At The Bay


「とっておきの場所だから、誰も来ねえよ」
「え・・・」
 真っ赤になって小さく声を上げるアンジェリークに、アリオスは喉を鳴らして笑う。
「綺麗なところにだぜ? きっとあんたも喜ぶ」
 アンジェリークは、アリオスの横をちょこまかと歩いた。

 なんだか、いいな、こういうの・・・。

 しばらく、二人はゆっくりと歩く。
「ほら、あれだ」
 アリオスが指差す方向を見つめれば、そこには絶景が広がっていた。
「うわあ!」
 あまりにもの美しさに、彼女は喚声を上げて、駆けて行く。
「おい、そんなに走って行っても、景色は逃げねえよ」
 本当に嬉しそうなアンジェリークに、アリオスは愛しげに目を細めた。
 アリオスが連れていってくれた場所は、楽園のような美しさがあった。
 汚れなき白さの砂浜、海の色は”天使の入り江”以上に澄んでいる。
 空が澄み、夕方の穏やかな風が吹いていた。
「気にいったか?」
「うん・・・」
 背後に魅力的なテノールが響いて、アンジェリークは、ほんの少しだけの恥じらいを浮かべる。
「日が沈むのが綺麗だ。見ようぜ」
「うん」
 ごく自然に彼に手を引かれる。
 しっかりと包み込むアリオスの手の温もりと大きさが彼女に情熱をもたらした。
 少しはにかむ彼女に、アリオスは優しく笑う。
「何だ、いやか?」
「いやじゃないけど、恥ずかしいの・・・」
「かわいいな」
 耳元に唇を寄せられて、心臓がすくみ上がるかと思った。
「とっておきだからな? あんただから見せるんだ」
「有り難う」
小さな手がギュッと握り締めてきて、アリオスも握り締めてやる。
「座って、見ねえか?」
「うん・・・」
 木の下に二人して腰を下ろし、海を共に見つめる。
「本当に綺麗。空と海がくっつきそうだわ・・・」
 うっとりと見つめる彼女の横顔に、アリオスはしばし見惚れる。
「あんたのほうが綺麗だ・・・、アンジェリーク・・・」
 甘く囁かれて、彼女の心は潤んだ。もう夕日どころではなくて。
「アリオスさん・・・」
「アリオスでいい、アンジェリーク・・・」
「うん・・・」
 ふたりはゆっくりと見つめ合う。
「最初に見たときから、気になっていた」
「私も・・・」
 甘く微笑んで、アリオスはアンジェリークの顎に手を掛けて、上向きにさせる。
 唇が近付いてきて、瞳がゆっくりと閉じられる。唇が重ねられ、その甘さにアンジェリークは溺れそうになる。
 正真正銘のキスに、彼女は嬉しさが込み上げてくる。
 彼の首に手を回して体を支え、キスに溺れた。
 羽根のような甘いキスが終わり、唇が離されると、アンジェリークは潤んだ瞳で彼を見つめた。
「アリオス・・・」
「アンジェ、泳ぎを教えてやろうか?」
 栗色の髪を梳きながら、アリオスは艶やかに誘う。
「ホント!?」
 願ってもない申し出に、アンジェリークの表情は一気に華やいだものになる。
「ここはプライベートビーチだから、誰も入れない。心おきなく出来るぜ?」
「え・・・? プライベートビーチって・・・・」
 彼女は不思議そうに彼を見つめるが、僅かに微笑みが含んだ眼差しを送られるだけ。
「いいから・・・。ここは俺以外は使えねえから、そう思っとけよ?」

 アリオスって、なんだかただのカキ氷屋さんには見えない・・・。
 さっきの高級ペンションや・・・、このプライベートビーチ・・・。

 じっとアンジェリークはアリオスを見つめ、首を傾げた。
「俺はこの夏はただの"カキ氷屋”だ」
 彼の繊細な指が頬に伸びて、優しく捕らえる。
 指先から、彼の誠実な思いが伝わってくる。
「・・・うん・・・」
 これ以上アンジェリークは何も訊けなかった。
 訊かなかった。
「泳ぎ教えてやるよ? これでもう溺れる心配はねえしな?」
 ニヤリと少し意地悪げに笑われて、、アンジェリークは少しだけむっとする。
「もう、からかって!」
 軽く胸を叩く彼女を、彼は笑いながら受け止めてくれた。
「明日、午後からここに来てくれ。泳ぎを教えてやるよ?」
「・・・うん・・・」
 ぎゅっとアンジェリークは彼のシャツの胸元を掴む。
 その仕草を一つをとっても可愛らしくて、アリオスは微笑みながら彼女を抱きしめてやった。
「優しくしてね?」
「バーカ、俺はいつでも優しいの」
 くすりと微笑みあう。
 そのままアリオスはアンジェリークを背後から抱きしめ、華奢な身体を凭れさせてやる。
「こうしてると、とっても心地がいい・・・」
「日が沈むまでこうしていようぜ。ペンションには送ってやるから」
「・・・うん・・・、有難う・・・・」
 二人はそのまま時間が許されるまで、じっと、海を見入っていた----

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 翌日の午後、アンジェリークは言われたとおりに、"女神の入り江"にやって来た。

 アリオス、まだかな〜

 きょろきょろしていると、不意に背後から抱きしめられた。
「きゃあっ!」
 その精悍な剥き出しの胸に恐る恐る振り返ると、そこには銀の髪を輝かせたアリオスがいた。
「アンジェ・・・・」
「アリオス・・・」
 彼はぎゅっと抱きしめた後、彼女をそのまま抱上げる。
「きゃあっ!!」
 そのまま甘い声を上げる彼女に彼は笑いながら、そのまま走って海の中に入ってゆく。
「アリオス、やあん!!」
「今からレッスンだ」
 アリオスは彼女を抱いたまま、海の深いところまでゆっくりと泳いでいった。
「いや、背が届かないと怖い!」
 じたばたと、彼にしがみつきながらなきそうになる彼女に、笑みを浮かべながら、アリオスはそのまま立ち泳ぎをして深い場所に連れてゆく。
「ほら、力抜けよ? 俺がしっかり支えてやるから」
「・・・う・・・ん」
 彼の言葉に、何とか力を抜いて、彼女はふうと息を吐く。
「さてと・・・、一緒に泳ごう。俺に掴まってろよ?」
「うん・・・」
 アリオスは思い切り足で」水を蹴る。
 目くるめくレッスンが開始された---- 

コメント

「メモワール2001」で成田さんが行った台詞・・・。
「カキ氷を売りに歩く」から、妄想で出来た裏です。
いよいよ次回は本編です。
そう前回行ってたんですが。
ごめんなさい・・・。
寸止めです!!!
以下次回!!(笑)
ごめんよおアリオス。