Shadow Of Your Smile


 家に帰り、夕食を作っている間も、アンジェリークはアリオスの影を消すことが出来ない。
「悪い男性だし、私の敵なのに・・・」
 悪い印象を思い出そうとしているのに、思い浮かぶのは、彼の温かなイメージばかりだ。
 助けてくれたことや、優しくしてもらったこと、楽しかったことなど、どれもプラスのイメージ。
「敵だもん! ダメ! アンジェ!」
 自分に言い聞かせるように何度も言うものの、どうしても出来やしなかった。

 アリオスの影がちらつくなか食事をし、後片付けをした後、パソコンを立ち上げる。
 いつも楽しみにしている時間だ。
 メールチェックをすると、「狼」から素早いメールが来ており、アンジェリークはとても温かな気分になった。

 ”今日はとても温かな気分になった。
 素直な気持ちに久し振りになれたかもしれない。
 俺は別に見返りとか気にするタイプじゃねえけど、したいことをして礼を言われるのはとても気分が良い。
 ところで、”偏見と傲慢”を読ませてもらった。
 現代小説の礎になった作品という意味で、堪能させてもらった。
 また何かお勧めの本があれば教えてくれ。
 狼”

 短くても長くても、狼のメールは心が休まる。
 アンジェリークは、何度も読み返した後、彼に返事をした。

 ”こんにちは、栗猫です。
 今日は少しご相談したいと思っています。
 私は今、闘いの渦中にいます。
 実際に闘いが始まったわけではまだありませんが、その準備をしなければなりません。
 正直言って、勝てる見込みはほとんどないと思うほどです。
 それだけ相手の力は強いのです。具体的には言えませんが、力の差がある場合はどうすれば良いでしょうか。
 うちには私を含めて三人しかいませんが、それでも大きな敵を相手にした時の、何かコツがあれば、教えて下さい。
 栗猫”

 アンジェリークはそこまで書くと、メールの送信をした。
 狼なら何だか良い知恵を持っていそうだし、素直に彼の考えを参考に出来るような気がしたから。
 送信してすぐに、”相手がオンラインでメッセージのダイレクトなやり取りを望んでいます。繋ぎますか?”
 なんと、直接狼が、画面上だが話したいと言ってきてくれたのだ。
 アンジェリークは、もちろんラインを繋いだ。

 ”こんばんは、狼さん”

 ”こんばんは。ちょっと気になったので、メールよりこの方法が良い気がしたから”

”有り難う”

 彼女は素直に礼を言うと、その気持ちに感謝していた。

 ”大きな敵に対峙したければ、知恵を絞れば何とかなる。
 どのような状況か、だいたいは判った。
 まず三人の結束を強化すること。
 そしてそこから派生する人の輪を最大源に利用するといい。
 味方を少しずつ増やしていけば、必ず大きな力になる。
 決して怯むな。相手に立ち向かって、堂々とやり合えばいい。
 闘いの精神は、「ゴッドファーザー」を参考にするといい”

 これにはアンジェリークも微笑んでしまう。
 本当にすぐ近くで狼に励ましてもらっているような気がして、勇気が出てきた。

 ”頑張ります。精一杯。励ましてくれてどうも有り難う。
 「ゴッドファーザー」も見て、頑張ります!”

 返ってきた言葉が、実に栗猫らしいと、アリオスは微笑まずにはいられない。

 ”俺はこんなことでしか、役に立てねえが、何かあればいつでも言ってくれたらいい。
 仕事が忙しくて、直接力にはなれねえが、おまえと共に頑張っているから。
 いつも俺だけは味方だから”

 狼のメールに、胸が熱くなる。
 心が満たされて、言いようのない幸福感を感じていた。

 ”有り難う。これで頑張れます”

 言葉だけでは上手く気持ちが伝えられないかもしれない。
 だが、心も乗せて送信ボタンを押した。
 簡単な言葉だが、行間から温かさが滲むのは、人柄のせいにも思える。
 アリオスは微笑むと、心を込めて入力をした。

 ”落ち着いたら、一度逢わねえか?”

