Graduation

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 学校で飼っているミーアキャットの世話をするのを、アンジェリークはとても楽しみにしている。
 今日も昼食を手早く食べた後、世話に向かう。ミーアキャットの生態学に興味があり、その行動を見るためでもあった。
 もちろん卒業レポートのメインテーマでもあるためだ。
 ミーアキャットは、宇宙生成学の教師エルンストが管理をしているので、彼女はそこに向かう。
 その時には、エルンスト命少女レイチェルも一緒だ。
 ふたりをエルンストの控え室に残して、アンジェリークはアルフォンシアの部屋に向かう。
「アルフォンシア?」
 学校で飼われているミーアキャットは、ことさらアンジェリークに懐いているせいか、可愛くてしょうがなかった。
「お昼ごはんだよ。ぶりぶり食べようね!」
「きゅきゅっ!」
 餌をやると、首を振りながら本当に美味しそうに食べてくれる。
「よかった」
 生態研究というよりも、アルフォンシアの姿や仕草にめろめろだった。
 散々遊んだ後、彼女が去ろうとすると、いつも鼻を鳴らして悲しんでくれる。
 それが可愛くて仕方く、ぎゅっと抱きしめたくなった。
「じゃあ、またね? アルフォンシア。授業があるからね?」
 しっかりとスキンシップをして別れた後、アンジェリークは後ろ髪を引かれる思いで教室に戻ることにする。
「有り難うございました、エルンスト先生」
「またお越し下さい」
 ミーアキャットを管理するエルンストに礼を言ってから、教室に戻った。
 もちろん、エルンストと散々お喋りをしたレイチェルも同様である。
「アルフォンシアも寂しくなるよね。アンジェリークがいなくなると」
「それが一番の心配なのよ・・・。だけどレイチェルもエルンスト先生と離れるのは寂しいし、心配でしょ?」
 意味深げな視線と共に、アンジェリークがからかうように言うと、途端にレイチェルは真っ赤になった。
「もう」
 いつもはクールな親友のそういった一面が可愛く思えてしまうアンジェリークである。
「ほら、行くよ! 次はアリオス先生の授業だから急がなくっちわゃ!」
 ごまかすかのようにアンジェリークの手を引くと、レイチェルは照れ隠しをするかのように強引に教室に向かった。

 授業の五分前に教室に着くと、モデルをしているオスカーがカメラマンを従えて写真を撮っていた。
「お嬢ちゃんたち! 丁度良かった。こっちへ来いよ」
 アンジェリークとレイチェルが呼ばれていくと、オスカーはカメラを指差した。「
俺の卒業記念に、学校でのスナップ写真が雑誌に載る予定なんだ。クラスメイトとして協力を頼むぜ? 紅二点として、スリーショットな?」
 オスカーの要望にふたりは応えることにする。
 三人並んで写した後、いきなりオスカーはアンジェリークの肩を抱いてきて、それを劇写された。
 これにはアンジェリークもびっくりしてうろたえてしまう。
「お嬢ちゃんには、刺激が強すぎたか?」
 アンジェリークが硬直をしていると、乱暴に扉が開けられ、アリオスが入ってきた。
「昼休みは終わりだ! とっとと席につきやがれ」
 アリオスの一喝で、誰もが慌てて席につく。
 オスカーのそばで硬直していたアンジェリークもまたしかり。
 もたもたしながら彼女は何とか席に着いた。
 アリオスは、相当不機嫌だった。
 それもそのはずで、アンジェリークとオスカーの仲よさげなシーンを目の当たりにして、もやもやとしていたのだ。
 アンジェリークは気分を切り換えて、授業に参加する。
 アリオスの担当する授業は宇宙生物学。彼はその道のパイオニアとしても知られており、この授業はおっかなくても好きだった。
 だが、今は違う。
 車で送ってもらってからというものの、アンジェリークの辞書の”アリオス”の項目には、”おっかない”という文字は消えた。
 彼の担当する授業は、にこにこと聞けてしまう。
 じっと見つめ過ぎて、アリオスと目があった瞬間、恥ずかしくてゆでタコのようになってしまう。
 潤んだ大きな瞳に捕らえられると、アリオスはいつもになく落ち着かなくなる。
 彼はそれを何とか抑えた。
 ごまかすことしか出来ない自分に、ついイライラとしてしまう。
「コレット、ではこの遺伝式を解いてみろ。そんなににこにこしていたら、出来るはずだぜ? 写真を撮っている時間で解ける」
 アリオスの嫌味が胸に突き刺さる。
「・・・はい」
 急にアンジェリークは笑顔を引っ込めて、その表情を凍り付かせる。
 冷たいアリオスの表情が痛くて、なぜか泣きそうになった。
 アリオスの厳しい視線を避けるように、涙で滲んだ式を何とか黒板に書き付ける。
「よし、正解だ」
 軽く会釈をして席に戻った後、アンジェリークはそのまま俯いたままでしかいられなかった。

