アンジェリークが落ち着くまではそばにいてやりたかったが、そうもいかず、アリオスは出社することになった。 「今夜は、早く帰ってくるからな?」 「うん、アリオス」 彼が出社する直前まで、彼女は彼を放したがらなかった。 やはり、不安と寂しさで辛いようだ。 「アンジェ・・・」 彼女の瞼に口づけると、アリオスは名残惜しげに離れる。 「いってくる」 「いってらっしゃい」 振り返ると、泣きそうになっている彼女ががいる。 そんな彼女を抱き締めたい衝動に、アリオスは駆られた。 感情を振り切るように彼は家を出ていく。 残されたアンジェリークは、ソファにぐったりと腰をかけた。 アリオスが、仕事にいかなくっちゃならないのは、十分に判ってるつもり。 だけど、そばにいて欲しいの・・・。 アリオスが恋しくて仕方がなくて、彼の香りがするシャツをしばらくは身に纏っていた。 結婚前に三人の女と手を切ったが、後ひとりと手を切らなきゃならねえな・・・。 仕事をしながらも、アリオスはアンジェリークのことしか考えられないでいる。 今朝の涙を溜めた表情を、忘れられなかったから。 女と手を切ったら、俺は絶対に浮気はしない・・・!! 電話を手に取ると、アリオスはアンジェリーク直通の番号に電話をかける。 「はい、アンジェリークです」 「アンジェ、俺だ」 「アリオス!!」 彼と判るなり、アンジェリークの声は一気に明るくなる。 「大丈夫か?」 「うん、大丈夫。ちゃんと待ってるから、早く帰ってきてね。アリオス」 「ああ。約束する」 ふたりは他愛のないことを少し電話で話した後、電話を切った。 あまりにも可愛らしい彼女に、アリオスは優しい気分になる。 それが活力になってか、アリオスは仕事を精力的にこなせるのであった。 それからというもの、毎日、昼間は必ず電話で話し、夜はたっぷりと愛し合う。 甘く充実した日々が続いている。 「ねえ、今日の昼間ね、レイチェルとショッピングをしたいんだけど、構わない?」 「ああ。かまわねえよ」 レイチェルはアリオスの従妹なので、彼はすんなりと返事をした。 「有り難う」 「久し振りの外出だもんな。楽しんで来い?」 「うん!」 結婚、そして父の死と、様々な経験をしたせいか、ここ二か月は外出をまったくしていなかった。 それもあったせいか、アリオスは彼女の外出を快く許可をする。 「レイチェルとね、色々と見に行く予定なの!」 うきうきとした彼女を見るのは、アリオスにとっても楽しいことであった。 昼前にアンジェリークはレイチェルと落ち合った。 「アンジェ!」 「レイチェル!」 ショッピングセンター前の鐘の前で落ち逢った二人は、手を取り合ってジャンプしあう。 「良かった〜!! アンジェ、元気そうでさ!!」 「うん。随分、気分は良くなったわ!」 明るく笑うアンジェリークにレイチェルもほっとする。 「もうすっかり、総帥夫人が板に付いてるよ〜」 「やだ・・・」 真っ赤になって否定するところが、また可愛くてたまらない。 それだけで、彼女がアリオスと一緒に幸せなことを感じる。 「幸せそうだね? 安心した」 「うん、おかげ様で・・・」 少しはにかみながら言う彼女に、レイチェルは頷きながら喜んでくれる。 「じゃあ行く? オススメのカフェレストランがこの近くにあるから案内するよ」 「うん!」 ふたりは幸せそうに笑いながら、レストランに出掛けた。 「でさ、話って何?」 「・・・アリオスのことなんだけど・・・」 内心”来た”と、レイチェルは思った。 アリオスの女性遍歴は、従妹として、多少は知っている。 「あいつ何かした?」 「ううん、彼自身じゃなくて、私が彼にどうすれば、ちゃんと思いが伝わるのかと思って…」 恥ずかしそうにする彼女は、”恋する乙女”そのものである。 それがまた愛らしい。 「で、どんな思いを伝えたいの?」 「・・・アリオスが大好きだってことを伝えたいの・・・。一番大好きな男性だってことを・・」 「アンジェ・・・」 ほんの少しアリオスに妬いてしまうが、レイチェルは親友が幸ならば嬉しい。 「素直に”大好き”って言えばいいと思うよ? あの男には。上目遣いで、いつものアンジェのようにすれば完璧かな〜」 「もう、レイチェルったら…」 はにかんだまま俯いてしまうアンジェリークを、レイチェルは楽しそうにみている。 「ねえ、アンジェ」 レイチェルはそっと耳打ちをする。 「何?」 「アリオスとはどれぐらいえっちしてるの?」 それを訊いた途端、アンジェリークの頭からは湯気が出て、プスプスと音が出るほど真っ赤になってしまう。 「ふ…、普通の新婚さん並には・・・」 「・・・てどれくらい・・?」 「え?」 アンジェリークはびっくりしたように、レイチェルを見る。 「それを聞いたらさあ、アリオスがアンジェをどれぐらい好きかわかるから」 「う、うん・・・」 レイチェルの言葉を間に受けて、アンジェリークは愛らしく頷いた。 「毎晩だけど・・・、平日は一日2回だけ…。土曜日は、一晩中だから、5,6回かな」 本当に小さな小さな声でアンジェリークはレイチェルに囁いた。 やっぱり…。 アリオス、アンジェにメロメロだわ…。 まあ、こんな可愛い子だったら仕方ないしね〜。 アリオス自身、この子に一目惚れだったし…。 「大丈夫よ!! さっき言ったことをすれば、絶対に、アリオスは判ってくれるって!!」 「うん!!!」 アリオスの従妹であるレイチェルの言葉は、何よりも励みになる。 アンジェリークは嬉しそうに笑いながら、夜が来るのが楽しみでならなかった。 散々喋って、飲んで食べた後、二人は店を後にした。 「おいしかったね〜」 「うん!!」 ふと、アンジェリークの視界に、見慣れた銀色の髪が見えた。 隣には美しい女性が、親しそうな様子で笑っている。 背格好もよく似てるし、アリオスかな… じっと見つめていると青年が一瞬、顔を横に向ける。 アリオス…!!!! まるで夫婦のような雰囲気を醸し出しながら、二人は仲良く高級レストランに向かう。 「アンジェ…」 アンジェリークは呆然と立ち尽くし、何も考えることが出来ない。 彼女にとっては、目で見たものが全てだった。 アリオス・・・!!! どうして…!!! 私はやっぱり、”子供をうませるだけ”の道具なの!? ねえ、アリオス!!! レイチェルは、青ざめるアンジェリークの肩を抱いてあげることしか出来やしなかった-- |