Siesta〜浅い眠り…〜

EPISODE 2


「アンジェ」
 アンジェリークは、なつかしくて、嬉しくて、思わず子供のようにアリオスに抱きついた。
「おかえりなさい!」
「おい、よっつのガキじゃねえんだからな?」
 アリオスはフッと優しげな微笑を浮かべながら、柔らかな優しい温もりを受け止めた。
「だって、この間帰ってきたのはお正月! もう今は春じゃない〜。お兄ちゃんに凄く逢いたかったんだから!!」
「仕事が忙しかったからな? 許せよ?」
 満面の笑顔でアンジェリークは頷くと、アリオスを明るい眼差しで見上げる。
「お兄ちゃん、今日はどうして?」
「親父とお袋が、海外に行くから心配だと、俺にここに住めと言ってきた。荷物は明日、届く。
 -----って言っても、実家だから、そんなにねえけど」
 途端に、彼女は兄に強く抱きついて、無邪気にもその柔らかな肢体を精悍な彼の体に押し付けてきた。
「嬉しい〜!!!!」
 アリオスの胸に顔を埋めた瞬間、アンジェリークは胸の奥が切なくなるのを感じた。
 煙草と消毒薬の香り-----
 そして、男らしい彼特有の”匂い”。
 それらが交じり合って鼻腔を刺激し、彼女は甘い苦しみを感じ、思わず、顔をあげてしまう。
 一瞬、二人の目が合う。
「こら、離れろ? おまえはいつまでたっても、お子様だな」
 笑いながらアリオスは言うと、すっと、アンジェリークの身体を離す。
 表情は笑ってはいたが、その目は少し苦しげな光をたたえている。

お兄ちゃん…?

 一瞬、アンジェリークは、兄の瞳に浮かぶ色が、哀しげに見え、表情を曇らせた。
「ほら、突っ立ってねえで着替えて来い。夕メシは俺が適当に作っといてやるからな」
 まるで子供にそうするかのように、アンジェリークの癖のない肩までの髪を優しく撫でる。
「うん、着替えたら、私も手伝うわ」
 キッチンへと向かう兄の背中を見送りながら、アンジェリークは少しだけ、切ない気分になった。

 私・・・もうそんな子供じゃないよ…?
 アリオスお兄ちゃん…。

 彼に知られないように、溜息を一回吐くと、アンジェリークは二階の自分の部屋に上がって行った
 部屋に入り、アンジェリークは制服を脱いで手早くセーターに着替えると、また一つ、切なく溜息を吐く。

 アリオスお兄ちゃんが家を出て、もうかれこれ12年か…。
 一緒に遊んでもらったことをうっすらと覚えている。
 それからおにいちゃんは、学生のときは寮が閉鎖になる休みのときだけ。
 お医者さんになってしまうと、 今度は、お盆とお正月にしか帰ってきてくれない…。
 -----そんなお兄ちゃんと暮らす…。
 楽しみと、そして…。

 アンジェリークは、そっと自分の胸に手を当てる。

 どこかこの胸が切ない・・・。
 この気持ちをどうしたらいいの・・・?

 アンジェリークは、深呼吸を一度すると、キッチンへと下りていった。


「上手いもんだな?」
「でしょ? これでもお料理だけは自信あるの」
 アンジェリークは、手早く、サラダ用のドレッシングを作り、それをガラスのボウルに盛ったサラダに掛ける。
「明日からは、ご飯は私が作るからね? お兄ちゃんは色々と忙しいでしょう?」
「サンキュ。だが、俺もなるべく手伝うからな?」
 アリオスも、妹の手際のよさに感心しながら、愛しげに、まるで見守るように見つめていた。
「有難う」
 上機嫌に、彼女は鼻歌すら出しながら、テーブルをセッティングする。

 まるで新婚みたい…
 -----今、私、何て…。

 アンジェリークは自分の考えに、真っ赤になってしない、兄に知れないように、顔を隠すように俯いてしまった。
「ほら、後は、俺がやっておくから、おまえは席に座っておけ」
「うん」
 顔を見られないように頷いて、アンジェリークは席へと座った。
 それから暫くして、アリオス特製のパスタが食卓に並ぶ。
 それは見た目からして、レストランのものよりも美味しそうで、アンジェリークは内心負けたとすら思ってしまう。
「ほら、食えよ?」
「うん!」
 アリオスは、ビールを片手に席に座ると、アンジェリークにもお茶を出してやる。
「ほら乾杯だ。同居にな?」
「ふふ。お兄ちゃん。お兄ちゃんはうちに帰ってきただけでしょう? 同居とは言わないわ?」
「だな」
 二人は、互いに、温かな微笑を浮かびあいながら、缶の容器を軽く当てあった。

 これから、お兄ちゃんと仲良く出来ますように…。
 そして…。
 お兄ちゃんと暮らす日々がこのまま続けばいいのに…

 アンジェリークは、アリオスをじっと見つめる。
 逢う度に魅力的になり、胸の苦しさが深くなる。

「ほら食え」
「うん、いただきます〜」
 口に入れたパスタは、とてもまろやかな味で、同時に、切ない味にもなる。

 コレを誰かに作ってあげたことはあるの?
 私だけに、優しくして欲しいって思うのは我儘なの・・・?

 アンジェリークはまだ気がつかない。
 無意識に兄に”恋心”をいだいているということを-----   
コメント

AMEDEOさまから出ている「Siesta〜すすき野原の夢物語」の、涼×里緒の、アリ×コレVerです。
この二人の設定が萌えで、またまた創作をふやす結果に(笑)
今回は再開ご飯編です。
これから本編に入っていきます〜

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