兄の横に小さくなって座り、アンジェリークはちらりと彼を見た。 相変わらずのポーカーフェイスで、厳しいことには変わりない。 「・・・気分が悪くなったら言えよ」 「うん、気分は悪くないんだけど・・・ 」少し口ごもりながら、アンジェリークは歯切れ悪く答えた。 「悪くないなら何だ」 お兄ちゃん怒ってる!! アリオスの苛立たしげな声に、アンジェリークは更に身体を小さくさせた。 「・・・だって急に眠くなるんだもん・・・。自分じゃ押さえ切れなくって・・・」 ごにょごにょと口ごもって言う彼女に、アリオスはほんの少し安心したように広角を上げた。 「それはおまえの”ぐうたら病”だろ? 今日から八時に寝ろ」 「そっ、そんなことないもんっ! だっていつも同じ夢をみるし、お兄ちゃんが剣士で、私が宿屋の娘で!」 刹那、アリオスの表情ははっとしたような複雑な表情になった。 「クッ、俺が”剣士”だ!? やっぱりおまえおもしれーな? 一度精神科のサンプルでその夢の話を聴かせてもらうぜ?」 「もう、アリオスお兄ちゃんのバカ!」 頬を大きく膨らまし、アンジェリークは横を向く。 いつものようにからかう兄が、アンジェリークには少し癪に触る。 「とにかく、今日は何もしなくていいからな。ゆっくりと休め」 「うん」 煙草を片手に運転する兄を見つめる。 本当は吸いたいのだろうが、火も付けずに持っているだけのアリオスに、甘い心を抱いてしまう。 お兄ちゃん…。 あなたと私が”血”の繋がっていないことを、私が知っているなんて、思っていないでしょう? 昔は、それが嫌だったけど・・・、今はそれを感謝してる・・・。 兄の横顔を見つめてみる。 そこからはかつてアンジェリークが知っていた少年の面影はなく、大人の魅力がアンジェリークを誘っている。 昔からお兄ちゃんは素敵だったけど、今はもっと素敵になってる。 車の中という閉じ込められた空間の中で、とても密接に兄を感じる。 切なくて、苦しくて、アンジェリークは俯いた。 「どうした? 気分は悪いのか?」 声を掛けられ、彼女はハッとする。 「大丈夫」 「だな。とにかく今夜は早く寝ろ。何だったら俺が子守歌を歌ってやるぜ?」 「もうっ!」 頬を不機嫌そうに膨らます妹に、彼は笑った。 家に着くと、すぐさまベッドで寝ることを命令された。 「眠くないから手伝えるもん」 「いいから今日は寝てろ。たっぷり寝たら眠り病から開放されるぜ?」 無理やりベッドに寝かされて、アンジェリークは口を尖らせる。 「そんなことしたら、ガキっぽく見えるぞ」 笑いながら頭を撫でると、アリオスはドアに向かった。 そうやって、お兄ちゃんはいつでも私を子供扱いをする・・・。 私はもう17なのに・・・。大人なのに・・・。 「お兄ちゃん、私・・・、子供じゃないよ」 ぽつりと言ったアンジェリークの言葉に、アリオスは一度だけ立ち止まった。 「寝ろ」 「うん・・・」 冷たい声。 ドアを閉められた時、アンジェリークは全てを否定されたような気がした。 アンジェリークは、どうしようもなく哀しくなり、涙が零れてしまう。 神様、私はアリオスお兄ちゃんがどうしようもないほど好きです・・・。 どうしていいのか、判りません・・・。 また、ドアの前でもアリオスが深い溜め息を吐く。 おまえが子供じゃねえことぐらい、十分すぎるほど判っている。 だからこそ距離を置かなきゃならねえ・・・。 このままだと俺は・・・。 アリオスは苦しげに俯くと、階段を降りていった。 夕食はアリオスお手製のチャーハンと中華スープだった。 アンジェリークの食欲もあるということだったのでこのメニューになったのだ。 「お兄ちゃんやっぱりお料理上手!!」 「一人暮らしが長けりゃおまえだって上手くなる」 「私はママに仕込まれたから上手よ」 「胃薬手に入れたら食ってやるよ?」 「もう!」 いつものようにじゃれあう二人。 アンジェリークにはこれが心地よく利、同時に、胸が締め付けられる。 兄と妹のままだったら、私は一生おにいちゃんにかかわりを持つことが出来る・・・ だけど「男と女」だったら…。 だけど私はそっちを求めているのかもしれない----- 楽しく夕食を終えた後は、アリオスが片付けも行ってくれた。 片付けといってもアンジェリークの家には食器洗い乾燥機があるので、そこに入れれば勝手に洗ってくれるのだが。 アリオスが片付けをする間も、アンジェリークはキッチンにいた。 なんだか離れがたい。 一秒でも長く好きな人のそばにいたいと思うのは、恋するオトメなら誰もが願うことである。 片付け終わったら、おにいちゃんともっと話したい… そう考えながらも睡魔が襲ってきて、アンジェリークはうつらうつらとしていた。 「おい、片付けも終わったから風呂に…」 アリオスが声をかけると、既にアンジェリークはテーブルに突っ伏して寝ていた。 「おい、こら、風邪を引くぞ」 何度か幼さを残した柔らかな頬を叩くが、アンジェリークは一向に起きない。 「しょうがねえな」 ふっと笑うと、アリオスはアンジェリークを抱き上げて彼女の部屋へと連れて行くことにした。 「重くなったな…」 その言葉はなつかしさと少し切なさが入り混じっている。 ガキだと思ってたおまえがこんなに大人の女になっちまってるなんてな… ゆっくりとアリオスは二階に上がる。 肌の暖かさ。 そして彼を誘う”女”としてのアンジェリークの香りが苦しくさせる。 アンジェリークは意識をうつらうつらとしていた。 お兄ちゃん? お兄ちゃんが抱き上げてくれているの・・・? その心地はまるでゆりかごのようで、アンジェリークは再び心地よい眠りに意識を預けていく。 遠い意識のところで、強くアリオスの腕に力が入ったのがわかった。 アンジェ 放したくなかった。 切ない想いがアリオスの腕に力を込めさせる。 -----おまえを妹だと思ったことは一度もない… 柔らかな頬に、彼は唇を押し当てた----- |
| コメント AMEDEOさまから出ている「Siesta〜すすき野原の夢物語」の、涼×里緒の、アリ×コレVerです。 この二人の設定が萌えで、またまた創作をふやす結果に(笑) これから二人は、自分の想いと戦っていきます〜 |