
アリオスは、アンジェリークの手を引いたまま、勝手口から外に出た。 そこにはKAWASAKIの750CCバイクがあり、彼はそれに飛び乗る。 「乗れ!」 「はい!」 素早くアンジェリークもバイクの後ろに飛び乗り、彼の精悍な背中に華奢な手を回した。 それを合図に、アリオスはバイクのエンジンをかける。 「どこへ!?」 「ここばれたから、別の場所にな?」 彼はそこで言葉を切り、間を置く。 「害虫退治をしてからだが…」 アリオスはその言葉とともにバイクのエンジンをかけ、夜の闇の中に飛び込んでゆく。 バイクはそのまま裏口から外へと出てゆく。 「つかまってろ」 「はい!」 彼に回す手をに力をこめれば、その身体のぬくもりがじかに伝わってくる。 懐かしい人のぬくもり。 彼女はそれを感じたくて、その背中に、一瞬、顔を埋める。 「…」 アリオスもまた、忘れていた温もりを、いや、忘れようとして勤めていた温もりを、背中を通して感じ、ほんの一瞬、苦しげに瞳を閉じた。 もっとその温もりを感じていたい。 二人は互いにそう思わずに入られなかった。 夜風が二人の髪を優しくなびかせる。 もっとこうしていたくて、アンジェリークはアリオスの身体をさらにぐっと掴む。 その瞬間、甘い痛みが走って、彼女は思わず、手を引っ込めようとした。 スーツ姿でなく、Tシャツにジーンズという出で立ちの彼の身体に手を触れれば、その鍛えられた肉体がありありとわかる。 それがどこか気持ちよくて、恥ずかしくて…。 「おい、しっかりつかまってろ?」 「あ、はい」 少し諌めるように言われ、彼女はしっかりと再び彼に抱きついた。 そこからアリオスはさらにスピードを上げて、真夜中の街を突っ走る。 やがて---- 前方に一台の車が見え、アリオスはそれに向かってバイクのスピードをさらに上げる。 振り落とされまいと、アンジェリークもアリオスの身体にしっかりとしがみついた。 俺がアンジェリークを連れてこの場所に戻ったことをしているのは恐らく…、MI6の人間だ。内部で誰かが、奴と通じていることを否定することは出来ねえだろう… アリオスの異色の眼差しに、冷酷な煌きが浮かび上がる。 その煌きは、闇に蠢き、溶け込んで、まるで獣にみえる。 飛び切りの獣に。 あ…、あの車がもしかして… ようやく、アンジェリークにも、前方にある車が、アリオスの言うところの”虫”であることがわかり、少し身体を緊張させた。 「アリオス、あの車なの?」 「ああ。そうだ」 彼女は、暗闇の中で車を目を凝らして見つめる。 バイクとの車間距離はだんだん短くなっているようだ。 「・・・あの車を撃つの…?」 「ああ。ただし、リアタイヤだけだ。動けなくするだけだ。後の処理は他の者を来させる」 「私…、やろうか? 銃持ってるし…」 今まで訓練では何度も銃を撃った事があったが、本番では初めてだった。 だが、アリオスがバイクをうんてsんしている以上は、自分が撃つのが妥当であろうと、彼女は考えた。 銃も、ちゃんと携帯している。 だが---- 「いや…、俺がする・・・」 アリオスは低い声できっぱりといい、アンジェリークにはそれ以上言わせようとしなかった。 おまえが銃を撃つのは、万が一の場合だけだ…。 おまえに、何があろうとも、俺は実戦で撃たせる気はない… アリオスのこの気持ちを、アンジェリークは勿論知らない。 私…、アリオスに信頼されてないのかな… そう考えるだけで、彼女の心は壊れそうになって、苦しくて…。 その思いを振り払おうと、彼女はそっと瞳を閉じた。 身体を密着させていれば、彼女が少し失望したのがわかる。 アンジェリーク・…。 おまえがいつか日のあたる場所に帰ったとき、普通の少女として生活が出来るように、俺はおまえの手を血で汚したくない。 いつか…。 それがおまえのためになる日が来る。 だから…、今は何も言うな…。 バイクから車の車間距離が、銃を使っても届くぎりぎりのところに来る。 アリオスは、ジーンズに吊り下げたホルスターから、スミス&ウェッソン・ハイ・ビット357マグナムを取り出し、前方の車のリアタイヤを狙う。 あたりは暗闇で、ほとんど街頭も付いてはいない。 この暗さのなかで正確に打ち抜けるのは、並みの技量では無理である。 アリオスの瞳はまるで狩りをする野獣そのもののように煌く。 感情は湛えられず、その眼差しのみが不敵だ。 彼はゆっくりとリアタイヤに銃の照準を合わせると、ゆっくりとそのトリガーを引いた--- その瞬間、車はスピンし、横の樹のぶつかり、そのまま止まる。 アリオスがしたのはただ車をとめただけ。 彼はそのまま車の横を通り過ぎてゆく。 これ以上の事をしない。 「ねえ、どうして車を停めるだけなの?」 彼女にはわけがわからない。 「----泳がせねえとな、少し…」 彼はそう呟くと、それ以上は何も答えなかった。 二人の中に沈黙が訪れる。 そのままバイクは暗闇の中を走りつづけた---- ---------------------------- アリオスがバイクをつけたのは、MI6に程近い、高級アパートだった。 有名俳優なども済んだことがある、由緒正しい場所だった。 やはりそこのアパートメントも警備はしっかりしていたが、アンジェリークが済んでいたそこよりはいくらか劣っていた。 「行くぞ?」 「はい」 今度は先ほどのように切羽詰ってはいない。 そこでようやく、彼女は自分がパジャマ姿であることに気づき、赤面した。 「あ・・・、あの・・・、私…」 「心配すんな。誰も見ねえよ?」 「でも…」 「でももねえ、ほら、こい!」 力強く言われると、従うしかなくて、彼女はアリオスの後をしぶしぶついていった。 幸いなことに、彼の部屋に行くまでは、誰にも逢うことがなくて、内心ほっとした。 部屋は電子ロックになっており、アリオスがそれを解除して、彼女は中に招き入れる。 「はいれよ?」 「はい」 部屋はいたってシンプルだった。 少しゆったりとしたLDK、書斎、そしてベットルーム。 やあ式に比べると、まだここは幾分か暮らしの匂いがする。 「おまえは、今夜からここで暮らす。 ----俺と一緒に」 アンジェリークは思わずアリオスの顔を見つめる。 こんな狭い場所で…、まるで同棲みたい… |
TO BE CONTINUED・・・
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コメント
エージェントアリオスの六回目です。
すみません…。
あまり話が進んでません(苦笑)
次回からはようやく派手に行かせて戴きます。
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