 栗猫と直に逢って話がしたかった。そうすれば、もっと心が癒されるような気がする。
 綺麗な心根を、直で触れてみたかったから。
 アリオスは、送信ボタンを押すと、彼女の返事を楽しみにする。
「逢う・・・!!」
 アンジェリークは、驚きのときめきを感じた。
 だが、すぐに自分の脚を見つめる。

 私・・・、逢ったら、きっと嫌われる・・・。
 こんな姿だと、きっと・・・。
 今までの交流がすべて消えてしまう・・・。

 切なくて、苦しくて、キーボードを打つことすら出来ない。
 しばらく画面を見つめる。
 逢いたいのはやまやまだが、それを踏み切る決心が出来なかった。

 ”逢ったら、あなたは私を嫌になるかもしれません。
 もし、それでも良いとおっしゃるなら”

 正直に自分の気持ちを打って伝える。
 狼になら、素直に伝えられた。
 切実とした栗猫の言葉に、アリオスは胸がちくりと痛い。

 ”嫌いになんかならねえ。
 心配すんな。
 落ち着いたら逢おう”

 彼もまたシンプルに返し、ストレートな言葉にアンジェリークはほっと胸をなで下ろす。

 有り難う・・・。
 あなたの心遣いはとても嬉しい・・・。
 あなたがいれば、頑張れるかもしれない!

 アンジェリークは、沢山の勇気をもらい、元気が出てくる。

 ”明日から敵に向かって頑張ります。
 また、相談に乗って頂くと思いますが、その時は、よろしくお願いします。”

 ”よろこんで”

 お互いに、本当は”敵同士”であることは知らず、ふたりは思いを上手く交換しあった。



 そこからのアンジェリークは甘い考えを一切捨てることにした。
 アリオスが経営する”ラグナ”がオープンし、敵と向かい合わなければならなくなっている。
 オープニングセールの時は、流石に売り上げが落ちるのを覚悟していたが、その次の週も減少は続いた。
「やっぱり、売り上げ下がってるわね」
 アンジェリークは帳簿を片手に溜め息を吐く。
「安売りの方が魅力を感じるか・・・。形が見えるものは、やっぱりね・・・」
 一緒に帳簿を眺めていたレイチェルも溜め息を大きく吐いた。
「何かさ、人の目をこっちに向けさせることが必要かな? 例えば、小売り店を脅かす、大型安売りブックストアっていうテーマで、エルンストさんに記事を書いてもらうとか・・・」
「それだよ! アンジェ!!!」
 レイチェルは大声を上げると、親友を見る。
 妙案とばかりにである。
「エルを説得して上げるからさ!!」
「ホントに!?」
「だって、そのテーマで記事を書けば、すぐに注目されるしね」
 アンジェリークの気分が、とても晴れやかな気分になる。
 目の前の視界が開かれたような気すらした。

 レイチェルが連絡をすると、早速、エルンストが取材に訪れてくれる。
 彼は、色々とリサーチをして、細かい取材をしてくれ、記事をよりよくするために奮闘してくれる。
「良い記事を書くのは、ありのままが一番良いんですよ。これだけ素材が集まれば、良いものが出来るでしょう」
 確信を持ったエルンストは、しっかりと力強い声で宣言してくれた。
 記事に期待を持ちながら、アンジェリークはエルンストに深々と礼をする。
「有り難う」
 エルンストが書いた記事が楽しみと期待に、心が躍っていた。


 アリオスとの闘いの前に、狼が勧めてくれた、ゴッドファーザーを見て、勇気をつける。
 見ている間、アンジェリークは何度もこぶしを振り回したのは言うまでもない。
 映画からたくさん勇気をもらい、気持ちが闘いにスタンバイがされる。

 翌日、エルンストの記事が”アルカディアポスト”に載り、大きな反響を得ることとなる------

コメント

『愛の劇場』シリーズです。
今回は、アンジェとアリオスは「ライバル」!!です。

闘いの火蓋は切って落とされました。
これから本格的に物語りは動いていきます〜。



マエ モドル ツギ