Perfect Angel

後編

 突然、控え室に連れていかれ、サラは何が起こったか判らずにいた。
 アンジェリークはただニコニコと笑っているだけで、サラは不安そうに彼女を見つめる。
「心配しないでね? 私に任せて」
 力強い言葉と笑顔に、サラは頷かずにはいられなかった。
「じゃあ、皆様よろしくお願いします」
 アンジェリークの合図に、ひとりの美容師が入ってくる。
 彼女はサラも良く知っている美容師だった。
「よろしくお願いします」
 アンジェリークが言うと、本当に嬉しそうに美容師は頷いた。
「はい。サラ、あなたを最高に綺麗にするからね」
「あ、はい」
 何が起こっているか判らず、サラは任せられるだけ任せることにした。
 まずは汚れを綺麗に取られた後、ふっくらと肌がなるように、マッサージなどが施される。
 アロママッサージのせいか、とても心地好い。
 気持ち良さに浸った後は、今度は念入りに基礎化粧を施され、髪のセットに入った。
 ここまでくると流石のサラも何をされているか、ピンとくる。
「まさか、アンジェリーク」
「いいから、今日は綺麗にしましょうね?」
 アンジェリークの言葉に、ただサラは頷くしかなかった。
 髪のセットと化粧が終わると、今度は、奥の部屋に連れていかれる。
 そこには、純白のウェディングドレスが置かれ、サラは言葉がないままアンジェリークを見つめた。

 その頃、アリオスは、ミッチェルの運転手であるパトリックを控え室に呼び、タキシードに着替えさせていた。
「このまま俺が合図をしたら出てきてくれ?」
「はい」
 パトリックは緊張した面持ちで直立不動になっている姿は、「七五三」のようである。
 それに微笑ましく笑いながら、アリオスは時計をじっと見つめた。


 アリオスとアンジェリークは上手くしてくれるんだろうか・・・。

 ほんの少し不安になるのを感じながら、リックはそわそわとしていた。
 時計を見るとそろそろ時間である。
 運命を告げるノックが部屋に響き渡った。
「時間です、リックさま」
 メイドが呼びにきて、タイムリミットであることを告げた。
 結婚式は予定通りに計画的に始まってしまった。
 リックもミッチェルも嬉しそうには決して見えなかった。
 リックは、父親と共にやってきたミッチェルの腕を取り、祭壇へと進む。
 牧師はゆっくりと頷くと、参列者を見つめる。
「リック、ミッチェル、両名の婚姻に付いて意義のある方は、神の御前で申し立てて下さい」
 水を打ったような静けさに、机を叩く音が響き渡った。
 音を立てたのはアリオス。
 誰もが彼を注目し、少し驚いているようだ。
 だが流石の牧師は少しも驚いてはいなかった。
「そこの銀色の髪の方、何かございますか?」
「ああ」
 牧師に指名されて、アリオスはしっかりと頷く。
「このふたりは愛し合っちゃいねえ・・・。お互いに違う奴を愛してる」
 アリオスの良く通る精悍な声がホールに響き渡る。
 リックとミッチェルは一瞬表情を切なく曇らせていた。
「それは本当なのですか?」
 牧師のゆったりとした言葉に二人は顔を見合わせた後、頷いた。
 教会じゅうがどよめきに包まれていく。
 特にふたりの両親は卒倒しそうな勢いだ。
「アンジェ!」ア
 リオスが合図を送ると、ゆっくりと重厚な扉が開いた。
 そこにいたのは、美しい花嫁姿のサラと精悍なタキシード姿のパトリックだった。
 リックとミッチェルはお互いに息を呑んだ後、意中の相手を見つめる。
「サラ・・・、綺麗だ」
「パトリック・・・」
 サラは意を決したようにアンジェリークに頷くと、勇気をかき集めて愛する男性を見つめた。
「リック! まだ私はあなたを愛しているの・・・! もし、許されるなら・・・」
 サラは大きな声で思いの丈をただ一途に伝えている。
「許すもなにも、サラ!」
 泣きそうな表情の彼女に頷くと、リックはサラに向かって駆ける。
「愛してる、サラ!」
「私もリック!!」
 二人はしっかりと抱き合い愛を確かめあった。
「ミッチェル!! 身分なんて何も関係ねえんだ! 俺はおまえを愛してる。それだけだ!」
 今度はパトリックの番だ。
 彼もサラに負けないように、大きな声を張り上げた。
 気が弱くてそんなことが出来る彼ではなかったのに、今、ただミッチェルのためだけに勇気をふり絞ってくれている。
 それが彼女には堪らなく嬉しかった。
「パトリック・・・! 私も愛しているわ!」
 泣きながらミッチェルはに近付き、彼もまた駆け寄ってくる。
 ふたりもまたしっかりと強く抱き合った。
「以上、二組の結ばれなければならないカップルです」
 アンジェリークは女王らしく凛と宣言する。
 其の神々しさに誰もが圧倒され、教会は荘厳な雰囲気に包まれる。
「------異存のある方はいらっしゃいますか?」
 穏やかに微笑みながら牧師は言い、誰も異存を唱えるものはもういなかった。
 リックとミッチェルの両親ですらもである。
 完全に女王アンジェリークの聖なる威厳に飲み込まれた形となった。
「-------では、結婚式の再会を、牧師様?」
 アンジェリークの言葉を受けて、牧師は穏やかに微笑んだ。
「-------では、リックとサラ、パトリックとミッチェルの結婚式を始めます------」
 アリオスとアンジェリークは微笑みあうと、後ろでじっと結婚式を眺める。
「よかったわね?」
「ああ」
 二人は顔を見合わせて笑いあう。
 二組のカップルが誓いのキスをした瞬間、二人も愛が籠ったキスを深く交わした-------


