Shadow Of Your Smile

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 狼からのメールを受け、アンジェリークはしばらくそれを見つめていた。

 ・・・逢いたい・・・。

 その気持ちは確かに強くある。
 だが、どこかで以前と同じことが起こるのではないかという不安もあった。
 何度も読み返して、少し甘い興奮を覚えながら、彼女は、決心を固める。
 自分の心に素直にさえなれば、それは至極簡単な結論だった。

 subject:では桜が美しい日曜日に。
 こんばんは、狼様。
 桜が美しい日曜日に、サウス公園でお逢いしましょう。
 きっと、とても美しいお花見になると思います。
 あなたと色々とお話が出来れば嬉しく思います。
 私を見てがっかりされないようにして下さいね。
 その日は、また”高慢と偏見”を持っていきます。
 季節の変わり目ですから、体調にお気をつけて下さいね。
 栗猫。

 何度もメールを読み返した後、アンジェリークは満悦な顔で送信ボタンを押す。
 少しうきうきとした気分になって、アンジェリークは何度もにやにやと笑った。

 ひとつの目標が、早急にアンジェリークの目の前に現れる。二週間後の狼と逢うまでに、どうしても達成したいことが出来てしまった。
 そのためにはかなりの努力をしなければならない。
 アンジェリークは覚悟を決めて、真剣に取り組む。
 リハビリはいつも頑張っているが、それを更に努力して頑張らなければ、目標を達することは難しい。
 丁度、大学も春休みに入っていたので、いつもよりも多くの時間を、リハビリに割くことが出来た。
 目標に向かって、アンジェリークにも力が入る。
 そんな彼女を担当理学療法士カティス見守ってくれていた。

 休みの日に、ちょくちょくとアリオスに逢うようになった。
 ”偶然”にマーケットで逢って、その後はぶらぶらとするのが定番になっている。
 もちろん、お互いが”逢うのを狙っている”のには、お互いに気がついてはいない。
 ”偶然”は”必然”を地でいっているふたりであった。
 いつも逢うと、アリオスが車椅子を引いてくれ、それがまた妙に心地好い。
「もうすぐ花見の季節だな?」
「アリオスさんは宴会とかするんですか?」
「見えるか?」
「見えないです」
 くすくすと笑い、アンジェリークは楽しげに言う。
 日の光を浴びながら、明るい表情を見せる彼女は、本当に魅力的に映った。
 アリオスは何度もその光景に見惚れてしまう。
「花見の予定は?」
「一応は」
 にんまりとした表情を隠す事なく、彼女は素直にアリオスに言う。
「いつだ?」
 判っているくせに、アリオスはわざと訊いた。
「来週」
「来週だったら、ちょうど満開か少しだけ盛りを過ぎたぐらいじゃねえか? 良い時期だ」
「はい」
 ちらほらとごくごく少し咲いている桜を、ふたりして見上げる。
 可憐な花はやはり美しかった。
「来週の日曜の午前中の数時間、俺たちも”花見”を決め込まねえか?」

