「あなたもあまりアリオスを追い掛け回したらだめよ。迷惑だから」 そこまで言われて、本当は泣きたくてたまらない。 だが何とか我慢することしか出来ずに、歯を食いしばって涙を堪える。 「何か用でも?」 嘲笑するようなジョアンナの眼差しに、アンジェリークはもう堪えられなかった。 「いいです・・・」 ただそれだけを言うと、その場から逃げ出す。 そうしないと堪えられそうにはなかったから。 家に飛んで帰り、自分の部屋に閉じこもる。 ベッドの上に倒れ込み、ようやく泣くことができた。 あの甘く素敵な思い出が、今、砂糖菓子のように崩れ落ちていく。 指先を唇に延ばすと、心の痛みがアンジェリークを直撃していく。 肩を震わせて泣き、誰にも顔を見せたくないせいか、布団を頭から被った。 だって、判っていたことだけれど。 アリオスがジョアンナのもねだってことは、最初から・・・。 だけど、夢が見たかったもの。 大好きな男性が、夢見る皇子様で、私を幸せにしてくれるって。 でも、もう二度と届かない、甘く切ない希望…。 結局泣き過ぎたのか、その日は食事を食べずに、ただ眠りに落ちていった。 朝起きると目を腫らして凄い顔で、少し憂鬱になりながらの登校となる。 アンジェリークの決心は、昨日でついた。 両親と一緒に海外に行くことにしたのである。 ここにいれば、恐らく、アリオスとジョアンナのことが耳や目から入ってくるだろう。 それだけは絶対に避けたかった。 両親に一緒に行くことを伝えると、おおむね喜んでくれる。 アリオスのそばから自立しなければならないと、彼女は本気になって考えていた。 一方、アリオスはアンジェリークから一切の連絡が来なくなったことに、苛立ちを募らせていく。 あいつ、一体どうしたんだ・・・!? 今まで、こんなにも何かで苛立ったことは一度もなく、アリオスは更にもどかしく感じた。 とりあえずは、探りを入れるために、アリオスは実家に顔を出すことにする。 母親からは、さりげなくアンジェリークのことを聞き出すことにした。 「最近ね、アンジェちゃんが元気ないみたいでね。ご両親の海外赴任に、どうも着いていくみたいだし。あの子がいなくなると寂しくなるわね」 しみじみと言う母親の言葉に、アリオスは正直言って動揺していた。 アンジェリークの両親の赴任の話は、その場所にいたアリオスが相談に乗っていたので、前から知っていたが、彼女はこちらで残って勉強するとばかり思っていたのだ。 最近連絡がないこともあり、アリオスはその辺りの真意を確かめたくて、彼女を待ち伏せして呼び出すことにした。 正直、仕事もそっちのけだったが、今は、アンジェリークが優先だった。 スモルニィの前に堂々と目立つスポーツカーを止め、じっと彼女を怪しくも待つ。 来たな…。 その姿を見るなり車から降り、近付いていく。 「アンジェ!」 「アリオス・・・」 彼を見るなり、切なげに彼女は視線を逸らす。 それがアリオスには気にかかる。 「時間、あるか?」 「・・・ちょっとだけなら」 たどたどしく、まるで何かに怯えているように、アンジェリークは返事をした。 「車で来てるから」 「うん」 いつもなら元気に返事をしてくるのに、彼女は元気なくとぼとぼと歩いてくる。 助手席のドアを開けても、戸惑っている様子だ。 「ほら、乗れ」 「うん・・・」 誰かに気兼ねでもするように、アンジェリークは乗り込み、シートベルトをする。 アリオスは、アンジェリークの態度をおかしいと思いながら、ちらりと横を見つめる。 「おまえ、海外に行くらしいんだってな?」 「…うん。やっぱり親に着いていかなくっちゃって、思って・・・」 「どうして俺に相談しなかった?」 アリオスも段々イライラしてきているせいか、口調はきつくなる。 「・・・だって、迷惑だって思ったから」 「迷惑だなんて、思うわけねえだろ!! おまえが行きたくねえって言うんなら、どうにかしてやる!」 いつも受け止めてくれるアリオスの機嫌がすこぶる悪くなる。 「だって・・・、私・・・」 そこまで言って、アンジェリークは言葉を飲み込む。 「私、が何なんだ?」 「・・・心配してるふりして、本当は私が邪魔なんでしょ・・・?」 突然、アリオスは車を道路の脇に止めると、アンジェリークの華奢な肩を掴む。 「きゃっ!」 「俺が、いつおまえを邪魔だと言った!?」 アリオスが完全に激昴しているのは明らかだった。アンジェリークは彼の視線を見ないようにして、小さくなる。 「・・・だって、あなたの未来のお嫁さんが言ってた・・・」 「誰だ、それ」 「ジョアンナ」 素直にアンジェリークは答えると、アリオスはかなりの怒りを瞳に映した。 「俺はあいつと何にもねえ! 勝手なことを言いやがって・・・」 低い声でアリオスは忌ま忌ましく呟くと、再び車を発進させる。 それからと言うもの、彼は一切話さず、アンジェリークはアリオスの怒りをそこはかとなく感じた。 車が向かった目的地は、アリオスのマンション。 彼は駐車場に車を置くと、彼女の手を引っ張って、自室に向かう。 「仕事はいいの?」 「午後は半休だ」 もう離さないとばかりに、彼はその白い華奢な手を握り締めていた。 彼の自宅に入ると、そのまま寝室に連れていかれる。 「アリオス!?」 急に抱き上げられて、アンジェリークは、息を呑んだ。 そのまま、ベッドに投げられ、甘い声を上げずにはいられなかった。 アリオスは、一瞬、何が起こったか判らなかった。 「おまえが何をどう誤解しようと関係ねえ。俺はおまえを絶対に海外に行かせない…!!」 彼は低い声で呟くと、深くキスを貪ってきた。 「んんっ・・・!」 三度目のキスは激しい。 そして情熱と快楽が交錯していた。 唇を乱暴に貪りつくされ、口腔内をくまなく愛撫をされる。 ようやく唇を離されると、激しさの余り、アンジェリークは肩で息をしていた。 「アンジェ…。 俺は絶対におまえを行かせねえ…」 情熱的にアリオスは再度囁くと、アンジェリークの華奢な躰を抱きすくめる。 「あっ…」 「おまえを飛行機に乗れねえようにしてやる。 知ってるか? 妊娠すると安定期に入るまで乗れねえんだぜ飛行機…。 おまえを行かせないように、俺は何でもする」 アリオスはそう言うと、アンジェリークの制服に手を掛けた----- |
tawagoto… アリオスさん。 犯罪ですか??(笑) BY たいちょお |