C'est Toi


私・・・、今、なんて・・・。

「・・・おまえ、脱ぐんだぜ? 出来るのか?」
アリオスの、野獣のきらめきを持つ異色の瞳がじっとアンジェリークを捕らえている。
「あ、あの・・・」
 戸惑いの表情を向ける彼女の表情を、アリオスは愛しげに目を細める。
「明日のオーディションを見て、出来ると思ったらやれ」
 ぽんと肩を叩かれて、アンジェリークは少しはにかんだように頷いた。

 まあ、あいつがああいう気になっただけでもかまわねえか・・・。

「仕事続けろ?」
 書類を持って立ち去るアリオスの背中を見つめながら、アンジェリークの心は、甘い疼きを感じていた。
 エルンストから仕事を教えてもらいパソコンにデータ入力した後、今度は通販部に行き、そこで、DVD通販の作業を手伝った。
 ジーニアス・ルウ゛ァとノーブル・ロザリアの”女性上位時代”の通販作業が急ピッチに進んでいる。
 かなりの通販の数だが、梱包して宛名シールを貼るだけの作業なので、比較的簡単なものだ。
 二人の女性アルバイトと共に、アンジェリークは、一生懸命作業をした。
 途中夕方になると、軽い夕食が配られて、待遇も悪くないと彼女は思う。
 八時になった時点で、チャイムが鳴り、それで作業は終了となった。
「送るぞ、アンジェリーク」
 通販部に顔を見せるなり、アリオスはアンジェリークに声を掛ける。
「あ、あの、良いんですか?」
「ああ。行くぞ」
 手を差し延べられて、アンジェリークは頷くと、その後に着いていった。
 自然とアリオスは助手席を開け、アンジェリークはそこに戸惑いながらも乗り込む。
「明日のオーディションは午後二時からだ。土曜日だからおまえも来れるだろ?」
 オーディションのことを言われると、胸がドキリとする。
「はい・・・」
 しどろもどろに返事をする彼女に、アリオスは苦笑する。
「何だ、緊張してんのか?」
「そんなことないですっ!」
 少し強めに言うその言葉の響きだけで、彼女が緊張しているのは明白で。
「緊張を解いてやるよ」
「えっ?」
 アリオスは彼女の顎を持ち上げると、僅かにアンジェリークの顔を上に向かせ、唇を近付ける。
「あっ・・・」
 甘い声を上げると、もう唇は間近にあった。
 甘く優しく唇を奪われて、彼女は夢見心地になる。
 激しいものではなく、しっとりと、深いものになっている。

 このまま押し倒してえ・・・!

 初々しい彼女の反応がアリオスには堪らなく可愛い。
 唇を離した後も、唇の端を舐めて、アリオスはアンジェリークを離さない。
「おまじないだ?」
「エンペラーのキス?」
 潤んだ瞳が、アリオスをさらに刺激する。

 こいつなら、いつも勃っちまうだろうな・・・。

「もっと、エンペラーのキスは濃厚だぜ? して欲しいか? 立てなくなるぜ?」
「あっ」
 耳朶を噛みながら、アリオスは甘さを含んだ声で囁いた。
「おまじないだけで、いいです・・・」
 はにかんだような困ったような顔で俯く。
「あ、明日も午前中、学校だから・・・」
「ああ。明日、楽しみにしてるからな?」
 頬に軽くキスをしてから、アリオスは彼女から離れた。
「送って下さって、有り難うございます」
「またな」
 アンジェリークは、車の外から一礼をすると、アパートに入っていく。
 それを見届けながら、彼は煙草に火をつけ、ふかした。
「いてて、擦れる・・・」
 アリオスは股間の痛みに顔をしかめながら苦笑する。

 生本番するのはあいつしかいねえな・・・。

 彼はアンジェリークの部屋に明かりが灯ったことを確認してから、車を発進させる。
 股間に宿った熱を冷ます方法を考えながら。

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 夜は、アリオスの”おまじない”、利いたのか、比較的ぐっすりと眠れた。

 翌日、学校もはねて、アンジェリークは緊張の面持ちで、アリオスの待つ、新宇宙企画へと向かった。
 自らが招いたとはいえ、心臓が飛び出してしまうような気がする。
「おはようございます・・・」
 そっと中に入ると、待ち構えたように金髪の少女が立っていた。

 キャンディ・リモージュだわ!