 フラワーシャワーにも参加し、二人は、素晴らしい二人のカップルの門出を見送った。
 結婚式終了後の二組のカップルが、本当に幸せそうに二人の元を尋ねてくる。
「本当にどうも有難うございました!!」
 代表してサラは礼を言い、ミッチェルと二人でアンジェリークにブーケを差し出す。
「さっき二人で、花束を半分にして作ったんです。
「どうも有り難う…」
 アンジェリークは幸せそうに花束を受け取ると、其の花の香りを幸せそうにかいだ。
「とってもいいにおいだわ・・・。
 本当にどうも有り難う・・・」
「あなたたちのような素敵な夫婦に、俺たちもなって見せます」
 今度はリックが幸せそうに、そして決意を秘めるように二人を見つめてしっかりと言った。
「期待してるぜ?
 まあ、俺たちの年季にはかまわねえだろうけど?」
「もう、アリオスってば」
 彼女は真っ赤になりながら、そのツッコミを入れる。
 二人のアツアツぶりに、新婚の二組ですら当てられそうだ。
「じじゃあ、そろそろ行きますね!
 皆様お幸せに…!!」
「幸せにな!!」
「はい!!」
 アリオスとアンジェリークは、二組のカップルを幸せそうに見つめた後、手を繋ぎながら、自室へと戻る。
「今回の視察、たのしかったね?」
「ああ。ったく、コレで運命の片棒をおまえと一緒に担がされるのは何度目だ?」
 彼女は嬉しそうに笑うと、強くアリオスの腕に手を絡める。
 アリオスとアンジェリーくは清々しい気分になりながら、海岸に向かった------


 二人の、素敵なキューピットを見送った後、牧師が挨拶にきた。
「皆様おそろいで」
 彼は幸せそうに四人を見つめ、何度も頷く。
「あのお二人に感謝しなければいけませんなあ・・・。
 お友達ですか?」
「ええ」
 嬉しそうにサラは言うと、しっかりと頷いた。
「ええ。不思議なお友達でしたわ…。
 アリオスとアンジェリーク…。何だか、私たちと違った”力”を持っていたわ…」
 その言葉に牧師ははっとしたような表情をする。
「-------アリオス、アンジェリーク!!! それは尊い女王陛下と守護聖様のお名前ですよ!!!」

 そういえば・・・

 誰もが驚いたように顔を見合わせた後、吹き出した。
「そうだわ…。きっと、あのお二人は本物だわ…」
 四人は空を見上げると、すがすがしい気分で、女王と守護聖に向かって、祈りを捧げる。

 有難うございます…



 その後、無事に視察も終わり、アリオスとアンジェリークは聖地に戻った。
 二人は時折、二組のカップルが幸せであるか、確認しているのだという-------

コメント

110000のキリ番を踏んでくださいました、
照元悠音様のリクエストで
「アリアン黄門ちゃま」
完結です。
ア〜、へぼくって申しわけありません・・・

マエ モドル