「これでよしっ!」 真新しいスーツケースに荷物を詰め終えると、アンジェリークは満足したように溜め息を吐いた。 「おい、遊びに行くんじゃねえんだぜ? 視察に行くんだ」 アリオスは、アンジェリークのはちきれそうなスーツケースを見るなり、呆れ果てている。 「だって女は色々準備があるもの・・・」 口ごもりながらごにょごにょと言う彼女に、彼は喉を鳴らして笑った。 「ほら、もうすぐ時間だぜ? とっとと残りの支度をしてしまえ」 「うん」 ノックの音がした。 「支度出来た?」 レイチェルはふたりの部屋に入り、最終確認してくる。 「ああ、俺はばっちりだぜ?」 ちらりとアンジェリークを彼は見つめ、レイチェルも同じように見つめてくる。 「アンジェ、アナタ、”新婚旅行”と勘違いしてない?」 アンジェリークの顔は途端に真っ赤になり俯いてしまった。 「・・・だって、アリオスと一緒にどこかに行くなんて、なかなかないもの・・・」 恥ずかしそうにする彼女が、ふたりとも愛らしく思えた。 「留守はワタシとエルに任せて! まあ、アナタたちのことだから一瞬で仕事を終えて帰ってくるんだろうけど」 「うん、お願いね」 補佐官に全面の信頼をおいているアンジェリークは、信頼しきった笑顔をレイチェルに向ける。 「任せといて!」 ふたりの友情を垣間見、アリオスはほんの少し妬けた。 エルンストとレイチェルに見送られて、ふたりは次元回廊を抜ける。 「いってきます」 「いってらっしゃい〜」 今回の目的地である、惑星フローリアに向かって、ふたりは歩みを進めた。 惑星の中心の街に着くと、自然と共存しながらの発展を感じ、アンジェリークは嬉しそうに笑う。 「主星ほどじゃないけど、凄く住みやすく発展しているわね〜」 「だな? おまえこの星が住民たちに何て言われているか知っているか?」 「いいえ」 アンジェリークはきょとんとしてアリオスを見つめた。 「”新婚旅行の星”だ」 少し照れくさそうな表情をアンジェリークはすると、アリオスの瞳を覗き込む。 「俺たちが”視察”に行くのはぴったりの星だろ?」 「もう・・・」 これが”視察”と言う名の”息抜き”だということに、アンジェリークはようやく気付き感謝でいっぱいになる。 「視察があくまで目的だぜ? 判ってるだろうが」 「うん! それは判ってる」 笑いながら腕を絡ませてくる彼女が、アリオスは愛しくて堪らなかった。 ふたりは海が良く見えるホテルにチェックインをする。 こじんまりとしたホテルで、アンジェリークは満足そうにアリオスを見た。 「アリオスが選んでくれたの?」 「ああ」 部屋に案内してもらい、ドアを開けるなり感嘆の声を彼女はあげる。 「素敵!」 そこにはキングサイズのベッドが置いてあり、アンジェリークはほんの少し頬を赤らめた。 「新婚旅行ですか?」 世話をしてくれたベルガールが優しく微笑みながら、ふたりを羨ましそうに見つめる。 「ああ。そうだ」 きっぱりと言い放つアリオスに、アンジェリークは恥ずかしそうに俯く。 だが気分は悪くなかった。 彼女はとても嬉しそうに、アリオスを上目遣いで見つめた。 「ごゆっくり、お過ごし下さいね」 ベルガールに満面の笑みで送って貰った後、アンジェリークは一目を気にせず思い切って抱き付いた。 「有り難う・・・」 「感謝するんなら、レイチェルやエルンストにしろよ? あのふたりが頑張ってくれたんだからな」 「うん・・・」 はにかみながら彼女は頷くと、彼の精悍な胸に顔を埋める。 「夜は寝かせねえからな?」 「もう、アリオスはいつもそうなんだから・・・」 少し怒った風に彼女は頬を膨らませるが、ちっとも怒ってはいないことは、アリオスは十二分に判っていた。 「毎晩やってることじゃねえか。ここは”新婚部屋”って呼ばれてるんだからな? 今夜は覚悟しろよ?」 「もう・・・」 アンジェリークはアリオスの肩に頭を乗せると、ゆったりと甘える。 緩やかな時間の流れに、二人は満足したようだった。 しばらく部屋でゆったりとした後、ふたりは視察がてら外に出ることにした。 さきほどのベルガールが、窓辺で切なそうに溜め息を吐いているのが、視界に入ってくる。 「アリオス、あれ」 「ああ」 アンジェリークは立ち止まって、アリオスに視線で合図をする。 「何かあるみてえだな?」 「うん・・・。何だか切なそうでしょう?」 この一言で、アリオスはぴんときた。 「お節介はよせ」 「だって〜!」 誰かが困っていると頬って置けない性分の彼女は、出会ったときから本当に変わらない。 そんな彼女だからこそ、愛しくてたまらない存在なのだが。 「いいから、どうして浮かない顔をしているか訊いてみるの!」 「ったく」 一度言い出したら聞かないのは、アリオスも良く知っている。 彼は”やれやれ”とばかりに溜息をつくと、駆け出したアンジェリークの後をついていった。 「こんにちは!」 「あ、さきほどの…」 ベルガールはアンジェリークを見るなり、柔らかな微笑を浮かべて頭を下げる。 「何だか浮かない顔をしていると思って…。何かあったの?」 「え、あ、べつに…」 言葉を濁すように、ベルガールは言うと椅子から立ち上がった。 「なんでもないですから」 「そう?」 彼女はぺこりと頭を下げて、一歩踏み出した。 「・・・・」 その瞬間、彼女は思わず立ち止まる。 背の高い青年と愛らしい女性が丁度ロビーに入ってきたのだ。 「リック…」 彼女が名前を呟くと、青年は一瞬だけ苦しげに彼女の顔を見つめた。 恋の悩みなのね…。 かつて、アリオスとの恋では苦しんだ経験のあるアンジェリークは、ベルガールの気持ちが痛いほど判るような気がする。 青年の表情と交互に見ると、彼もまたベルガールを愛しているのではないかと、アンジェリークは直感した。 お互いに愛し合ってるかもしれない…。 なら少し協力して上げなくっちゃ!! このおせっかいな女王の考えをアリオスが直ぐに察知したのは言うまでもなかった------ |
コメント 110000のキリ番を踏んでくださいました、 照元悠音様のリクエストで 「アリアン黄門ちゃま」 やっぱりこんな「おっせっかい」なアンジェが、アリオスはたまらなく可愛いんでしょうね〜 |