 午前中・・・。

 一瞬、迷った。僅かな後ろめたさと切なさが、彼女の胸に広がる。
 ”狼”とアリオスの間に気持ちが揺れ動く。
 だが、お互いに、まだ”友人”レベルであるから、疚しく思う理由などない。
 しかも、時間がブッキングすることがないので、何とかなるだろうと思いコクリと頷く。
 勿論、アンジェリークには、わざとアリオスがこういったことを言っていることに気が付かなかった。
「サンキュ」
 アリオスの晴れやかな声に、アンジェリークは少し嬉しい気分にる。
 このような雑談をしながら、しばらく散歩をしながら、アンジェリークはふと”狼”のことをアリオスに相談したくなった。
「アリオスさん?」
探るように、アンジェリークはアリオスを見る。
「何だ?」
「ネットで百通以上のメールをやり取りをした相手と、アリオスさんだったら…逢えますか?」
「百通以上か・・・」
 アリオスはわざと考えるふりをする。
「そいつは、男か女か?」
「男の人・・・」
 恥ずかしそうに俯く彼女の表情が可愛いが、ここはあくまでクールに装いたいアリオスだった。。
「何時逢うんだ? 用事かなけりゃあ、一緒に行ってやるぜ?」
「有り難うございます。だけど、失礼になると思うので、そこまでしてはいけないように気がするの」
 アンジェリークが心から”狼”を心配していることが感じられ、アリオスは本当に嬉しくてしょうがない。
 表情に出そうになるのを、何とか抑えてくれた。
「すげえ、そいつに気を遣ってるんだな」
「だって、いつもメールで支えてくれているんですから・・・」
 ほんのりとしたあたたかみがある声は、アリオスを癒してくれる。
「何かあれば言えよ?」
「はいっ!」
 素直に返事ができ、アンジェリークは改めて自身の心に余裕が出てきていることを感じた。
「なあ、どういう男なんだ?」
 アンジェリークが、メール上の自分をどう表現するのかが気になり、思わず訊いてみる。
「素敵な人」
 迷うことのない、率直な気持ちだ。
 アリオスは、シンプルかつ純粋な言葉が、心から嬉しかった。
「・・・そうか。そいつと逢うのにためらいはねえのか?」
「・・・前回のことがあるから、不安だけれど、戸惑いやためらいは一切ないわ」
 きっぱりとしたアンジェリークの言葉に、彼はわざと神妙な表情をする。
「前回?」
「重大な用事で来られなかったの」
「用事ね」
 きちんと判ってくれている彼女が嬉しくて、アリオスは更に心が甘く軽やかになるのを感じた。
「まあ、一度逢ってみて、嫌なヤツだったら、もうメールなんて止めちまえよ?」
 これには、アンジェリークは思わず笑ってしまう。
「参考にさせてもらうわ」
 これには、アリオスは僅かに眉を上げて微笑んだ。


 とうとう”約束の日”になってしまい、アンジェリークは朝から落ち着かない。
 アリオスと逢う時の服はラフなものに決まっていたが、”狼”に逢うためのものは、なかなか決められなかった。
 散々迷って選んだものを準備してから、アリオスに逢いに行く。
 いつものように力を抜いて、彼とはマーケットをうろうろとするものの、どこか落ち着かなかった。
 満開の桜の中、ふたりは見つめながら、通りを歩く。
「綺麗だな・・・」
「ええ」
 心地好い春風に花びらが舞い上がり、とても美しい。
 光が花びらを透けさせて宝石のように輝いている。
「花冠みてえだな」
 栗色の髪にふわりと舞い落ちた桜の花びらを、アリオスが指でそっと払ってやった。
「有り難う・・・」
 恥じらいに俯いて、白い肌を紅潮させるのが愛らしい。
「落ち着かないか?」
「大丈夫といいたいところだったけど、ちょっと・・・」
 正直にアンジェリークは認め、愛らしく俯いた姿が、また、アリオスは良かった。
「やつが来ない可能性だってあるだろ?」
「信じているもの」
 しっかりと確信たっぷりにアンジェリークは語り、その横顔が美しく、アリオスはじっと見つめずにはいられない。
 メールだけでそこまで自分を信じてくれる彼女が、彼は愛しくてたまらなかった。
 いつものように話しながら、マーケットで軽めの昼食を買って、公園で取る。
 アリオスは、時折、知っているにも関わらず、わざと”狼”のことについても、白々しく訊いてした。
「あ、私、もう行かなくっちゃ」
 時計を見て、アンジェリークは済まなさそうにアリオスを見る。
「・・・タイムリミットか・・・」
 彼も仕方ないとばかりの表情をすると、車椅子をゆっくりと引いていく。
「送らせてくれ」
 名残惜しく彼が言うと、アンジェリークも素直に頷く。
 初めてアリオスに送ってもらうことにした-------

コメント

『愛の劇場』シリーズです。
今回は、アンジェとアリオスは「ライバル」!!です。

お約束通りのべたな展開!
今月中に集中UPしてまいりますので、よろしくです〜

いよいよ次回は、最終回でし



マエ モドル ツギ