 アンジェリークは、とてもAV女優には見えない可愛らしさを持ったキャンディを、驚きまなざしで見ている。
「エンペラーに頼まれたの。オーディションのあなたのお世話役としてね」
「はい」
 アンジェリークは、アリオスの心遣いに、ほんの少し感謝する。
「もうひとりの人はもう来て準備をしてるから」
「その方は・・・、プロの方ですか?」
 恐る恐るではあるが、アンジェリークは訊いてみた。
 やはり”ライバル”なのだから、気にならないはずはない。
「いいえ。素人の子たちも、エンペラーと共演したいって、女優志願が後を絶たないの。
 とても綺麗な子だったわ。
 書類選考、水着選考、ヌード選考とくぐり抜けて、ようやくエンペラーだもの」

 事前審査があったんだ・・・。

 あまりにもの厳しい選考基準に、アンジェリークは自信を無くしていく。

 私、図々しかったんだ・・・。

 切ない思いを抱き締めて、アンジェリークはキャンディの後を付いていった。
「お風呂に入って、リラックスして?
 ロッカーのキーはこれよ。入って右側のね。
入った後は、ローブに着替えてね。下着は付けちゃだめよ」
「はい・・・」
 てきぱきとリモージュは言ってキーを渡してくれるが、アンジェリークはますます憂鬱になる。
「あら?」
 脱衣室に入ろうとすると、とてもスタイルの良い艶やかな美しい女性が出てきた。
 白いローウ゛を纏い、すぐに彼女がオーディションを受ける女性だと判る。

 なんて綺麗な女性なんだろう・・・。私なんて太刀打ち出来ない・・・。

 一瞬、アンジェリークと女性は目があった。
 何だか鼻で笑われたような気がして、彼女は、あまり気分が良いものではない。
「さあ、入っていらっしゃい」
 後押しされるかのように、キャンディの声が響き渡り、アンジェリークは戸惑いながらも、更衣室に入る。

 あんな綺麗な女性がライバルだったら、きっとアリオスさんもあの子を選ぶわ・・・。

 アンジェリークは制服を脱ぎ、それを言われたロッカーにかけた。
 自信がどんどんなくなっていく。
 準備を終えて一糸纏わぬ姿になったアンジェリークは、そのまま浴室へと入り、シャワーで汗を流す。

 せめて綺麗にしていかなくっちゃ・・・。
 結果は目に見えてるけど、アリオスさんに失礼だもの・・・

 アンジェリークは念入りに身体を洗い、恥ずかしくないようにする。
 シャワーの水流が強く、敏感になっている肌を刺激する。
 磨きをかけるしかなかった。
 アリオスのために、さらに美しくなりたいから。
 それだけが彼女を突き動かしていた。
 肌を磨いた後、高ぶった神経を休めるために、浴槽のお湯につかる。
 アンジェリークは、バラの香りのお湯に感謝しながら、肌にお湯を馴染ませる。

 ・・・あんな出会いだったのに・・・。
 AV男優で監督なのに・・・。
 私はこんなに彼に惹かれてる・・・



 その頃。オーディション室の控え室では、アリオスがローヴ姿でタバコをふかしていた。
 姿は”エンペラー・レヴィアス”になり、二人の女性を今待ち構えている。

 結果は決まっているけどな・・・

 彼はもう自分の心と体の反応の意味を気づいてはいた。
 ノックが部屋に響き渡る。
「エンペラー、準備が出来ました」
 事務的に伝えに来たのは、エルンストだ。
 その声を聞くと、アリオスは椅子から立ち上がる。
「部屋は暖かくしたか?」
「ばっちりです」
「だったら部屋に入れろ」
「はい!」
 オーディション室のドアが開く、同時に、アリオスもオーディション室に入っていった-----

コメント

chatで生まれた、
「アリオスAV監督、アンジェ女優」物です。
ははははは。
コレを楽しみにしてらっしゃる方がいると(笑)お聞きしたので、
調子に乗って続きを書きました。
やっぱり裏書くのって楽しいなあ♪