At The Bay


 ・・・なんだろう・・・。
 アリオスさんが遠くに見える・・・。
 泳いでくる彼は、なんて素敵なんだろう・・・・。

 海の底に沈みながら、アンジェリークは、水に反射して太陽の日差しに輝くアリオスを、半ば意識を飛ばしながら、ぼんやりと見ていた。

 くそ! 助かってくれ!

 そのまま水の中に沈み行く彼の女神に、精一杯手を伸ばす。

 ・・・アリオスさん・・・。
 助けてくれるの・・・・?

 うっとりと考えながら、アンジェリークは意識をすっかり飛ばしてしまった----
 アリオスの手が、とうとうアンジェリークの華奢な身体を捕らえる。
 彼は離さないようにしっかりと彼女を腕の中に抱き寄せ、そのまま上へと浮上してゆく。
 アンジェリークは、アリオス腕の中でぐったりとしている。
 そのまま、彼女を抱いて、アリオスは海岸近くまで泳ぎ着き、そのまま彼女を抱上げると、砂浜に運んだ。

 早く気がついてくれればいいが・・・

 アリオスは、アンジェリークの華奢な身体を砂浜に横たえ、首を少し起こして、唇を彼女の唇に近付ける。
 すうっと大きく息を吸って。
「アンジェ!!」
 栗色の髪の少女が溺れたと聞き、レイチェルとエルンストも駆け寄ってくる。
 そんなことはお構いなしに、アリオスは唇をつけ、彼女に息を吹き込んだ。
 それは命。
 彼の吐息が彼女に命を運ぶ。
「・・・ン・・・・」
 唇に、冷たい感触を感じて、アンジェリークは気が付いた。
 自分のそれよりも、少し硬い感じがする。

 なんだろう・・・。
 でも嫌な感触じゃないわ・・・・

 うっとりと、アンジェリークは目を開けてみる。
 その瞬間----
「・・・・・・・!!!!」
 目の前にいた艶やかな銀の髪を持つ青年に、彼女は再び息が止まるかと思った。
「・・・アリオス・・・さん・・・・」
「名前を知ってくれてて光栄だ・・・。
 おまえ・・・、名前は?」
 黄金と翡翠の眼差しでじっと見つめられて、アンジェリークは心を潤ませる。
 頬をほんのりと赤く染め、潤んだ眼差しで彼を見つめている。
 その瞳が余りにも艶やかで、アリオスはそのまま持ち帰りたい衝動に駆られる。
「・・・・アンジェリーク」
 少しはにかんだように、彼女は答えた。
「"天使”か・・・。この入り江にはぴったりだな?」
 二人は、互いを見つめ合う。
 そこには温かな思いだけがあった。
 誰にも侵すことが出来ない思いがそこにある。
「身体、大丈夫か?」
「うん・・・、平気」
「起こしてやるよ・・・」
 その甘やかな行為に、アンジェリークは心と身体を潤ませながら、彼に体を預けた。
 アリオスの精悍な腕が彼女の背中を包み込み、彼女の全身に甘い戦慄が駆け抜けた。
 電流のようなものが身体を刺激する。
「アンジェ!!」
「レイチェル!!」
 心配そうに、少し安心したように、レイチェルはアンジェリークを見つめ、駆け寄ってきた。
「友達が来たみてえだな? アンジェリーク・・・」
「あ・・・」
 アリオスがすっと離れたものだから、アンジェリークは思わず名残惜しげな声を上げてしまう。
「ん? どうした?」
 彼に顔を覗き込むように見つめられて、彼女は顔を真っ赤にさせる。
「今度はちゃんと泳ぎを習ってから海に出ろよ?」
 軽くウィンクをして微笑む彼が、一瞬、少年のように見えて、アンジェリークの心を捉えて離さないどころか、支配してしまった。
「じゃあな?」
 すっと、立ち上がって海の家へと歩いてゆくアリオスの精悍な背中を、アンジェリークはうっとりと見つめる
「アンジェ!」
 ニヤニヤとして近づいてくる親友に、彼女はまるで茹蛸のように顔を赤らめる。
「なに」
「あなた・・・、あのお兄さんにマウストゥマウスで、人工呼吸してもらったのよ?」
「・・・・!!」
 からかうように親友に言われて、アンジェリークはさらに顔を真っ赤にさせた。
 その手を、咄嗟に、唇に当ててしまう。

 私のファーストキス・・・
 アリオスさんだから・・・、嫌じゃなかったの?
 逆に気持ちよかった・・・・

 そう思うと、どこからか喜びがこみ上げてくるのを感じる。
「よかったね・・・?」
 親友に耳打ちされて、アンジェリークはそれこそ飛び上がるほど恥ずかしかった。
「バ、バカ、レイチェル!!!」
 レイチェルとエルンストは、うろたえるアンジェリークをほほえましそうに、見つめる。

 でも・・・。ちょっと嬉しかったかも・・・・

 それはアンジェリークが、初めて異性を意識した瞬間だった----

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 夕方、アンジェリークは白いスリップドレスに着替えて、お礼がてらの夏のフルーツを持って、アリオスの勤める海の家へと向った。
 だが彼は午後から非番で、ペンションにいるだろうということで、案内されたペンションへと向った。
 アンジェリークは一瞬、間違えたのかと思った。
 そのペンションは、高級ペンションで、海の家の"カキ氷売り"の青年が、定宿に出来るようなところではない

 ここで働いてるのかなあ・・

 アンジェリークは勇気を持ってフロントに向おうとした。
「あっ!」
 偶然、アリオスがアンジェリークの目の前に現れて、彼女は嬉しそうに声を上げる。
「アリオスさん・・・」
「どうした?」
 その顔を見るだけでも、彼女は胸がいっぱいになってしまい、しどろもどろとしか話をすることが出来ない。
「あ・・・あの・・・、さっき、ちゃんと御礼を言うことが出来なかったので・・・」
「良かったのに、お礼なんてな?」
「・・・でも・・・・、お世話になったし・・・・」
 はにかんだ彼女もまた可愛いと思う。
 白いスリップドレスがとてもよく似合っていて、アリオスはたまらなくなる。

 アンジェ・・・!
 なんて可愛いんだ・・・!!!

 アリオスの理性は既に音を立てて崩れ始める。

 このまま返したくねえ・・・・

 その思いが形になって口に出る。
「なあ、凄く素敵な場所があるんだが、今から行かねえか?」
「え!?」
 嬉しくてたまらない申し出に、アンジェリークは息を飲む。

 アリオスさんと、もう少しお話がしたい・・・・

「・・・はい・・・」
 頷くアンジェリーク。
 だがそれが、とてつもない甘い"罠"だとは、彼女はいまだ知らない----

コメント

「メモワール2001」で成田さんが行った台詞・・・。
「カキ氷を売りに歩く」から、妄想で出来た裏です。
いよいよ次回は本編です。