
あの腕の暖かさを、私は忘れないだろう・・・。 アンジェリークは身支度をしながら、思いを馳せていた。 ぎゅっと体を抱き締めてみる。そうすれば何だか勇気が沸いてくるような気がする。 力強いノックがして、アンジェリークは我に還った。 「アンジェリーク、行くぞ」 低い厳しい声が響き、彼女はドアを開ける。 「はい。準備は出来てます」 「じゃあ行くか。朝飯は適当にそのへんで食うからな」 「はい」 アリオスの後ろをアンジェリークはゆっくりと歩く。その精悍で広い背中を見ていると、なんだか守られている気分になる。 ふたりは車に乗り込み、ゆっくりと本部に向かって出発した。 「うまい朝飯食わせてやるよ」 「はい」 さりげない気遣いに、アンジェリークの胸は熱くなるのを感じる。 「楽しみにしています」 「ああ」 車が向かったのは、古びた食堂だった。 「あら、珍しい、アリオス」 「よお」 アリオスは軽く挨拶をした後、アンジェリークを促して席に付かせる。 「朝定食ふたつ」 「あいよ」 馴染みらしい店に連れて来てくれたアリオスの気遣いが嬉しくて、アンジェリークはとても満たされた気分になった。 だが。それを破ったのは、けたたましいアリオスの携帯の音だった。 それを取ったアリオスは、別段いつもと変わりなく、受け応えをした。 「アンジェリーク、、飯はたっぷり食っておけ。今日の任務は重労働だから」 「はい」 出てきた朝食を美味しそうに食べるアンジェリークを見つめ、アリオスは複雑な思いにかられる。 当分は、このような安らぐ時間は訪れねえだろうから…。 久し振りに御飯が美味しく感じる・・・。アリオスのおかげかな・・・。 彼女は微笑みさえも浮かべながら、楽しい朝食をすごした。 朝食を食べ終えた後、車に戻るなり、アリオスはすぐに発進させる。 張り詰めた空気が一気に車内に流れた。 アンジェリークはそれを敏感に察知する。 「何か…、あったの!?」 「昨夜、俺たちを始末しようとしたやつが、死体で発見された」 「・・・!」 アンジェリークは言葉を失う。 「失敗には死をか。考えそうなことだな」 低く冷たい声にアンジェリークは背中に冷たいものを感じた。 彼女は不安げに彼を見る。 「アリオス・・・」 「おまえは自分のことだけ考えておければいい」 コクリとうなずくことしか出来ず、アンジェリークは押し黙ってしまった。 自分のことだけ考えるなんて出来ない…。 そんな想いの彼女を、勿論彼は察している。 「余り自分を責めるな…」 煙草を口に銜えながら、アリオスは冷静に呟く。 それが、アンジェリークにとっては切なくてたまらない。 「今日は、ロザリアのところに行って、少しゆっくりしろ。帰る時間になったら、俺が迎えに行ってやるから・・・」 「はい・・・」 「先に、現場に立ち寄ってから、本部に行くからな?」 「はい…」 車は、昨夜彼らを襲った者の死体発見現場へと向っていた---- ------------------------------ サングラスを掛け、車から降りたアリオスは酷く魅力的で、アンジェリークは見とれずにはいられなかった。 「行くぞ?」 「はい」 彼の後を着いていきながら、アンジェリークは緊張を感じる。 この先に…、いったい何が待っているのだろうか… アリオスは、アンジェリークを連れて、顔見知りの警官に近づいていった。 「よう」 「待ってた」 機敏に進むアリオスの後を、アンジェリークも付いてゆく。 「このお嬢さんは?」 「俺の仕事のパートナーだ。ヴィクトール」 「アンジェリークです。よろしくお願いします」 深々とアンジェリークが頭を下げると、ヴィクトールは笑顔で返したが、すぐに真摯な表情に戻る。 「ガイシャは?」 「ああ、後ろから銃でズドン。ベレッタM92Sから発射されたやつだ」 「そうか…」 命をなんとも想っていないのだろうか…。 あの男は…。 私もマルセルも、生きるためにこんなに辛い思いをしているのに・・!! 怒りがアンジェリークの体を駆け抜ける。 話を聞いただけなのに、彼女は胸が痛む思いがする。 私? 皆私のせいなの…? 「見るか? ガイシャ。足元にいるが…」 黒い寝袋を、彼は視線でさした。 ヴィクトールは何事もなく呟いたが、アリオスはアンジェリークの様子をすぐさま感じる。 どこか、おかしいと---- 「----いや…、かまわん…。 おまえからは状況が聞きたかっただけだから…」 「そうか…」 その彼の気遣いが、逆にアンジェリークを居たたまれなくする。 負の感情が湧きあがってくる。 「…アリオス…、私…」 「アンジェ…」 「やっぱり自分が許せない!!!」 そのまま、彼女はその場を逃げ出す。 「アンジェ!!」 走った彼女の跡を追いかけ、アリオスもまた疾走した。 拙い、今ここで単独行動は!!! 私のせいで…。 私のせいで多くの人たちの命が失われてゆく…。 そんなのは耐えられないから… 「きゃああっ!!!!」 高い悲鳴が響く。 「静かにしろ!!!」 アンジェリークは、そのまま体躯の良い男に体を拘束され、ずるずると引きずられる。 体を羽交い絞めにされて、口を押さえられて、もがいてはしめられて…。 助けて!!! 「待て!!!」 鋭いアリオスの声が響き、アンジェリークは縋るように、彼を見つめた。 助けて…! アリオス!! |
TO BE CONTINUED・・・