Sweet Valentine

2

 2階にある自分の部屋に何とか入った後も、アンジェリークの興奮は覚めやらなかった。
 足が痛いのにも拘らず、暴れだしたい気分である。

 アリオスさん〜!!!
 なんてカッコイイ人なんだろ〜!!!!
 真剣なあの不思議な瞳・・・。
 土方スタイルも、あの黄色いヘルメットも似合ってたなぁ…。

 うっとりとしながら、アンジェリークはベッドの横のソファをぎゅっと思い切り抱きしめる。
 その瞳の中の光は、既にハート型になっている。

 あんなカッコイイ男性がこの世にいたなんて、知らなかったな・・・。
 凄く素敵だもん…。
 たとえばさ、アリオスさんと結婚して、毎日大きなお弁当を作ってあげるの!
 子供を背中に背負ってアリオスさんをお見送り。「母ちゃん行って来るな!」っていう彼に手を振ってあげるの〜。

 恋する乙女の想像力は激しく、アリオスは別に躰を動かして建物を作るのではなく、設計をするほうなのだが、すっかりアンジェリークのイメージは、ベーシックな”土方スタイル”になっている。
「素敵だわ!! 本当に最高に素敵よ!!!」
 足をバンバンと動かしたその瞬間、劇痛がアンジェリークの足に刺さる。
「いた〜いっ!!!」
 興奮の余り暴れたせいか、涙が出るほど足に痛みを感じた。
 これぞ自業自得である。
「あたた…。失敗しちゃった…」
 涙をほんの少しこらえて、アンジェリークはまたうっとりと恋する少女の表情に戻る。
「…明日、また現場にいるかなぁ…。何かお礼したいし…。だけれど、ケーキって感じじゃないのよね、アリオスさんは!」
 アンジェリークはぶつぶつといいながら、色々と思いをめぐらせる。
「だって、やっぱり・・・ここでよいとこ見せないとね〜」
 独り言ですら、乙女色に染まっていた。

 やっぱり、お酒とかの見そうな感じがするのよね・・・。
 それも日本酒をきゅっと、コップ酒というイメージ・・・。
 長家は・・・きっと強そうだわよね、うん…!!

 すっかり、アリオスのイメージを固定し、色々と考えあぐねるアンジェリークである。
「だったら、やっぱり、するめかな〜。それも、直火であぶるやつ」
 激しく間違ったイメージなのにも関わらず、恋する乙女はどんどん妄想を膨らませる。
「やっぱり、アリオスさんには良いとこ見せないといけないもんね〜!!!」
 そういって、鼻まで真っ赤にさせて彼女は、誰もいないのに上目遣いになる。
「…だって、…だって、アリオスさんのお嫁さんになりたいもん…」
 ぼそりと誰もいないところでつぶやいて、今度は耳まで真っ赤にした。
 ほんとうに『茹でたこ』とはこのことである。
「きゃ〜っ!!! 言っちゃった!!! 言っちゃった!!!!!」
 また恥ずかしさと、その甘い気分でアンジェリークはじたばたと暴れる。
「あ〜!!! 痛い〜!!!!!!」
 次の瞬間、本日最強の絶叫が家に鳴り響いたのは、言うまでもなかった------


 翌日は、学校が終わるのが待ち遠しくて堪らなかった。
 足の惨状を見て、親友のレイチェルはとても心配をしてくれたが、アンジェリークは逆になんでもないとにへらと笑って、気味悪がられた。
 ようやく授業が終わり、長い長い学校の時間が終わりを告げる。
 本当は、走って飛び出したかったのは山々だったが、この足の状態ではそうは行かず、ゆっくりと行くしかなかった。
 学校が終わった後からが忙しい。
 先ずは、近くの市場の塩干屋に行って、するめを吟味しなければならない。
 やはり本格的なものを吟味したいので、スーパーでは少し役不足なのだ。

 おこづかいも奮発しなくちゃね!

 するめにおこづかいを賭ける女-------アンジェリーク・コレット。
 それが激しく間違っているかを、全く気がつかない鈍感な恋する乙女だ。
「すみません! 立派なするめをください!!」
 いきなり真剣な顔をした、名門校の女子高生が姿を現したものだから、塩干屋の主人も驚いている様子だ。
 しかもその表情は、思い詰めたようにいたって真面目だ。
「立派なするめっていやあ、この辺りだな」
 戸惑いつつも、女子高生に愛想良く対応する親父だった。
 するめを何種類か出してもらい、アンジェリークは真剣にそれを吟味する。
 その目つきは、玄人の仲買人のようにみえなくもない。
 要は魚河岸の親父さんだ。
 これには塩干屋のおやじが、ほのかなライバル心を燃やしてしまった。
 アンジェリークはじっくりと吟味をした結果、価格と見た目の立派さが丁度いいものがあり、満面の笑みが浮かぶ。
「おぢさん、これにするわ!」
 決める時もきっぱりとしており、凛として潔い。
 その姿に、店主は感じ入った。
「いいね! まけてやろう! ねえさん! 1000Gを900Gにしておくよ!」
 これにも彼女はいたく感動した。
 絶対塩干物を買うのはこの店だと、ひそかに思ってしまう。
「有り難う! ねえ、これを贈答品にしてほしいんですけど」
「贈答品って、結納か何かに使うんですかい?」
 結納-------
 その言葉の響きに、アンジェリークは真っ赤になる。

 そりゃあいつかは、アリオスさんのお嫁さんになりたいと思っているけど・・・。
 結納って着物着て、三つ指付いてご挨拶するのよね!
 いやーんっ! アリオスさんはスーツ姿? それともとっても素敵な土方スタイル?

