公園での甘いキスの余韻か、夕食の買い物をしている最中も、ふわふわと夢見ごこちな気分だった。 「今日は寒いしな、鍋にしようぜ?」 「何鍋にするの?」 「特別な日だし、ふぐちりなんてどうだ?」 アリオスの太っ腹な発言に、アンジェリークは大きな目をさらに見開く。 「いいの?」 「ああ。引っ越しを手伝ってやったお礼」 これには本当に小踊りしたくなる。 フグちりは大好きだから。 「じゃあ早速、食材選びから始めなくちゃ!」 ばたばたと鍋の材料を買い込む姿は、どこか愛らしい。 買い物馴れしているせいか、てきぱきと買い物をする姿が可愛かった。 ふぐもさばいてもらい、てっさも買う。 まるで夫婦のように買い物が出来ることが、アンジェリークには嬉しくて堪らなかった。 アリオスのマンションに帰ってからも、甘く楽しい時間は続く。 一緒に鍋の準備を仲良くする。 アリオスが驚くほど手際が良かったので、アンジェリークは正直言ってびっくりした。 「一人暮らしが長いからな」 「そうか」 仲良く料理をした後は、ふたりきりの夕食だ。 鍋を囲んでの夕食。親密度も上がると言うものだ。 「おまえ、進路とかはどうするつもりなんだ?」 「うん、アリオスを見てたら、法学部に行きたくなっちゃって・・・。やりがいありそうだもの、弁護士」 「しっかりと勉強しなくちゃならねえぞ?」 アリオスはニヤリと笑いながらも、少し真剣に言う。 「うん、判ってる。がんばるつもりよ! だから、アリオスもいろいろと教えてね」 「ああ」 彼は優しく笑うと、そっと頬を甘く撫でてくれる。それだけで、不思議と頑張れそうな気が、アンジェリークにはしていた。 なべは、野菜ももちろん身も全て食べ尽くして、雑炊で締める。 あんなにも大量に食べたにも関わらず、雑炊も凄く美味しかったので、するすると入った。 「もう、ダメっ! おなかがいっぱい〜!」 おなかを撫でる姿が妙に愛らしく、アリオスは笑ってしまう。 「休憩したら送っていくぜ? 最も泊まっていっても、俺は全然構わねえぜ?」 「もう、意地悪」 耳まで真っ赤にして拗ねるアンジェリークが可愛くてたまらず、アリオスは抱き寄せて軽くキスをした。 「お泊まりはまたの機会な? 俺のベッドはいつでも使えるからな」 「もう・・・」 恥ずかしそうに、アンジェリークは俯いてしまう。 「いつかな?」 甘い約束に、仄かな期待を添えるように、彼女はそっと頷いた。 「サンキュ。近日中にな」 二度目のキスも軽く触れるだけだったが、それでもアンジェリークは胸のドキドキが止まらない。 「送るからな」 「うん」 手を繋ぎあって、アリオスは荷物も持ってくれる。 今日やさぐれて仕事の手伝いをしていたのが、嘘のように思える。 甘い甘い結末に、アンジェリークはすっかり満足していた。 車に乗り込み、家まで送ってもらっている間も、とても心地好い気分になる。 「いつでも来ていいからな。俺がいる時間なら」 「うん」 「携帯の番号教えるから、何かあったときにかけてこい」 アリオスはそう言うと、番号が書かれたメモを彼女に渡す。 それはどこか親密に響きを持っているかのようで、アンジェリークは嬉しかった。 「有り難う」 大切にそれを鞄にしまいこむと、アンジェリークは温かで幸せそうな微笑みを浮かべる。 幸せな時間は瞬く間に過ぎ、車はアンジェリークの家に、停まってしまった。 「有り難う、アリオス」 「ああ。またな?」 車から出ると、にこりと笑って手を振り、アリオスを見送った。 家に帰ると、母親が出迎えてくれ、少し困ったようにアンジェリークを見る。 「アンジェ、お父さんとお母さんから、とても大切なお話しがあるの。 ちょっとリビングに来てくれる?」 いつになく神妙な母親に、アンジェリークはただ頷くだけだった。 何だろ? リビングのソファに腰を下ろすと、父親が考えこむような表情を彼女に向ける。 「アンジェ、お父さんの海外赴任が決まった。任期は5年だが、それ以上に長くなるかもしれない・・・」 アンジェリークはただ耳を傾けている。 「・・・出来ることなら、おまえも一緒に連れていこうと思っている」 アンジェリークは驚いて息を呑んだ。 正直、躰が震える。 せっかくアリオスに再開したばかりなのに、また離れるの!? 「私の学校は・・・」 「向こうして良い学校があるから、それに行けばいい」 アンジェリークは、切なく思いながら、十分の思いを伝える。 「こっちで勉強したいことがある場合は?」 「-----・・・おまえがもし、こちらで勉強したい場合は、下宿してもらうしかない。 だが、お父さんたちはなるべく、おまえには一緒に来てもらいたいと、思っている・・」 「お父さん・・・」 これ以上、アンジェリークは言葉を発せられない。父親がこんなに思ってくれていると知って、涙が出そうになった。 「…ちょっと、考えさせてくれない…。お父さん」 「アンジェ…」 やっとのことでそれだけを言うと、アンジェリークは自室に戻る。 その背中を見ると、両親二人はため息を吐いた。 「-----きっと、アリオス君のことだと思います…」 「そうだな…。 アリオス君がいた国に行くといっても突いてきてくれるかね、アンジェは…」 「-----傍が一番だと思うかもしれませんわ…」 両親は娘の恋心を思うと、またひとつため息を吐いた。 アンジェリークはベッドに寝転がると、大きなため息を吐く。 自然と泣けてきてしまう。 だって・・・、せっかく、会えたのに、またあえなくなるのは嫌だ物・・・ アンジェリークはアリオスからもらった携帯の電話番号を握り締めると、相談することにした。 誰よりも愛しい男性に------ 学校の帰り、アンジェリークは、少し時間をつぶした後、アリオスのマンションに向かう。 もし彼がまだ帰っていなかったら、携帯で連絡を取るつもりだ。 マンションの前に来たとき、アンジェリークはタイミング悪く、ジョアンナとばったりと会った。 「あら、アンジェリークサン、アリオスに用事?」 「あ、はい。ジョアンナさんは?」 「私は、これからアリオスと打ち合わせよ? もうすぐ私たちは結婚するから、そのことで色々とね?」 うそ!!!! 勝ち誇ったジョ何ナノ微笑みに、アンジェリークは一気に血の気が引く。 もう何も考えたくない。 心が音を立てて壊れていくのを感じた------- |
tawagoto… 幼馴染です。 ようやくKissです。 まだまだ波乱あり〜。 |