Siesta〜浅い眠り…〜

EPISODE 1


「アンジェ、今日からお兄ちゃんは、寮のある学校に行く。おまえとは、長い休みにしか逢えなくなるが、いい子にしてるんだぞ?」
「え!? どうして!? お兄ちゃんアンジェが嫌いになったの!?」
 小さな、小さなアンジェリークは、大きな青緑の瞳に涙を浮かべながら、兄であるアリオスのシャツの裾をしっかりと握った。
 いちど言い出したら聞かない妹-----
 アリオスは、小さな彼だけの”女王様”に苦笑すると、小さな身体を抱き上げる。
「アンジェ、赤ちゃんじゃないもん・・・!!」
「アンジェ」
 頬を膨らませながら、ばたばたと暴れる妹に、アリオスは優しい眼差しを向けていた。
「アンジェ、機嫌を直してくれ?」
 優しい異色の眼差しをアリオスは向けると、アンジェリークは僅かに胸を引き攣らせながら、彼を見つめる。
「-----どこにも行っちゃイヤだ…、アリオスお兄ちゃん」
「アンジェ」
 言い聞かせるかのように、アリオスはじっと幼い妹の目を見つめる。
「お兄ちゃんはこれから一生懸命勉強をして、お医者さんになるのが夢だ。
 それには、いっぱい頑張るために学校に行かなきゃならねえ。
 その学校はとっても遠いんだ。だから離れないとだめだ。
 休みにはちゃんと帰ってくるから、お兄ちゃんを、待っててくれ?」
 優しい兄の笑顔。
 いつも、いつも傍にいて、気がついたら、見守ってくれていた兄。
 アンジェリークは、兄の真摯なお願いに、鼻を啜りながら、何とか頷いた。
「-----判った…。
 お兄ちゃんちゃんと帰ってきてね? 絶対よ? アンジェと”約束”して?」
「ああ。約束する」
 愛しくも可愛い妹にしっかりと頷いてやると、アリオスは彼女をそっと降ろす。
「ぱふぱふ!!」
 泣いて我儘にも犬を欲しがったアンジェリークの為に、アリオスが貰ってきてくれた、子犬のアルフォンシアが尻尾を振って駈けて来た。
「俺がいない間、ちゃんとアルフォンシアの面倒をみてくれよ?」
 くしゃりとアリオスは、アンジェリークの栗色の髪をくしゃりと撫でてやる。
 その手の暖かさが、アンジェリークには何よりも心地が良かった。
「うん、がんばる!」 
 先ほどまで泣いていたのに、アンジェリークはもう笑っていた。
 アリオスとは、11も歳の離れた末っ子ということもあり、大変、甘えん坊に育っているのだが、特に、兄アリオスの前では、いつも、いつも甘えていた。
 いつもアリオスの後を追い、彼の言うことだけはきちんと聞いていた。
 そのせいか、わがままを言っても、アリオスに説得をされて、いつも素直に聞き入れる。
 今日のように。
「お兄ちゃん! だから…、だからね? 早く帰ってきて?」
 一生懸命、”哀しい”のを我慢して、アンジェリークはアリオスに健気に言った。
「ああ、頼んだぜ?」
 兄の笑顔が、アンジェリークにはやけに眩しかった-----

 アリオス18歳、アンジェリーク6歳の春であった-----



「ンン・・・」
 何度も目覚ましの音がする。
 アンジェリークは手を伸ばして目覚ましを掴むと、その時間を確認する。
「あ、6時30分か…。今日から、一人でやんなくっちゃならないんだった…」
 アンジェリークはごそごそとおき始めて、手早く身支度をすると、キッチンに向かって下りていく。
 今日から一人-----
 父親が海外赴任になり、昨日、海外へと二人が向かったのだ。
 アンジェリークは、学校のために、一人で家に残ることになり、今日から自分のことは何でもしなくてはならない。
「おはよう! アルフォンシア!」
「ぱふぱふ!!」
 今年で9歳になるアルフォンシアは、かつてのいきおいはなく、すっかり落ち着いていた。
 アンジェリークに甘え、えさを貰うのが彼の日課。
 アリオスが休みに帰ってきたときは、それを彼が行っていたが、大学を出、医師免許を得た今となっては、家には余り帰ってこなくなった。
「アル…」
 アンジェリークは、アルフォンシアをそっと撫でてやる。

 アル…。
 あなたを見ていると、いつもアリオスお兄ちゃんを思い出す…。
 一人になった朝に、お兄ちゃんの夢を見るなんて・・・。
 コレって偶然…?

 久しぶりに見た、兄との夢。
 どこか懐かしくて切ない。
 アンジェリークは、甘い吐息を一度だけ吐いた----- 



 ばたばたと学校の帰りスーパーによって、アンジェリークは慌てて家に帰る。

 早く帰って、アルフォンシアにえさを上げなくっちゃ!!

 家の門を開けて、中に入り、鍵を開けようとした瞬間。
「わんっ!!!」
 嬉しそうにアルフォンシアがドアから出てきて、アンジェリークに飛び掛っていく。
「あ、アル!?」
 困惑したアンジェリークの声を尻目に、玄関からなつかしい声が聞こえてきた。
「おい、アル、嬉しいからって、アンジェそんなに勢いよく飛びつくなよ?」
 アンジェリークは信じられない。
 その声に導かれるかのように、じっと奥を見ていると、そこから、兄のアリオスが顔をだしてきた。
 何年ぶりだろうか?
 記憶にあるよりも、更に艶やかになって、アリオスが目の前に現れた。
「お兄ちゃん!!!」
コメント

AMEDEOさまから出ている「Siesta〜すすき野原の夢物語」の、涼×里緒の、アリ×コレVerです。
この二人の設定が萌えで、またまた創作をふやす結果に(笑)
ゲームとは途中で流れは外れてしまうかもしれませんが、宜しくお願いいたします。

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