Perfect Angel

中編

「あのふたり・・・、愛し合っていると思うの・・・。だけど何か障害があるんじゃないかしら・・・」
「ったく、おまえは首突っ込むのが好きだな」
 女王としての彼女ではなく、恋人としてアリオスは的確にツッコミを入れる。
「でも女王としてほおっておけないもの」
 彼女のお人好しは今に始まったことではないのは、アリオスが一番良く知っている。
「アリオスも手伝ってくれるでしょ?」
 上目遣いで見つめられると、彼も弱くて。
「しょうがねえな・・・。だがな?」
 彼はそう言うと、アンジェリークの耳に顔を近付ける。
「今夜は覚悟しておけよ?」
 その途端、彼女は愛らしくも頬を真っ赤に染め上げた。
「アリオスのバカ・・・」
 説得力のない彼女の言葉が可愛すぎる。逆らえないアリオスであった。
「リック…」
 二人の目はベルガールに向けられる。
 ベルガールは再び俯くと、静かに海岸へと出ていってしまう。
 どこか切ない眼差しが印象的だった。
「私、行って来るね?」
「ああ、気の済むまでいって来い? 何かあったら呼べ」
「うん、有難う」
 結局なんだかんだ言っても協力してくれる彼が嬉しい。
 アンジェリークは穏やかに微笑むと、ひとりでベルガールの元に向かった。
「元気ないわね?」
「お客様・・・」
「お客様だなんて止めて? アンジェリークと呼んでね」
 ベルガールは少し戸惑いの含んだ笑顔を、アンジェリークに向けるが、アンジェリークは慈愛に満ちた微笑を浮かべる
「苦しそうね? 私も苦しい恋をしたから判るわ・・・」
「あなたが!?」
 そうは見えないとばかりに、ベルガールは目を丸くする。
「だってあなたはまだ若いし、幸せな結婚をしているわ」
 彼女にとってはアンジェリークは幸せに輝いた、羨望の対象でしかない。
「------確かに、私とアリオスは、今は幸せよ…。
 だけどね? 私たちは色々と乗り越えられたからこそ、幸せになれたの」
「アンジェリーク」
 ベルガールはアンジェリークの澄み切った瞳をじっと見つめ、何か答えを請うような表情をした。
「-------私と、彼は、実は対極の人間だったの…。
 対立せずにはいられない関係だったの…。
 色々あって、彼は私の前から姿を消したけど・・・、こうやって、今は戻ってきてくれた…。
 私たちも、周りの人たちに祝福してもらうのに随分かかったけれど、幸せになれた。
 あなたもきっと、多くのことを乗り越えてさえ行けば、幸せになれるわ・・。
 だって、誰だって幸せになる権利はあるんだものね?」
 アンジェリークの言葉を聞いていると、不思議と勇気が湧いてくるのが不思議だ。
「あなた・・・、不思議ね? だってあなたの話とその声を聴いていると、私も”出来る”んじゃないかって思っちゃうもの」
「そう?」
 ベルガールはアンジェリークにようやく微笑みかけると、頷いた。
「私…、リック、さっき女と一緒にいた彼のことなんだけど・・・、こんど結婚が決まったの…」
「まあ」
 沈みがちな彼女に、アンジェリークもまたせつなさでいっぱいになってしまう。
「私とリックは結婚を約束していたの…。
 だけどリックはこの惑星でも有数のお金持ちの息子で・・・、私はしがない家の出身だったから、彼のご両親がすごく反対されたの・・・。彼はそんなことに怯まないでいてくれたんだけど、私が、彼の車に謝って轢かれて事故で左足が少し不自由になってしまってから、彼が私に対して重荷を感じるようになってしまって…、それで別れたの…」
 低い声で彼女は言うと、膝を抱えて更に小さくなった。
「それから暫くして、リックは、さっき一緒に歩いていた女性と婚約したわ。親のきめたね・・・。
 そして、私も、このホテルに就職して彼のことを忘れようと必死になって頑張ってきたのに、半年前再会したの…。このホテルで。彼と彼女は、このホテルで三日後に式を挙げるの・・・」
 もう次の言葉が言えず、彼女は身体を小さくして肩を震わせる。
 その姿が余りにもかわいそうで、アンジェリークはそっと肩を抱く。
「まだずっとリックのことを愛してるの!!
 あの事故さえなかったらって…!!
 時間を何度も戻して欲しいって、この宇宙を司る”天使”様や、”天使”様を支える守護聖様に何度も願ったわ・・・。
 -------でも、願いは叶えられなかった…」
 アンジェリークは胸の奥が酷く痛かった。

 ごめんね・・・。
 もっともっとサクリアを満たして幸せにしてあげたい…。
 だけど、試練を与えるのも、私たちの仕事なの…

「ねえ、名前は? あなたの…」
「あ、名乗ってなかったわね・・・。サラ…」
「サラ…、まだ時間があるじゃない? 三日も…」
 穏やかにアンジェリークは言い、女王らしい柔らかな慈愛に満ちた光でサラを包み込む。
「でも、もう三日しかないわ・・・。
 私の恋は、あと三日で終わってしまうのよ?」
 サラは泣いていた。
 声が涙声になってかすれ、どうしようもないほどの切なさに震えている。
「大丈夫よ?
 この三日で私があなたに一生懸命協力するから、悔いなくしましょうよ!!」
 あくまで彼女の最後は意志の問題だ。
 だが、幸せにしてあげたくて、アンジェリークは一生懸命説得する。
 最初はサラも無理だと思っていた。
 だが、アンジェリークに言われると、本当に頑張ってみようという気になってしまう。
「判った、やってみる…!!
 悔いを残さないためにも!!」
「そのイキよ!!」
 アンジェリークは彼女の”やる気”を感じ、精一杯協力してやると誓う。
「宜しくお願いします!! アンジェリーク!!」
「コチラこそ!!」
 二人は手を取り合って、お互いに誓い合った------
 二人の様子を見ていたアリオスは、微笑むと、踵を返す。
「しょうがねえな」
 アリオスはそれだけ言って微笑むと、彼は結婚式場にそっと向かった。

 サラ…。
 また綺麗になってたな

 ぼんやりとリックは窓を見つめ、何も生気が見られない。
 何度、婚約者のミッチェルが声を掛けても、彼は気がつかなかった。
「もう!! リック!!!」
 耳元で呼ばれ、彼はようやく気がついた。
「ああ、なんだミッチェル・・」
「さいきんぼうっとしてばかりよ? 特にホテルに来たら?」
「ああ、すまない」
 浮かない顔で微笑むと、彼は時計を眺める。
「行こう。
 打ち合わせだ」

 この様子をアリオスはじっと見つめている。

 こいつもやっぱり、あのベルガールのことを忘れられねえのか・・・

 彼は、アンジェリークの頑張りに少し協力してやろうと、二人の後をつけていくことにした。

コメント

110000のキリ番を踏んでくださいました、
照元悠音様のリクエストで
「アリアン黄門ちゃま」
やっぱりこんな「おっせっかい」なアンジェが、アリオスはたまらなく可愛いんでしょうね〜

マエ モドル ツギ