CHAPTER 8


「何をそんなに戸惑っている・・・」
 アンジェリークの雰囲気から、アリオスは彼女の考えを読んだ。
「あ、私は・・・」
 見事に読まれてしまい、彼女は戸惑ってしまう。
「心配するな。部屋は別々だし、俺も、仕事の相手とどうこうなりたいと思わねえから」
「はい・・・」
 きっぱりとした否定。その言葉はアンジェリークに深く突き刺さる。彼女は、心の動揺を知られないようにと、努めて冷静に振る舞った。
「今夜は早く寝ろ? いいな?」
 感情を湛えない不思議な異色の瞳に、逆らえなくて、アンジェリークは何とか頷いた。
「おまえは客間を使え。ここだ」
 彼の後ろに着いて、案内された部屋は、小さな個室で、ベッドもシングルで、最低元必要なものしかなかった。かえってその簡素さに彼女は安心する。
「重ね重ね有り難うございました!!」
 深々と頭を下げて、彼女はアリオスに礼を言った。
「そんなことはいいから、とっとと寝ろ?」
「はい」
 促されて部屋に入った後、アリオスがドアを閉じた。

どうして、こんなに似ている・・・。酷な試練だな・・・。

 部屋に一人になり、アンジェリークはそのままベッドに沈み込んだ。

 私は、何を構えてたんだろう・・・。
 きっと心の奥底で、何か期待してたのかもしれない・・・。
 アリオスが側にいてくれればいいって。
 こんなに誰かに側にいてほしいなんて思ったことがなかった・・・。


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 その夜、アンジェリークは眠りに落ちたものの、悪夢にうなされていた。
 乗っていた父親の車が、故意に事故を起こされたあの夜の夢。事故のほんの少し前、彼女だけに見えた惨事の影像。
 咄嗟に、体を小さくして守った。
 そのまま車は方向性を失ってクラッシュし、ボンという音の後、炎上した。
 真っ赤に燃え盛る炎。
「お父さん! お母さん!」
 叫んでも返事はない。
 横にいた弟のマルセルの体を何度も揺すれば、ぴくりと瞼に反応があった。
「マルセル!」
「痛い・・・、おねえちゃん・・・」
 彼は力なく呟くと、再び瞼を落とす。
「どうしたの? ね? マルセル! マルセル!」
 何度もsの名を呼んだが、マルセルはそのままぐったりとして反応がなかった。
「ねえ、マルセル! お願い、目を覚まして! お父さん、おかあさん! お願い私を一人にしないで!!」
 アンジェリークは泣き叫び、車内の熱さに気が狂いそうだった。

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 はっとして、アンジェリークはそこで目覚めた。
「夢・・・」
 全身が冷たい汗でビッショリとなり、気分が悪い。
 彼女はそこでおおきな溜め息を吐くと、その体を起こした。

 あの時、父の下院議員当選記念パーティで、あの男の考えと未来を完璧に予知してしまった。私は不安になって、そのことを父に話し、父はそれを裏付ける証拠を取って、彼を追及した。
 彼はそれで失脚をし、この国の首相の道を閉ざされた…。
 ----そしてあの事故!

 彼女は身の毛をよだつ思いがして、頭をぶんぶんと振ると、そのままベットから降りた。
 あんな夢を見たい上落ち着かない。

 きっと、あの男の差し金だろう…。
 今夜の一連の出来事は…。
 MI6に彼と通じるものがいてもおかしくないもの。
 だったら…。

 アンジェリークは決意を秘めたように頷くと、部屋のドアに向かった。

 これ以上…、私の周りにいる人たちが傷つくのを見たくないから…
 ここにいたら…。
 アリオスに迷惑がかかってしまうから…。

 彼女はそれだけの思いで、この部屋を後にしようとした。
 ノブに手をかけ、ドアを開けたとき、彼女は息を飲んだ。
「アリオス…」
「どこに行く…」
 そこにいたのはアリオス。
 まるで彼女がいなくなるのを察したように、そこに立っていた。
「…どこって…、のど乾いたから…」
 しどろもどろに答える彼女の嘘など、彼には明らかだ。
「嘘は言うなよ? どこか…、いくつもりじゃなかったのか?」
 心の奥底まで見透かしてくるような眼差しに見つめられて、アンジェリークは、その身を固くした。
「…夢を見たの…」
 その視線から逃れ、彼女はポツリと呟く。
「夢?」
 怪訝そうに、彼は眉根を寄せた。
「うん…。あの事故の夢。お父さんもお母さんもいなくなったあの事故の…」
 声が震えている。
「それがどうして逃げ出すのとどう関係があるんだ?」
 一筋の涙が彼女の頬を伝い、アリオスは胸を締め付けられそうな思いがした。
「・・・だって・・・、これ以上…、周りの人に迷惑掛けてくなかったから…」
 その言葉は、彼の、氷で出来た心の奥を少し溶かしてゆく。
「アンジェリーク…、バカ、気にするな…」
「はい・・・」
 無意識にアリオスはアンジェリークを胸のなかに包み込んでいた。
 忘れていたぬくもり。
 彼はそれにめまいを覚える。

 俺としたことが…。
 どうしてこの温もりが心地よいと思う…。
 もう忘れていたことなのに…

 アンジェリークは心の不安がかき消されるのを感じる。
 そのまま、アンジェリークの背中を優しくあやして、彼は彼女が落ち着くまでずっとそうしていた…。

TO BE CONTINUED・・・


コメント

エージェントアリオスのお久しぶり。
すみません…。
あまり話が進んでません(苦笑)
さくさくと進ませていきます!
今度のターゲット?