CHAPTER 7


 アリオスは、アンジェリークの手を引いたまま、勝手口から外に出た。
 そこにはKAWASAKIの750CCバイクがあり、彼はそれに飛び乗る。
「乗れ!」
「はい!」
 素早くアンジェリークもバイクの後ろに飛び乗り、彼の精悍な背中に華奢な手を回した。
 それを合図に、アリオスはバイクのエンジンをかける。
「どこへ!?」
「ここばれたから、別の場所にな?」
 彼はそこで言葉を切り、間を置く。
「害虫退治をしてからだが…」
 アリオスはその言葉とともにバイクのエンジンをかけ、夜の闇の中に飛び込んでゆく。
 バイクはそのまま裏口から外へと出てゆく。
「つかまってろ」
「はい!」
 彼に回す手をに力をこめれば、その身体のぬくもりがじかに伝わってくる。
 懐かしい人のぬくもり。
 彼女はそれを感じたくて、その背中に、一瞬、顔を埋める。
「…」
 アリオスもまた、忘れていた温もりを、いや、忘れようとして勤めていた温もりを、背中を通して感じ、ほんの一瞬、苦しげに瞳を閉じた。
 もっとその温もりを感じていたい。
 二人は互いにそう思わずに入られなかった。
 夜風が二人の髪を優しくなびかせる。
 もっとこうしていたくて、アンジェリークはアリオスの身体をさらにぐっと掴む。
 その瞬間、甘い痛みが走って、彼女は思わず、手を引っ込めようとした。
 スーツ姿でなく、Tシャツにジーンズという出で立ちの彼の身体に手を触れれば、その鍛えられた肉体がありありとわかる。
 それがどこか気持ちよくて、恥ずかしくて…。
「おい、しっかりつかまってろ?」
「あ、はい」
 少し諌めるように言われ、彼女はしっかりと再び彼に抱きついた。
 そこからアリオスはさらにスピードを上げて、真夜中の街を突っ走る。
 やがて----
 前方に一台の車が見え、アリオスはそれに向かってバイクのスピードをさらに上げる。
 振り落とされまいと、アンジェリークもアリオスの身体にしっかりとしがみついた。

 俺がアンジェリークを連れてこの場所に戻ったことをしているのは恐らく…、MI6の人間だ。内部で誰かが、奴と通じていることを否定することは出来ねえだろう…

 アリオスの異色の眼差しに、冷酷な煌きが浮かび上がる。
 その煌きは、闇に蠢き、溶け込んで、まるで獣にみえる。
 飛び切りの獣に。

あ…、あの車がもしかして…

 ようやく、アンジェリークにも、前方にある車が、アリオスの言うところの”虫”であることがわかり、少し身体を緊張させた。
「アリオス、あの車なの?」
「ああ。そうだ」
 彼女は、暗闇の中で車を目を凝らして見つめる。
 バイクとの車間距離はだんだん短くなっているようだ。
「・・・あの車を撃つの…?」
「ああ。ただし、リアタイヤだけだ。動けなくするだけだ。後の処理は他の者を来させる」
「私…、やろうか? 銃持ってるし…」
 今まで訓練では何度も銃を撃った事があったが、本番では初めてだった。
 だが、アリオスがバイクをうんてsんしている以上は、自分が撃つのが妥当であろうと、彼女は考えた。
 銃も、ちゃんと携帯している。
 だが----
「いや…、俺がする・・・」
 アリオスは低い声できっぱりといい、アンジェリークにはそれ以上言わせようとしなかった。

 おまえが銃を撃つのは、万が一の場合だけだ…。
 おまえに、何があろうとも、俺は実戦で撃たせる気はない…

 アリオスのこの気持ちを、アンジェリークは勿論知らない。

 私…、アリオスに信頼されてないのかな…

 そう考えるだけで、彼女の心は壊れそうになって、苦しくて…。
 その思いを振り払おうと、彼女はそっと瞳を閉じた。
 身体を密着させていれば、彼女が少し失望したのがわかる。

 アンジェリーク・…。
 おまえがいつか日のあたる場所に帰ったとき、普通の少女として生活が出来るように、俺はおまえの手を血で汚したくない。
 いつか…。
 それがおまえのためになる日が来る。
 だから…、今は何も言うな…。

 バイクから車の車間距離が、銃を使っても届くぎりぎりのところに来る。
 アリオスは、ジーンズに吊り下げたホルスターから、スミス&ウェッソン・ハイ・ビット357マグナムを取り出し、前方の車のリアタイヤを狙う。
 あたりは暗闇で、ほとんど街頭も付いてはいない。
 この暗さのなかで正確に打ち抜けるのは、並みの技量では無理である。
 アリオスの瞳はまるで狩りをする野獣そのもののように煌く。
 感情は湛えられず、その眼差しのみが不敵だ。
 彼はゆっくりとリアタイヤに銃の照準を合わせると、ゆっくりとそのトリガーを引いた---
 その瞬間、車はスピンし、横の樹のぶつかり、そのまま止まる。
 アリオスがしたのはただ車をとめただけ。
 彼はそのまま車の横を通り過ぎてゆく。
 これ以上の事をしない。
「ねえ、どうして車を停めるだけなの?」
 彼女にはわけがわからない。
「----泳がせねえとな、少し…」
 彼はそう呟くと、それ以上は何も答えなかった。
 二人の中に沈黙が訪れる。
 そのままバイクは暗闇の中を走りつづけた----

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 アリオスがバイクをつけたのは、MI6に程近い、高級アパートだった。
 有名俳優なども済んだことがある、由緒正しい場所だった。
 やはりそこのアパートメントも警備はしっかりしていたが、アンジェリークが済んでいたそこよりはいくらか劣っていた。
「行くぞ?」
「はい」
 今度は先ほどのように切羽詰ってはいない。
 そこでようやく、彼女は自分がパジャマ姿であることに気づき、赤面した。
「あ・・・、あの・・・、私…」
「心配すんな。誰も見ねえよ?」
「でも…」
「でももねえ、ほら、こい!」
 力強く言われると、従うしかなくて、彼女はアリオスの後をしぶしぶついていった。
 幸いなことに、彼の部屋に行くまでは、誰にも逢うことがなくて、内心ほっとした。
 部屋は電子ロックになっており、アリオスがそれを解除して、彼女は中に招き入れる。
「はいれよ?」
「はい」
 部屋はいたってシンプルだった。
 少しゆったりとしたLDK、書斎、そしてベットルーム。
 やあ式に比べると、まだここは幾分か暮らしの匂いがする。
「おまえは、今夜からここで暮らす。
 ----俺と一緒に」
 アンジェリークは思わずアリオスの顔を見つめる。

 こんな狭い場所で…、まるで同棲みたい…

TO BE CONTINUED・・・


コメント

エージェントアリオスの六回目です。
すみません…。
あまり話が進んでません(苦笑)
次回からはようやく派手に行かせて戴きます。