 どうして、先生はこんなに冷たいんだろう? この間の温かさは幻だったの・・・?

 せっかく楽しみにしていた授業も、アンジェリークは辛くて仕方がなくなる。
 胸が切り裂かれるような傷みを感じ、もうどうしようもなかった。
 急に元気がなくなったアンジェリークを見て、アリオスもまたいたたまれなくなる。
 教師と言う立場にありながらも、つい嫉妬心を抑えることが出来なかった。

 その授業の一時間は、至極不機嫌で険悪なアリオスだった。
 それからというもの、コンピューター室で頑張っていても、アリオスが見回りで来ても、素っ気ない態度を取られ、アンジェリークはどんどん胸の締め付けられる傷みが増してくる。
 ”恋”という感情が根底にあることを、アンジェリークが気付くには余り時間はかからなかった。
「おい! あの時のスナップショットが載った号だぜ!」
 卒業レポートが佳境を向かえる時期、オスカーが今朝発売された雑誌を持ってきてくれた。
「ほら、お嬢ちゃんたちも写ってるぜ?」
 オスカーに雑誌を見せてもらい、アンジェリークとレイチェルはそれを覗き込む。とても綺麗に撮ってもらい、クラスのわきあいあいとした雰囲気が出ている。
 ついアンジェリークの視線は、端に写っているアリオスに行く。
 不機嫌そうだが、とても素敵に写っていると、アンジェリークは思う。
「何、このアリオス先生! ちょっと怖いわよね〜!」
 それを見るなりレイチェルはからからと笑った。
「あ、アンジェ、オスカーとツーショットで写ってるよ!」
 指で指されたところを見てみると、”クラスのガールフレンドと”というキャプションを付けられている。
「なあ、俺のお嬢ちゃんになる気はないか?」
 オスカーに耳元で囁かれて、アンジェリークは真っ赤になって俯く。
 その初々しさに彼は、益々アンジェリークが可愛く思えた。
「もう! アンジェにヘンなことしないでよ!」
 レイチェルは頬を膨らませて怒り、アンジェリークを抱き締めるて、オスカーから遠ざける。
 これにはオスカーは苦笑いをした。
 アンジェリークはちらりと雑誌を見つめる。

 アリオス先生・・・。誤解しなかったらいいなんて、どうして思うんだろう・・・。
 こんなに嫌われているのに・・・。

 アンジェリークは急に切なくなり、泣きたくなってしまった。


 職員室でも、オスカーのスナップショットが話題になっていた。
「しかし、若いっていうのはいいもんですな〜!」
 保健体育教師であるウ゛ィクトールが明るく頷きながら言う。
「その一言が”オッサン”の始まりだ、ウ゛ィクトール」
 アリオスはあくまでクールに言うと、しらけている。
「そ、そうですな」
 生徒に”オッサン”呼ばわりされるのならともかく、教師仲間に言われたのが、少しショックで、ウ゛ィクトールはどんよりとなった。
 ゴミ箱に入れてしまった雑誌を、アリオスは横目でちらりと見やる。
 その目線は、どこか恥ずかしさと嫉妬心が入り交じっていた。

 大人げねえよな、俺は・・・。


 ”クラスのガールフレンドと”というキャプションに惑わされたのは、アリオスとアンジェリークだけではなかった。

 同じ科だっていうだけで、こんな女がどうしてでしゃばるのよ!!

