軽快な楽しい音楽の元、ふたりは踊る。 やはりレウ゛ィアスは皇太子ということもあり、ダンスは完璧だった。 しなければならない嗜みなのだろう。 アンジェリークは安心してリードに任せることが出来た。 「やっぱり上手いですね、ダンス」 「今日ほどこの嗜みを持って良かったと思った日はないな」 レウ゛ィアスは柔らかに微笑みながら、アンジェリークとのダンスを楽しむ。 ダンスは、いつも義務でしかなかったものが、今はとても心地が良かった。 楽しい時間というのは、どうして短く感じるのだろうか。 アンジェリークはしみじみと思いながら、レウ゛ィアスを潤んだ瞳で見つめる。 ラストナンバーのとてもロマンティックな曲が聞こえてきた。 レウ゛ィアスはアンジェリークをぎゅっと抱き締めた後、ダンスを楽しみ始める。 温かく逞しい腕に、アンジェリークはうっとりとした。 「・・・ずっと、このままだったらいいのに・・・」 本当にそう思わずにはいられなくて、アンジェリークは切なげにレウ゛ィアスの胸に全てを預けた。 「・・・本日のパーティはこれにて閉会致します。有り難うございました」 アナウンスが流れる中、アンジェリークはとぼとぼと船から降りる。 これはレヴィアスも同じだ。 車に乗り込んだ時も、お互いに無口だった。 エンジンがかかり、ナビゲーションがオンされる。 「・・・アンジェ、今夜は離したくない」 情熱的な声に、アンジェリークは頷くことしか出来ない。 この熱い思いに逆らうことなんて出来ないから。 レウ゛ィアスは僅かに甘く微笑んで、アンジェリークの頬を愛しげに撫で付ける。 指の温かさと切なさを、アンジェリークは一生忘れないだろうと、つくづく感じていた。 レウ゛ィアスが宿泊するインペリアル・スウィートに入るのには、少し照れくさかった。 特にベッドは、毎日綺麗にしている場所だから。 「アンジェ・・・」 部屋に入ると、レウ゛ィアスは深く抱き締めてきた。 息が出来なくなり、自分で動きがコントロール出来なくなる。 情熱にまかせて、アンジェリークはレウ゛ィアスにその身を委ねた。 幸せな夢のような時間は、すぐに過ぎていく。 レウ゛ィアスと結ばれた幸せをかみ締めながらも、アンジェリークは仕事に戻らなければならない。 「行かなきゃ」 「ああ」 頭ではそう判っているが、心がそうはさせやしない。 レウ゛ィアスはアンジェリークをしっかりと抱き締めて離さない。 「本当は離したくないんだが、仕方あるまい」 レウ゛ィアスは一度ぎゅっと抱き締めた後、名残おしいと思いつつ、アンジェリークを離した。 「レウ゛ィアスはゆっくりと寝ていてね」 ベッドから降りると、アンジェリークは手早く身支度をする。 すぐに、通勤が出来る状態に早変わりだ。 「今日、休みだったらよかったな」 「これでもいつもよりはずっと起きる時間は遅いですから」 レウ゛ィアスに近付くと、アンジェリークは頬にキスを送る。 「また後でな?」 「うん・・・」 軽く一礼をした後、アンジェリークは部屋を辞した。 いつものようにアンジェリークは出勤したが、職場仲間はいつものように接してくれる。 昨日のことがあったにも関わらず、仲間の広い心が嬉しかった。 今日もせっせと仕事をして、レヴィアスが宿泊するインペリアル・スウィートを片付ける。 自分たちの愛し合った後が、ベッドに生々しく残っているような気がして、妙に恥ずかしかった。 綺麗にして部屋を出て、今日の仕事はおしまい。 着替えて職場を出る時も、妙に期待をしてしまった。 レウ゛ィアスに逢えるかもしれないと期待してしまう自分が、どこか恥ずかしい。 学校に行っても、授業の合間で携帯をチェックせずにはいられない。 だが、レウ゛ィアスからの着信はなくて、しょんぼりした。 学校から出る時に、今度こそと思ったが、それも適わず終わる。 あの一日は、きっと夢だったのかもしれない・・・。 そう思うだけで、切なくて泣けてしまうのだった。 結局、この日は一切連絡がなく、アンジェリークは何度も昨日のことを思い出しては、切ない逃避をする。 昨日のことを思い出す度に、楽しさと切なさが交差した。 翌日、いつものようにアンジェリークは出勤した。 早朝の雑務をこなした後、レストランの前を通り掛かる。 いつもなら素通りをするところだが、今日は視界にひっかかるものを感じた。 レウ゛ィアス・・・! 朝食時間で賑わうレストランのすみに、レヴィアスを見つけ、彼はその端で美しい女性と食事を取っていた。 ブロンドの美人とはひどく親密そうに、レウ゛ィアスに話しかけている。 胸が苦しくなるのを感じながら、アンジェリークは正視出来なかった。 ただ、マニュアル通りのロボットのように、淡々と仕事をする。 レウ゛ィアスとの出来ごとは、夢の中の出来事だと思うしかなかった。 思い出の詰まったインペリアル・スウィートの掃除は、今までで一番辛い仕事となる。 ベッドをメイキングが嫌で堪らない。 あの金髪が見つかるかもしれないと、びくびくとしていた。 シーツをランドリーボックスに入れると、足下に金の鈍いきらめきを見つけ、視線をそこに移した。 それは先程の女と同じ髪の色。 それがショックで震えが止まらなかった。アンジェリークは一生懸命掃除を終えて、ようやく重い空気から、何とか開放された。 重い気分でワゴンを押していると、前からレヴィアスがやってくる。 アンジェリークはわざと慇懃に礼をすると、その前から通り過ぎようとした。 「待て」 声をかけられたものの、彼女は強引にその前を通り過ぎようとする。 レヴィアスも急にどうして避けられるようになったのか判らず、アンジェリークを追いかける。 「アンジェ」 だが彼女は結局何も応えずに、従業員用のエレベーターに乗る。 その瞬間涙が溢れてきて、止まらなかった。 レヴィアスのバカ…。 |
| コメント 春らしい新しい甘い物語です。 シンデレラっぽい、そんな物語を目指します。 宜しくお願いします。 5回目です。 あと1回ぐらいかな〜。 また嘘か(笑)かも。 新連載の前の、軽い企画です(笑) これが終われば、新連載に突入予定! おたのしみに(笑) |