Siesta〜浅い眠り…〜

EPISODE 4


「おい!!」
 声を掛けられて振り返ってみると、そこには剣士の姿のアリオスが立っていた----

 私、また夢の中に来たんだ…

「いまから学校か?」
「そうよ」
 アンジェリークはカバンを見せて微笑んで見せる。
 小さなカバンの中には、たくさんの小説が入っている。
「今日の教科書にしては多くねえか?」
「学校の図書館に返しに行くの。私の唯一の楽しみなの」
「そうか」
 アリオスはほんの一瞬優しげな微笑を見せると、ひょいと少女のカバンを手に取った。
「送ってやるよ? 学校まで」
「でも…」
 口ごもる彼女に、彼は背中をぽんと叩く。
「おまえさんのボディガード代わりな?」
 この魅力的な剣士に逆らうことなんて出来やしない。
 アンジェリークはゆっくりと頷き、着いて来て貰う事にした。
「お願いします」
「こっちも散歩がてらにおまえさんと話したいしな? 楽しいしな?」
「またからかうんでしょう〜」
 口調は少し拗ねた感じだったが、その青緑の大きな眼差しは、きらきらと微笑みに輝いている。
「だが、おまえさんも大変だな? 午前中に学校にいって、その後は宿の手伝い。よる解放されてもまた本を読んで勉強か・・・」
「知ってたんですか?」
 驚いたようにアンジェリークはアリオスを見つめる。
 確かに、彼の異色の眼差しは、洞察力に長けていそうである。
「まあな」
「・・・私、先生になりたいんです…。
 だけど、先生になるのには、凄く勉強しないといけない…。だから、お手伝いをしながらも、一生懸命働いています。無理をして学校に行かせてくれているおばさんに感謝しなくっちゃ…」
「そうか…。頑張れよ?」
「はいっ!」
 アリオスの笑顔が、アンジェリークに取っては何よりもの、”元気の素”になる-----
 そのことを、まだこの少女は気がつかないでいた。



「…アンジェ、…アンジェ…アンジェリーク…!」
 聞きなれた声に、アンジェリークははっとして目をあけた。
 そこには親友のレイチェルがいて、心配そうに顔を覗き込んでいる。

 私…、”現実”に戻ってきたんだ…

 あたりを見れば、見慣れた学校の保健室のベッド。
 残念なような、少しほっとしたような、そんな複雑な気持ちになってしまう。
「…レイチェル…」
 身体を起こそうとすると、レイチェルが慌てて背中に手を当てて制した。
「ダメだよ!! 急に顔色無くして倒れるから、びっくりしたんだから!!」
「でも、いまは平気なのよ?」
 笑って見せたところで、カーテンが開いた。
「アンジェ、気分はどうだ?」
 そこには、少し冷たい眼差しを持つ兄のアリオスが立っており、彼女をじっと探るように見ている。
「お兄ちゃん…」
 少し驚いたようにアンジェリークが名前を呼ぶと、レイチェルが軽く手を合わせて謝ってくる。
「ごめん! アナタのお兄さんが医者ということ思い出して、心配だから、一応携帯に電話をかけたの!
 アナタの携帯で…」
 兄がここにいる理由を、アンジェリークはようやく理解することが出来た。
 少し申しわけなくて、だけど兄に逢えるのは嬉しくて。

 今朝も会ったのに、これから等分は毎日会えるのに、私はいつでもお兄ちゃんに会いたくて堪らなくなっている・・・。
 こんな感情、もってはいけないことだって判っているのに、私は…。

「おい、気分はどうだ?」
 再び訊かれてアンジェリークははっとする。
「もう随分良くなってるわ、有難う…」
 さりげなく兄に、額に手を当てられる。
 たったそれだけの行為なのに、アンジェリークは頬を真っ赤にしてしまった。
「大丈夫だな」
「…うん…」
兄の手が離れていくのと同時に、アンジェリークは胸が甘く苦しくなるのを感じる。
「俺の仕事はもう済んだから、車で家に帰るぞ」
「うん・・・」
 何も言わないが、きっと兄のことであるから、仕事を早めに切り上げてくれたのだろう。
 それがアンジェリークには何よりも嬉しかった。
「先生には早退するって、アリオスさんが言ってくれたからネ! 今日はしっかりと休むんだよ!」
「うん」
 アンジェリークが身体を起こし、ベッドから降りると、カバンを持ったアリオスが、保健医に挨拶にいってくれた。
「お世話になりました」
 アリオスが軽く会釈をすると、保健医の教諭は少し頬を赤らめる。
「行くぞ、アンジェ」
「あっ、有り難うございました!」
 慌てて挨拶を済ませると、アンジェリークはアリオスの後に付いていった。
 兄の広く精悍な背中を見ながら、アンジェリークはさらに切なくなってしまう。

 こうやってカバンを持ってもらうのは、夢の中と同じ…。
 ただ夢の中と違うことは、お兄ちゃんが”兄”という事実だけ…。
 -----だけど、私知ってるんだ…。
 お兄ちゃんが本当のお兄ちゃんじゃないことを-----

 不意にアリオスが振り返り、アンジェリークを見つめる。
「気分が悪かったら言えよ、アンジェ?」
「うん…」
 優しくされると、それが兄のものであるということはわかっているのに、少しだけ期待をもってしまう。

 何度見る同じ夢…。
 これは何か先のことを私に教えているの?
 それとも-----

 そこまで考えて、アンジェリークは立ち止まる。

 お兄ちゃんに訊いてみる必要が、あるかもしれない-----
 同じ夢をみているかを…
 
コメント

AMEDEOさまから出ている「Siesta〜すすき野原の夢物語」の、涼×里緒の、アリ×コレVerです。
この二人の設定が萌えで、またまた創作をふやす結果に(笑)
アンジェちゃんは少しずつアリオスの思いを認めているみたいですね〜。
これから二人はもっと・・・です。

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