 やはりモデルなだけあり、 オスカーには熱心な親衛隊がおり、その集団たちが、アンジェリークへの憎悪を煮えたぎらせている。
 色々と調べた結果、「犯罪にならない、彼女の一番困ること」を考えだし、今、実行に移そうとしていた。
 そんな全く身に覚えのない恨みをかっているとは露ほども知らないアンジェリークは、恒例の昼休み、卒業レポート方々、アルフォンシアを可愛がるために、エルンストの元に向かう。
「先生、アルに逢いに来ました」
「アルも喜びますよ」
「はい」
 挨拶をして中に入った瞬間、アンジェリークは目を疑った。
 そこにいつもいるはずのアルフォンシアがいないではないか。

 嘘・・・!!!

「エルンスト先生!! アルフォンシアが!!!」
 アンジェリークは真っ青になり、慌ててエルンストの控え室に戻る。
「先生! アルフォンシアがいないんです!!!」
「なんですと!?」
 アンジェリークと共に飼育室に入ってみると、アルフォンシアがいない。
「・・・どこに・・・」
 窓が開いており、明らかに誰かが逃がしたとしか思えない。
 その上、先約の生徒がいないではないか。
「・・・あの子は下界では生きては行けないんです! 探してきます・・・!」
 アンジェリークは思い詰めたような表情をすると、教室を飛び出していく。
「待ちなさい! アンジェリーク!!」
 エルンストが止めるのも聞かず、彼女は行ってしまった。
 仕方がないとばかりにエルンストは溜め息を吐くと、担任アリオスのいる職員室に内線をかける。
「アリオス先生いらっしゃいますか?」
「ああ、俺だが?」
 アリオスはいつものように感情のない声だ。
「アルフォンシアがいなくなりまして、それをアンジェリークが血相を変えて探しに行ったんです」
「…!!!!」
 アリオスは一瞬にして顔色を変えると、電話を乱暴に切り、彼もまた、校庭へと飛び出していく。

 待ってろよ…!! アンジェリーク!!

「アルフォンシア!!」
 アンジェリークは校内にある隠れそうなところをくまなく探していた。
 あらゆる縁の下などを探し、学校の周りも見てみる。
「アル〜!」
 途中で冷たい雨が降りしきり始めたにも関わらず、そんなことは構わなかった。

 アルフォンシア、どこにいるの・・・?

 涙がいっぱい溢れてきてどうしようもなくなってしまう。
 鼻をすすりながら、雨にびしょ濡れのことなども厭わずに探し続けた。
 だが、流石に雨に濡れながら1時間も探し回っていると、流石に躰は冷え切り、震えてくる。
「アル…」
 学校への道のりを惨めな気分になり、ずっと俯いてとぼとぼと歩いているときだった。
 耳覚えのある鳴き声が遠くから聞こえてくる。
 寂しそうな声。
 それが徐々に近づき、アンジェリークははっとして顔を上げた。
「------みつけたぜ? 本当の迷子はおまえだ」

 アリオス先生…!!!!

 そこには、銀の髪を艶やかに濡らしたアリオスが、アルフォンシアを胸に抱いて立っている。
 彼の腕の中にいるアルフォンシアは薄汚れてはいるが、元気そうにぴーぴー鳴いている。
「先生…!! アル!!!」
 アンジェリークは堰を切ったように烈しく泣くと、そのままアリオスの腕の中に包み込まれる。
「アンジェリーク…」
 次の瞬間、唇が重なっていた-------

コメント

アリコレの季節的にはぎりぎり「卒業」の物語です。
3回ぐらいの短く甘い恋物語です。
お楽しみいただけると嬉しいです。




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