暗闇に一瞬、フラッシュが光ったようだった。 唇を放したすきに、レウ゛ィアスはアンジェリークの手を握り締める。 「行くぞ!」 「えっ、あ、ちょっと待って! レッ!」 名前を言いそうになったところで、彼に唇を塞がれた。 甘く軽く。 キス攻撃の余韻が治まらぬなか、強引に腕を引っ張られた。 そのまま、天秤のある洞窟を抜け、アンジェリークは外に連れ出される。 その間、レウ゛ィアスは終始無言だった。 「走るぞ!」 「え、うん」 外に出た眩しさなど感じる間などなく、レウ゛ィアスに引きずられるように走る。 少し汗ばみながら駐車場まで走りきると、ふたりは大きく息をした。 なんだかむしょうにおかしくて、顔を見合うなり笑いあう。 「次、行こう」 「はいっ!」 車に素早く乗り込んで、そのまま発車する。 「腹も減ったし、どこかでランチだな。カジュアルなところはないか?」 「だったら、いいところがあるわ。オープンカフェだけど、食堂の感覚で楽しめるの」 「そこに行こう」 アンジェリークも楽しそうに笑うと、レウ゛ィアスに丁寧なナビゲーションを始めた。 ふたりを乗せた車は、今度は緑の覆い茂る森のカフェに着いた。。 そこでゆったりとしたランチタイムとなる。 注文したのは野菜たっぷりのベーグルサンドで、スープも付いてお得だ。 いただきますをして、ふたりは同じものを同じ空の下で食べる。 「・・・美味いな。こんなに美味いもんを食うのは、久し振りだ・・・」 しみじみと言うレウ゛ィアスにアンジェリークは嬉しそうに笑った。 「自然の美味しい空気がそうさせてくれるのよ?」 「そうだな・・・」 もちろん、隣の少女によるものも大きいことを、レウ゛ィアスにはよく判っている。 会話を楽しみ、食事を楽しむ。 こんなシンプルなことで幸せになれるのが、レウ゛ィアスには初めてのことであった。 食事の後腹拵えとばかりに、カフェの近くを散歩する。 しっかりとお互いの手を握りあって、ふたりは温かなひとときを楽しんだ。 昼食後、川べりに出てそこをぶらぶらと歩く。 「あれは、何だ!?」 レウ゛ィアスは、川の桟橋に停泊している手頃な船を指差した。 「あれは、今夜あの船を使って”ダンスパーティ”が行われるの」 「楽しそうだな」 「生のバンドが演奏してくれるの。楽しくてロマンティックよ」 アンジェリークのガイドを訊いていると、レウ゛ィアスは憧れて止まなくなる。 「本当に楽しそうだな。・・・その、誰かと行ったのか?」 語尾は少し強張った響きになった。 「ええ。何人かホテルのメイド仲間と遊びに」 ”メイド仲間”と聞いて、レウ゛ィアスは少しほっとする。 「俺たちも行かないか?」 途端に、アンジェリークの表情が目に見えて明るくなった。 「いいんですか? お時間とか」 「ああ。構わない」 レウ゛ィアスはしっかりと頷き、握り締める手に力を込める。 「だったら、夕方になったら、あの船に行きましょう」 「有り難う」 ふたりは船を見つめながら、幸せな今夜のダンスパーティに、思いを寄せていた。 散歩した後、アンジェリークのお勧めで、丘の上の遊園地に行くことにする。 遊園地と言っても、その地域は多くの芸術家が集まる、有名な公園でもある。 「見晴らしが最高なの。特に夕焼けと夜景が綺麗なの・・・。レウ゛ィアスさんにも見せてあげたい」 「ああ。楽しみにしている」 アンジェリークと共にみる夕日はどれほど美しいだろうか。 レウ゛ィアスはそれが楽しみで仕方がなかった。 車で公園近くまで行き、駐車場に止めてから、徒歩で丘を上がっていく。 「こうやって歩くのもいいな」 「運動になりますから」 息を切らせながら、アンジェリークは楽しそうに笑った。 白い鳩が沢山羽ばたく公園に向かい、そこのスタンドで餌を買い求める。 「餌をやりましょうよ。凄く楽しいと思います」 「微妙だな・・・」 レウ゛ィアスは、えさをやって鳩にたかられている観光客を見て、複雑な顔をしている。 