Someday My Prince Will Come


「こんにちは・・・」
 いつものようにアリオスの元を訪れたが、いつも以上の緊張感を感じた。

 アリオスさんと逢えるだけでどきどきする・・・。

 アンジェリークは喉がからからに乾くのを感じながら、息をふうっと吸い込む。
「アリオスさん?」
 呼んでも返事をしない彼を不審に思いながら、そっと部屋の中に入ってみた。
「あ・・・」
 アリオスは疲れているのか、ソファに腰掛けて眠っていた。
 ぐっすりと眠る姿はとても素敵だ。
 机の上には沢山の書類が散らばり、彼がかなりの量の仕事をこなしているのは明白だった。

 起こすのは可愛そうだもんね・・・。
 そっとしておいてあげよう・・・。

 アリオスの横に笑いながら腰をかける。
 彼の寝顔もとても素敵で、彼女はうっとりとしてしまう。

 凄い綺麗な寝顔だわ・・・。
 横に座るのが楽しくて仕方がない。
 なんかいいものをみた感じだな・・・。

 じっと見つめていたが、いつしか彼女も一緒に眠りに落ちていた---------


 日差しが眩しくなって、彼女はゆっくりと目を開けた。
 いつしかアリオスの肩に凭れて眠っていたらしい。
「おはよう」
 彼が先に目を開けていたらしく、目の前で挨拶をしてくれたので、彼女は急に恥ずかしくなった。
「俺、寝てたみてえだな。サンキュ。そっとしておいてくれて」
「うん・・・」
 肩に頭を凭れさせたままだったことにようやく気がついて、彼女は慌てて離れた。
「あっ、ごめんなさいっ!!」
「かまわねえよ」
 真っ赤になって小さくなっていると、アリオスはフッと笑う。
「おまえも疲れてるんだ。昨日は財界のパーティに連れていっちまったしな」
「昨日は楽しかったです」
「サンキュ」
 ソファから立ち上がると、彼は書類まみれの席に着いた。
「今は・・・、もう六時過ぎか・・・。腹減らねえか?」
「そう言えば・・・」
 アリオスは笑うと電話を手にとる。
「俺は簡単にカレーでもカフェテリアで頼むが、おまえは?」
「カレーでいいです」
「オッケ」
 アリオスは電話をして注文してくれる。
 その様子もアンジェリークには見逃せなかった。

 アリオスさんの癖・・・。
 髪をかきあげること。
 笑うとき少し喉を鳴らすこと・・・。

 相変わらず、アリオスは髪をかきあげながら、電話している。
「アンジェ、すくに来るぜ?」
 急に声をかけられて、彼女ははっとしてしまう。
「あ、有り難うございます」
「うちのカフェテリアのカレーは美味いぜ」
 煙草を吸いながら、アリオスは一息ついているようだった。
「今日のレッスンは・・・」
「今日は遅いしな。オフだ。メシ食ったら送ってやる」
 時計を見るとまだ六時すぎだが、いつものことを考えると遅い。
 空をみるとまだ明るい。
 不意に今まで気付かなかった風景が目に入った。
「ここから観覧車が見えるんですね」
「ああ、ビルに観覧車が建ってるんだ。俺のところのビルだ。夜景は綺麗だぜ」
「素敵っぽいですね?」
「行きたいか」
 笑みを含んだ眼差しを浮かべ、彼は見つめてくる。
「行きたいです!」
「じゃあ、メシ食ったら行くか?」
「はい!」
 アリオスと一緒に出かけるだけで嬉しい。
 彼に心が夢中になっていることに、アンジェリークはまだ気付かなかった。

 カフェテリアからカレーが運ばれてきた。わ
 ざわざウェイターがテーブルまで運んできてくれ、彼女は恐縮してしまう。
「手伝います」
「構わないですよ」
 ウェイターはニコリと笑うと、手早く準備をしてくれた。
「有り難うございます」
「ご苦労だったな」
 ふたりでウェイターを見送った後、テーブルにつく。
「あっ、卵」
「ゆで卵だぜ? カレーにからめると美味いんだ」
「へえー」
 二人はお行儀よろしく”いただきます”をした後、カレーに舌鼓を打つ。
「美味しい〜!」
「だろ? 俺はシチューとかカレーとかの家庭料理が好きなんだ。フルコースとかはあんまり好きじゃねえな」
「私も素朴な方が好きかも」
 アンジェリークは本当に楽しそうに美味しそうに食事をする。
 一緒に付いてきたサラダも美味で、すっかり満足してしまった。
「あー美味しかった!」
「次は観覧車だな?」
 アリオスはジャケットを着ながら、準備をする。
「あっ、お皿片付けなきゃ」
「構わねえよ。すぐに来るぜ」
 言っている間にインターカムが鳴り、ウェイターが皿を片付けに来た。
 すぐに下げて帰っていくウェイターを見送った後、アリオスは入り口に向かう。
「行くぜ? 観覧車」

