Anything For You

5

 軽快な楽しい音楽の元、ふたりは踊る。
 やはりレウ゛ィアスは皇太子ということもあり、ダンスは完璧だった。
 しなければならない嗜みなのだろう。
 アンジェリークは安心してリードに任せることが出来た。
「やっぱり上手いですね、ダンス」
「今日ほどこの嗜みを持って良かったと思った日はないな」
 レウ゛ィアスは柔らかに微笑みながら、アンジェリークとのダンスを楽しむ。
 ダンスは、いつも義務でしかなかったものが、今はとても心地が良かった。
 楽しい時間というのは、どうして短く感じるのだろうか。
 アンジェリークはしみじみと思いながら、レウ゛ィアスを潤んだ瞳で見つめる。
 ラストナンバーのとてもロマンティックな曲が聞こえてきた。
 レウ゛ィアスはアンジェリークをぎゅっと抱き締めた後、ダンスを楽しみ始める。
 温かく逞しい腕に、アンジェリークはうっとりとした。
「・・・ずっと、このままだったらいいのに・・・」
 本当にそう思わずにはいられなくて、アンジェリークは切なげにレウ゛ィアスの胸に全てを預けた。
「・・・本日のパーティはこれにて閉会致します。有り難うございました」
 アナウンスが流れる中、アンジェリークはとぼとぼと船から降りる。
 これはレヴィアスも同じだ。
 車に乗り込んだ時も、お互いに無口だった。
 エンジンがかかり、ナビゲーションがオンされる。
「・・・アンジェ、今夜は離したくない」
 情熱的な声に、アンジェリークは頷くことしか出来ない。
 この熱い思いに逆らうことなんて出来ないから。
 レウ゛ィアスは僅かに甘く微笑んで、アンジェリークの頬を愛しげに撫で付ける。
 指の温かさと切なさを、アンジェリークは一生忘れないだろうと、つくづく感じていた。

 レウ゛ィアスが宿泊するインペリアル・スウィートに入るのには、少し照れくさかった。
 特にベッドは、毎日綺麗にしている場所だから。
「アンジェ・・・」
 部屋に入ると、レウ゛ィアスは深く抱き締めてきた。
 息が出来なくなり、自分で動きがコントロール出来なくなる。
 情熱にまかせて、アンジェリークはレウ゛ィアスにその身を委ねた。
 幸せな夢のような時間は、すぐに過ぎていく。
 レウ゛ィアスと結ばれた幸せをかみ締めながらも、アンジェリークは仕事に戻らなければならない。
「行かなきゃ」
「ああ」
 頭ではそう判っているが、心がそうはさせやしない。
 レウ゛ィアスはアンジェリークをしっかりと抱き締めて離さない。
「本当は離したくないんだが、仕方あるまい」
 レウ゛ィアスは一度ぎゅっと抱き締めた後、名残おしいと思いつつ、アンジェリークを離した。
「レウ゛ィアスはゆっくりと寝ていてね」
 ベッドから降りると、アンジェリークは手早く身支度をする。
 すぐに、通勤が出来る状態に早変わりだ。
「今日、休みだったらよかったな」
「これでもいつもよりはずっと起きる時間は遅いですから」
 レウ゛ィアスに近付くと、アンジェリークは頬にキスを送る。
「また後でな?」
「うん・・・」
 軽く一礼をした後、アンジェリークは部屋を辞した。

 いつものようにアンジェリークは出勤したが、職場仲間はいつものように接してくれる。
 昨日のことがあったにも関わらず、仲間の広い心が嬉しかった。
 今日もせっせと仕事をして、レヴィアスが宿泊するインペリアル・スウィートを片付ける。
 自分たちの愛し合った後が、ベッドに生々しく残っているような気がして、妙に恥ずかしかった。
 綺麗にして部屋を出て、今日の仕事はおしまい。
 着替えて職場を出る時も、妙に期待をしてしまった。
 レウ゛ィアスに逢えるかもしれないと期待してしまう自分が、どこか恥ずかしい。
 学校に行っても、授業の合間で携帯をチェックせずにはいられない。
 だが、レウ゛ィアスからの着信はなくて、しょんぼりした。
 学校から出る時に、今度こそと思ったが、それも適わず終わる。

 あの一日は、きっと夢だったのかもしれない・・・。

 そう思うだけで、切なくて泣けてしまうのだった。
 結局、この日は一切連絡がなく、アンジェリークは何度も昨日のことを思い出しては、切ない逃避をする。
 昨日のことを思い出す度に、楽しさと切なさが交差した。

 翌日、いつものようにアンジェリークは出勤した。
 早朝の雑務をこなした後、レストランの前を通り掛かる。
 いつもなら素通りをするところだが、今日は視界にひっかかるものを感じた。

 レウ゛ィアス・・・!

 朝食時間で賑わうレストランのすみに、レヴィアスを見つけ、彼はその端で美しい女性と食事を取っていた。
 ブロンドの美人とはひどく親密そうに、レウ゛ィアスに話しかけている。
 胸が苦しくなるのを感じながら、アンジェリークは正視出来なかった。
 ただ、マニュアル通りのロボットのように、淡々と仕事をする。
 レウ゛ィアスとの出来ごとは、夢の中の出来事だと思うしかなかった。
 思い出の詰まったインペリアル・スウィートの掃除は、今までで一番辛い仕事となる。
 ベッドをメイキングが嫌で堪らない。
 あの金髪が見つかるかもしれないと、びくびくとしていた。
 シーツをランドリーボックスに入れると、足下に金の鈍いきらめきを見つけ、視線をそこに移した。
 それは先程の女と同じ髪の色。
 それがショックで震えが止まらなかった。アンジェリークは一生懸命掃除を終えて、ようやく重い空気から、何とか開放された。
 重い気分でワゴンを押していると、前からレヴィアスがやってくる。
 アンジェリークはわざと慇懃に礼をすると、その前から通り過ぎようとした。
「待て」
 声をかけられたものの、彼女は強引にその前を通り過ぎようとする。
 レヴィアスも急にどうして避けられるようになったのか判らず、アンジェリークを追いかける。
「アンジェ」
 だが彼女は結局何も応えずに、従業員用のエレベーターに乗る。
 その瞬間涙が溢れてきて、止まらなかった。

 レヴィアスのバカ…。

コメント

春らしい新しい甘い物語です。
シンデレラっぽい、そんな物語を目指します。
宜しくお願いします。

5回目です。
あと1回ぐらいかな〜。
また嘘か(笑)かも。
新連載の前の、軽い企画です(笑)
これが終われば、新連載に突入予定!
おたのしみに(笑)



マエ モドル ツギ