結婚式の予行演習が始まっても、リックは気も漫ろだった。 「リック、聞いてるの?」 「ああ、聞いてる」 この様子をみるだけでもアリオスは、彼がまだベルガールのことを愛しているのではないかと確信した。 とりあえず、アンジェリークに連絡するために部屋に戻ると、丁度彼女も戻ってきたところで部屋の前でばったりと会った。 「アリオス」 「そっちの首尾はどうだ?」 「うん、彼女があの男性のことを好きなのは確信できたわ」 アンジェリークは期待の眼差しでアリオスを見つめる。 「ああ。だったら、一緒に着てくれねえか? あの男を捕まえられるかもしれねえから」 「うん!!」 やはりアリオスは優しい彼女は感じ、思わず笑みが零れた。 「有難う、アリオス」 「お礼は夜に貰うぜ?」 「もう!」 彼女が彼の腕に手を絡めると、二人は仲良く式場へと向かった。 「どこ?」 「あれだ…。そろそろ終わるはずだ」 「うん」 この宇宙の守護星と女王が覗き行為に及んでいるとは、誰も知るよしのないことであろう。 特に女王補佐官レイチェルに知られたら、大目玉を食うだけでは済まされないだろう。 ホント、ここに補佐官殿がいなくて助かったぜ… 式場を出た後のタイミングを計り、二人は、リックたちに近づいていった。 「すみません…!! リックさんに少しお話がありまして」 ダイレクトにアンジェリークが言うと、婚約者の女は露骨に嫌そうな表情をする。 リックはアンジェリークとアリオスが出す雰囲気に感化され、二人と話さなければならないと瞬座に思った。 「判りました。 ミッチェル、先に帰ってくれないか? 君の運転手も一緒に来ていることだし」 「-------判ったわ・・・」 彼女は頷くと静かに玄関に向かって歩いていく。 二人の間には全くの愛情が感じられないと、アンジェリークは深く感じていた。 「ところで、話とは・・・」 彼は二人を見つめ、不思議そうに言う。 其の声はどこか不信感がある。 「-------ベルガールのサラさんについてなの…」 其の名前を聞くなり、リックの表情ははっとしたような複雑なものとなった。 「彼女に何かあったんですか…!?」 何かあったのかと思ったのか、彼はイキナリ強い調子でアンジェリークに言ってくる。 「大丈夫よ。彼女はいつもどおりだから」 「良かった・・・」 ほっとしたのか、彼はあからさまに溜息をつき、肩をほっとなでおろしたかのようだった。 「ちょっとかまわねえか? 海岸にでも」 「あ、はい…」 三人は連れ立って海岸へとゆっくり歩いていく。 「私たちは、サラさんとはお友達なの・・・」 「はい」 普通だったら信用しないかもしれない。 だが、今の彼は不思議と信じることが出来た。 それはふたりの「サクリア」であることはもちろん気がつかない。 「ねえ、リックさん、あなたとサラさんは結婚お約束をしたのよね? どうして破談になったかは彼女から聞いたけど、何故、早急に結婚なんてしようと?」 リックは少し驚いた後、沈み込み、暫くは何も話さなかった。 アンジェリークは心配そうに、黙り込んだリックを見つめ、様子を伺う。 「あなたは澄んだ瞳をしていますね・・・。 そんな眼差しで見つめられたら、言わずにはいられなくなるじゃないですか」 「リックさん…」 彼は寂しげに笑うと、すっかり夕焼け色に染まった空を切なそうに見つめた。 「-------俺は交通事故を起こし、謝ってサラの足を傷つけてしまった…。 それから俺とあいつは仲がギクシャクしてしまって、ある日俺はあいつを怒鳴り散らしてしまった・・・。 あいつはただ泣きたそうな目で俺を見つめると、何も言わなかった。 それから逢いづらくなって、俺たちは完全に別離してしまった。 俺は失恋の痛みを忘れるために、親がきめたミッチェルと結婚することにした。ミッチェルも、父親の部課だった男と無理やり分かれさせられて、同じ考えを持っていた。 俺たちは同じ傷を舐めあおうと思っていたが、ダメだった・・・。 俺の傷はサラにしか癒せなかったし、ミッチェルの傷もな? 今日あいつを乗せてきた運転手が、彼女のかつての恋人だからな・・・」 「そうなの…」 アンジェリークはしっかりと頷くと、真っ直ぐとした眼差しをリックに向ける。 「--------まだ、サラさんを愛してるの?」 リックは一瞬間をおいた。 其の後に自嘲気味に笑うと、彼は空を再び見上げた。 「-------ああ だけど、サラは俺を許しちゃくれないだろう…」 あっさりとリックが認めたので、アンジェリークとアリオスはお互いに顔を見合わせあう。 「そんなことないわ…。 サラさんはあなたを恨んでなんかいない…」 驚いたようにリックはアンジェリークとアリオスを見つめる。 「そんなことが…」 彼は驚いたように声をかすれさせると、寂しげな自嘲気味な笑顔を浮かべた。 「俺がしたことは許されるはずはないのに・・・。 あいつに、一生の傷を負わせた・・・」 「もうあんたは心で十分に償ったんじゃねえのか?」 アンジェリークはアリオスの言葉に涙が出そうになる。 アルカディアの約束の地で、一緒に生きていくことを誓ったあの日の思い出が、深く下りてくる。 「あんたは自分で過去の鎖を断ち切らなきゃならねえ…。 その手伝いを俺たちはほんの少しさせてもらう…」 「あなたがた…」 其の心が嬉しい。 だがもう結婚式まではわずかしかない。 リックは辛そうに唇を噛締めた。 「時間が…」 「そのことなら任せておいて! 私たちが何とかするから!!!」 アンジェリークの力強い言葉に、彼もやっと自然な微笑を浮かべた。 「-------有難う…」 アンジェリークは嬉しそうに微笑み、アリオスはその肩を抱いた。 「結婚式は一応準備してもらわねえと行けねえが、俺たちが何とかするからな」 「はい、判りました…」 三人はお互いに見つめあい頷きあう。 こうして、アリオスとアンジェリークの「恋の大作戦」が始まった------- その夜、二人はベッドの中で、色々と考えをめぐらせていた。 「二組のカップルを幸せにしてあげなくっちゃね!」 アンジェリークはすっかりうきうき気分になっている。 「まあな。明日運転手に接触してみる」 「うん!!!」 二つのカップルを幸せにするために、まさか女王と守護聖という、宇宙の重要人物が動いていることは、誰も知る余地がまだなかった------- -------------------------------------- アリオスとアンジェリークは休暇を返上して色々と根回しを図り、あっという間に結婚式当日がやってきた。 私にとっては最悪の日ね… ベルガールのサラはどんよりとし、結局何も出来なかった自分に臍をかんだ。 「サラさん!!」 「アンジェリーク…」 「悪いけどちょっと着てくれない?」 そういうなりアンジェリークはサラの腕を掴むと、結婚式場の奥に連れて行かれる。 いったい何が起こるのか、サラは期待感と不安感の鬩ぎ合いに逢っていた-------- |
コメント 110000のキリ番を踏んでくださいました、 照元悠音様のリクエストで 「アリアン黄門ちゃま」 やっぱりこんな「おっせっかい」なアンジェが、アリオスはたまらなく可愛いんでしょうね〜 次回が最終回です |