ONLY YOU

7

 公園での甘いキスの余韻か、夕食の買い物をしている最中も、ふわふわと夢見ごこちな気分だった。
「今日は寒いしな、鍋にしようぜ?」
「何鍋にするの?」
「特別な日だし、ふぐちりなんてどうだ?」
 アリオスの太っ腹な発言に、アンジェリークは大きな目をさらに見開く。
「いいの?」
「ああ。引っ越しを手伝ってやったお礼」
 これには本当に小踊りしたくなる。
 フグちりは大好きだから。
「じゃあ早速、食材選びから始めなくちゃ!」
 ばたばたと鍋の材料を買い込む姿は、どこか愛らしい。
 買い物馴れしているせいか、てきぱきと買い物をする姿が可愛かった。
 ふぐもさばいてもらい、てっさも買う。
 まるで夫婦のように買い物が出来ることが、アンジェリークには嬉しくて堪らなかった。

 アリオスのマンションに帰ってからも、甘く楽しい時間は続く。
 一緒に鍋の準備を仲良くする。
 アリオスが驚くほど手際が良かったので、アンジェリークは正直言ってびっくりした。
「一人暮らしが長いからな」
「そうか」

 仲良く料理をした後は、ふたりきりの夕食だ。
 鍋を囲んでの夕食。親密度も上がると言うものだ。
「おまえ、進路とかはどうするつもりなんだ?」
「うん、アリオスを見てたら、法学部に行きたくなっちゃって・・・。やりがいありそうだもの、弁護士」
「しっかりと勉強しなくちゃならねえぞ?」
 アリオスはニヤリと笑いながらも、少し真剣に言う。
「うん、判ってる。がんばるつもりよ! だから、アリオスもいろいろと教えてね」
「ああ」
 彼は優しく笑うと、そっと頬を甘く撫でてくれる。それだけで、不思議と頑張れそうな気が、アンジェリークにはしていた。
 なべは、野菜ももちろん身も全て食べ尽くして、雑炊で締める。
 あんなにも大量に食べたにも関わらず、雑炊も凄く美味しかったので、するすると入った。
「もう、ダメっ! おなかがいっぱい〜!」
 おなかを撫でる姿が妙に愛らしく、アリオスは笑ってしまう。
「休憩したら送っていくぜ? 最も泊まっていっても、俺は全然構わねえぜ?」
「もう、意地悪」
 耳まで真っ赤にして拗ねるアンジェリークが可愛くてたまらず、アリオスは抱き寄せて軽くキスをした。
「お泊まりはまたの機会な? 俺のベッドはいつでも使えるからな」
「もう・・・」
 恥ずかしそうに、アンジェリークは俯いてしまう。
「いつかな?」
 甘い約束に、仄かな期待を添えるように、彼女はそっと頷いた。
「サンキュ。近日中にな」
 二度目のキスも軽く触れるだけだったが、それでもアンジェリークは胸のドキドキが止まらない。
「送るからな」
「うん」
 手を繋ぎあって、アリオスは荷物も持ってくれる。
 今日やさぐれて仕事の手伝いをしていたのが、嘘のように思える。
 甘い甘い結末に、アンジェリークはすっかり満足していた。

 車に乗り込み、家まで送ってもらっている間も、とても心地好い気分になる。
「いつでも来ていいからな。俺がいる時間なら」
「うん」
「携帯の番号教えるから、何かあったときにかけてこい」
 アリオスはそう言うと、番号が書かれたメモを彼女に渡す。
 それはどこか親密に響きを持っているかのようで、アンジェリークは嬉しかった。
「有り難う」
 大切にそれを鞄にしまいこむと、アンジェリークは温かで幸せそうな微笑みを浮かべる。
 幸せな時間は瞬く間に過ぎ、車はアンジェリークの家に、停まってしまった。
「有り難う、アリオス」
「ああ。またな?」
 車から出ると、にこりと笑って手を振り、アリオスを見送った。

 家に帰ると、母親が出迎えてくれ、少し困ったようにアンジェリークを見る。
「アンジェ、お父さんとお母さんから、とても大切なお話しがあるの。
 ちょっとリビングに来てくれる?」
 いつになく神妙な母親に、アンジェリークはただ頷くだけだった。

 何だろ?

 リビングのソファに腰を下ろすと、父親が考えこむような表情を彼女に向ける。
「アンジェ、お父さんの海外赴任が決まった。任期は5年だが、それ以上に長くなるかもしれない・・・」
 アンジェリークはただ耳を傾けている。
「・・・出来ることなら、おまえも一緒に連れていこうと思っている」
 アンジェリークは驚いて息を呑んだ。
 正直、躰が震える。

 せっかくアリオスに再開したばかりなのに、また離れるの!?

「私の学校は・・・」
「向こうして良い学校があるから、それに行けばいい」
 アンジェリークは、切なく思いながら、十分の思いを伝える。
「こっちで勉強したいことがある場合は?」
「-----・・・おまえがもし、こちらで勉強したい場合は、下宿してもらうしかない。
 だが、お父さんたちはなるべく、おまえには一緒に来てもらいたいと、思っている・・」
「お父さん・・・」
 これ以上、アンジェリークは言葉を発せられない。父親がこんなに思ってくれていると知って、涙が出そうになった。
「…ちょっと、考えさせてくれない…。お父さん」
「アンジェ…」
 やっとのことでそれだけを言うと、アンジェリークは自室に戻る。
 その背中を見ると、両親二人はため息を吐いた。
「-----きっと、アリオス君のことだと思います…」
「そうだな…。
 アリオス君がいた国に行くといっても突いてきてくれるかね、アンジェは…」
「-----傍が一番だと思うかもしれませんわ…」
 両親は娘の恋心を思うと、またひとつため息を吐いた。


 アンジェリークはベッドに寝転がると、大きなため息を吐く。
 自然と泣けてきてしまう。

 だって・・・、せっかく、会えたのに、またあえなくなるのは嫌だ物・・・

 アンジェリークはアリオスからもらった携帯の電話番号を握り締めると、相談することにした。
 誰よりも愛しい男性に------


 学校の帰り、アンジェリークは、少し時間をつぶした後、アリオスのマンションに向かう。
 もし彼がまだ帰っていなかったら、携帯で連絡を取るつもりだ。
 マンションの前に来たとき、アンジェリークはタイミング悪く、ジョアンナとばったりと会った。
「あら、アンジェリークサン、アリオスに用事?」
「あ、はい。ジョアンナさんは?」
「私は、これからアリオスと打ち合わせよ? もうすぐ私たちは結婚するから、そのことで色々とね?」

 うそ!!!!

 勝ち誇ったジョ何ナノ微笑みに、アンジェリークは一気に血の気が引く。
 もう何も考えたくない。
 心が音を立てて壊れていくのを感じた-------


tawagoto…

幼馴染です。
ようやくKissです。
まだまだ波乱あり〜。

マエ モドル ツギ