ONLY YOU

8

「あなたもあまりアリオスを追い掛け回したらだめよ。迷惑だから」
 そこまで言われて、本当は泣きたくてたまらない。
 だが何とか我慢することしか出来ずに、歯を食いしばって涙を堪える。
「何か用でも?」
 嘲笑するようなジョアンナの眼差しに、アンジェリークはもう堪えられなかった。
「いいです・・・」
 ただそれだけを言うと、その場から逃げ出す。
 そうしないと堪えられそうにはなかったから。

 家に飛んで帰り、自分の部屋に閉じこもる。
 ベッドの上に倒れ込み、ようやく泣くことができた。
 あの甘く素敵な思い出が、今、砂糖菓子のように崩れ落ちていく。
 指先を唇に延ばすと、心の痛みがアンジェリークを直撃していく。
 肩を震わせて泣き、誰にも顔を見せたくないせいか、布団を頭から被った。

 だって、判っていたことだけれど。
 アリオスがジョアンナのもねだってことは、最初から・・・。
 だけど、夢が見たかったもの。
 大好きな男性が、夢見る皇子様で、私を幸せにしてくれるって。
 でも、もう二度と届かない、甘く切ない希望…。


 結局泣き過ぎたのか、その日は食事を食べずに、ただ眠りに落ちていった。
 朝起きると目を腫らして凄い顔で、少し憂鬱になりながらの登校となる。
 アンジェリークの決心は、昨日でついた。
 両親と一緒に海外に行くことにしたのである。
 ここにいれば、恐らく、アリオスとジョアンナのことが耳や目から入ってくるだろう。
 それだけは絶対に避けたかった。
 両親に一緒に行くことを伝えると、おおむね喜んでくれる。
 アリオスのそばから自立しなければならないと、彼女は本気になって考えていた。


 一方、アリオスはアンジェリークから一切の連絡が来なくなったことに、苛立ちを募らせていく。

 あいつ、一体どうしたんだ・・・!?

 今まで、こんなにも何かで苛立ったことは一度もなく、アリオスは更にもどかしく感じた。
 とりあえずは、探りを入れるために、アリオスは実家に顔を出すことにする。
 母親からは、さりげなくアンジェリークのことを聞き出すことにした。
「最近ね、アンジェちゃんが元気ないみたいでね。ご両親の海外赴任に、どうも着いていくみたいだし。あの子がいなくなると寂しくなるわね」
 しみじみと言う母親の言葉に、アリオスは正直言って動揺していた。
 アンジェリークの両親の赴任の話は、その場所にいたアリオスが相談に乗っていたので、前から知っていたが、彼女はこちらで残って勉強するとばかり思っていたのだ。
 最近連絡がないこともあり、アリオスはその辺りの真意を確かめたくて、彼女を待ち伏せして呼び出すことにした。
 正直、仕事もそっちのけだったが、今は、アンジェリークが優先だった。
 スモルニィの前に堂々と目立つスポーツカーを止め、じっと彼女を怪しくも待つ。

 来たな…。

 その姿を見るなり車から降り、近付いていく。
「アンジェ!」
「アリオス・・・」
 彼を見るなり、切なげに彼女は視線を逸らす。
 それがアリオスには気にかかる。
「時間、あるか?」
「・・・ちょっとだけなら」
 たどたどしく、まるで何かに怯えているように、アンジェリークは返事をした。
「車で来てるから」
「うん」
 いつもなら元気に返事をしてくるのに、彼女は元気なくとぼとぼと歩いてくる。
 助手席のドアを開けても、戸惑っている様子だ。
「ほら、乗れ」
「うん・・・」
 誰かに気兼ねでもするように、アンジェリークは乗り込み、シートベルトをする。
 アリオスは、アンジェリークの態度をおかしいと思いながら、ちらりと横を見つめる。
「おまえ、海外に行くらしいんだってな?」
「…うん。やっぱり親に着いていかなくっちゃって、思って・・・」
「どうして俺に相談しなかった?」
 アリオスも段々イライラしてきているせいか、口調はきつくなる。
「・・・だって、迷惑だって思ったから」
「迷惑だなんて、思うわけねえだろ!! おまえが行きたくねえって言うんなら、どうにかしてやる!」
 いつも受け止めてくれるアリオスの機嫌がすこぶる悪くなる。
「だって・・・、私・・・」
 そこまで言って、アンジェリークは言葉を飲み込む。
「私、が何なんだ?」
「・・・心配してるふりして、本当は私が邪魔なんでしょ・・・?」
 突然、アリオスは車を道路の脇に止めると、アンジェリークの華奢な肩を掴む。
「きゃっ!」
「俺が、いつおまえを邪魔だと言った!?」
 アリオスが完全に激昴しているのは明らかだった。アンジェリークは彼の視線を見ないようにして、小さくなる。
「・・・だって、あなたの未来のお嫁さんが言ってた・・・」
「誰だ、それ」
「ジョアンナ」
 素直にアンジェリークは答えると、アリオスはかなりの怒りを瞳に映した。
「俺はあいつと何にもねえ! 勝手なことを言いやがって・・・」
 低い声でアリオスは忌ま忌ましく呟くと、再び車を発進させる。
 それからと言うもの、彼は一切話さず、アンジェリークはアリオスの怒りをそこはかとなく感じた。

 車が向かった目的地は、アリオスのマンション。
 彼は駐車場に車を置くと、彼女の手を引っ張って、自室に向かう。
「仕事はいいの?」
「午後は半休だ」
 もう離さないとばかりに、彼はその白い華奢な手を握り締めていた。
 彼の自宅に入ると、そのまま寝室に連れていかれる。
「アリオス!?」
 急に抱き上げられて、アンジェリークは、息を呑んだ。
 そのまま、ベッドに投げられ、甘い声を上げずにはいられなかった。
 アリオスは、一瞬、何が起こったか判らなかった。
「おまえが何をどう誤解しようと関係ねえ。俺はおまえを絶対に海外に行かせない…!!」
 彼は低い声で呟くと、深くキスを貪ってきた。
「んんっ・・・!」
 三度目のキスは激しい。
 そして情熱と快楽が交錯していた。
 唇を乱暴に貪りつくされ、口腔内をくまなく愛撫をされる。
 ようやく唇を離されると、激しさの余り、アンジェリークは肩で息をしていた。
「アンジェ…。
 俺は絶対におまえを行かせねえ…」
 情熱的にアリオスは再度囁くと、アンジェリークの華奢な躰を抱きすくめる。
「あっ…」
「おまえを飛行機に乗れねえようにしてやる。
 知ってるか? 妊娠すると安定期に入るまで乗れねえんだぜ飛行機…。
 おまえを行かせないように、俺は何でもする」
 アリオスはそう言うと、アンジェリークの制服に手を掛けた-----


tawagoto…

アリオスさん。
犯罪ですか??(笑)
BY たいちょお

マエ モドル ツギ