Shadow Of Your Smile

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 Subject:秋めいてきました
 こんにちは。
 かなり空気が冷たくなってきました。
 でも、空気が澄んできたように思えます。
 こういう時は、夜、星空を眺めると綺麗です。
 いつもより輝きが増して幻想的です。
 秋が深くなると、やはり読書をしたくなります。
 今はジェーン・オースティンの「高慢と偏見」を読み返しています。
 何度読んでもどきどきです! リジーとミスターダーシーが結ばれるのか! それだけでもはらはらです!
 是非、一度読んで下さい。
 栗猫

 仕事で疲れた後、メールチェックをすると、”彼女”からメールが届いていた。
 このメールを読むと、ストレスもどこかにいってしまう。
 今日はよりいいこともあったせいか、アリオスは疲れが飛んでいkき、更に癒される。
「俺の何よりもの、ストレス発散だな?」
 彼は口許に笑みを浮かべると、メールを読み、満足し、”栗猫”にメールをする。

 Subject:季節感を持つようになった。
 最近、”季節”というものを、きちんと感じるようになった。
 以前言ってた、公園で昼食を食べることを、今日、実行してみた。
 あんなに心地好いこととは思わなかった。
 今日は一日気持ち良く過ごすことが出来た。
 またこれで楽しみが出来た。サンキュ。
 狼

 今日出会った少女と、このメールをくれる”栗猫”。ふたりの素直な心に癒される、アリオスだった。


 アンジェリークもまた、メールをチェックし、”彼”からのメールを、読みふける。
 暖かな思いが広がり、彼女もストレスがすべて飛んで行くような気がした。
 まだ、お互いに昼間出会った者同士だとはまだ気がついていない。
 優しくも温かな共通する心根を感じとり、違った相手と思い込んだまま惹かれあっていた。

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 翌日、公園に向かうアンジェリークの鞄の中には、二人分のサンドイッチが入れられている。

 今日は土曜日だし、来るかどうかは判らないけど、一応・・・。

 きょろきゅろと怪しくも辺りを見ながら、アンジェリークは車椅子を漕ぐ。
「・・・!!」
 不意に車椅子の動きが軽くなり、振り返ってみるとそこにはアリオスがいた。
「あ、あなたは昨日の!!」
「一緒に、昼メシ食わねえか?」
「あっ! 私、あなたの分も持ってきたんです! ランチ!」
「サンキュ」
 一度しか逢っていないふたりだが、すぐに甘い雰囲気になる。
 無意識に、魂の底からである。
「あのベンチで食おうぜ?」
「はい」
昨日と同じベンチに座り、ふたりはゆったりとランチタイムを楽しむことになった。
「どうぞ」
「サンキュ」
 アンジェリークは心を込めて作ったサンドイッチをアリオスに渡し、仲良くウェットティッシュで手を拭いてから、並んでいただきますをする。
 アンジェリークの作ったサンドウィッチは、心が籠っていてしかも健康に優しく、美味しい。
「美味いな」
「ホントですか!」
 本当に心から嬉しそうに笑うアンジェリークの表情が、アリオスにとっては何よりもの心のランチになった。
「なあ、名前を訊いてなかったな? 俺はアリオスだ」
「アンジェリークです」
「”天使”か・・・。ぴったりじゃねえか・・・」
 ストレートに言われて、アンジェリークは真っ赤になる。
 アリオスは心のそこからそう思って言っ手くれたから、余計に照れくさかった。
「有難う・・・。そんなふうに言われたの初めて・・・」
「俺はそう思うんだからな? 自信もて」
「うん」
 アリオスは再び手作りサンドウィッチを口にする。
 味付けもアリオス好みで、彼はどんどん食べていた。
 アンジェリークは嬉しそうに、彼の食べっぷりを見ている。
 それが何よりも彼女は楽しい。
「食えよ、美味いぜ?」
「うん」
 彼の食べっぷりがあまりにも嬉しくて、アンジェリークは食べるのを忘れて見入ってしまっていた。
 彼女は自分の分サンドイッチを一生懸命食べながら、ひとりで食べるのに比べるとなんて美味しいのだろうと思う。
「なあ、せっかくごちそうしてもらったから、今度は俺にごちそうさせてもらえねえだろうか?」
「えっ、いいんですか? 嬉しいです!」
 素直にアンジェリークが喜んでくれたので、アリオスは嬉しい。
「いい感じの店を知ってるんだ。そこに連れていってやるよ」
 アンジェリークは車椅子を見つめると、一瞬、切なそうな表情になる。
「あの、そこは車椅子でも大丈夫ですか?」
「ああ。もちろんバリアフリーだ」
「よかった・・・」
 ほっとしたように溜め息を吐くと、アンジェリークは再び笑顔に戻った。
「月曜はどうだ?」
「月曜はリハビリの日なので、火曜日なら・・・」
「じゃあ火曜日な、決まり」
 アンジェリークも見つめて頷くと、更に笑った。
「楽しみです」
 本当に火曜日が待ち遠しくて堪らない。
 アンジェリークは小踊りして喜びたい気分だった。
「火曜日は、今日と同じ時間で待っているから」
 アリオスもそのことを口にしながら、楽しみで仕方がなかった。
 秋の日差しをしっかりと浴びながら、ふたりは心を癒す。
 暖かな時間の後は、しばしの別れ。
 次には逢えるのがいつか、判っているせいか、穏やかな気分でいられた。
「またな?」
「はい、火曜日に!」
 公園の入り口でそれぞれの行き先へと向かう。
 お互いに気分はとてもよかった------

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 日曜日、アリオスはライバルの情報収集のため、親戚の子供であるマルセルとメルを連れて、”街角の店”に向かう。
 ”お話の会”に子供たちと一緒に参加するためだ。
「今日のお話、凄い楽しみだよね? メル!」
「うん!」
 アリオスの従弟であるふたりが意気揚々と街角の店に入ると、子供たちが集まっている”お話部屋”に一直線で向かう。
 お話の時間は既に始まっており、柔らかな声が部屋から聞こえてきた。
 誰をも癒す優しい声。
 アリオスもSの声を聴いたことがあったような気がする。
 ふと、話している女性と目が合った。

 アンジェリーク・・・。
 おまえが、ここの主人だったのか・・・。

 ふたりの視線は甘く絡み合う。
 ふたりの戦いは、避けられない事態になろうとしていた-------

コメント

『愛の劇場』シリーズです。
今回は、アンジェとアリオスは「ライバル」!!です。

今回出てくる、J・オースティンの小説は、
最初の近代小説のひとつと言われているものです。
有名な本なので、ご興味のある方は是非



マエ モドル ツギ