彼に逢うだけで緊張してしまう・・・。 けれど逢わないと、こんどは凄く寂しくなってしまう・・・。 楽しい時間は過ぎるのが早くて、いよいよ明日は、アルカディアボウルのダンスパーティ。 アンジェリークが目標としていた日。 オスカーを見返したいと思っていた日。 目標と思っていたのに、この日が来なければ良いのにと、最近は思ってしまう。 もっと傍に痛いって、私本当にそう思ってる… 「こんにちは…」 「よお、準備は出来てるぜ?」 顔を出すと、アリオスが粋な微笑を浮かべて出迎えてくれた。 「有難う」 いつもよりもしおらしくしている彼女に、アリオスは眉根を寄せる。 「おい、いつもの元気はどうした? 今から緊張してるのかよ?」 「そんなことはないわ」 笑いながら、アリオスはアンジェリークの真っ直ぐな栗色の髪を撫でる。 一緒に放課後を過ごして一ヶ月------- この時間は、彼女にとってはかけがいのない時間になりつつあった。 「いよいよ明日だな? 今日は総仕上げだ」 「------うん…」 「こっちに来い、見せたいものがある」 アリオスの後に着いていくと、奥にある小さな部屋に通してくれた。 ドアを開けるなり、彼女は感嘆のあまり息を呑み、声にならない声を上げてしまう。 「これ…」 「今までのご褒美だ」 そこにはアンジェリー気が似合うだろう、オーガンジーがふんだんに施された羽根のようなのドレスがかかってあり、白くふわふわした雰囲気は、まるで天使のようだ。 「綺麗…」 ただそれしか言えなくて、後の言葉は詰まってしまう。 胸が苦しくて、彼女は涙を堪えるのに必死だ。 「明日にちゃんと切れるか、一応袖を通してくれねえか? まだ改善の余地はあるからな?」 「…はい…」 しおらしく返事をして、アンジェリークはそっとドレスに触れてみる。 手が震えて、思うようにいかない。 「ほら、着替えて来い?」 「うん…」 アリオスに背中を押されて、彼女はようやく着替えに行った。 こんなに素敵なものなんて、私相応しくない… アンジェリークは泣きそうになる。 だがアリオスが一生懸命選んでくれたこのドレスの袖を通してみることにした。 ドレスを着るだけで気持ちが引き締まる。 同時に気持ちが甘く苦しい。 目の前の鏡を見つめてみる。 「何だかドレスに着られてるみたいね…」 くすっと笑いつつも、彼女は心に誓う。 いつか、このドレスの似合う女になりたい…。 それが何を意味するか、もう判らないアンジェリークではなかった。 彼女は確実に自分の心に素直になりつつあった。 少し照れくさい想いを抱きながら、アンジェリークはそっとドアを開けた。 「アリオスさん…」 「着替えたか?」 艶やかな声が聞こえて、それに導かれるように部屋の外に出る。 その俊か、、アリオスははっと息を呑む。 そこにいるアンジェリークは”天使”そのもの。 はにかんだ笑顔を向ける彼女は、本当に清らかで愛らしい。 想像以上に似合ってるな・・・。 似合うとは思っていたが、これほどだとはな…。 完敗だ…。 この俺をこんなにしちまうなんてな… アリオスは自嘲気味にフッと笑うと、アンジェリークにゆっくりと近づいて行く。 「やっぱり…、似合わないわよね・・・」 少ししゅんとする彼女に、アリオスは頭を撫でる。 「------いや…」 そうされると、子ども扱いされているようで、彼女には堪らなかった。 「そうだな・・・。 おまえはもうガキじゃねえからな」 アリオスもまた寂しそうな微笑をすると、艶やかな眼差しをアンジェリークに向ける。 「よく似合ってる」 「-------有難う…」 二人は暫く見詰め合った。 その眼差しには明らかに愛情が迸っている。 一瞬間がある。 アリオスは深く笑うと、アンジェリークを見た。 「これだったら明日は、きっと、おまえが目標していたとおりになるぜ?」 アンジェリークは応えない。 そんなこともうどうでもいいの…。 私は------- 「ねえ、明日アリオスさんも来るんでしょう?」 祈るような気持ちで、彼女はアリオスを見つめ、大きな瞳で捕らえた。 その青緑の瞳はどこか艶やかな光が湛えられている。 「-------いや、明日は仕事が入っていて、行けても最後ぐらいしか顔を出せねえだろう」 「え…」 ショックだった。 彼が明日来れないかもしれないと思うだけで、胸は張り裂けそうに痛かった。 「そう…、残念だわ…」 しゅんと肩を落とす彼女を、アリオスは穏やかな笑みで受け止める。 「ラストダンスは好きな人と踊ると幸せになれるって話があるぜ? 頑張れよ?」 アンジェリークはコクリと頷くだけで、それ以上のことが出来やしなかった。 暫く黙っていた後、彼女はアリオスを見つめる。 「先生に、私が綺麗なところを見て欲しいから、絶対に来て! 最後でもなんでも構わないから!」 彼女には珍しく強く主張する。 その眼差しがとてもしっかりとしていて、アリオスはその強さに吸い込まれそうになる。 「--------しょうがねえな? おまえの”先生”として、間に合うように頑張るぜ」 根負けしてしまったかのように、彼はうなずいてくれる。 嬉しかった。 「うん、絶対!!!」 アンジェリークの表情は途端に明るくなり、きらきらと瞳を輝かせている。 「ああ、がんばるからな?」 「うん、約束…」 アンジェリークは手を差し出し、アリオスがそれを握り締める。 「約束の握手だな?」 「うん!」 「だったら遅れねえようにしねえとな?」 アリオスはそう言って笑うと、しっかりと彼女の手を握り締めた。 ---------------------------------------- アルカディアダンスパーティの当日になった。 会場はアリオスが所有するホテル、アルカディアアルヴィースインターナショナル------- アンジェリークは、アリオスにプレゼントされたドレスを身につけ、背筋を伸ばしてホテルの大ホールに向かう。 アリオスにしてもらったレッスンの集大成だ。 今夜・・・。 私はいったい誰とラストダンスを踊るのかしら-------- アンジェリークはただ真っ直ぐホールを見ている。 そこには驚いた表情のオスカーが彼女を見るなり近づいてくる。 「驚いたな、お嬢ちゃん・・・、そんなに綺麗になった何てな」 「ありがとうございます、オスカーさん」 オスカーの絶賛の声は確かにくすぐったくて嬉しい。 だが何かが足りないと、彼女は深く感じていた-------- 〜TO BE CONTINUED・・・〜 |
コメント アリアンの「MY FAIR LADY」です。 また? という声が聞こえてきそうだ(笑) 書きたかったんだもん〜 短期集中で書いてまいりましたが次回がいよいよ最終回。 アンジェの王子様は果たして!? (判りますよね(笑)) |