるアンジェリークに、母親は苦笑する。
 結局、「はーと」は断念され、熱を冷ませた後、ふたは閉じられた。
「今のところはチンがあるからいいけれど、それがなくなったら、ジャーつきの物を買わなくっちゃねえ…」
 アンジェリークは将来のことまでしっかりと考え、アリオスのお弁当を買った布ナプキンで包む。
 そこには彼のために即席の味噌汁も忘れていない拘りようだった。
 何度も忘れ物をないことを確認してから、彼女は学校に-----アリオスの待つ工事現場に向かった。


 朝からアリオスに逢えるのが凄く嬉しくて、うきうきと満面の笑みを浮かべながら、アンジェリークは工事現場に向かう。
 現場に着き、プレハブ事務所を訪ねると、既にアリオスは作業着姿で図面を広げて仕事をしていた。
 仕事をする横顔は、やはりとても素敵でアンジェリークはうっとりと見ほれてしまう。

 素敵だな…、やっぱり…。
 真剣な眼差しは凄くかっこいいものなんだ・・・。

 彼女は心が甘く疼き、どんどんと熱が上がっているのを感じる。
 ここにいるだけで、アリオスを見つめ、彼と同じ空気を吸っているということだけで、アンジェリークは至福を思った。
「あ、来てたのか?」
 真剣に仕事をしていたアリオスが、その手を止めて、ゆっくりと流れるように彼女に振り向いてくれる。
 それが余りにも素敵で、彼女はまた惚れ直してしまった。
「お、おはようございます! お弁当を持ってきました!!!」
 アンジェリークは、彼に見惚れていた事が恥ずかしくて、それを隠すかのように声を大きく元気いっぱいに挨拶をしたが、もちろんそんなことはアリオスにはお見通しで、彼は甘く笑う。
「サンキュ」
 彼が本当に嬉しそうに受け取ってくれたので、彼女は天にも昇る心地となる。
 大きなお弁当。
 そこにはアンジェリークの愛らしい思いがたくさん詰まっている。
 それを受け取るだけで、アリオスは心が十分に温まるのを感じた。
「昼に食うのを楽しみにしてるからな?」
「…お口に逢ったら嬉しいです」
 はにかみと上目遣いのアンジェリークの表情は、アリオスから見ると、本当に子犬のように見える。

 昔、うちにいた子犬に似てるんだよな・・・。
 柴犬のエリスに…。

「今から学校か?」
「はい!」
 大きく頷き、アンジェリークはアリオスを見る。
「今日も勉強を頑張って来いよ?」
「はいっ!!」
 アリオスにはどんな言葉を貰っても嬉しくてしょうがなくて、彼女の幸福度はゲージから飛び出ている感じだった。
「じゃあ、遅刻しちゃうから行って来ます〜!!!」
「ちょっと待て」
 勢いよく言って仕事に行こうとした彼女を、彼は止めにかかる。
「はい?」
「そんな格好をしてたら風邪を引くぜ? ほら、これかけていけ?」
 そういってふわりとしたものが首に降りてくるのを感じた。
 同時に、胸を甘く切なくさせる香りが彼女の鼻腔を擽る。
「あ・・・」
 彼が欠けてくれたのは、グレーの質の良い温かなマフラーだった。
「これだったら、制服にもししょうねえだろ?」
「でもそれだったら、アリオスさんが風邪を引きます!!!」
 彼のマフラーを取ってしまったと、彼女は全く恐縮至極の表情をしている。
「今日の放課後、お弁当箱とマフラーは交換だ。俺もおまえも困らねえ」
「それだったら…」
 アンジェリークは白い頬を桃色に蒸気をさせて、愛らしくも頷いた。
 その表情はどこか艶っぽくて、アリオスですらどきりとする色香がある。
 彼女はしっかりとアリオスのマフラーを首に巻いて、ほわほわと温かな気持ちになった。
 どんな暖房器具にも負けない温かさがそこにはある。
「じゃあ行って来ます! 放課後に!!」
 アンジェリークは笑いながら手を振って、事務所を後にする。
「ああ。後でな?」
 ふたりとも、お互いに甘い微笑を浮かべながら、仕事に勉強に実力をしっかりと発揮できると感じた。
 冬の白い色は、いつしか温かな桃色に変化していた-------

 昼食がこんなに待ち遠しいとは思わなかったな…。

 今までだと、昼食の時間も仕事を平気でしていたアリオスが、今日はきちんとした時間で取る。
 包みを開けるのにも心がはやる。
 出てきたお弁当箱が、あまりにもらしすぎるものだったので、彼は苦笑した。

 やっぱりな。
 俺イコール土方だからな?
 まあ、似たようなもんだからいいけどな?

 電子レンジにかける前にふたを開けると、栄養満点の手作り弁当に、アリオスは思わず笑う。
「美味そうだな」
 彼はレンジにセットしている間に、マグカップについていたインスタントの味噌汁にお湯を注ぐ。
「味噌汁も出来たら手作りでって言ったら、図々しい過ぎるか。ジャー買うけどな、それだったら」
 テーブルの上に味噌汁を置き、電子レンジの前に陣取って、温まる様子を見た。
 温まると、それをテーブルに載せて、アリオスは待望の温かな食事を取ることになる。
 正直、この瞬間をとても楽しみにしていたのだ。
 箸を動かし、最初の一口を食べる。
「------うまい!!」
 ご飯もおかずも本当に美味しくて、アリオスは正直驚いた。
 彼に美味しいご飯を食べてもらいたいとアンジェリークは思い、実は、朝からガスの炎を使って、土鍋でご飯を炊いたのだ。
 そのご飯は本当に驚くほど美味しい。
「冷めても美味いんだろうな、どのおかずも」
 どれも心を込めて作ってあったので、そのスパイスも加わって美味しい。
 鶏も、野菜炒めも、気合のいれただし巻きも、どれもどれも本当に美味いと言えるものだった。

 弁当の入試があれば、間違いなく合格だぜ? アンジェリーク

 アリオスは心と躰をお弁当で温めてくれたアンジェリークが、愛しくて堪らなくなっていた-----

TO BE CONTINUDE…

コメント

そのタイトルどおり、ヴァレンタイン創作をお届けします。
またまたぼけボケアンジェと、頭の切れる男アリオスのお話です。
ヴァレンタインまで、ゆっくりと完結させたいと思っていますので宜しくお願いします。

『腹巻』のツギは『アルミのお弁当箱』(笑)
ステレオタイプな考えすぎます、アンジェ!!(笑)
アルミのお弁当箱といえば、私も幼稚園のときは絵の入ったそれを使ってました。
『ミツバチハッチ』と『金メダルへのターン』
以上二つのものを使っていました。
もちろん姉ちゃんのお下がりです(笑)
やっぱり6年も離れてると、アニメやマンガの流行が違う。
ほかの子は最新のものを持っていて、凄く羨ましかったな〜。
『ミツバチハッチ』は朝の再放送のアニメで知ってたんですが、『金メダルへのターン』は、
いったい何か判らなかった(笑)
後から知ったんですが、マンガで、ドラマ化されたやつだったんですね〜。
♪若さで〜、若さで〜、若さで泳ぐ〜(笑)(←知ってるやん)
すみません、再放送でですが、『アテンションプリーズ』(これはちょっと記憶が怪しい)とか『奥様は18歳』知ってます…。
奥様はといえば『奥様は魔女』が凄く好きだったな〜。
若人は知らんやろうな〜。
よしのさくら様は知ってると思います(笑)



マエ モドル ツギ