2階にある自分の部屋に何とか入った後も、アンジェリークの興奮は覚めやらなかった。 足が痛いのにも拘らず、暴れだしたい気分である。 アリオスさん〜!!! なんてカッコイイ人なんだろ〜!!!! 真剣なあの不思議な瞳・・・。 土方スタイルも、あの黄色いヘルメットも似合ってたなぁ…。 うっとりとしながら、アンジェリークはベッドの横のソファをぎゅっと思い切り抱きしめる。 その瞳の中の光は、既にハート型になっている。 あんなカッコイイ男性がこの世にいたなんて、知らなかったな・・・。 凄く素敵だもん…。 たとえばさ、アリオスさんと結婚して、毎日大きなお弁当を作ってあげるの! 子供を背中に背負ってアリオスさんをお見送り。「母ちゃん行って来るな!」っていう彼に手を振ってあげるの〜。 恋する乙女の想像力は激しく、アリオスは別に躰を動かして建物を作るのではなく、設計をするほうなのだが、すっかりアンジェリークのイメージは、ベーシックな”土方スタイル”になっている。 「素敵だわ!! 本当に最高に素敵よ!!!」 足をバンバンと動かしたその瞬間、劇痛がアンジェリークの足に刺さる。 「いた〜いっ!!!」 興奮の余り暴れたせいか、涙が出るほど足に痛みを感じた。 これぞ自業自得である。 「あたた…。失敗しちゃった…」 涙をほんの少しこらえて、アンジェリークはまたうっとりと恋する少女の表情に戻る。 「…明日、また現場にいるかなぁ…。何かお礼したいし…。だけれど、ケーキって感じじゃないのよね、アリオスさんは!」 アンジェリークはぶつぶつといいながら、色々と思いをめぐらせる。 「だって、やっぱり・・・ここでよいとこ見せないとね〜」 独り言ですら、乙女色に染まっていた。 やっぱり、お酒とかの見そうな感じがするのよね・・・。 それも日本酒をきゅっと、コップ酒というイメージ・・・。 長家は・・・きっと強そうだわよね、うん…!! すっかり、アリオスのイメージを固定し、色々と考えあぐねるアンジェリークである。 「だったら、やっぱり、するめかな〜。それも、直火であぶるやつ」 激しく間違ったイメージなのにも関わらず、恋する乙女はどんどん妄想を膨らませる。 「やっぱり、アリオスさんには良いとこ見せないといけないもんね〜!!!」 そういって、鼻まで真っ赤にさせて彼女は、誰もいないのに上目遣いになる。 「…だって、…だって、アリオスさんのお嫁さんになりたいもん…」 ぼそりと誰もいないところでつぶやいて、今度は耳まで真っ赤にした。 ほんとうに『茹でたこ』とはこのことである。 「きゃ〜っ!!! 言っちゃった!!! 言っちゃった!!!!!」 また恥ずかしさと、その甘い気分でアンジェリークはじたばたと暴れる。 「あ〜!!! 痛い〜!!!!!!」 次の瞬間、本日最強の絶叫が家に鳴り響いたのは、言うまでもなかった------ 翌日は、学校が終わるのが待ち遠しくて堪らなかった。 足の惨状を見て、親友のレイチェルはとても心配をしてくれたが、アンジェリークは逆になんでもないとにへらと笑って、気味悪がられた。 ようやく授業が終わり、長い長い学校の時間が終わりを告げる。 本当は、走って飛び出したかったのは山々だったが、この足の状態ではそうは行かず、ゆっくりと行くしかなかった。 学校が終わった後からが忙しい。 先ずは、近くの市場の塩干屋に行って、するめを吟味しなければならない。 やはり本格的なものを吟味したいので、スーパーでは少し役不足なのだ。 おこづかいも奮発しなくちゃね! するめにおこづかいを賭ける女-------アンジェリーク・コレット。 それが激しく間違っているかを、全く気がつかない鈍感な恋する乙女だ。 「すみません! 立派なするめをください!!」 いきなり真剣な顔をした、名門校の女子高生が姿を現したものだから、塩干屋の主人も驚いている様子だ。 しかもその表情は、思い詰めたようにいたって真面目だ。 「立派なするめっていやあ、この辺りだな」 戸惑いつつも、女子高生に愛想良く対応する親父だった。 するめを何種類か出してもらい、アンジェリークは真剣にそれを吟味する。 その目つきは、玄人の仲買人のようにみえなくもない。 要は魚河岸の親父さんだ。 これには塩干屋のおやじが、ほのかなライバル心を燃やしてしまった。 アンジェリークはじっくりと吟味をした結果、価格と見た目の立派さが丁度いいものがあり、満面の笑みが浮かぶ。 「おぢさん、これにするわ!」 決める時もきっぱりとしており、凛として潔い。 その姿に、店主は感じ入った。 「いいね! まけてやろう! ねえさん! 1000Gを900Gにしておくよ!」 これにも彼女はいたく感動した。 絶対塩干物を買うのはこの店だと、ひそかに思ってしまう。 「有り難う! ねえ、これを贈答品にしてほしいんですけど」 「贈答品って、結納か何かに使うんですかい?」 結納------- その言葉の響きに、アンジェリークは真っ赤になる。 そりゃあいつかは、アリオスさんのお嫁さんになりたいと思っているけど・・・。 