BE MY WIFE

Chapter14


 アンジェリークが落ち着くまではそばにいてやりたかったが、そうもいかず、アリオスは出社することになった。
「今夜は、早く帰ってくるからな?」
「うん、アリオス」
 彼が出社する直前まで、彼女は彼を放したがらなかった。
 やはり、不安と寂しさで辛いようだ。
「アンジェ・・・」
 彼女の瞼に口づけると、アリオスは名残惜しげに離れる。
「いってくる」
「いってらっしゃい」
 振り返ると、泣きそうになっている彼女ががいる。
 そんな彼女を抱き締めたい衝動に、アリオスは駆られた。
 感情を振り切るように彼は家を出ていく。
 残されたアンジェリークは、ソファにぐったりと腰をかけた。

 アリオスが、仕事にいかなくっちゃならないのは、十分に判ってるつもり。
 だけど、そばにいて欲しいの・・・。

 アリオスが恋しくて仕方がなくて、彼の香りがするシャツをしばらくは身に纏っていた。


 結婚前に三人の女と手を切ったが、後ひとりと手を切らなきゃならねえな・・・。

 仕事をしながらも、アリオスはアンジェリークのことしか考えられないでいる。
 今朝の涙を溜めた表情を、忘れられなかったから。

 女と手を切ったら、俺は絶対に浮気はしない・・・!!

 電話を手に取ると、アリオスはアンジェリーク直通の番号に電話をかける。
「はい、アンジェリークです」
「アンジェ、俺だ」
「アリオス!!」
 彼と判るなり、アンジェリークの声は一気に明るくなる。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ちゃんと待ってるから、早く帰ってきてね。アリオス」
「ああ。約束する」
 ふたりは他愛のないことを少し電話で話した後、電話を切った。
 あまりにも可愛らしい彼女に、アリオスは優しい気分になる。
 それが活力になってか、アリオスは仕事を精力的にこなせるのであった。

 それからというもの、毎日、昼間は必ず電話で話し、夜はたっぷりと愛し合う。
 甘く充実した日々が続いている。

「ねえ、今日の昼間ね、レイチェルとショッピングをしたいんだけど、構わない?」
「ああ。かまわねえよ」
 レイチェルはアリオスの従妹なので、彼はすんなりと返事をした。
「有り難う」
「久し振りの外出だもんな。楽しんで来い?」
「うん!」
 結婚、そして父の死と、様々な経験をしたせいか、ここ二か月は外出をまったくしていなかった。
 それもあったせいか、アリオスは彼女の外出を快く許可をする。
「レイチェルとね、色々と見に行く予定なの!」
 うきうきとした彼女を見るのは、アリオスにとっても楽しいことであった。


 昼前にアンジェリークはレイチェルと落ち合った。
「アンジェ!」
「レイチェル!」
 ショッピングセンター前の鐘の前で落ち逢った二人は、手を取り合ってジャンプしあう。
「良かった〜!! アンジェ、元気そうでさ!!」
「うん。随分、気分は良くなったわ!」
 明るく笑うアンジェリークにレイチェルもほっとする。
「もうすっかり、総帥夫人が板に付いてるよ〜」
「やだ・・・」
 真っ赤になって否定するところが、また可愛くてたまらない。
 それだけで、彼女がアリオスと一緒に幸せなことを感じる。
「幸せそうだね? 安心した」
「うん、おかげ様で・・・」
 少しはにかみながら言う彼女に、レイチェルは頷きながら喜んでくれる。
「じゃあ行く? オススメのカフェレストランがこの近くにあるから案内するよ」
「うん!」
 ふたりは幸せそうに笑いながら、レストランに出掛けた。

「でさ、話って何?」
「・・・アリオスのことなんだけど・・・」
 内心”来た”と、レイチェルは思った。
 アリオスの女性遍歴は、従妹として、多少は知っている。
「あいつ何かした?」
「ううん、彼自身じゃなくて、私が彼にどうすれば、ちゃんと思いが伝わるのかと思って…」
 恥ずかしそうにする彼女は、”恋する乙女”そのものである。
 それがまた愛らしい。
「で、どんな思いを伝えたいの?」
「・・・アリオスが大好きだってことを伝えたいの・・・。一番大好きな男性だってことを・・」
「アンジェ・・・」
 ほんの少しアリオスに妬いてしまうが、レイチェルは親友が幸ならば嬉しい。
「素直に”大好き”って言えばいいと思うよ? あの男には。上目遣いで、いつものアンジェのようにすれば完璧かな〜」
「もう、レイチェルったら…」
 はにかんだまま俯いてしまうアンジェリークを、レイチェルは楽しそうにみている。
「ねえ、アンジェ」
 レイチェルはそっと耳打ちをする。
「何?」
「アリオスとはどれぐらいえっちしてるの?」
 それを訊いた途端、アンジェリークの頭からは湯気が出て、プスプスと音が出るほど真っ赤になってしまう。
「ふ…、普通の新婚さん並には・・・」
「・・・てどれくらい・・?」
「え?」
 アンジェリークはびっくりしたように、レイチェルを見る。
「それを聞いたらさあ、アリオスがアンジェをどれぐらい好きかわかるから」
「う、うん・・・」
 レイチェルの言葉を間に受けて、アンジェリークは愛らしく頷いた。
「毎晩だけど・・・、平日は一日2回だけ…。土曜日は、一晩中だから、5,6回かな」
 本当に小さな小さな声でアンジェリークはレイチェルに囁いた。

 やっぱり…。
 アリオス、アンジェにメロメロだわ…。
 まあ、こんな可愛い子だったら仕方ないしね〜。
 アリオス自身、この子に一目惚れだったし…。

「大丈夫よ!! さっき言ったことをすれば、絶対に、アリオスは判ってくれるって!!」
「うん!!!」
 アリオスの従妹であるレイチェルの言葉は、何よりも励みになる。
 アンジェリークは嬉しそうに笑いながら、夜が来るのが楽しみでならなかった。


 散々喋って、飲んで食べた後、二人は店を後にした。
「おいしかったね〜」
「うん!!」
 ふと、アンジェリークの視界に、見慣れた銀色の髪が見えた。
 隣には美しい女性が、親しそうな様子で笑っている。

 背格好もよく似てるし、アリオスかな…

 じっと見つめていると青年が一瞬、顔を横に向ける。

 アリオス…!!!!

 まるで夫婦のような雰囲気を醸し出しながら、二人は仲良く高級レストランに向かう。
「アンジェ…」
 アンジェリークは呆然と立ち尽くし、何も考えることが出来ない。
 彼女にとっては、目で見たものが全てだった。

 アリオス・・・!!!
 どうして…!!!
 私はやっぱり、”子供をうませるだけ”の道具なの!?
 ねえ、アリオス!!!

 レイチェルは、青ざめるアンジェリークの肩を抱いてあげることしか出来やしなかった--  
TO BE CONTINUED…

コメント

「顔を知らないままに、アリオスと結婚をしたアンジェリークの物語です」
喪服でするなんて・・・(笑)
物語は動きました。
果たして二人はどうなるか!!
つづく〜