CHAPTER 9


 あの腕の暖かさを、私は忘れないだろう・・・。

 アンジェリークは身支度をしながら、思いを馳せていた。
 ぎゅっと体を抱き締めてみる。そうすれば何だか勇気が沸いてくるような気がする。
 力強いノックがして、アンジェリークは我に還った。
「アンジェリーク、行くぞ」
 低い厳しい声が響き、彼女はドアを開ける。
「はい。準備は出来てます」
「じゃあ行くか。朝飯は適当にそのへんで食うからな」
「はい」
 アリオスの後ろをアンジェリークはゆっくりと歩く。その精悍で広い背中を見ていると、なんだか守られている気分になる。
 ふたりは車に乗り込み、ゆっくりと本部に向かって出発した。
「うまい朝飯食わせてやるよ」
「はい」
 さりげない気遣いに、アンジェリークの胸は熱くなるのを感じる。
「楽しみにしています」
「ああ」
 車が向かったのは、古びた食堂だった。
「あら、珍しい、アリオス」
「よお」
 アリオスは軽く挨拶をした後、アンジェリークを促して席に付かせる。
「朝定食ふたつ」
「あいよ」
 馴染みらしい店に連れて来てくれたアリオスの気遣いが嬉しくて、アンジェリークはとても満たされた気分になった。
 だが。それを破ったのは、けたたましいアリオスの携帯の音だった。
 それを取ったアリオスは、別段いつもと変わりなく、受け応えをした。
「アンジェリーク、、飯はたっぷり食っておけ。今日の任務は重労働だから」
「はい」
 出てきた朝食を美味しそうに食べるアンジェリークを見つめ、アリオスは複雑な思いにかられる。

 当分は、このような安らぐ時間は訪れねえだろうから…。

 久し振りに御飯が美味しく感じる・・・。アリオスのおかげかな・・・。

 彼女は微笑みさえも浮かべながら、楽しい朝食をすごした。
 朝食を食べ終えた後、車に戻るなり、アリオスはすぐに発進させる。
 張り詰めた空気が一気に車内に流れた。
 アンジェリークはそれを敏感に察知する。
「何か…、あったの!?」
「昨夜、俺たちを始末しようとしたやつが、死体で発見された」
「・・・!」
 アンジェリークは言葉を失う。
「失敗には死をか。考えそうなことだな」
 低く冷たい声にアンジェリークは背中に冷たいものを感じた。
 彼女は不安げに彼を見る。
「アリオス・・・」
「おまえは自分のことだけ考えておければいい」
 コクリとうなずくことしか出来ず、アンジェリークは押し黙ってしまった。

 自分のことだけ考えるなんて出来ない…。

 そんな想いの彼女を、勿論彼は察している。
「余り自分を責めるな…」
 煙草を口に銜えながら、アリオスは冷静に呟く。
 それが、アンジェリークにとっては切なくてたまらない。
「今日は、ロザリアのところに行って、少しゆっくりしろ。帰る時間になったら、俺が迎えに行ってやるから・・・」
「はい・・・」
「先に、現場に立ち寄ってから、本部に行くからな?」
「はい…」
 車は、昨夜彼らを襲った者の死体発見現場へと向っていた----

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 サングラスを掛け、車から降りたアリオスは酷く魅力的で、アンジェリークは見とれずにはいられなかった。
「行くぞ?」
「はい」
 彼の後を着いていきながら、アンジェリークは緊張を感じる。

 この先に…、いったい何が待っているのだろうか…

 アリオスは、アンジェリークを連れて、顔見知りの警官に近づいていった。
「よう」
「待ってた」
 機敏に進むアリオスの後を、アンジェリークも付いてゆく。
「このお嬢さんは?」
「俺の仕事のパートナーだ。ヴィクトール」
「アンジェリークです。よろしくお願いします」
 深々とアンジェリークが頭を下げると、ヴィクトールは笑顔で返したが、すぐに真摯な表情に戻る。
「ガイシャは?」
「ああ、後ろから銃でズドン。ベレッタM92Sから発射されたやつだ」
「そうか…」

 命をなんとも想っていないのだろうか…。
 あの男は…。
 私もマルセルも、生きるためにこんなに辛い思いをしているのに・・!!

 怒りがアンジェリークの体を駆け抜ける。
 話を聞いただけなのに、彼女は胸が痛む思いがする。

 私?
 皆私のせいなの…?

「見るか? ガイシャ。足元にいるが…」
 黒い寝袋を、彼は視線でさした。
 ヴィクトールは何事もなく呟いたが、アリオスはアンジェリークの様子をすぐさま感じる。
 どこか、おかしいと----
「----いや…、かまわん…。
 おまえからは状況が聞きたかっただけだから…」
「そうか…」
 その彼の気遣いが、逆にアンジェリークを居たたまれなくする。
 負の感情が湧きあがってくる。
「…アリオス…、私…」
「アンジェ…」
「やっぱり自分が許せない!!!」
 そのまま、彼女はその場を逃げ出す。
「アンジェ!!」
 走った彼女の跡を追いかけ、アリオスもまた疾走した。

 拙い、今ここで単独行動は!!!

 私のせいで…。
 私のせいで多くの人たちの命が失われてゆく…。
 そんなのは耐えられないから…

「きゃああっ!!!!」
 高い悲鳴が響く。
「静かにしろ!!!」
 アンジェリークは、そのまま体躯の良い男に体を拘束され、ずるずると引きずられる。
 体を羽交い絞めにされて、口を押さえられて、もがいてはしめられて…。

 助けて!!!

「待て!!!」
 鋭いアリオスの声が響き、アンジェリークは縋るように、彼を見つめた。

 助けて…! アリオス!!   

TO BE CONTINUED・・・


コメント

エージェントアリオスのお久しぶり。
今回はどんより進んだだけです…。