Someday My Prince Will Come


「じゃあ、後でな?」
「あ、はい」
 ウィンクしてオスカーは立ち去り、アンジェリークはそれを見送った。

 もう胸は痛まない・・・。
 不思議ね・・・?

「アンジェ!!」
 今度はレイチェルが声を掛けてくる。
 彼女の隣には恋人であるエルンストも一緒だ。
「あれ? アリオスは? アナタの綺麗な姿を見届けるって言ってたけど・・・」
「お仕事・・・、なんだって・・・」
 萎れた花のようになっている彼女を、レイチェルも少し辛そうに見つめる。
「アンジェ・・・」
「べ、別に今日の目的はアリオスさんではないし・・・」
 口ごもるところは、それを肯定しているようなものだ。
「ワタシたちとと一緒にいなよ?」
「ごはん食べたいって思って・・・。あっちに行くからね?」
 ニコリと笑うと、アンジェリークは気を遣ってビュッフェコーナーに足早に向かった。
 その後ろ姿を見ながら、レイチェルは感づく。
 アンジェリークがアリオスに恋をしていることを。
 ビュッフェの食事に目移りしながら、アンジェリークは少しだけ気分が楽になった。
 フリーの者でまだカップルになっている者は少ないようで、食事を楽しむ者が多い。
 アンジェリークは自分の好きなものが多いことに感謝しながら、それなりに楽しんでいる。

 やっぱり、アリオスさんと食べた物のほうが、断然美味しかった・・・。どれもとっても・・・。

 それに”恋のスパイス”が入っているのをアンジェリークはまだ気がつかなかった。

「おや、君だったんだね、アリオスのドレスの贈られ主は?」
 振り返ると、そこには美しい容だちの青年が立っている。
「あ・・・」
 青年は、アンジェリークもよく知っている著名なデザイナーであった。
 セイラン--------
 その名は全世界に知らしめているオートクチュールの最高峰の名前だ。
「天使の羽根に囲まれたイメージって、なるほど君なら判るね」
 彼は頷き、自分お仕事を喜んでいるようにみえた。

 アリオスさん・・・。いつも時間を割いてくれているだけでも嬉しかったのに、”ご褒美”だと言って、ドレスをプレゼントしてくれた・・・。
 私はどうやって感謝すればいいの?

「似合ってるね。デザイナー冥利に尽きるね」
 頬を染め、アンジェリークは俯く。
 デザイナーに褒められるのは嬉しいが、どこかくすぐったかった。

 私のことこんな風に見てくれてたんだ・・・。
 アリオスさん・・・。

「きっと君のことを大切に思ってるんだよ? 彼は。
 あのアリオスが誰かの為にオートクチュールを頼むのは初めてなんじゃないかな?」
 益々アリオスに逢って腕の中に飛び込んで、お礼が言いたくて堪らなくなった。
 少し暗い表情のアンジェリークにセイランは笑って手を差し延べる。
「僕のお相手を一曲だけ願おうかな? そのドレスがダンスにいかに機能的かみたいからね?」
「はい・・・」
 セイランの心遣いにアンジェリークは素直に頷いた。
 二人はダンスの輪に加わり踊る。
 アリオスからレクチャーを受けているとはいえ、彼以外の相手だと対緊張してしまう。
 彼は上手く緊張を解しリードしてくれていた。
 セイランも上手くリードしてくれているとはいえぎこちなくなってしまう。
「もっとリラックスして?」
「はい…」
 ふわりと羽根のように揺れるオーガンジー。
「きっとこの姿はアリオスが一番見たいんだろうね。
 君もそうだろう? アリオスに一番見せたい-------」

 そう、アリオスに一番見てもらいたい--------

 アンジェリークは素直にコクリと頷いた。
 音が鳴り止む。
「僕はこの曲一曲だけだったね?」
 ふっと笑うと、セイランは名残おしそうに手を離してくれる。
「綺麗なドレスのラインを見せてくれて有難う…」
 彼はそう笑うと、再び、ビュッフェコーナーに戻り、椅子に座って満足そうに自分が作ったドレスを眺め始めた。
 アンジェリークも手持ちぶたさなせいか、ビュッフェコーナーに戻ろうとした。
「お嬢ちゃん」
 聴き慣れた声が聴こえ、アンジェリークは振り返る。
 そこにはかつて自分を振ったオスカーがいた。

 さっき見たときも、もうオスカーさんを見ても胸は痛まなくなっていた…。
 きっとこれはアリオスさんのお陰…。
 そう…。

「一曲、お相手願えないかな?」
 オスカーは騎士宜しくアンジェリークの手を取ると、その細い指に軽くキスをする。
 正式に彼女をレディと認めて、彼は申し込んでくれる。
 それはそれで嬉しかった。
 だが、それもどこか空虚に思えてしまう。

 こうなることを望んでいたはずなのに、今はそれをあまり望んでいない…
 でもこれが望みだったはずだから・・・

 折角の申し出を彼女は、”レディ”として受けることにする。
「--------お願いします」
 アンジェリークはオスカーに最高の礼儀をもって、申し出を受けることにした。
「有難う」
 手を取られて、再びダンスの輪に加わる。
 オスカーは嬉しそうに彼女を見つめリードしてくれた。
「お嬢ちゃん、こんなに短時間で”レディ”になるなんてな。
 このオスカー正直言って驚いたぜ? 本当に…」
 感嘆の溜息を洩らしながら、彼は感心するように言ってくれる。
「------付け焼刃ですよ?」
 また、アリオスのことを思い出してしまう。
 彼女が寂しげに笑うと、オスカーはその艶やかな表情に、本当に残念そうな顔をした。
「本当に…。悔しいほど綺麗になった…」
「そんな・・・」
 彼の眼差しは真剣そのもので、アンジェリークは頬を染めつつも切ない眼差しをオスカーに向ける。
「いい恋をしたんだな? 恋がお嬢ちゃん・・・、いや、君をきれいにした------アンジェリーク」
「-------ええ」
 正直に素直にアンジェリークは頷く。
 アリオスのお陰でここまでになったのだ。
 不意に艶やかな影が目に入り、アンジェリークははっとしてドアを見つめた。
 そこにはアリオスが立って、ずっとこちらの様子を伺っていた。
 目が合うなり、アリオスは静かに頷く。

 よくやったな? アンジェリーク…

 彼は親指を立て幸運の印を彼女に送ると、ドアからそっと出て行ってしまう。

 アリオス…!!!

 先ほどから注意散漫なアンジェリークに、オスカーもようやくアリオスの存在に気がつく。
「お嬢ちゃんは、好きなんだろう・・・あの男が?」
 優しく言われて、アンジェリークはじっとオスカーのアイスブルーの瞳を見つめた。

 そうだ…。
 私はアリオスが好き------
 誰よりも好きなんだ・・。・


〜TO BE CONTINUED・・・〜
 

コメント

アリアンの「MY FAIR LADY」です。
また? という声が聞こえてきそうだ(笑)
書きたかったんだもん〜

短期集中で書いてまいりましたが次回がいよいよ最終回。
といっておりましたが、また(笑)
一回伸びますので(笑)
いよいよ次回最終回!!
 雪野ちんくは狼少年(笑)

 マエ  モドル ツギ