 五分ほど車に乗って観覧車のあるショッピングセンタービル”アーケイディア”に着いた。
 早速、お金を払い観覧車に乗る。
 観覧車の外観はシンデレラに出てきたカボチャの馬車で可愛らしい。
 コンパートメントの中もスプリングの心地好いソファだ。
「うわー! アルカディアの街だ〜!」
 上がっていく風景を見つめながら、アンジェリークは楽しそうにはしゃいだ。
「丁度いい時間に乗ったな?」
 向かいに座るアリオスも機嫌良く見ている。
 頂上近くまで差し掛かかると、アンジェリークは光の海にうっとりする。
「アリオスさん、アルウ゛ィースのビルはどこ?」
「アルウ゛ィースの中枢はあっちだ」
 指を指してアリオスは教えてくれる。
「アルウ゛ィース村よね!」
「ああ」
 その中で、美しくライトアップされている教会をアンジェリークは見つけた。
「あれの教会はアルウ゛ィースの敷地内にあるけど?」
「あれは、俺にとっては大切な場所だ。あの教会で”愛を誓ったものは幸せになれる”ジンクスがある」
「ジンクス…」
 アンジェリークは少しロマンティクな気分に浸りながら、彼の言葉を反芻してみる。
「あの教会は、ちゃんと”教会”として機能しているぜ? ちゃんと礼拝などもやっている…。シーズン中は沢山の予約が入るから、ホテルの披露宴と一緒に結婚式に使用する場合もあるがな」
「そうなんだ…」
 あの教会の話をもっと聞きたくて、アンジェリークは思わず見を乗り出した。
 その瞬間-------
「-------!!!!!」
 がたんと音を立てたと思うと、観覧車は突然止まってしまった。
「きゃあっ!!」
 躰を震わせて、彼女は観覧車の手すりにしがみ付こうとする。
「怖いのか?」
 声で返事することが出来ずに、彼女はただコクリと頷くだけ。
 まるで小動物のように震える彼女に、アリオスは優しく微笑むと手を差し伸べてやった。
「ほら掴まれ?」
「…うん…」
 喉を鳴らして生唾を飲むと、彼女はゆっくりとアリオスに近づいていった。
「ほら」
 しっかりと支えられて、彼女はアリオスの横に座り、縋るような眼差しで彼を見つめる。
 泣きそうな眼差しとは、まさにこのことで。
 身体を震わせるアンジェリークは、アリオスはその小さな手を握ることで落ち着かせようとした。
 だが、アンジェリークは別の意味で緊張してしまい、今度は顔を赤くして震えてしまう。

 アリオスさん…

「しょうがねえな…。何か話してやるよ…。落ち着くようにな」
「うん…」
 アリオスが話そうとして、急にがたんと観覧車が揺れた。
「きゃあああっ!!」
 お約束どおりに、アンジェリークはアリオスの肩に抱きつき、震える。
 柔らかな温もり。
 それに癒されながら、アリオスは一瞬強くアンジェリークを抱きすくめた。
あっ…」
「大丈夫だからな?」
「あっ…」
 彼女は甘い声を上げ、ゆっくりと観覧車が動いているのに気がついた。
「ご、ごめんなさい」
 顔を真っ赤にしながら、アンジェリークは胸をドキドキとさせて離れる。
「ご、ごめんなさい…」
「かまわねえよ」
「あ、あのお話は?」
 恥かしさを誤魔化すかのように、アンジェリークは言ってみた。
「またな?」
 アリオスは一瞬懐かしそうな表情を浮かべると、そのまま視線を教会に向けている------
 その横顔を見つめながら、アンジェリークは胸が苦しくなるのを感じた。

 私、ひょっとしてアリオスさんを…!?

 観覧車はゆっくりと地上に向かって動いていた-------

〜TO BE CONTINUED・・・〜
 

コメント

アリアンの「MY FAIR LADY」です。
また? という声が聞こえてきそうだ(笑)
書きたかったんだもん〜

観覧車が止まるのはポイントが高いですね〜。
あ、この観覧車のモデルは梅田の某観覧車です

 マエ  モドル ツギ