Siesta〜浅い眠り…〜

EPISODE 3


「アリオスお兄ちゃん、先にお風呂に入って?」
「判った。使わせてもらうぜ?」
「うん、どうぞ」
 ダイニングから出ていくアリオスを見つめながら、アンジェリークは切ない溜め息をひとつ吐く。

 お兄ちゃん、凄く素敵になったな・・・。
 私なんか釣り合わないくらいに・・・。
 何だか素敵すぎてどきどきする・・・。

 うつらうつらとしながら、アンジェリークは夢の世界に入っていった-----




「ぼっとしてんじゃねえぞ、こら」
 魅力的だが、怒っていそうな声に、アンジェリークはおそるおそる振り返った。

 アリオスお兄ちゃん〜!!!

 そこには、剣士姿のアリオスが、不機嫌そうに立っている。
「あっ、あの・・・」
「この先の宿屋に行きたいんだが、おまえが邪魔で通れねえ。通してくれ」
「あっ、はいっ!」
 素早く身体を空けると、青年はすっと横を通り抜ける。
「サンキュ」
 青年から目を離すことができずに、アンジェリークは目で追ってしまった。
 その後ろを、ぱたぱたと変わった感じの子犬が着いていく。
「行くぞ、アル」
 長いスタンスが印象的な青年だった。

 どうしてアリオスお兄ちゃんとアルフォンシアが・・・。




「・・・ジェ、・・・ンジェ・・・、アンジェ!」
 何度か名前を呼ばれて、アンジェリークは、ようやく現実に引き戻された。
 目覚めた瞬間、目の前にあったのは・・・。
「アリオスお兄ちゃん!!!」
 シャワーを浴びた後で、銀の髪が艶やかなアリオスが顔を覗きこんでいた。
「こら、疲れているのは判るが、さっさと風呂に入れ」
「・・・うん・・・」
 兄の余りにもの艶やかさに、アンジェリークはドキリとしながら、身体を起こす。
 艶やかな兄は、十分すぎるほど大人の男の雰囲気を醸し出していた。
「お風呂入ってくる」
「途中で居眠りするなよ?」
 からかう兄の瞳がまともに見ることができない。
「うん・・・」
 息が甘く切なく苦しくなるのを感じながら、アンジェリークはぱたぱたとバスルームへと向かった。
 アリオスもまた、切なく限りのある瞳をアンジェリークに向ける。

 参った・・・。
 ついこの間までガキだと思っていたのに、あいつはもう”女”になっちまっている・・・。
 このままでは、もう、自分を抑えきれなくなっている・・・。
 さっきもこの腕に抱き締めたかった・・・。
 ガキの頃から、あいつしか見ていない・・・。
 深い戒めと秘密を抱えて・・・。


 湯船に浸かりながら、アンジェリークは疲れを癒すかのように、大きな溜め息をひとつ吐いた。

 ドキッとした・・・。お兄ちゃんあんなに素敵だったんだ・・・。
 アリオスお兄ちゃんを”兄”だと紹介する度に、友達はみんな、うっとりと見る。
 それが誇らしくもあり、ちょっぴり妬けてしまう・・・。
 お兄ちゃんが遠くに行ってしまうような気がして・・・。

 湯船から上がると、アンジェリークは手早くパジャマに着替え、部屋に戻る。
 おやすみを言うのが何だか照れくさいような気がして言いに行けなかった。
 髪をがしがしと乾かした後、再び睡魔に襲われてしまう。

 どうしてこんなに眠いのかしら・・・。

 そのまま、ベッドに倒れるようにして眠りこみ、
 夢の世界に引きずり込まれた-----




「おまえ、ここの宿の娘だったのかよ」
「あ、一応・・・」
 家に帰ってみると、そこには先程の剣士と子犬がいた。
 どうも夢の中の自分は宿屋の娘のようだ。
 アンジェリークは違和感を感じながらも、それに無意識に溶け込もうとしている。
「あなたは旅の方なの?」
「ああ、剣の修行であちこち回っている。こいつを相棒にな?」
 一瞬、優しそうな表情をすると、子犬の頭を撫でた。
「こんなちいさな子を?」
「使えるんだぜ? こいつ」
 そこまで信頼されているこの子犬が羨ましく思いながら、アンジェリークはヒマワリのように笑う。
「頼もしいものね?」
「まあな」

 そう言えば、お兄ちゃんも、家にいる頃は、アルを凄く可愛がってくれてたな・・・。

「私はアンジェリーク。あなたは?」
「アリオスだ。アンージェリーク」

 えっ!? お兄ちゃんと同じ!?
 ふっと艶やかな笑顔と同時に、目の前が暗転した-----



 目を開ければ、既に朝の光に包まれている。

 同じ夢を続けて見るなんて・・・。

 今までこんな経験をしたことがなくて、アンジェリークは不思議な感じがしてしまう。

 きっと気のせいなのよ…。
 お兄ちゃんが帰ってきて嬉しかったから、こんな夢を見たのよ…

 アンジェリ―クは自分に言い聞かせると、身支度を整えて、キッチンへと下りた。
 まだ、アリオスがおきてきていないのにほっとしながら、二人分の朝食と自分のお弁当を手早く作る。
 そうしているうちに、アリオスがキッチンに来て、朝食となった。
「おまえ、まともに出来たんだな?」
「もうからかって!!」
 いつもと違って、心が満たされた朝のような気がする。
 からかわれることでも、アンジェリークにとっては凄く嬉しいことだった。
 じっとアリオスを観察してみる。
 出勤姿はスーツのようで、やはり、とても艶やかに見える。

 よく見ると本当にカッコいい・・・。
 夢の中の剣士姿もよかったけど…

「ん? 何だ?」
 突然言われて、アンジェリークは身体をびくりとさせる。
「な、なんでもない…」
 はにかむように言うと、アリオスはただ意味深に笑うだけだった。
 その笑顔に翻弄されながら、胸の鼓動が高まり、落ち着かない彼女である。
 結局、朝食を済ませて逃げるように家を出たのは、アンジェリークだった。
 そこにいれば、甘い息苦しさに耐えられなかったからである。


 -----結局、学校にいても、妙に落ち着かない。
 学校の裏の病院が見えるたび、そこで勤める兄のことを思い浮かべてしまうからである。

 お兄ちゃん…。
 今ごろ診察しているんだろうな…

「コレット、次を読め」
「あ、はいっ!」
 突然指名されてアンジェリークはあたふたと椅子から立ち上がった。
 だが----

 あれ…

 頭がくらくらして、周りの景色が回転する。
 そのまま床の上にばたりと力を無くして倒れこむ。
 突然あたりが真っ暗になり、引きずられていくかのように、アンジェリークは深く目を閉じた------
コメント

AMEDEOさまから出ている「Siesta〜すすき野原の夢物語」の、涼×里緒の、アリ×コレVerです。
この二人の設定が萌えで、またまた創作をふやす結果に(笑)
夢を絡めながら、二人の試練を描いていきます〜

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