「アンジェ!!」
何度も華奢な彼女の身体を抱きしめ、頬を叩くものの、彼女からは一向に反応がなかった。
「突然消えるから、心配したんだぞ!!」
愛しげに彼女の頬を叩くが、最初の時と違って、全く反応しなかった。
「アンジェ! 頼むから目を覚ましてくれ」
アリオスはそのままアンジェリークを抱き上げると、ベットへと連れて行く。
最初にそうしたように、先ず彼女のドレスを脱がせ、自分のシャツに着替えさせた。
最初そうして乗り切ったように、先ずは氷で彼女の身体を冷やし始める。
「頑張れよ、アンジェ!」
彼は必死だった。
再び彼女が自分を見つめてくれるためなら、何だってしたかった。
明らかに前よりも弱っている・・・・。
身体も本当に消えてしまいそうなほど儚くて…。
彼女は軽くなっている…。
彼女の呼吸と脈を見てみる。
とても不安定で、彼を不安にさせる。
アリオスは、三ヶ月ぶりに診療鞄を開け、そこから聴診器や注射器を取り出した。
「効くかは判らねえが、打たねえよりはましだろう…。アンジェ、我慢しろよ」
彼は素早く彼女の腕をまくり、消毒をして、鎮静剤を投与する。
頼む! 彼女を助けてくれ!
久しぶりに、彼は神に祈りを捧げる。
心からの祈りだった。
またあの装置を使う時が来たのか・・・。
感染症を抑えるための薬は、オスカーに頼むしかないだろう…
決意を秘めて立ち上がると、彼は屋根裏部屋に昇り、そこにある医療器具を総て下に降ろして来た。
アンジェリークの時代のものとは違って、それらの医療器具は、 おもちゃみたいなものだった。
だが、ないよりはずっとましで、アリオスはそれらを綺麗にアルコールと煮沸で消毒すると、アンジェリークのために使う。
使われたのは酸素吸入器。
それを彼女の口元に当て、彼は呼吸の助けをしてやった。
「少しは楽になるからな、アンジェ!」
彼女の華奢な手をぎゅっと握り締めて、彼は強く祈る。
おまえが今度目を覚ましたら、きっと離さない!
「少し待っていろ」
彼はほんの少しだけ寝室から出て、電話を掛けに言った。
もちろん、それは感染症を防ぐ薬を手配するのに他ならない。
「オスカー、俺だ、アリオスだ」
「なんだ、久しぶりだな? また病院に戻る気になったか?」
相変わらず快活な友人に苦笑しながら、電話口で頭を振る。
「いや…」
「どうした?」
「おい。オスカー、感染症を防ぐ薬と氷、それと点滴を持ってきて欲しい。氷は、なるべくたくさん…」
「どうした!? 誰か具合の悪い人でもいるのか?」
「俺の、モデルだ。じゃあ頼んだからな!」
「お、おい、アリオス!」
アリオスは、アンジェリークの病状が気になる余り、手早く電話をきるとすぐに彼女の元へと戻った。
「アンジェ!」
彼は再び、彼女の手を握り締め、ゆっくりと口づける。
熱で魘される彼女の額を、冷たい布で拭ってやりながら、アリオスは決して片手を彼女から離さなかった。
アンジェリーク…。
おまえは再び俺に甘い感情を思い出させてくれた。
出来ることならば、おまえを離したくない…!!
ふと、彼の目に彼女のドレスが映る。
これを着たとき、彼女は俺から消えた。
ひょっとしてこれがなければ、彼女はずっと、ここにいてくれるのかもしれない…
そう思い立つと、アリオスは彼女のドレスを持って屋根裏部屋へと駆け上がる。
これさえなければ…
「すまねえ、エリス…」
彼は、かつてエリスが着たウェディングドレスを剥がし、そのマネキンにアンジェリークが着てきたドレスを着せた。
エリスのドレスを、彼女の小さなクロゼットに畳んで直し、出る時も。屋根卜部yにはしっかりと鍵をかけた。
これで、アンジェは戻れない…
彼は安心したようにホッと息を吐くと、そのまま寝室へと戻った。
ベットに横たわるアンジェリークは、相変わらず苦しそうだった。
アリオスは、なけなしの氷を彼女の為だけに使いきり、汗を拭い、一生懸命看病する。
そうした頃に、玄関の呼び鈴がなり、彼は走って玄関まで行った。
玄関に行くと、そこにはやはりオスカーがいた。
「おい。礼のものだ」
彼は何も訊かず、すっとアリオスが指定したものをカートで運び入れてくれた。
そこには、氷、感染症防止薬、そして点滴が袋に入ってあった。
「サンキュ。恩に着る」
「いや、いいさ」
ふっと深い微笑を浮かべると、オスカーはアリオスを見る。
「おまえがまた誰かとかかわろうとしているのが、第一歩だ。じゃあ、俺はこれで」
「サンキュ。色々」
「ああ」
オスカーが玄関を立ち去った後、アリオスは慌ててこれらのものを寝室に運んだ。
まずは、感染症予防薬をアンジェリークに投薬し、続いては、素早く点滴をする。
だが、華奢な彼女は血管も細く、見つけて指すのに苦労した。
そして、汗まみれのシャツを取り替えてやり、身体を拭いてやる。
真白の彼女の膚に、彼は際限のない欲望g突き上げてくるのを感じたが、何とか抑えた。
後は、氷で額を冷やしてやる。
だが、意識は数時間に渡って戻らなかった。ひょっとして、彼女はもう二度と目を覚まさないのではないかと、彼は怯えつづけた。
やがて、アリオスの祈りが通じたのか、彼女の頬にうっすらと血色が戻ってきた。
瞼が動き、ゆっくりと青緑の大きな瞳が見開かれた時、アリオスは強く彼女を抱きすくめる。
「アンジェ!!」
彼の暖かさ、匂いを感じ、アンジェリークは心が満たされるのを感じた。
「アリオス! アリオス! 私戻ってきたのね?」
彼女は嬉しさがこみ上げる余り泣き出すと、そのまま彼の逞しい胸に顔を埋め、腕は彼をしっかり抱きしめる。
「アンジェ、よかった…」
彼はそっと彼女の顔を両手で包むと、翡翠と黄金の、彼女を魅了して止まない眼差しを向ける。
「愛してる…。ずっと言いたかった…」
「私も、愛してるわ…、アリオス!!」
二人はそのまま唇を深く重ねあう。
時空を越えて、あえなかった時間を埋めるかのように、二人は互いの唇を求め合った。
舌を絡ませあい、角度を変えて口づけ、愛を確かめ合う。
彼の手がシャツにかかった時、彼女はびくりと震えた。
「アリオス…、お願い…、汗まみれだから気持ち悪いの・…。シャワーだけ浴びさせて…」
これには、彼も彼女の気持ちを汲んでか、同意をしてくれた。
彼から大きなローブを受け取ると彼女は手早くシャワーを浴びた。
肌が敏感になって、シャワーが痛く感じる。
アリオス…
彼女はバスルームから出ると、彼がもうその前で待っていた。
「もう待たねえからな…」
「うん・…」
はにかみながら頷く彼女に、彼は愛しそうに目を細めると、そのままベットへと抱いていった----
時間を超えた情熱的なひと時が、今、始まろうとしていた-----

Chapter 6
TO BE CONTINUED…

コメント
タイムトリップ物もとうとう六回目です!
次回はもう少し甘い二人がお届けできるかと思います。