 そう考えるだけで、彼女は益々真っ赤になり、踊り出したくなる。
「いやだ〜、もうっ!」
 くねくねと奇妙なダンスをするアンジェリークに、塩干屋の親父は唖然としたのは言うまでもなかった。
「贈答品だったら、熨斗紙しますかい?」
「あ、はい。めでたくお願いします」
「めでたくね。何か書くかね」
 親父は筆ペンと熨斗紙を持ってきて、アンジェリークに見せる。
「”御礼・アンジェリーク・コレット”で」
 このあたりはお嬢様学校にまかりながらも通っているので、きちんと指定が出来るのが強みだ。
「はい、”御礼・アンジェリーク・コレット”と」
 親父の字は、そこはかとなく商売人特有の字なので、それもアンジェリークを魅了した。
 ビニールのかかったするめの上に、熨斗紙を綺麗に巻いてくれて、昔懐かしいレトロなバラの包装紙で包んでくれる。
 これまたアンジェリークの得点が高かった。
「あいよ!」
「有り難う!!!!」
 アンジェリークはお金を払いながらも、自分的には完璧になっていると自負している、するめを幸せそうに見つめている。

 これで完璧だわ!!

「どうもありがとう!!」
 捻挫した足を引くずりながら、アンジェリークはするめを抱きしめながら、工事現場に向かった。

 工事現場を覗いてみると、丁度アリオスがヘルメットを被って、図面を片手に何かを指示しているのが見える。
 しかも、土方スタイルに、つるはしも横においている。

 あのつるはしで、敵をばった、ばったと倒すんだわ!!
 流石私の騎士様!!

 「そんなことは違う!」と誰かにツッコミを入れられそうだが、恋する乙女にはそんなことは関係なかった。
 働いているアリオスは本当に素敵で堪らなくて、アンジェリークはうっとりと彼の様子を眺める。

 ホントカッコイイな・・・。

 不意に視線を感じて、アリオスが振り向くと、途端にアンジェリークは真っ赤になる。

 昨日の子犬みてえな、女子高生か・・・。

 彼女を見ているだけで、自然に笑えてしまうのは、不思議だ。
「おい、どうしたんだ? 病院は行ったのか?」
「これからです…」
 近づいてくるアリオスに視線を奪われながら、アンジェリークはもじもじとしながら答えた。
「今日はどうした?」
 本題を言わなければならない。
 アンジェリークはそれだけで、口の中が緊張でからからになるのを感じた。
「あ・・・、あの・・・。昨日のお礼に・・・これを!!!」
 アンジェリークは、勇気という勇気を振り絞って、アリオスの目の前にするめを突き出す。
「俺に? サンキュ」
 彼は僅かに笑うと、するめを受け取ってくれる。
「これ、何だ?」
「あけてくださいっ!」

 気に入ってくれますように・・・!!!

 祈るような気持ちで、アンジェリークは、アリオスが包みを開ける様子を見つめる。
 彼は、形からある程度は想像できていたのだが、やはり現物を見て一瞬だが、言葉を失う。

 するめ??
 おそらく、土方、酒飲み、あてはするめ・・・。
 俺は八●アキの演歌じゃねえての・・・。

 少女の短絡思考が直ぐに読めてしまうアリオスだったが、なぜか嫌な感じは全くしない。
 むしろ楽しくて嬉しい------
 そんな気分だった。
「おまえさん、おもしれえな? サンキュ、貰っておく」
 アリオスはクッと喉を鳴らして笑いながら、受け取ってくれた。
 それがアンジェリークには最上の笑みに思える。

 よかった!!!!
 アリオスさん気に入ってくれたんだ!!

 別の意味で気に入ってくれたなどとは、アンジェリークは露ほど思わない。
 満面の笑顔で、向日葵のように笑うアンジェリークの微笑が、アリオスの心にまっすぐに入ってくる。

 ったく、いい笑顔しやがるぜ

「おい、病院には、行ったのか?」
「今から行きます」
 アリオスの心はすぐに決まった。
「そうか。俺ももう直ぐ事務所に帰るから、病院に送ってやる」
「ホントですか!!!」
「ああ。するめのお礼だ」
 憎らしいほど素敵な笑顔を浮かべてくれるので、アンジェリークは飛び上がり炊くなって、本当に、飛び上がる。
「おい、その足!!」
「あっ、いたたたっ!!」
 アリオスが注意する間もなく、アンジェリークは途端に顔をしかめてうずくまる。
 その表情が、憎めないほど愛らしい。

 ったく…。
 可愛くてしょうがねえな・・・。

 顔をしかめているアンジェリークに、アリオスはそっと手を差し伸べる。
「ほら、行くぜ?」
「はいっ!」
 アンジェリークは、アリオスに手を引かれて、彼のスポーツカーに連れて行かれた。

 するめさん・・・。
 あなたのおかげで、アンジェはまたアリオスさんに近づけたみたい…

TO BE CONTINUDE…

コメント

そのタイトルどおり、ヴァレンタイン創作をお届けします。
またまたぼけボケアンジェと、頭の切れる男アリオスのお話です。
ヴァレンタインまで、ゆっくりと完結させたいと思っていますので宜しくお願いします。

プレゼントは「するめ」
コレットちゃん、激しく間違ってます(笑)
ちょっと、昔の少女漫画風です(笑)
「どこが?」というツッコミが聴こえてきそうだ(笑)



マエ モドル ツギ