結納って着物着て、三つ指付いてご挨拶するのよね! いやーんっ! アリオスさんはスーツ姿? それともとっても素敵な土方スタイル? そう考えるだけで、彼女は益々真っ赤になり、踊り出したくなる。 「いやだ〜、もうっ!」 くねくねと奇妙なダンスをするアンジェリークに、塩干屋の親父は唖然としたのは言うまでもなかった。 「贈答品だったら、熨斗紙しますかい?」 「あ、はい。めでたくお願いします」 「めでたくね。何か書くかね」 親父は筆ペンと熨斗紙を持ってきて、アンジェリークに見せる。 「”御礼・アンジェリーク・コレット”で」 このあたりはお嬢様学校にまかりながらも通っているので、きちんと指定が出来るのが強みだ。 「はい、”御礼・アンジェリーク・コレット”と」 親父の字は、そこはかとなく商売人特有の字なので、それもアンジェリークを魅了した。 ビニールのかかったするめの上に、熨斗紙を綺麗に巻いてくれて、昔懐かしいレトロなバラの包装紙で包んでくれる。 これまたアンジェリークの得点が高かった。 「あいよ!」 「有り難う!!!!」 アンジェリークはお金を払いながらも、自分的には完璧になっていると自負している、するめを幸せそうに見つめている。 これで完璧だわ!! 「どうもありがとう!!」 捻挫した足を引くずりながら、アンジェリークはするめを抱きしめながら、工事現場に向かった。 工事現場を覗いてみると、丁度アリオスがヘルメットを被って、図面を片手に何かを指示しているのが見える。 しかも、土方スタイルに、つるはしも横においている。 あのつるはしで、敵をばった、ばったと倒すんだわ!! 流石私の騎士様!! 「そんなことは違う!」と誰かにツッコミを入れられそうだが、恋する乙女にはそんなことは関係なかった。 働いているアリオスは本当に素敵で堪らなくて、アンジェリークはうっとりと彼の様子を眺める。 ホントカッコイイな・・・。 不意に視線を感じて、アリオスが振り向くと、途端にアンジェリークは真っ赤になる。 昨日の子犬みてえな、女子高生か・・・。 彼女を見ているだけで、自然に笑えてしまうのは、不思議だ。 「おい、どうしたんだ? 病院は行ったのか?」 「これからです…」 近づいてくるアリオスに視線を奪われながら、アンジェリークはもじもじとしながら答えた。 「今日はどうした?」 本題を言わなければならない。 アンジェリークはそれだけで、口の中が緊張でからからになるのを感じた。 「あ・・・、あの・・・。昨日のお礼に・・・これを!!!」 アンジェリークは、勇気という勇気を振り絞って、アリオスの目の前にするめを突き出す。 「俺に? サンキュ」 彼は僅かに笑うと、するめを受け取ってくれる。 「これ、何だ?」 「あけてくださいっ!」 気に入ってくれますように・・・!!! 祈るような気持ちで、アンジェリークは、アリオスが包みを開ける様子を見つめる。 彼は、形からある程度は想像できていたのだが、やはり現物を見て一瞬だが、言葉を失う。 するめ?? おそらく、土方、酒飲み、あてはするめ・・・。 俺は八●アキの演歌じゃねえての・・・。 少女の短絡思考が直ぐに読めてしまうアリオスだったが、なぜか嫌な感じは全くしない。 むしろ楽しくて嬉しい------ そんな気分だった。 「おまえさん、おもしれえな? サンキュ、貰っておく」 アリオスはクッと喉を鳴らして笑いながら、受け取ってくれた。 それがアンジェリークには最上の笑みに思える。 よかった!!!! アリオスさん気に入ってくれたんだ!! 別の意味で気に入ってくれたなどとは、アンジェリークは露ほど思わない。 満面の笑顔で、向日葵のように笑うアンジェリークの微笑が、アリオスの心にまっすぐに入ってくる。 ったく、いい笑顔しやがるぜ 「おい、病院には、行ったのか?」 「今から行きます」 アリオスの心はすぐに決まった。 「そうか。俺ももう直ぐ事務所に帰るから、病院に送ってやる」 「ホントですか!!!」 「ああ。するめのお礼だ」 憎らしいほど素敵な笑顔を浮かべてくれるので、アンジェリークは飛び上がり炊くなって、本当に、飛び上がる。 「おい、その足!!」 「あっ、いたたたっ!!」 アリオスが注意する間もなく、アンジェリークは途端に顔をしかめてうずくまる。 その表情が、憎めないほど愛らしい。 ったく…。 可愛くてしょうがねえな・・・。 顔をしかめているアンジェリークに、アリオスはそっと手を差し伸べる。 「ほら、行くぜ?」 「はいっ!」 アンジェリークは、アリオスに手を引かれて、彼のスポーツカーに連れて行かれた。 するめさん・・・。 あなたのおかげで、アンジェはまたアリオスさんに近づけたみたい… TO BE CONTINUDE… |
コメント そのタイトルどおり、ヴァレンタイン創作をお届けします。 またまたぼけボケアンジェと、頭の切れる男アリオスのお話です。 ヴァレンタインまで、ゆっくりと完結させたいと思っていますので宜しくお願いします。 プレゼントは「するめ」 コレットちゃん、激しく間違ってます(笑) ちょっと、昔の少女漫画風です(笑) 「どこが?」というツッコミが聴こえてきそうだ(笑) |