「やりましょう! 楽しいから!!」 「お、おいっ!!」 アンジェリークは、レウ゛ィアスの手をしっかりと取り、鳩の群れに飛び込んでいく。 楽しそうに笑うアンジェリークにレウ゛ィアスも心が優しい気分になる。 袋から取り出した餌を、彼女は嬉しそうに撒いた。 「きゃああっ!」 餌を撒いたアンジェリークの周りに、鳩が群れをなしてやってくる。 それに驚いたのか、大きな悲鳴を上げた。 鳩に囲まれたアンジェリークの戸惑う姿が余りにも可愛くて、レウ゛ィアスはおかしそうに笑った。 「た、助けてよ〜!」 しょうがないとばかりに、彼は笑いながら鳩を追い払い、アンジェリークを助けてやる。 「有り難う・・・」 頬をうっすらと染め上げながら、アンジェリークは拗ねるようにして礼を言った。 「アンジェ、お礼はキスでいいぞ」 「あ・・・」 はにかむように俯くと、レウ゛ィアスの頬にそっとキスを送った。 しばらく公園でぶらぶらと遊んだ後、夕焼けの美しい時間帯がやってくる。 「レウ゛ィアス、夕焼け・・・」 「ああ」 丘の上から見渡すアルカディアの街は、美しい紅色に染まっていた。 「きれい・・・」 街が夕日に染まる様子よりも、アンジェリークが夕日に染まるほうが、レウ゛ィアスには、より美しく思えた。 彼女の無垢な横顔をじっと見つめる。 この横顔が、いつまでも俺のそばにいればいいのに・・・。 レヴィアスは心から思わずにはいられない。 夕焼けは紅から、やかで薄紫に変化し、しなやかに闇を迎えた。 「船のパーティに行こう」 「うん」 ふたりは手を繋いで、仲良くゆっくりと丘を下っていった。 ふたりは丁度良い時間に、桟橋につき、チケットを買った後、早速船に乗り込む。 当然のごとく、レヴィアスは、アンジェリークの手を引いて、板の橋を渡る。 この辺りの徹底的なレディファーストぶりが、彼が皇太子であることを思い出させた。 ふたりはどこから見ても恋人同士で、誰もが羨ましそうに見ずにはいられない。 生演奏------といっても、昔懐かしい、アコーディオンやギターと言った少し趣向が凝らされたもので、これがレヴィアスには好ましく映った。 「踊りましょう」 「ああ」 ふたりは手に手を取り合って、楽しく踊り出す。 舞踏会などに、良く出席をしていたが、これほど楽しいダンスは初めてだった。 船のライトが急に川縁に向けられ、レヴィアスは不思議そうに見る。 「あれは?」 「川縁にいる恋人たちをライトでてらしちゃうの」 「趣味が悪いな」 レヴィアスは苦笑するが、アンジェリークは楽しそうに笑っている。 「みんな知っていて、川縁にいるのよ」 アンジェリークはレヴィアスの手を引いてデッキの端まで来ると、笑いながら川縁を見ている。 「ほら?」 ライトがてらされると、それをタイミングに恋人たちはキスをしている。 「本当だな…」 それが雰囲気のせいで、ロマンティックに見えてしまうのが不思議だ。 「アンジェ…」 甘くて低い声でレヴィアスに囁かれると、アンジェリークは真っ赤になる。 「レヴィアス…」 顎を持ち上げられて、セクシーで不思議な瞳にじっと見つめられると、心と体が同時に熱くなる。 「------夢の女だ…。おまえは」 低い声と共に、レヴィアスの唇が重なっていく。 この瞬間は、身分違いの恋なんかじゃない。 ふたりの男と女の純粋な気持ちが、合わさった瞬間であった。 皮膚の一番薄い部分が、絡んで重なり合う。 フラッシュがそっとたかれたことなんて関係ない。 今コの瞬間が、ふたりにとって総てであった------- |
| コメント 春らしい新しい甘い物語です。 シンデレラっぽい、そんな物語を目指します。 宜しくお願いします。 4回目です。 あと2回ぐらいかな〜。 また嘘か(笑)かも。 新連載の前の、軽い企画です(笑) これが終われば、新連載に突入予定! おたのしみに(笑) |