飛行機の中でも、アンジェリークは目を真っ赤に晴らして、震えていた。 お父さん…!!!! アリオスはアンジェリークの身体を引き寄せ、守るように抱き締める。 彼女は彼の手をぎゅっと握り締めて、苦しくも悲しい心を預けた。 「大丈夫だアンジェ、俺がついてる」 「うん、アリオス…」 夫になったばかりの相手が、アリオスでよかったとアンジェリークは思う。 彼はとても頼りになり、包容力もある。 アリオスと結婚してよかったと、思わずにいられなかった。 良い結婚をしたと思った矢先に、父親が交通事故で他界するとは、思ってもみなかった 「アンジェ・・・」 「アリオスはいなくなったりしないでね? アリオスは絶対・・・」 途中で波ファ郡で姉妹、アンジェリークはこれ以上の言葉を発することが出来やしない。 「俺は絶対におまえを置いていったりなんかしねえから…」 「うん…」 まるで幼子のように、アンジェリークはアリオスの胸にしっかりとしがみ付いている。それを彼は優しく包み込んでいた。 「・・・お父さんに・・・、孫の顔を見せてあげたかった・・・」 「そうだな…」 「なのに・・・、赤ちゃんが出来る前に死んじゃうなんて・・・!!!」 アリオスは余りにもアンジェリークが痛々しくて、愛しくてたまらなくて、華奢な彼女の躰をずっと抱き締めていた----- ---------------- アルカディア空港について、彼女の実家に向かう。 他人が運転する車を嫌がったアンジェリークのためにと、アリオスは自分の愛車のスポーツカーで彼女の実家に向かった。 アリオスに目で縋りつきながら、彼女は震える身体を抱き締めた。 静かに車が駐車場に入った。 車から降りると、アンジェリークは現実を突きつけられるのが嫌で、脚に力が入らない。 「大丈夫だから、アンジェ…」 「うん、アリオス・・・」 アリオスに支えられるようにして、アンジェリークは家に向かう。 その後ろを神妙な表情のアリオスの秘書カインが後に続いた。 玄関のインターフォンを押し、アンジェリークは緊張のあまり、身体を震わせる。 「はい? アンジェ!!!」 「帰ってきたわ、アリオスと一緒に」 「待って直ぐ開けるから」 母親は慌てて玄関に向かうと、ドアを大きくあける。 「アンジェ!! それにアリオスさんまで!!」 母親は幾分かやつれているようだったが、それでも気丈に二人を迎えてくれる。 「お父さんの告別式は明日、ミカエル教会でだからね、アンジェリーク」 「・・・はい」 告別式と聴かされて、いよいよ現実味が帯びてくる。 リビングに案内されて、アンジェリークはソファに腰を下ろしたが、アリオスを掴んだまま離さない。 「・・・お父さんはどんな事故だったの?」 震える声で、アンジェリークは何とか効くことが出来た。 「相手は飲酒運転だったの・・・。 お父さんは避けようとしたんだけど巻き込まれて・・。 お父さんのほかにも、この事故に何人も巻き込まれたのよ・・・。 しかも相手は無免許だったのよ・・・」 母親は途中まで淡々と離していたが、最後の言葉は涙で聞こえずらい。 「あなたが、本当に幸せだと電話で話してくれたでしょう? あの時、お父さんは本当に喜んでたわ・・・。 早く、あなたたちの子供が、孫が見たいといっていたのに・・・」 「お父さん…っ!!」 我慢していた感情が一気に噴出す。 アンジェリークはアリオスの胸に思い切り顔を埋めると、そのまま大声で泣き始め、いつしかショックからか気を失っていた。 「気を失った見てえだ。どこか部屋はねえか?」 「だったら、あの子が使っていた部屋があります」 「案内してくれ」 アリオスはアンジェリークを抱き上げると、アンジェリークが使っていた部屋に彼女を連れて行き、ベッドの上に寝かせる。 「俺がついてますから、お義母さんも休んだほうがいい」 「はい・・・」 アンジェリークの母親は頭を下げると、寂しそうに笑ってアリオスを見た。 「このこ、電話を旅行先からくれたときに、すごく嬉しそうだったんです。 あなたと結婚できて幸せだと…。 出会って少ししかたっていないけど、あなたを愛していると…。そう言ってましたわ」 母親の言葉が温かい温もりとなって、アリオスの胸に下りてくる。 彼はまだあどけなさが残るアンジェリークの寝顔を見つめ、心が愛しさで溢れそうになるのを感じる。 「では、アンジェを頼みます」 「はい」 アンジェリークの母親が部屋を出たあと、アリオスはアンジェリークの唇に愛しそうにキスをした。 「・・・んんっ・・・」 気がつくと、ついこの間まで使っていたベッドに寝かされていた。 「アリオス…」 「ここにいる」 彼が傍にいてしっかりと手を握りしめ、彼はアンジェリークに顔を近づける。 「有難う、アリオスがいると安心できるから…」 「今日は無理すんなよ? ゆっくりと休め」 「うん・・・。アリオス、一緒にいてね? 傍で眠ってね?」 子供のように甘えるアンジェリークを、アリオスはしっかりと支えながら静かに頷いた。 ----------------- 翌日、葬儀は滞りなく済まされた。 父親の亡骸と対面した時は、アンジェリークは大声で泣いたが、アリオスに支えられて、何とか火葬まで付き添うことが出来た。 この後の処理は、アリオスが弁護士を紹介してくれ、アンジェリークの母親に有利なように取りはかれるよう、手配してくれている。 父親が一代でここまで外食チェーンも、アルヴィースグループに吸収されることはなく、独自に歩むことも決定されている。 もちろん後ろ盾はアルヴィースがしてくれる。 自分の元には何の利益もないのに、しっかりとここまでしてくれるアリオスに、アンジェリークは感謝せずにはいられなかった。 彼女の弟マルセルが、無事に会社を告げるようになるまで、彼女の母も社長として頑張っていくことになっている。 ともあれ、少しは安心したアンジェリークだった。 葬儀の後、アンジェリークは新居に向かう。 アリオスとの愛の巣はかなり大きな邸宅であったが、葬儀直後の彼女にとっては、屋敷を見回る余裕すらなかった。 寝室に入ると、アンジェリークは疲れきったように溜息を一つ吐く。 「・・・これからもうお父さんに逢えないなんて、信じられない・・・」 「アンジェ…」 涙ぐむ彼女をアリオスはぎゅっと包み込む。 「これからは俺がいる。 俺がお前を守ってやるから…」 「アリオス・・・っ!!」 そのまま二人はしっかりと抱き合うと、ベッドの上に倒れこんだ。 アリオス…。 あなたがいないともう生きられないから・・・ |