アンジェリークはアリオスを見つめることしか出来ない。 「なんて顔してやがる・・・」 「えっ!?」 気がついたときにはもう遅くて、アンジェリークは手を取られ、抱き寄せられていた。 どうしていいか判らず、うろたえる彼女に、彼は微笑みを浮かべる。 その甘さに、アンジェリークは頬をほんのりと紅く染め上げた。 「あの・・・」 「可愛いなおまえ。俺が選んだだけはある・・・」 甘く囁かれて、アンジェリークは心臓が早鐘を打っているのを感じる。 唇がゆっくりと近付いてくる。 麻痺しているかのように、潤んだ大きな瞳を、アリオスに向けることしか、アンジェリークにはもはや出来なかった。 その初々しい反応が、アリオスには可愛くて堪らない。 このまま押し倒したい衝動を何とか堪えて、アリオスは、アンジェリークの甘い唇に口づけた。 最初はゆっくりと優しくキスをする。彼女の唇をしっとりと包み込むように、甘く、切なく。 少し震える華奢な体を支えてやりながら、彼女にとっては、これが初めてであることを感じた。 舌を使ってゆっくりと腔口内を愛撫してやれば、彼女は全身を甘く震わせた。 こんな感覚今までなかった・・・。 アンジェリークはその甘さにしばし溺れる。 アリオスもまた、彼女の甘い唇とその初々しい反応に、夢中にならずにはいられない。 もう・・・、息が・・・、出来ない・・・。 ようやく唇を離されて、アンジェリークはそのまま彼の腕にしがみついた。 この反応・・・。性格に加えて、体も素直なのか・・・。 アリオスは本当に嬉しくて、彼女を思わず抱きすくめてしまう。 「あ・・・、アリオスさん・・・」 「”さん”はいらねえよ、アンジェ。今日から俺たちは夫婦だからな?」 その腕の温かさ、香りがアンジェリークをくらくらとさせる。 「さあ、行くぞ? おまえの父親も教会前で待っている・・・」 ごく自然に、アリオスはアンジェリークの手を引くと、そのまま教会へと誘った。 パイプオルガンの荘厳な音が鳴り響く。 その音に導かれて、アンジェリークは父親と、アリオスの待つ場所まで行き、そこからは彼と一緒に祭壇まで向かった。 神様に誓っちゃうのか、私・・・。 「アリオス、あなたはアンジェリークを病める時も健やかなる時も愛することを誓いますか?」 「誓うぜ」 「アンジェリーク、あなたはアリオスを病める時も健やかなる時も、愛することを誓いますか?」 「誓います」 言葉が意思よりも先に自然と出てしまう。 ベールを取って、アリオスはゆっくりと口づける。 長い長い口づけを頬を染めて受けるアンジェリークに、誰もがこれが政略結婚だとは思えない。 指輪の交換をして、二人は神の下で夫婦となった。 披露宴は、財界の大物も参加した、とても大規模なもので、慎ましく育ったアンジェリークにとっては気後れしてしまう。 「大丈夫だ」 「はい・・・」 テーブルの下で、アリオスが手を握って、優しく包みこんでいる。 その温かさは、安堵感と切ない甘さの両方を運んでくれる。 アリオスをちらりとはにかんで見つめるアンジェリークと、それを優しく見守るアリオスに、誰もが二人の間に愛情を感じずにはいられない。 お色直しも四回行い、その度にレイチェルが付いてくれた。 それ以外は、アンジェリークの手をアリオスが握り締めていてくれた。 披露宴の後、二次会などは特に行わず、二人は挨拶を終えた後、ホテルのスウィートに向かう。 「ドレス姿も綺麗で良かったが、今のワンピースも可愛いぜ?」 「あ、有り難うございます、アリオスさん・・・」 腰をすっと抱き寄せて、アリオスは耳元で囁く。 「”さん”は止めろ、アリオスだけでいい。敬語もいいからな? 遠慮するな、夫婦なんだからな」 ”夫婦”その響きに戸惑いを感じながら、アンジェリークははにかんだように頷いた。 スウィートルームの中に入ると、その豪華さに、アンジェリークは息を飲んだ。 「おまえとの記念すべき夜なんだから気合いをいれた」 ”記念すべき夜”。 その甘い言葉に、身を堅くしつつも、アンジェリークは身体が甘く潤うのを感じた。 「緊張しなくてもかまわねえからな? 今夜は、思い出の夜にしような?」 アンジェリークは、耳まで真っ赤にして、コクリと頷く。 恐怖感がないわけではない。 だが、アリオスかくれる温かさは、それ以上の安らぎを彼女に与えてくれていた。 入浴を先に済ませることになり、アリオスがシャワーを浴びた後、アンジェリークも入ることになった。 ゆっくりめに髪と身体を洗った後、浴槽に入る。 お湯に浸かり、疲れを癒すと、肌だけが敏感になっているのを感じた。 経験豊富な彼が、経験のない私なんかに、満足しないだろうな・・・。 そう思えば思うほど、彼女は自信を無くしてしまうのであった。 入浴後、少しゆっくりとすることになり、二人は隣り合わせでソファに座る。 テーブルには、ルームサービスで頼んだ、ウォッカとハーブティが並んでいる。 アリオスはウォッカを、アンジェリークはハーブティーを飲む。彼女はもちろん、高ぶった心を落ち着かせるためであった。 「美味しい…」 「どうだ落ち着いたか?」 艶やかなローヴ姿のアリオスが、優しく囁いてくれて、アンジェリークは胸をどきどきさせながら頷く。 ローヴの前が肌蹴ている彼の様子が、とても艶やかで、思わず目を反らせてしまう。 その反応すらも可愛くて、アリオスはフッと笑った。 「アンジェリーク…」 アリオスは優しく包み込むように彼女を抱き寄せると、耳元で囁く。 「ベッドに行くぞ?」 アンジェリークは恥ずかしさのあまり、目を強く閉じて、そのまま彼にしがみつく。 アリオスは、アンジェリークを抱き上げると、ベッドへと連れて行った---- |