遅い朝食を軽く取った後、アリオスの車でアンジェリークのアパートに向かった。 管理人や隣人には、一月ほど留守にすると連絡を入れ、少し訝しげられたが、親戚の家に勉強に集中する為に行くといって、何とか納得してもらえた。 名門校に行っている役得である。 黙って一月も家を空けるのは気が引けたからである。 荷物をまとめてアリオスの車に詰め込む。 主には、学校の道具がほとんどで、荷造りはすぐに終わった。 彼女が荷造りをする間は、アリオスは煙草を吸いながら待っていてくれる。 私物なので気を遣ってくれたようだ。 何だかうしろめたいような、それでいて嬉しい、どこか秘めやかな妖しい思いがある。 こんなステキな男性(ひと)とたとえ一月でも暮らせるなんて、私は幸せものかもしれない・・・。 アリオスさんのの真のパートナーになれればいいのに・・・。 彼の横顔をそっと見つめる。 そこには紛れもなく恋心があり、その精悍な横顔に、アンジェリークは見惚れずにはいられない。 今はとても嬉しい・・・。 だけど・・・。 アンジェリークは切なさに泣きそうになりながら、アリオスの背中を見つめていた。 「おい、荷物はこれだけでいいか?」 「はい。当座はそれだけで充分です」 「そうか」 当座か…。 俺はもう放さないつもりだがな? 荷物の搬出は、アリオスがしてくれ、彼女には重いものを一切持たせない。 そのさりげない優しさが、アンジェリークの思いをさらに膨らませた。 車に乗り込んだとき、アリオスが彼女をふと見つめる。 「おまえの部屋はいい雰囲気だな・・・。暖かいというか、そんな感じがする・・・」 今までそんな風に思ったことは一度もなくて、アンジェリークは頬を薔薇色に染め上げた。 純粋に嬉しくて、彼女はアリオスをまっすぐ見る。 「何もない部屋ですけど、そう思って頂けると嬉しいです・・・」 「何もないわけねえじゃねえか。部屋で大切な”心地好さ”と”温かさ”がある。 それに・・・、おまえがいる」 優しい甘やかな眼差しが捕らえてくる。 その光にアンジェリークは弱くて。 「有り難う・・・」 「俺の家もおまえの温かさで満たしてくれ」 思いがけない温かな言葉に、アンジェリークは涙が出そうになるほど嬉しかった。 「はい・・・、そうします」 「じゃあ早速だが、腹が減ったから昼飯と夕飯の買い物に行くか」 「はい」 車に揺られて、アリオスのマンション近くのスーパーに向かう。 車の揺れがとても心地よく、幸せな気分になりながら。 スーパーでは、アリオスがカートを引いてくれた。 「俺は食材とかあまり拘らねえタイプだから、適当にやってくれ。おまえに任せる」 「はい」 アンジェリークはあれこれと食材を見ながら、いろいろメニューに頭を巡らせる。 「何が食べたいですか?」 「おまえ」 「・・・なっ」 定番である答えに、アンジェリークは白い肌を真っ赤に染め上げてしまう。 アリオスだからしゃれにならないのだ。 「…じゃなくて…」 消え入るように言う彼女に、アリオスは優しく微笑んだ。 「じゃあ、精力のつくもの」 「あ…」 今度も余りにもストレートな答えに、アンジェリークは更に真っ赤になって俯いてしまう。」 「えっ、ウナギとか、ステーキとか・・・?」 「肉ものだったらシチューが結構好きだぜ」 「だったらタンシチューにでもするわ」 彼女は、早速肉売り場に行き、タンを見ながらよいものの吟味をしている。 それに付き合うだけでも、アリオスは嬉しかった。 どこか華やぎのある思いを感じずにはいられない。 こんなことすらも楽しいと思う・・・。 そうしてくれるのはアンジェしかいない。 温かさが明るさが俺を惑わせる・・・。 「お昼は?」 「簡単で構わねえよ-----ただし精力が快復出来るものな」 彼がそれ以外はあまり気にしていないので、結局メニューはアンジェリークが考えた。 昼食は軽めにおくらを使った和風パスタと長いものサラダでこれも精力が出、夕食はタンシチューとこちらも精力が出ると言う缶詰のアスパラガスを中心したサラダで、これまた精力満点。食後のおやつは”ウナギパイVSOP仕上げの仕上げだ。 精力を上げるには最高の献立になった。 レジを通って荷造りをし、重い荷物もアリオスが運んでくれる。 「有り難う」 「今夜は覚悟しとけよ? 精力満開だからな?」 「・・・もう」 はにかんだ答しか出来ない彼女が、彼は酷く愛しかった。 今夜は頑張るぜ? ・・・もう・・・。 明日は学校だから早く寝かせてね? これからの一月------ 甘く淫らな毎日が始まる。 アンジェリークは期待を99パーセント不安を1パーセント胸に抱いて、今、まさに、アリオスの巣の中に飛び込んで行こうとしていた------ |