「アンジェ」 アンジェリークは、なつかしくて、嬉しくて、思わず子供のようにアリオスに抱きついた。 「おかえりなさい!」 「おい、よっつのガキじゃねえんだからな?」 アリオスはフッと優しげな微笑を浮かべながら、柔らかな優しい温もりを受け止めた。 「だって、この間帰ってきたのはお正月! もう今は春じゃない〜。お兄ちゃんに凄く逢いたかったんだから!!」 「仕事が忙しかったからな? 許せよ?」 満面の笑顔でアンジェリークは頷くと、アリオスを明るい眼差しで見上げる。 「お兄ちゃん、今日はどうして?」 「親父とお袋が、海外に行くから心配だと、俺にここに住めと言ってきた。荷物は明日、届く。 -----って言っても、実家だから、そんなにねえけど」 途端に、彼女は兄に強く抱きついて、無邪気にもその柔らかな肢体を精悍な彼の体に押し付けてきた。 「嬉しい〜!!!!」 アリオスの胸に顔を埋めた瞬間、アンジェリークは胸の奥が切なくなるのを感じた。 煙草と消毒薬の香り----- そして、男らしい彼特有の”匂い”。 それらが交じり合って鼻腔を刺激し、彼女は甘い苦しみを感じ、思わず、顔をあげてしまう。 一瞬、二人の目が合う。 「こら、離れろ? おまえはいつまでたっても、お子様だな」 笑いながらアリオスは言うと、すっと、アンジェリークの身体を離す。 表情は笑ってはいたが、その目は少し苦しげな光をたたえている。 お兄ちゃん…? 一瞬、アンジェリークは、兄の瞳に浮かぶ色が、哀しげに見え、表情を曇らせた。 「ほら、突っ立ってねえで着替えて来い。夕メシは俺が適当に作っといてやるからな」 まるで子供にそうするかのように、アンジェリークの癖のない肩までの髪を優しく撫でる。 「うん、着替えたら、私も手伝うわ」 キッチンへと向かう兄の背中を見送りながら、アンジェリークは少しだけ、切ない気分になった。 私・・・もうそんな子供じゃないよ…? アリオスお兄ちゃん…。 彼に知られないように、溜息を一回吐くと、アンジェリークは二階の自分の部屋に上がって行った 部屋に入り、アンジェリークは制服を脱いで手早くセーターに着替えると、また一つ、切なく溜息を吐く。 アリオスお兄ちゃんが家を出て、もうかれこれ12年か…。 一緒に遊んでもらったことをうっすらと覚えている。 それからおにいちゃんは、学生のときは寮が閉鎖になる休みのときだけ。 お医者さんになってしまうと、 今度は、お盆とお正月にしか帰ってきてくれない…。 -----そんなお兄ちゃんと暮らす…。 楽しみと、そして…。 アンジェリークは、そっと自分の胸に手を当てる。 どこかこの胸が切ない・・・。 この気持ちをどうしたらいいの・・・? アンジェリークは、深呼吸を一度すると、キッチンへと下りていった。 「上手いもんだな?」 「でしょ? これでもお料理だけは自信あるの」 アンジェリークは、手早く、サラダ用のドレッシングを作り、それをガラスのボウルに盛ったサラダに掛ける。 「明日からは、ご飯は私が作るからね? お兄ちゃんは色々と忙しいでしょう?」 「サンキュ。だが、俺もなるべく手伝うからな?」 アリオスも、妹の手際のよさに感心しながら、愛しげに、まるで見守るように見つめていた。 「有難う」 上機嫌に、彼女は鼻歌すら出しながら、テーブルをセッティングする。 まるで新婚みたい… -----今、私、何て…。 アンジェリークは自分の考えに、真っ赤になってしない、兄に知れないように、顔を隠すように俯いてしまった。 「ほら、後は、俺がやっておくから、おまえは席に座っておけ」 「うん」 顔を見られないように頷いて、アンジェリークは席へと座った。 それから暫くして、アリオス特製のパスタが食卓に並ぶ。 それは見た目からして、レストランのものよりも美味しそうで、アンジェリークは内心負けたとすら思ってしまう。 「ほら、食えよ?」 「うん!」 アリオスは、ビールを片手に席に座ると、アンジェリークにもお茶を出してやる。 「ほら乾杯だ。同居にな?」 「ふふ。お兄ちゃん。お兄ちゃんはうちに帰ってきただけでしょう? 同居とは言わないわ?」 「だな」 二人は、互いに、温かな微笑を浮かびあいながら、缶の容器を軽く当てあった。 これから、お兄ちゃんと仲良く出来ますように…。 そして…。 お兄ちゃんと暮らす日々がこのまま続けばいいのに… アンジェリークは、アリオスをじっと見つめる。 逢う度に魅力的になり、胸の苦しさが深くなる。 「ほら食え」 「うん、いただきます〜」 口に入れたパスタは、とてもまろやかな味で、同時に、切ない味にもなる。 コレを誰かに作ってあげたことはあるの? 私だけに、優しくして欲しいって思うのは我儘なの・・・? アンジェリークはまだ気がつかない。 無意識に兄に”恋心”をいだいているということを----- |
| コメント AMEDEOさまから出ている「Siesta〜すすき野原の夢物語」の、涼×里緒の、アリ×コレVerです。 この二人の設定が萌えで、またまた創作をふやす結果に(笑) 今回は再開ご飯編です。 これから本編に入っていきます〜 |