CHAPTER 5



 来やがったか・・・

 アリオスは、冷静にバックミラーを見つめながら、運転を続ける。
「アリオス、これは!?」
「やつらは意外に”おりこうさん”だということだ」
「え、きゃっ!」
 今日にアリオスがハンドルを切り、体がドアにあたってアンジェリークは悲鳴をあげる。
「いいか、逃げ切るからな? おまえも協力しろ?」
 アリオスの声はいつものように感情はなく冷静だったが、アンジェリークは落ち着いていられなくて、僅かに身体を震わせて頷く。
「よし、いいこだ」
 片手で栗色の髪を撫で付けられれば、彼女は不思議と落ち着いてくるのを感じた。

 アリオスの指先は、不思議・・・。
 私の気持ちを感嘆に鎮めてしまう、魔法の指だ・・・

 冷静に、後方のフェラーリとの車間距離を開けながら、アリオスはゆっくりとアクセルを踏む。
 だが、相手も巧者で、同じようにスピードを上げて、車間距離を保ってくる。

 この俺に追いついてくるということは・・・、あれは改造車だろう・・・。
 が、ここはロンドンの街中だ・・・。
 むやみに銃を使うことは出来ねえ。
 どこに車を入れるかだが・・・。

 不意にアリオスの目に道路標識が入る。
 郊外に向かう高速道路を案内している。
 彼はそれに向かってハンドルを切る。

 方向も都合がいい・・・。
 速やかに処理が出来るはずだ・・・。

 二台の車は、そのままロンドンの街をすり抜けて、高速へと乗る。
 
「アンジェ・・・」
「はい」
 その声は感情がなかったが、彼が彼女に協力を求めていることを、肌で感じる。
 張り詰めた緊張感が、車内を覆う。
「しっかりつかまってろ? 万が一のために、銃を用意しろ」
「判りました」
 アリオスは最後の手段に出る。
 改造を施された彼の車は、通常の車よりもかなりのスピードが出る。
 周りに対向車がいないことを確かめると、アリオスはアクセルを踏み始めた。
 アンジェリークも言われたように愛銃を用意する。
 BMWのスピードはどんどん加速し始めた。
 だが----
 フェラーリは離れるどころか着いて来る。
 しかも追いつこうとしている。

 あせってきたか・・・。
 やつらは手はださねえだろう・・・。
 恐らくはアンジェリークの生け捕りが目的だろうから・・・

 フェラーリはそのままアリオスのBMWに追いついてくると、車体をぶつけ始める。
 その衝撃に、アンジェリークは身体をすくませた。
 背中には冷たい汗を感じ、その冷たさに身体を震わせる。
 だが、アリオスは何も変わらない。
 いつものように涼しげな表情だ。
 車の流れが途切れる。
 今この場所にいるのは

 そろそろだな・・・

 突然、アリオスは、シートの下に手を伸ばして、45口径のショットガンを手にした。
「----俺の車を傷つけやがって・・・、おかえしだ」
 すぐさま彼は左手だけでトリガーに手を掛ける。
 標的を見てはいない。
 彼はあくまで前だけを見て、運転に集中しているかのように見える。
 ガチャリ。
 断層に弾丸がこめられる音がした。
 その瞬間----
 いとも簡単にトリガーは引かれた。
 そのまま、フェラーリの車体に命中し、スピンをして、車は中央分離帯へと激突し止まる。
 幸い、何の被害も起きない。
 そう、フェラーリ以外は。
 アリオスはバックミラーでフェラーリの様子を一瞥すると、そのまま車のスピードを加速させる。
 煙草を口にくわえながら、顔色を変えず、紫煙をくゆらせている。
 その横顔を見ながら、アンジェリークは不意に泣きたくなる。
 肩を震わせて、感情を押さえようとする彼女に、アリオスは冷たい眼差しを浴びせ掛ける。
「----私はこれからどうなるの・・・」
 呟かれた言葉は、苦悩に満ちている。
 彼女は顔を両手で覆い、栗色の髪を何度か揺らす。
「----やつを逮捕するまでは無理だ」
「・・・・そんなこと・・・いわれなくても判ってるわ・・・」
 しゃくりあげながら、彼女は恨みを含んだ眼差しを彼に向ける。
「感情は、全て押し殺せ・・・。
 俺はそう教えたはずだ・・・」
 凍りつくような冷たい声。
 アンジェリークは胸を鷲掴みにされるような痛みを覚えた。
「----出来ない!! そんなこと出来ない・・・!!」
「やらなければ、ならねえ。守るものを守りたいのであれば・・・」
 すっかり興奮状態に陥ったアンジェリークに、アリオスの一言は冷水のように浴びせかかる。
 彼女ははっとする。
 弟が気にかかる。
 彼女をおびき寄せるために、何度も襲われたマルセル。
「マルセルは・・・!? マルセルは!」
 彼の精悍な肩を、彼女は夢中になって揺らしていた。
「----案ずるな・・・。マルセルは無事だ。昼過ぎには、別の病院に転院させた・・・」
 大きな溜息をつき、アンジェリークはそのまま彼の胸に崩れ落ちた。

 よかった・・・。
 やかった、マルセル・・・

「・・・これから・・・、私はどうなるんですか?」
「取りあえずは、俺の屋敷で暮らせ。
 セキュリティも施してあるから、安心だ・・・。
 最初から、そうすればよかったんだが」

 アリオスの屋敷!?

 そう考えるだけで、アンジェリークは別の意味で鼓動が早くなるのを感じた。

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「そうか・・・。また殺られたのか、あの男に・・・。
 全く、あいつはどこまでも私の邪魔をする・・・。
 判った、又報告を持っている」
 薄暗い部屋で、男は報告の電話を切った。
 彼の表情は不気味さが蠢いている。

 あの男は懲りてはいないのか・・・。
 愛するものを奪われる苦しみを味あわせてやったというのに・・・。
 まだ必要に私を追いかけるのか・・・・。
 邪魔はさせぬ、絶対に。
 アンジェリーク・コレットを手に入れることを----
 エリスの後は、おまえ自身だ----
 0016、アリオス!!!

 男の眼差しが闇に無気味に光った----          

TO BE CONTINUED・・・


コメント

エージェントアリオスの五回目です。
カーチェイスだけで終わっちゃった(笑)
もっと活躍をさせたかったんですが(笑)
ショットガンはまあ、私の好みで使わせていただきました〜。