C'est Toi


「アンジェリーク、うちで働いてみねえか? 事務でかまわねえし」
 いきなり、端正な顔で迫られて、アンジェリークはたじたじになる。
「あ、あの・・・」
 彼女は、アップのアリオスに胸をときめかせながら、真っ赤になってしまった。
「明日、また来いよ?」
 甘い声で囁かれれば、アンジェリークは、熱病に冒されたように頷くことしか出来ない。
「サンキュ。待ってるぜ?」
 アリオスは、アンジェリークを駅迄送ると、くりかえし”待っている”と言ってくれ、アンジェリークはすっかりその気になってしまっていた。

 事務だったらいいかな・・・?

 帰りの電車に揺られながら、アンジェリークはすっかり”新宇宙企画”で働く気になっている。
 それが甘い罠だとは気がつかずに。
 家に帰り、軽く夕飯を食べると、早速もらってきたDVDを見ることにした。
 やはり、ロマンティックなつくりになっていて、アンジェリークは、ラブロマンスを見る気分で、じっと影像を見ている。
 最初に見たのは、”ファイアー・オスカー”と”キャンディ・リモージュ”の”お嬢ちゃんお手をどうぞ”だった。
 とても可愛いストーリーで、プレイボーイに背伸びをする少女の成長を描いている。
 ストーリー性の高さはさることながら、影像も美しい。
 監督は、アリオスが務めている。
 肝心のシーンになっても、やはり美しかった。女性の立場に立ったそういうシーンに、アンジェリークは真っ赤になりながらも見る。

 えっ、えっ、えっ~!!!

 クライマックスのシーンで、ふたりは明らかに本当にしているように思える。

 確かに、エンペラーの時は嘘臭かったけど、このふたりは~!!!

 真っ赤になってアンジェリークは、じっと凝視してしまう。

 アリオスさんは、”生本番”はほとんどないって言ってたけど、これって・・・!?

 この日、なかなか寝付けないアンジェリークなのであった。



 翌日、スーパーのレジのバイトを辞め、その足で新宇宙企画に行った。
「よろしくおねがいします!」
 覚悟を決めて、アンジェリークは、アリオスに頭を下げる。
「サンキュ。こちらこそよろしくな?」
 アリオスは、出来るだけ爽やかな笑顔を浮かべ、アンジェリークに手を差し延べる。
 彼女は少しはにかみながら、その手を取り、しっかりと握手をした。
「仕事は、まずはうちのデスクの手伝いからだ」
「はい」
 アリオスは、早速アンジェリークを連れて、デスク担当のエルンストのところに向かう。
「主に、うち所属の男優、女優、監督のスケジュール管理をしている。撮影スケジュールも同様だ」
「はい」
 アンジェリークは、まともな部署にほっとしながら、しっかりと頷く。
「エルンスト!」
「ああ。これはエンペラー」
 気真面目そうな青年が立上がり会釈をする。
「アンジェリークだ」
「”キャンディ”と同じ名前ですか。エルンストです。よろしくお願い致します」
 アンジェリークもしっかりと頭を下げ、挨拶をした。
「頼んだぜ」
「はい」
 アリオスが部屋を出ていくと、エルンストはスケジュール表を出し、それをアンジェリークの前に出した。
「現在、うちに所属しているのは、監督は、エンペラー、ウ゛ィジュアル・オリウ゛ィエ、ソルジャー・ウ゛ィクトール。男優は、ファイヤー・オスカー、ジーニアス・ルウ゛ァです」
 アンジェリークは、ひょいとスケジュールを覗きこむと、彼女は大きな瞳を丸くした。
「あの…、エンペラーは・・・?」
「エンペラーは、もう俳優としては活動しない予定で、休止状態です」
「なぜ?」
 アンジェリークは、残念そうに呟く。
「エンペラーは、パートナー女優を見つけられなかったせいもあったんですがね」
「パートナー女優?」
 アンジェリークは、さらに身を乗り出しながら、興味深く話を訊いた。
「エンペラーの人気は凄いですが、相手役が良くなければ、良いものを撮れないと言い出しまして休止しました。良い相手が見つける為に、明日もオーディションするんじゃないでしょうか?」
 そのオーディションの方法が凄く気になる。
 アンジェリークはどうしても気になってしまい、エルンストに訊いてみた。
「オーディションってどうするんですか!?」思い詰めたようにアンジェリークはエルンストを見ている
「簡単です。ヌードを見て綺麗かということと、抱き締めてみて、その心地はどうかをみます」
 何ごともないかのようにエルンストは淡々と言うが、彼女はそれどころではなかった。
「あの、それはエンペラーは脱ぐんですか?」
「上半身だけね」
 それを聞いてほっとしたものの、何だか切なくなる。

 上半身だけでもいやだ・・・

 不意に、アンジェリークの視界にもうひとりの男優の名前が入った。
 ”マッドサイエンティスト・エル”
「まだいますよ、男優」
 指摘された瞬間、エルンストは真っ赤になる。
「それは・・・、私です・・・」
 彼の照れた顔に、アンジェリークは微笑ましく思うのと同時に、少しびっくりしたというのが本音だった。

 この人がAV男優をね~!!

「女優では”キャンディ・リモージュ””ノーブル・ロザリア””スマート・レイチェル”です」
「この中でエンペラーと共演した方はいますか?」
「いいえ」
 エルンストは迷いなく言い、アンジェリークを安心させた。
「オスカーとキャンディはパートナーでしすし、ジーニアスとロザリア、私とレイチェルです」
「パートナー」
 アンジェリークが小首をかわいらしく傾げると、エルンストは少し赤くなった。
「生本番出来る恋人のことだ」
 アリオスの声が響き振り向くと、そこには艶やかな表情の彼が立っている。
「アリオスさん…。
 昨日の”お嬢ちゃんお手をどうぞ”は本番?」
「ああ、生本番だ」
 きっぱりとアリオスは認め、アンジェリークの肩を叩くと、エルンストを見た。
「明日のオーディションの女優のデータを取りに来た」
「どうぞ」
 さっとエルンストが封筒を差し出し、アリオスはそれを頷くように受け取る。

 中身が見たい・・・!
 どんな女性なの!!!

 アンジェリークは嫉妬にも似た感情が心の中に渦巻くのを感じる。

 私は・・・。
 私はどうしたいのだろうか・・・?
 人前で肌をさらすのはいや!
 だけどエンペラーが他の女性と”生本番”するのはもっといや!!!!

 アンジェリークは深く思いつめ、ある結論に達する。
「アリオスさん!
 私も、オーディションを受けさせてください!」

 心より、言葉が先に出た。

コメント

chatで生まれた、
「アリオスAV監督、アンジェ女優」物です。
ははははは。
皆様~かみそりはやめてください(笑)